放送決定の報から待ちに待ったドラマでした。私ごときの未熟な感性ではこの物語の素晴らしさを表現しきれないとは思い知りつつも、念のために記録に残そうと思います。
***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
・あらすじ
幹次郎(小出恵介)と汀女(貫地谷しほり)は吉原で三回目の正月を迎えていた。仕事始めの正月二日、吉原で前代未聞の失踪事件がおこる。薄墨太夫(野々すみ花)と人気を二分していた香瀬川太夫(安達祐実)が花魁道中の直後に姿を消したのだ。計画的な足抜きなのか、唯一の出入り口・大門をどうやって抜け出たのか、謎は深まるばかり。ところがわずか一か月前にも遊女・市川(朝倉あき)がこつ然と姿を消す事件がおこっていたことがわかる。幹次郎はその女の所在を突き止めるが、口封じに出た黒幕によって女は切られてしまう。失踪のからくりを解明し、廓(くるわ)の女たちを食い物にする悪党たちを倒す幹次郎。事件が解決するかに見えたとき、吉原が炎につつまれる・・・。
・感想
2014年にNHK木曜時代劇として連続放映されていたドラマのスペシャル版。
原作は佐伯泰英氏の小説。
10年前にカルタグラをプレイして以来、どういうわけか遊郭やら吉原やらを題材にした物語に非常に興味を持ち、ことあるごとに首を突っ込んでいる。
その中でも本シリーズは間違いなくトップクラスに「おもしろい」物語である。
(女性にとって「苦界」とも評される遊郭事情を「おもしろい」などと表現することは憚れるが、ここは「興味深い」「趣き深い」くらいの意味だと思っているし、思ってもらいたい)
本作の魅力は主人公・神守幹次郎と妻の汀女の仲睦まじいやり取りはもちろんのこと、遊郭で働く女性たちの描き方にあると考える。
本作では遊女たちを金のために身売りされた、いわば可哀想な女性としてだけ描くのではなく、ささいな希望を頼りに生き抜いていく力強い存在として描く。
そんな女性たちを食い物にしようとする極悪人を幹次郎が成敗し、精神面を汀女が支える。理想的なコンビネーションである。
さて、今回の物語は昨年のシリーズ終了から2年後の正月に起きた遊女失踪事件を主題としている。
失踪した遊女・香瀬川太夫は序盤と終盤にだけ出てくるためほとんど出番はないものの、ゲスト出演した安達祐実氏が好演してくれた。
遊女失踪の手口は思いのほかシンプルであった。
「女を男に化かすのではなく、女を別の女に化かして堂々と大門を抜ける」が正解だった訳だが、「足抜きする遊女は男に化けて大門を出ることが多い」という先入観があると気づけない方法だったかもしれない。
拐かしの一味に脅されながら、大門の前で監視をしていた幹次郎へ手がかりを残した薄墨太夫のお手柄である。
薄墨太夫は本作におけるレギュラーの一人だが、この人もよくトラブルに巻き込まれる人物である。それは汀女にも言えることだが、こう何度も殺されかけては身も心もボロボロになってもおかしくない。
しかし、自分がどれだけ大変な目にあっても他人のことを気にかける。非常に強い、それゆえに魅力的な女性である。現実には存在し得ないだろうが。
およそ90分、大いに楽しませてもらった。
原作小説があまりにも長いシリーズであることから、またドラマ化を望んでしまうのは欲張りにすぎるだろうか。
といっても、今回のスペシャルドラマにて吉原は火にまかれて全焼してしまったわけなので、再びドラマを放映するにしても吉原を立て直す際のエピソードが必要になるかもしれないが。
そのときまで、首を長くして待つことにしよう。