悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

怪盗山猫 第10話 (終)

特に語ることもないため、記録したいと思います。

 

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

第10話は、山猫は関本刑事とともに、再度ユウキ邸へと忍び込む。ユウキの財源を奪い取り、彼からすべての権力を取り上げて、日本の黒幕を退場させるために。殺し屋「カメレオン」こと勝村の襲撃を打ち破った山猫は、ついにユウキとの対面を果たす。しかしそこで山猫は、まったく予想だにしなかった真実を知ってしまい……などの展開だった。

 

 

ユウキテンメイは最強。終わり!!!

 

 

……なんだかデジャブがある感想だが、本当にこれしか言うことがない。

しかもそれは、今回の話に限ったことではなく、このドラマすべて見終わったあとの総括的な感想もこれだけということがポイントだ。

 

 

結論から述べると、筆者としては本ドラマの結末は不愉快そのものであった。

以下、その理由を述べたいと思う。

 

 

まず、ユウキテンメイの正体について。

ユウキは第二次世界大戦後の当時から日本を影で操っていた超大物フィキサーということになっていた。それが事実なら、2016年現在の彼は非常に高齢となっているはず。それは何度か劇中でも指摘はされていた。

その解決方法として本作が提示してきたユウキの正体は、本人は既に死亡しており、ネット世界に移された人工知能であるというものだった。

 

それなんて「スーパーダンガンロンパ2」とは言わない。この手の電脳が黒幕と言う話はさして珍しい話でもないからだ。なんか、「007」とか「ルパン三世」とか「PSYCHO-PASS」かなんかでも同じような黒幕がいた気がするが、それはまあいいだろう。

 

山猫の目的は、自分を切り捨てたユウキに復讐することだった。しかし、彼はすでにこの世の人ではなかった。いったいいつから電脳世界の住人になっていたのかは知らないが、もはや山猫にとって手が届かない相手になっていたのである。

 

山猫の受けた衝撃は大きかった。視聴者の私が受けた衝撃も大きかった。

 

……うん、だから、それで? っていう……

 

この設定が活かされた場面というと、復讐相手を見失った山猫を絶望に陥れることだけなのである。それ以外でこの設定が重要さを持っていたとは思えない。唐突なのである。

 

 

次に、関本刑事について。

彼は他国でスパイ活動をしていた山猫に対し、私利私欲に走ったユウキから日本を取り戻すために力を貸してほしいと言って山猫を引き込んだ人物だ。

しかし実際には、ユウキとの縁は切れておらず、ずっとユウキの右腕として山猫をいいようにコントロールしていたのである。

山猫一派に舞い込んできた社会の不正を正すという依頼のすべてが、ユウキにとって都合の悪い相手を潰させるための策略だったのである。つまり山猫は、ユウキの居場所を探しておきながら、そのユウキにずっと利用されていたことになる。

なにもかも無意味だった。彼が自分の意思で、日本のためを思ってしたことすべてが、結局はユウキにとってだけ利する結果となっていた。その事実を関本刑事から聞かされた山猫は、やはり絶望する。

 

不満な点は、この関本刑事の思考回路がまったくを持って理解不能なことに尽きる。

 

彼は山猫と共にユウキ邸に侵入し、ユウキの力を削ぐために協力しようと言っていた。でもそれはすべてウソだった。そこまではいい。

 

疑問の一つ目は、山猫に真実を伝えるだけなら、ユウキ邸でなくてもよかったはずということ。二つ目は、山猫を絶望の淵に叩き落して「引導を渡す」と言っておきながら、最期の最後に山猫に殺されてあげたことである。

 

彼は山猫を飼いならすためにユウキから遣わされたエージェントだった。関本刑事はユウキのぶち上げた「日本の国益を海外に売り渡してでも、豊かな日本の現状を維持する」という理念に賛同した人間のひとりだった。

 

それなら彼はなぜ、山猫がユウキ邸に押し入るときまでそのことを黙っていたのか。ユウキにとって都合のいい闇仕事を勝手にしてくれるコマを失いたくなかったからなのか。だからギリギリまで利用して、山猫を始末しようとしたのか。

 

それならなぜ、関本刑事は山猫に殺されてやったのだろう。彼が死んだという明確な描写はなかったが、便宜上は死んだ扱いにしたほうが話が早いのでそうするが。

山猫と直接対決した関本刑事の実力から言って、満身創痍だった山猫の一撃をかわすことなど造作もなかったはず。それなのに彼は、あえて山猫からの一撃を受け止めたように見えるのだ。

 

彼が言っていた「引導を渡す」というセリフとは明らかにかけ離れている行動である。

 

それとも関本刑事の思惑は、山猫をユウキの呪縛から解き放つことだったのだろうか。

 

山猫の人生は、幼少期から現在に至るまで、何もかもユウキの掌の上だった。海外に売られたのも、二重スパイにさせられたのも、処刑されそうになったのも、怪盗として社会悪を告発していったのも、すべてがユウキの思惑通りの行動だった。そして山猫は、そんなユウキに復讐するためにいまを生きている。過去からずっと、山猫には身体中にユウキという鎖ががんじがらめになっている。

 

ユウキの右腕である自分を始末させることで、もはやユウキを相手にすることなど無意味だと教えてやろうとしたのだろうか。だとしても何も死ぬことはないと思うのだが、それは長年利用してきた相手への罪滅ぼしだったのか。

 

 

そして最後にして最大の不満点。それは、「山猫は目標を果たせず、ユウキは野放しになりました、ちゃんちゃん」で話が終わってしまったことである。

 

殺し屋「カメレオン」や元都知事の藤堂などを配下としていたユウキは、たとえ電脳の存在になっても未だに日本を操っていることに変わりはない。山猫はユウキに一矢報いることもできず、その強大な存在を前にして逃げ帰り、行方を晦ませてしまった。

 

元も子もない言い方ではあるが、それがこのドラマの結末のすべてである。

 

とある壮大なミッションがあった。たとえばわかりやすく、月面着陸をめざすアポロ11号の話でもいいだろう。研究者たちは一生懸命にロケットを完成させ、いざ打ち上げを行おうと最終回まで漕ぎつけた。しかし最終回になってロケットに欠陥が見つかり、発射したロケットは空中で飛散。乗員は全員死んでしまい、登場人物全員が悲嘆にくれました。

 

……こんな話を見て誰が嬉しいと思う?

 

それと同じようなことをこの作品はしてしまった。最後の最後でカタルシスのカの字も出てこないようなネタ晴らしだけ済ませて、巨悪であるはずのユウキはどっかにいなくなってしまったのだ。

 

これでは10週間も見続けてきた甲斐がないではないか。

 

なんだろう、この終盤になってからの尻つぼみ感は。全然系統は違うが、「信長協奏曲(劇場版)」を見終えたあとのような喪失感がまとわりついて離れない。

 

これで続編があるならまだしも、これで終わってしまったら本当に「なんだったんだ」としか言いようがない。

 

あまり辛辣なことは言わないようにして生きて生きたいのに、まったく度し難い世の中である。