インパクトのあるタイトルに惹かれて、録画することにした次第です。
***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
●概要
阿久田正紀(橋爪功)は、東京地検に所属する風変わりな検事。検事という立場でありながら事件の最前線に出向き、捜査を引っ掻き回すことから、通称「悪玉」と呼ばれ、現場の刑事たちから疎ましがられている。
ある日、19歳の大学生、庄野一真の遺体が都内の空き地で発見され、警視庁捜査一課が臨場。交通課から捜査一課に異動してきたばかりの若手刑事、善田まなみ(真野恵里菜)も張り切って現場に駆けつけるが、まなみが上司の警部・宮原哲司(山崎一)から命じられたのは、東京地検の検事・阿久田正紀、通称アクダマが、捜査を引っ掻き回さないよう、捜査に協力するふりをして監視することだった。
http://www.tv-asahi.co.jp/dwide/contents/nextweek/0405/
●感想
2016年3月19日にテレビ朝日で放送されたスペシャルドラマ。
主演は橋爪功氏。言わずと知れた名優だが、氏を見ると真っ先に思い出すのがテレビ朝日で長く放送されていたミステリー「京都迷宮案内」シリーズである。
先日、田村正和氏主演の「地方紙を買う女」でゲスト出演しているときも思ったが、やはり渋い俳優さんである。
そんな氏が今回演じるのは、阿久田正紀(あくだまさき、通称「悪玉」)と呼ばれる変人検事。ネーミングセンスが筆者の方向性と被るせいか、妙に気になってしまった。
検察官でありながら事件捜査にたびたび首を突っ込み、現場の警察官を困惑させてばかりいる阿久田。それでも検察官としては非常に優秀な切れ者なのだという。
そんな彼を捜査協力するフリをして監視するように命じられたのが、善田まなみ(あだ名は「善玉」)という新任の刑事だった。大学を首席で卒業し、交通課で優秀な功績を残したことが評価されて捜査一課に引っ張りあげられた正義感の強い女性である。
この二人がコンビを組んで連続殺人の謎を追うというのが、本作の基本構成である。もっとも、コンビを組んだといえるほど二人が協力していたわけではなく、阿久田検事が事件捜査と称して飛び歩くのに善田刑事がついて回っていたという印象が強い。
物語は、廃ビルの一角で古びた金属ベッドに縛り付けられた男が惨めに命乞いするシーンから始まる。当然のように男は殺害され、とある工場地帯に遺棄されていた。
その事件現場を捜査するために善田刑事が来たのだが、あとから来た阿久田検事に邪険にされるという最悪の出会い方をした。
いろいろとすっ飛ばすが、今回の物語は過去に罪を犯しながらろくに償っていない未成年者を狙った連続殺人に思われていた。
一人目は彼女にDVを繰り返す強姦魔の大学生(19)。
二人目は自転車事故で老女を寝たきりにさせたうえ、5年前にはホームレスを惨殺した男(21)。
三人目は学生時代に援助交際をネタに吊り上げた男を強請って金を奪い取るという美人局を繰り返していた人妻(21)。
被害者たちはどれもこれも殺されても文句は言えないようなゴミクズばかりだった。
そのうえ犯人は、被害者たちを殺す直前に過去の罪を暴露させる動画を撮っており、それを出版社に送りつけるということまでやっていた。警察が出版社に介入して記事が出なくなってからは、インターネットの動画サイトを通じて自ら被害者たちの罪を告発していった。
強姦被害にあった女性の母親は、事情聴取しに来た阿久田検事に対してこんな趣旨のことを言い放つ。
「少年法ってなんなんですか。誰を守ってるんですか。加害者を守ってどうするんですか!」
おそらく、この国で少年法の存在意義を認めている人間は、名声に目が眩んだ人権派弁護士(笑)や法学者、良識派を気取る愚かな教育者や、自分の身内が罪を犯したときのセーフティネットに使いたいだけの権力者たちだけだろう。
まともな神経の人間だったら、被害者のことは根掘り葉掘り報道されるのに、加害者が未成年というだけで異常なほど報道規制を敷く日本は異常な国だと思っているはずだ。
今作における一般人たちの反応もまさにその通りのもので、ネット上では犯人を英雄視する声で溢れ返った。
