悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

カルタグラ ~ツキ狂イノ病~ (その17)

 

PC版におけるTRUEルートの総括、キャラクターについてなどを記録させていただきます。(その3)

ひとまず、PC版についての記録はここで一旦締めくくることとし、後日PS2版について少々触れる予定です。

 

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

残りの登場人物に対するコメントを記録したいと思う。

 

 

 

・赤尾生馬

人体アーティスト。元特殊工作員。ルックスだけは秋五に似てる。

 

和菜の劇団に美術監督として出入りすることもあった著名な芸術家。しかしその実態は、本作における猟奇的な殺人事件の黒幕的存在。千里教の地位を磐石とするために、多くの人間を死に追いやった。すべては由良に好かれたい一心のことだったが、由良の心にはずっと秋五がいたため、まるで相手にされていなかった模様。心なしか外見が秋五に似て見えるのは、秋五を意識していたからなのだろうか。

イノグレ作品において「芸術家」はだいたい犯罪者であることが多いのだが、彼はその基盤となった人物である。生きたまま人を切り刻んだり、平然と婦女暴行を行ったりと、裏の顔はおおいに歪んでいた。

彼と冬史の対決シーンは本作屈指の名シーンと言っていいだろう。双方とも叶わぬ愛にもがき苦しんでいただろうから。

 

 

 

・有島一磨

THE FIXER。渋い、渋すぎる。秋五を事件に誘った人物。

 

秋五の警察時代の元上司。第二次大戦のころ、軍でともに闘ったこともあるらしく、秋五は彼を尊敬していた。秋五は警察をやめたあと、有島刑事から斡旋された調査などをして食をつないでいたらしい。

ロングコートに帽子を身に纏った渋い紳士。挙動が西洋人っぽいという記述が作中に何度か出てくる。とにかく言葉遣いから何からすべてが渋い。格好良すぎる。

こんな格好良すぎる人物がただの刑事であるはずがなかった。その正体は千里教の影の支配者である。彼の私生活は劇中でまったく触れられていないが、経済的に困窮するような地位ではないはずと秋五は述べている。それでも金と権力を欲して宗教団体を裏から操っていたのだから、相当の悪である。やはり戦争体験と、妻の裏切りというダブルパンチが彼を狂わせたのだろうか。

 

ちなみに余談だが、有島刑事の中の人もまた、765プロの親会社の有名RPGに出演している。「わがまま親善大使の師匠にして黒幕」という大役で。やはり声から漂う大物感がこういった役を引き寄せているのだろうか。

 

 

 

・八木沼了一

クソ小生意気なインテリ刑事。秋五の見せ場をかっさらった第三の男。YAGINUMA!

 

秋五が警察を退職したあと、後釜として入ってきた若者。初登場時から嫌味と下品な発言のオンパレードで数々のプレイヤーに顰蹙を買っていたと思われる。ただし、これでも刑事としては優秀であると有島刑事に言わしめた男だ。

秋五が有島刑事に殺されそうになっている時、間一髪のところで助けに来たのが八木沼である。秋五から教えられた情報だけでは有島刑事を追いつめる決定打にはならないとわかっていたはずなのに、大勢の部下たちを引き連れて千里教本部に乗り込んできたのだ。手柄のためなら手段を選ばない人でなしではあるものの、物事を冷静に見極める目だけは確かだった。

のちに、「カルタグラ」と世界観を同じくする「殻ノ少女」、「虚ノ少女」にも登場を果たした。「殻ノ少女」のとあるルートでは彼の生い立ちを知ることができる。検察官の父から虐待を受けた姉が自殺未遂によって植物状態になるなど、なかなかハードな人生を送ってきたようだ。なるほど、「カルタグラ」開始時に八木沼が手柄を焦っているようにも見えたのは、一刻も早く出世して父親に一矢報いるためだったのかもしれない。

作品を経るごとに「人でなし」→「冷血漢」→「冷静沈着」と人間性が成長している様子を見るのは中々楽しい。何だかんだ言いながら好きな登場人物の一人である。

 ちなみに八木沼も初音同様、プロットの変更によって死ぬ運命から生き残り組へと転進を果たした人物だ。あとの物語の八木沼を見るほど、このときに死ななくて本当に良かったと思える。

 

 

 

・上月由良

裏ヒロイン。妄執と狂気に至る愛の亡者。

 

