悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

カルタグラ ~ツキ狂イノ病~ (その5)

あけましておめでとうございます。今年も密やかにネット上へ駄文をまき散らしていこうかと思います。

議題は引き続き、和菜ルート(TRUEルート含む)における1幕・2幕のストーリーについて。

 

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

本作はサイコミステリーとは言いつつも、金田一少年やコナンが活躍する「探偵もの」とは異なり、溝口正史の小説のように犯人の動機を探っていくスタイルの物語である。

 

そのため犯行に何らかのトリックが仕掛けられているということはなく、被害者とその周辺人物とのやり取りを通じて動機を推察し、犯人に近づいていくという手法がとられている。

 

もっとも、上記のような動機の分析は秋五の妹・七七が独断でやってしまうため、そこに秋五の出番はない。先日も述べたように秋五は「人探しの探偵」であって、「犯人探しの探偵」ではないのだ。

 

上野連続バラバラ殺人事件については、秋五は巻き込まれて関わらざるを得なくなってしまったという側面が強い。そのため、秋五には事件を調査する時間がほとんど与えられず、結果としてサブヒロインである凛を死なせてしまう結果になってしまった。

 

凛は陰鬱な人物が多い本作の中でヒロインの和菜と並んで陽気な人物だった。凛の喪失はその後の物語全体にも影を落とすことになる。惜しい人物を失くしたと言える。

なお、凛はイノグレ作品を通しても人気の高いキャラであり、昨年行われたイノグレ作品の人気ランキングでは11位を記録。(10位以内に入賞できなかったため10周年記念グッズとして販売されなかったものの、イノグレ公式通販で一定額以上の買い物をするとラバーストラップが付いてくるキャンペーンを実施している)

 

 

ストーリーの作りが「動機探し」を主体に据えているため、「犯人探し」を期待したユーザーには肩透かしを食らわせるかもしれない。バラバラ殺人の犯人も、新たに登場したばかりのサブキャラであったし。

 

 

しかし本作の真骨頂は、犯人の狂気や妄執といった心の闇を表現することにあると考える。

 

 

七七による犯罪の講釈や、犯人の口走る意味不明な妄言、逮捕後に判明する支離滅裂な生き様などがこれにあたる。どれもこれもいい意味で読者を身震いさせてくれた。

 

 

不気味さといえば、秋五の妹である七七も負けず劣らずイカれた人物である。

女学生でありながら警察沙汰になった事件を独自に調べて現場を引っ掻き回す素人探偵ではあるものの、悪魔的に明晰な頭脳の持ち主でもある。

秋五が和菜と共に由良を探している間、七七は好奇心が高じてバラバラ殺人の調査をしていた。そして七七はその道程で事件の犯人に気づいてしまう。

 

ただし、七七は兄である秋五と知的好奇心が揺さぶられる事件にしか興味がない。正義感という通念が欠如している。

そのため彼女は、犯人の正体に気づいていながらそのまま放置していた。この行動が凛を死なせてしまった原因のひとつとも言えるのだが、すべてを知った秋五は妹の気色悪い思考体系にうんざりして相手にすることをやめてしまうだけだった。

 

七七はサイコミステリーを解決させる探偵役として活躍するキャラでありながら、自らも禍々しい妄執に囚われている人物でもある。優秀だが好きになれないというユーザーが多いことも納得である。

 

 

バラバラ殺人事件が解決するまでは、秋五は特に何ら成果をあげていない。

上野葵町のチンピラに情報を集めさせたり、凛や冬史に情報を集めさせたりと、調査のための下準備をしていただけである。調査をはじめて数日ではそれが限度かもしれないが、ちょっと活躍しなさすぎの気がしないでもない。

 

 

この事件が一応の解決を見せるまでが、カルタグラの前半戦にあたる。

しかし、本筋である由良の調査が放置されたままである。

話の盛り上がりはここからである。

 

後半戦に続く、との言で正月は締めくくろうと思う。