悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

黒の斜面

録画していたものを鑑賞いたしました。気の利いたことは書き記せませんが、記録だけは残しておこうかと思います。

 

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

●概要

飛行機とともに消えた夫に
1億円横領と殺人容疑!?
幸せな夫婦が平穏な日常から
暗闇へと転落していく恐怖…!!
檀れい内山理名原田泰造
豪華キャスト競演!
日本映画史上、屈指の
傑作サスペンスが新たな結末とともによみがえる!!

 

不朽の名画が、ドラマスペシャルとなって復活!
墜落事故で消息を絶った夫。
しかしその裏には、思いもよらない秘密が隠されていた…!?
平凡な生活を送っていた夫婦が、真っ暗な闇へと転がり落ちていく…!
めくるめく恐怖が迫る、本格ノンストップ・サスペンス!!

 

 

 

●感想

2016年1月24日にテレビ朝日で放送されたスペシャルドラマ。

原作は1971年に放映された映画。

主演級の俳優・女優は檀れい氏、内山理名氏、原田泰造氏の3名。

 

 

テレビCMで鬱陶しいほど宣伝をしていたため、とりあえず鑑賞することに決めた本作。タイトルの雰囲気から、どうせまた松本清張が原作のサスペンスなのだろう、悪女が無双する話なのだろう、などと大変失礼なことを考えていた自分を殴ってやりたい。

 

本作は、40年近く前に作られた映画を原作としており、知る人ぞ知る名作サスペンスだったのである。上記にて失言を重ねたことを、関係者各位にお詫び申し上げたいとおもう。

 

物語の流れはこうだ。

辻井圭子(檀れい)と高志(原田泰造)は誰もが羨む円満な夫婦のはずだった。しかし、高志には1億円もの金を会社から横領しているという秘密があった。高志は金を持ったまま、熊本へ出張するために空港へ向かう。しかしそこには高志の不倫相手である川上妙子(内山理名)が待ち伏せをしていた。その日の最終便に乗って熊本へ向かう予定だった高志だが、妙子をなだめるために飛行機に乗ることをやめる。その彼の元に航空券を譲ってほしいという一人の若者が現れた。高志は名義変更をしないまま航空券を若者に譲り、空港を後にする。そしてその夜、高志が乗るはずだった飛行機は墜落事故を起こし、乗客全員が死亡するという大惨事となってしまう。妙子の家で一夜を明かした高志は、事故の死亡者欄に自分の名前が載っていることに気づく――という筋。

 

 

ドラマの冒頭で、高志の共犯者である部下の女が現れ、横領事件を内部告発すると高志に告げるシーンがあった。高志はその行為を止めるわけでもなく、女の自由にしてよいといってその場を去る。しかしその直後、女は何者かによって殺害されてしまう。

 

本作では、このドラマ冒頭の殺人事件の犯人探しと、事故によって死んだことになってしまった高志の命運という2つの要素にわかれて描かれていた。ただし比重で言うと2:8くらいの割合である。登場人物がさほど多くないため、犯人探しの要素は抑え目だった。どちらかというと夫が生きていると信じて彼の行方を追う妻・圭子の姿と、不倫カップルである高志と妙子のやり取りのほうに重きを置かれていたように思う。

 

 

なんというかこう、はっきり言って夫の高志は優柔不断なだけのクソヤローである。物腰穏やかで優しげだが、だれた夫婦生活に不満を感じている。不倫によって安らぎを得ようとし、果てには仕事で手柄を立てるために会社の金に手をつける始末。もっとも横領の件に関しては黒幕がいるため彼だけが悪いわけではないのだが、それにしても柔な男である。飛行機の墜落事故のあと、急いで警察に出頭していればややこしい問題など起こらなかっただろうに、不倫相手である妙子の甘言に従って世間から身を隠す方を選んでしまった。

 

この物語で特筆すべきは、やはり孤独なホステス・妙子の存在だろう。

高志に対する彼女の執着は狂気すら感じるほどだった。高志が生きていることを隠し、高志が持っていた1億円も隠し、彼がどこにも逃げられないようにしてしまった。本作におけるサスペンス要素の大半は妙子の高志への深すぎる愛情で占められているといってよい。彼のためにまったく見ず知らずの他人を殺してしまうなど、その愛の深さは計り知れないものがある。まったく、あんな優男のどこがそんなにいいのかわからないが。

どのような生い立ちなのかはほとんど語られなかったが、あまり幸福な人生ではなかったようだ。優しかったという父親を早くで亡くし、高校を中退して働きに出て、いろいろな男たちに騙されてきたと言う。そのせいか恵まれた人間に対して劣等意識と嫉妬を感じてしまうようで、高志の妻である圭子は目の上のたんこぶだった模様。

しかし、高志が妙子に「別れたい」と切り出せば、それに応える気でいたと妙子は発言している。妙子が高志を引き止めようとしたのは、人を殺してしまったことで後に引けなくなってしまったからなのだ。もしも高志が横領事件に加担さえしなければ、妙子は殺人を犯すことはなかっただろう。ただし、本当に彼女が高志と別れられたかは疑問である。人のために人を殺せる人間が、そう簡単に自分の愛を諦めきれるのだろうか。

 

妻の圭子については、少々気の毒である。ことあるごとに複数の登場人物たちから「良家育ちのお嬢様」といった趣旨の侮蔑を頂戴し、訳もなく馬鹿にされていた。当方も金持ちは死ねばいいと思うほど嫌いだが、圭子に関して言えば決して嫌われるような人間ではないように思えた。夫が生きて帰ることを望むだけの、良くも悪くも普通の女性である。

ただし、警察の事情聴取を受けた際の彼女の言葉には疑問が残っている。彼女は警察から、夫が生きていると思うか、殺人事件に関わっていないと何故言えるかという質問に対して、「夫を信じているから」という趣旨の発言をした。しかし、本当に高志のことを信じていたなら、彼が隠し持っていた大金について、なぜ高志本人に問い質さなかったのか。彼がやましいことをしていないと信じているなら、高志に向き合えたはずである。

不倫した高志を弁護する気など毛頭ないが、高志が他所の女に走った理由のひとつに、二人の間に広がっていた見えない溝の存在があるように思えてならないのは気のせいか。

 

 

およそ2時間ほど、ハラハラさせてもらった。最終的に高志が死ぬのではないかと予想していたが、無事に妻のもとへ生還できてよかった。(その直後に横領の罪で逮捕されてしまったが)

 

殺人事件ばかりを描くのがサスペンスではない、というのは本作を見て感じ取ったことの一つである。

 

ちなみに本作の結末は、壇れい氏のアイディアによって原作映画の結末とは異なっているという。いつか原作のほうも見てみたいものだ。

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