和菜の一卵性双生児としての姉。秋五の捜索対象だったが、事件を裏から操っていた。

カルタグラ」は秋五が由良を探す物語の体を装っているが、実際には由良が秋五を手に入れるために策を弄する物語である。秋五は探偵ではあるものの、由良サイドの犯人たちが仕掛ける事件に翻弄されっぱなしで、終始掌の上で踊らされていた。七七がいなければ、彼女の計画は果たされていた可能性が高い。

いわゆるヤンデレに分類される女性だと思われるが、彼女の生い立ちを知ってしまうとどうしても同情的になってしまう。両親からも周りの人間からも拒絶されて、実験動物のように扱われ、果てには自分を殺す算段までされていたという。彼女が狂気に至った理由は、彼女だけに原因があるとはとても思えないのである。

奈良橋機関における実験の様子はドラマCD「コイノニア」によって初めて明らかになったのだが、そこは研究機関とは名ばかりの人体実験の場だった。何十人もの子どもたちが実験の名の元に命を奪われた。由良が生き残ったのは奇跡と言っていい。上月家に戻された由良の気が触れていたのは、いまだ成功例のない脳手術を行った後遺症だったのではないかと思われる。

由良が生きてこれたのは、たった一人だけ自分に優しくしてくれた秋五との思い出があったからである。秋五がいなければ、由良はもっと早くに死んでいただろう。

ただ、秋五との出会いが幸運だったのかは疑問である。二人は戦争によって引き離され、再会したときには探偵と重犯罪者という相対する立場になってしまった。いっそ知り合わなければ、あんなにも多くの死者が出ることもなかったし、二人が苦しむこともなかったのではないか。

 

七七に罪を暴露され、追いつめられた由良は、和菜を殺そうと最後の凶行に走る。しかし和菜は、自分は死んでもいいから秋五と二人で幸せになってほしいと言った。

 

由良は生まれながらにして瞳の色素異常を患っていたが、一方である特殊能力を備えていた。彼女は、触れた相手の思考をある程度まで読むことができるのである。(有島刑事はその力に目をつけて宗教団体の教主に据えようとした)

 

和菜を羽交い絞めした際、由良は和菜の思考を読んでいたはずである。そしておそらく、和菜が本心から死んでもいいと思っていたとわかってしまったのだろう。秋五に撃たれる直前、由良が最期に上げた絶叫は、彼女のやるせない敗北感がもたらしたものだったのかもしれない。

 

 

 

余談だが、由良が和菜を殺そうとする展開を見て、10年前の自分はえもいわれぬ既視感に襲われた。どこかでこのようなシーンを見たことがあるという確信があったものの、その正体がわからないまま、数年を過ごした。

後年、カルタグラオフィシャルファンブックを入手して中身をチェックしたところ、由良の紹介欄に「元ネタは江戸川乱歩の『地獄の道化師』」と書かれていた。

 

そこで気がついたのである。

筆者がかつて見ていたTVドラマ、『乱歩R』のワンシーンに似たシチュエーションがあったことを。

 

乱歩R』は2004年1月からフジテレビで連続放送していたTVドラマである。主演は藤井隆 氏。江戸川乱歩の物語を現代にアレンジした1話完結もののミステリーで、非常に楽しく見させてもらった。

そのドラマにも『地獄の道化師』を現代リメイクした話があり、そのクライマックスのシチュエーションが「カルタグラ」と似ていると感じていたのである。

(共通の男性を好きになった姉妹のうち姉には顔に痣があり、男性の愛を得た妹を憎んでいたという話。藤井隆氏の扮する三代目明智小五郎が、妹を殺そうとする姉の凶行を止めるというシーンがあるのだ)

 

 

 

さて、長々クドクド延々と続けてきた記録も、いったんはここで幕を閉じたいと思う。

ここまでお付き合いくださった読者諸氏にはネタバレ満載もいいところだったろうが、ミステリーに興味があるなら是非是非「カルタグラ」をプレイしてもらいたい。この物語が纏っている郷愁やら悲哀やら愛の意味やらは、プレイすることによって染み渡るものだと考えるからだ。

 

なお、「カルタグラ」には「サクラメント」という後日談および完結編が存在する。これはファンディスク「和み匣」に収録された短編の一つなのだが、現在では「和み匣」単体の入手が難しい。そのため、「和み匣」が収録されている作品集「パラノイア」を手に入れることができれば、「カルタグラ」もプレイできて一石二鳥である。

 

 

さて、次は何の感想を記そうか。乱歩の話題が出たから、録画したまま見ていない「乱歩奇譚 Game of Laplace」でも見ていこうか。

絶賛思考中である。

 

 

カルタグラ ~魂ノ苦悩~(通常版)

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