悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

黒い樹海

先週に引き続き、松本清張原作のスペシャルドラマです。

 

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

●概要

 両親を早くに亡くした笠原祥子(北川景子)は、たったひとりの姉・信子(小池栄子)と都内のマンションで2人暮らし。仕事を探しながら、新聞社に勤務する信子を信頼し、寄り添うように生きてきた。その日も東北旅行に出発する信子と別れ、祥子は何社目かの面接に出かけた。それはいつもと変わらぬ、仲のよい姉妹の光景のはずだった。

 ところがその夜、信子が事故で亡くなったという知らせが入る。しかも、どういうわけか、祥子に告げていた旅先とは異なる場所で、命を落としてしまったのだ…!

 悲しみにくれる祥子の前に現れたのは、信子の同僚記者・吉井亮一(向井理)。何を考えているのか、信子の死の謎について祥子と共に調査に乗り出す吉井。その一方で、祥子は姉の後釜として新聞社の文化部で働きだし、生前、姉が担当していた文化人たちに会いに行く。彼らは皆、華やかな表の顔からは想像もつかないほどクセのある人物で、中でも小児科医・西脇満太郎(沢村一樹)はセレブ界きっての遊び人らしく、何度も祥子に誘いをかけてくる始末だった。

 ところが直後、姉の同僚だった町田知枝(酒井若菜)が自殺! 知枝は信子の死について「責任をとるべき人がいる」「有名人ならなおさらよ」と謎めいた言葉を祥子に残していた。姉の死に、信子が生前つき合っていた著名人の誰かが関わっていることを直感した祥子。だが、真相を知ろうとすればするほど、渦中の人物が次々と殺害されていく事態が発生! 祥子は図らずも “黒い樹海”のような深い闇に吸い込まれていく…!

 

 

 

●感想

2016年3月13日に放送されたスペシャルドラマ。二夜連続放送と銘打ったうちの二夜目に当たる作品。

 

冒頭にあるとおり、松本清張の同名小説が原作であり、やはり本作も過去に何度かドラマ化されている。

 

主演は北川景子氏。彼女を認識しはじめたきっかけは2011年放送のドラマ「LADY〜最後の犯罪プロファイル〜」なのだが、そのあとも「謎解きはディナーのあとで」「HERO 第2シリーズ」「探偵の探偵」などでお目にかかる機会があった。決してサスペンスしか見ないわけではないのだが、自分が見る作品ではサスペンスで遭遇することが多かった。

 

さて、本作は松本清張原作ということで、またしても「黒い○○」というタイトルとなっている。映像化される作品があまりにも「黒い○○」であることが多すぎて錯覚しそうだが、どうしても松本清張=黒というイメージが固まってしまう。

 

そんなことはどうでもいいとして、作品の感想である。

 

笠原祥子は両親をはやくに亡くしたことから、姉・信子と共に二人きりで生きてきた。信子を親のように慕っていた彼女だが、その信子が事故で亡くなってしまったことから本作は始まる。

 

姉は仙台に行くと言っていたのに、まったく方向が違う浜松で事故死した。姉には自分に言えない秘密でもあったのかと悲嘆に暮れる祥子。そんな彼女に、姉の同僚は不穏な話を聴かせる。信子の死は事故だとしても、その死に責任を取るべき人がいる、と。

 

しかし、その姉の同僚はその直後に謎の自殺を遂げてしまう。事前に彼女から話を聴かされていた祥子は、彼女の死を疑った。

 

その後祥子は姉が勤めていた出版社に契約社員として入社することに成功し、姉の取引相手だった有名人たちと顔を合わせる。

 

どれもこれも一癖も二癖もある曲者ぞろいで、権力を握る人というのはああも人格破綻しているものかと残念な気持ちになったのは視聴者の自分であるが、物語の主人公である祥子もかなり辟易していた模様。押し付けがましいファッション界の重鎮やら、人の名前を覚えないゲイの華道家、公然とセクハラするドMな絵描きに、女好きの小児科医と、よくもまあこんなに変人ばかり集まったものである。

