悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

カルタグラ ~ツキ狂イノ病~ (その11)

終幕およびストーリー全体についての感想などを記録いたします。(その2)

 

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

七七が語りだした驚愕の真実。それは、秋五が救出した和菜の正体についてだった。

彼女こそ、秋五に取り憑いた過去の妄念、上月由良だったのである。七七によって命を救われた和菜と、付添い人の冬史が現れ、七七の語りはいよいよ饒舌となり――という筋。

 

 

 

秋五が和菜だと思って看病していたのは、死んだはずの由良だった。

正直、ここまで物語を追ってきた読者であればこの展開は予想できる。防空壕で発見された和菜が巫女装束を着ていたことや、救出後の和菜の様子が若干おとなしかったことなど、伏線はそれなりにあったからだ。

 

ここからはほとんど七七の独壇場である。読者でもわかっていた事実から、初めて知らされる情報まで、すべて七七が嬉々として語ってくれる。主人公で探偵な秋五は七七の解説に対して疑問をはさみ、より詳しい説明を引き出すための装置と化していた。

 

由良が関わった犯罪。そして、その目的について。道化を気取るかのように七七は語る。

――由良は、和菜に成り代わって秋五に愛されようとしていたのである。

 

 

ここで、由良が関わった事件について時系列順に整理したいと思う。

 

まず最初は、上野連続バラバラ殺人事件。

これは、由良の狂信者であった赤尾生馬が、狂気の食人シスター深水薫にやらせていた事件である。

第一の事件が1月6日。第二は1月22日、第三は1月31日、第四は2月5日にと、それぞれの日に身体に欠損のあるバラバラ死体が発見された。

 

次に、行方不明になった「死の腕」の情婦・雹について。

雹がいつから千里教に入り浸っていたのは定かではないが、彼女が行方を晦ましたのは1月25日ごろのこと。

行方不明になった理由は、由良によって殺害されたからである。

ゲームの冒頭で巫女装束姿の女が別の女を殺害して土中に埋めるシーンがあるが、まさにこのときの描写だったのだ。

つまり祠草時子が目撃したのは、由良が雹を埋めている現場だったのである。時子は赤尾に脅迫を受けていたため、「教団を私物化したい赤尾が教主の偽物(雹)に本物(由良)を殺させた」と誤認していたのだ。

 

 

由良は雹を埋める最中、こんな独白をしている。

「このひと掘りが――すべてあなたにつながっている」

 

 

「あなた」が誰であるかは言うまでもない、秋五である。

つまり、由良による「和菜との成り代わり」はこのときから計画されていたということになる。

 

雹は当初、赤尾がつくった「教主復活」の予言を現実のものとするために用意された替え玉だった。雹が殺されることは、赤尾や時子にとっては規定路線だったのだ。

 

しかし由良は、この予言を逆手にとる。

雹を上月由良の死体として偽装できれば、上月由良を死んだことにできる――と。

 

 

由良がこのような凶行に踏み切った原因は、赤尾の暴走によるところが多いと筆者は考えている。

赤尾は由良を愛しすぎてしまったが故に、現実と妄想の区別がつかない状態となっていた。由良に愛されたいが故に、教団をより強大な組織にしようとし、そのために哀れな狂人を唆して殺人に駆り立てた。ときには自らの欲望を満たすため、遊女の乙羽や女学生の楼子を惨殺したりもした。

 

このような人物が側にいたのでは、いつ自分の身に火の粉が降りかかるかわかったものではない。長年再会を求めていた秋五が、自分の匿われている千里教本部のある上野に暮らしているのに、である。

 

だから由良は、赤尾の思惑に乗りながらも、暴走した彼を排除する方法を考えていたのではないだろうか。

実際、「和菜END」であっても「TRUE END」であっても千里教本部は火事にまかれ、赤尾は死ぬことになる。「TRUE END」ルート4幕において秋五に追いつめられた有島刑事は、自身の犯罪の証拠を消すために教団ごと焼き払う気でいたと発言している。おそらく、「和菜END」で発生した千里教本部の火災は有島刑事によるものなのだろう。つまり由良は、暴走した赤尾の処分を有島刑事に任せようとしていた可能性が高い。

 

ただしそうなると、有島刑事が由良自身を処分する可能性だって考えられた。教団の教祖をやっていた由良を消せば、証拠はすべてなくなるのだから。

しかし「和菜END」において由良は秋五の前に現れる。由良と有島刑事がどのようなやり取りをしてそのような段取りになったのかは不明だが、おそらくはお互いに脅迫しあうような形になったのではないだろうか。有島刑事は千里教の裏山で発見された遺体が由良ではないと知っているはずだし、由良は言わずもがな有島刑事の犯罪を知っている。由良の望みは「和菜に代わって秋五に愛されること」だから、有島刑事にとっては大した要求ではない。むしろ、情に流される秋五を由良によって誑しこめるくらいに考えていたのではないだろうか。

(「和菜END」では和菜は海外に留学してしまったため、わざわざ由良が和菜を殺さなくても目的が果たせる状況が整っていた。この双子だけを見るなら、このルートが一番平和的な解決だったかもしれない)

 

 

文字数が多くなってきたため、続きはまた明日。