***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
・余談
世間が、と言いますよりも世界が物騒な時世になって久しい今日この頃ではありますが、賢明なる読者諸氏の皆々様は健やかにお過ごしでしょうか。
どうやら筆者の地元にもついにコロナウイルスの感染者が現れたらしく、人々は軽い混乱状態に陥っているようです。
こんなときにゲームの感想なんぞ……とも思いますが、ルーティーンを崩せば怠け癖が再発しかねないということで、己に叱咤激励しつつ面白おかしく筆を執りたいと思う所存であります。
・雑感
女学生による売春組織「シスマ」、その元締めと目されていた女学生までもが惨殺された。
玲人は彼女の遺体が発見された状況をもとに、犯行が可能な人物像を探り出そうとする。
捜査線上に上がったのは、なんと玲人が臨時講師を務めていた私立櫻羽女学院の教師だった。
しかもその教師のカウンセラーだった西藤環医師の証言により、最初に発見された犠牲者と教師は生き別れた肉親だったことが判明する。
すべての状況証拠はその教師こそが犯人だと告げている。
玲人は決定的な証拠をもとめて犯人を追い詰めようとした。
だがその矢先に、玲人のかつての同輩であった上野の探偵・高城秋五の妻である和菜が行方不明になったとの知らせが入る。
犯人はすでに何人もの人間を惨殺している凶悪犯である。
一刻も早く見つけ出さなければ彼女の命が危険にさらされるやもしれない。
玲人と魚住は教師の生家に直行し、そこで狂気に飲み込まれた犯人と対峙する。
犯人は実の妹だった女生徒の死を受け入れられず、ほかの犠牲者たちの手足を奪って妹の亡骸に継ぎ接ぎし、妹を『復活』させようとしていたのである。
玲人たちの奮闘により犯人は無事に逮捕された。行方不明だった高城和菜は間一髪のところで助け出すこともできた。
幾人もの犠牲者を出した連続殺人事件は、こうして幕を下ろしたのである。
しかし玲人はまだ気づいていなかった。
彼らが大立回りをしているよそで、新たな凶悪事件が進行していることに――
……とまあ、殻ノ少女の前編にあたるところがこれにて一件落着となるわけだが、ここで物語の読者は強烈なミスリードに踊らされることになる。
玲人が犯人を追い詰めるために動き出そうとするところで視点交代が起こり、「犯人視点」での独白が始まるのだが……ここだけ読むと行方不明になった和菜が惨たらしく殺されている様子にしか思えないのである。
まさか前作「カルタグラ」のメインヒロインをこんな風に殺してしまうとは怖いもの知らずの作者だなあ、などと身震いしながら当時は読み進めたものだが、これが質の悪いミスリードなのである。
玲人たちが犯人の自宅に詰め寄ったとき、実際には和菜は薬で眠らされているだけであり、傷一つない状態で発見される。
妄執に塗れた犯人とのやり取りのせいで一瞬、先の犯人視点の独白の存在を忘れそうになるが、「じゃあさっきの描写は誰が誰を殺してる場面なんだよ」と後になってわかるような仕組みになっているのである。
一難去ってまた一難。
物語はいよいよ後半戦へと突入し、絵画「殻ノ少女」にまつわる事件へと移っていくことになる。
なおこれは余談なのだが、先日四ツ谷の画廊にて開催された「殻ノ少女画展」の公式図録には、画展で公開された絵画の一覧のほかに次のオマケ要素が収録されている。
・2020年12月発売予定の最終作「天ノ少女」登場人物(抜粋)の立ち絵・プロフィール
・「殻ノ少女」前半戦の犯人視点による短編小説「ベアトリーチェの回生」
この短編小説というものが非常に気色悪く(誉め言葉)て読みごたえがある代物で、事件の背後で何が起こっていたのかというのが推察される内容になっている。
一連の事件の中で、和菜の失踪だけは明らかに異質だった。犯人である教師はいわば妹の復讐として妹に売春を強要していた女学生たちを粛正していったわけで、和菜は被害者たちとは何ら関係がない。
それなのにどうして和菜は誘拐されてしまったのか。
「殻ノ少女」本編を読んでもこのあたりのことはぼかされていたのだが、この短編小説ではそのあたりの事情が克明に記されている。
ずばり、和菜を攫ったのはバラバラ殺人の犯人である教師ではなかったのである。
そもそもこの事件には裏に真の黒幕ともいうべき人物が存在しているのだが、どうもこの人物が教師の隠れ家に誘拐した和菜を放置していたようなのだ。
このあたりの流れを見てみるとやはりこの教師という人物は、黒幕にうまい具合に操られていたのかもしれないと思えてならない。
玲人が黒幕の存在に気づき対峙するのは、物語の最終局面になってからなので、現時点での明言は避けるが……おそらく多くの読者が驚かされる衝撃の展開であることは請け合いである。
……最後に本当の本当にどーーーでもいい下世話な感想を書き記しておく。
ここ最近所用があって吉祥寺の井の頭公園に行く機会があった。
意図せず聖地巡礼してしまったわけだが、公園の池の周りをゆっくりと散歩しながらしみじみと思ったわけである。
「……玲人と冬子ってこの公園で結ばれるわけだけど、こんな見晴らしのいい場所じゃいくら雑木林の陰に隠れたってギャラリーに丸見えじゃん……2人して勇者かよ……」
……おあとがよろしいようで。