 

祥子は同じ出版社に勤める吉井の力を借りながら、姉と関わりのあった有名人たちのことを調べ始める。もしも姉が浜松に行かなければならない事情があったとすれば、その有名人の誰かと会う約束をしていたからだと考えたからである。

 

この吉井という男もかなりの曲者、というか明け透けな男で、祥子の胸にグサリとくる失言を平気で口にする。報道部門で優秀賞を取ったという実績でそれなりの有名人ということ、そして他の出版社からの引き抜きが噂されていることもあり、祥子は次第に吉井のことも疑い始める。まわり中が怪しく見えるわけだ。

 

何やかんや合って、姉の遺品を警察に届けた地元の女性や、祥子のマンションの管理人まで何者かによって殺害されてしまい、事件はいよいよ連続殺人の様相を呈してきた。

 

ここまでの事件は一切のトリックがない。松本清張作品のミステリーはHOW DONE ITではなく、WHY DONE ITが重視される作品群だからである。

 

なぜ彼女たちは殺されたのか。姉を浜松へと導いた有名人とは誰なのか。見えなかった人間関係が見えたとき、やがて祥子は真実へとたどり着く。

 

 

今回の事件の犯人は、姉とかかわりがあった有名人のうち一番まともそうに見えていた経済評論家の男だった。まともそうな人ほど疑わしいというミステリーのお約束を守った形になってしまった。

 

この経済評論家の動機というのが実にくだらなくて人間臭い。

彼は有名な会社の社長令嬢との婚約が決まりそうだったのだが、祥子の姉・信子の同僚と浮気をしていた。その浮気相手と浜松に旅行に行った際に、彼は信子と小児科医が乗っていたバスに偶然乗ってしまう。

小児科医は妻のある身ではあったが、異常に嫉妬深い妻にうんざりしており、信子との再婚を真剣に考えていた。信子は小児科医のプロポーズを喜んで受けたが、それでも小児科医はまだ結婚をしている。ここで二人が一緒にいるところを見られると体裁が悪いということで、信子が自らバスの最後尾へと席を移動した。そして、そのせいで彼女はバスの後ろから追突するトラックに押しつぶされてしまったのである。

このとき経済評論家の男は保身のため、小児科医に耳打ちする。ここで浮気相手と一緒に警察に保護されたら、おまえの人生は終わってしまうと。お互いの秘密を守るために、ここは事故現場から逃げてしまおうと。

 

信子はほとんど即死に近い状態で、どのみち助かる見込みはなかった。動転していた小児科医は経済評論家の誘いに乗ってしまい、信子の身元がわかるものを持ち逃げしてしまった。

この男たちの行為に失望した経済評論家の浮気相手は、信子の妹・祥子に真実を話そうとした。しかし、そんなことが口外されれば、経済評論家は社長令嬢との結婚が破断してしまう。

だから、彼女を殺すことにした。

そのほかの殺人も、自分が浜松にいたことを隠すためだけに行われた。

 

すべては玉の輿に乗りたいがための殺人だったのである。

 

もう、なんというくだらなさ。こんなくだらない人間の思惑のせいで、何人もの人間が殺されたのである。信子の死の真相も、そのせいで隠蔽されていたのだ。

 

祥子は、自分のせいで姉が不幸な人生を送っていたのではないかと不安に思っていた。しかし、たとえ浮気の形であったとしても、彼女を真剣に愛してくれる人がいたことで救われた気持ちになった。

 

怪しい人があまりに多いドラマではあったものの、事件の中盤から容疑者が一気にそぎ落とされたため、キャスト的に犯人はこの人かなーと思った人が本当に犯人でビックリした。

 

吉井役に向井理氏、小児科医役に沢村一樹氏、経済評論家役に鈴木浩介氏と、とにかく配役が豪華だった本作。非常に見所の多い作品で、キレイにまとめてくれた。