まあ、国民の8割が死刑に賛同をしめす過激な国で、罪を犯した極悪人を庇い立てするようなことをすればこうなるのは目に見えているが。そもそもネット上で未成年犯罪者の晒し行為が横行するのだって、警察やマスゴミが必要な情報を世間一般に公表しないからだ。犯人の情報がキチンと報じられさえすれば、飽きの早いネットの住民たちが炎上する勢いで犯人晒しをすることなんてなくなると思うのだが。
ただし今回の事件は、このようなネット上での犯人バッシングの負の一面も扱っていた。殺された3人のゴミクズは、5年前のホームレス惨殺事件に関与していたという隠れた共通点があった。しかし、その事件にまったく関わりのない高校生を犯人とするデマを、上記のレイプ魔がネット上にアップしていたのである。
ネットの情報を鵜呑みにした愚かなる警察によって高校生は事情聴取を受け、その事実を知った学校はその高校生を退学処分とした。夢も希望も奪われた高校生は川に身投げし、5年も生死の境をさまよった挙句、一度も目を覚まさないまま先日亡くなったのだという。
ネット上の情報の怖いところは、それが必ずしも真実とは限らないということ。過激であればあるほど飛びつくバカが大勢いることから、誤った情報が駆け巡るスピードも早い。
ただ、これを指してネット社会を責めるのは本質を見誤っているとしか言えない。
この件で問題があったとすれば、それは警察の勇み足的な捜査と、高校生の言い分も聞かないままさっさと退学処分にしてしまった学校の対応であろう。
学校の愚かな処断を聞いて、2012年に片山祐輔が起こしたPC遠隔操作事件を思い出してしまった。確かあの事件は、冤罪で警察に逮捕された4人のうち、明治大学に通っていた学生が含まれていたはず。事件の真相がわかって以降、明治大学からろくな発表もないまま事実が埋もれてしまっているが、あの学生は逮捕をきっかけとして退学に追い込まれたはずである。
世間体だけを気にして、疑われている人間の釈明すら聞かなくなるなんて、これだから責任ある立場の人たちの「ひとでなし」加減にはうんざりするんですよねー。
まあそれはいいとして、本筋に話を戻そう。
阿久田検事の捜査手法は、一見すると人の心をないがしろにした荒いものに見えるが、実はそれだけではなかったというところが良かった。
彼は元美人局犯の夫から「昔罪を犯したからといって妻を悪者扱いするな、犯人を捕まえて死刑にしろ」などと恫喝されたとき、ステキな切り替えしをした。
「人を裁くのは法律ではなく、人だ。法律を使うのは人間だ、だからそこにどんな濁りがあってもいけない。真実を詳らかにするために私がいる」
こんな趣旨の発言だった気がするが、彼の事件に対する向き合い方はどこまでも公平だということが明らかになった瞬間だった。
正義感の強い善田刑事は、被害者たちの素性を知ったあと、どことなく犯人側に同情的な態度を示していた。まあ、まともな神経の持ち主なら、被害者と犯人の一体どちらが犯罪者なのかと思えてしまっても不思議ではない。
しかしこれを指して阿久田検事は、彼女の主張をすべて「ただの感想」だと切り捨てる。感想は本質を見えなくしてしまうとも言っていた。罪を裁く側の人間には、徹底的に公平に、真実を読み取ろうとする姿勢が必要なのだということなのだろう。
だからといって、阿久田検事が冷血な法律至上主義の男かというとそうでもない。彼はレイプ魔からのDVに耐えかねてレイプ魔の財布からクレジットカードを盗んだ彼女を逮捕しておきながら、密かに彼女が不起訴になるように導いていた。職業柄、罪は見逃すことはできない。ただし、それが本当に償うべきものなのかは人間が判断する、ということなのか。不器用でも、優れたバランス感覚の持ち主だといえる。
犯人の予想はついていたけれど、最後の最後にどんでん返しが来るとは恐れ入る。それもこれも、今回の犯罪を「キレイな復讐劇」ではなく、「ストーカーによる狂気的な事件」とすることで「復讐なんて自分勝手で愚かなもの」という阿久田検事の主張を表したい脚本家の意図なのだろうが。
2時間もののスペシャルドラマとしては、破格のおもしろさだった。是非シリーズ化を検討していただきたい。