終幕およびストーリー全体についての感想などを記録いたします。(その3)
***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
引き続き、由良が関わった事件についての考察を行いたい。
凛を殺害したのは、シスター深水である。
しかし先日述べたように、乙羽と楼子を殺害したのは彼女ではない。赤尾である。
乙羽を殺害したのは、千里教の暗部を知られてしまったから。赤尾がそう言っていたと、時子が発言している。
しかし、凛や楼子についてはそのような理由はない。動機はまだわかっていなかった。
だからこそ秋五たちは、千里教本部で赤尾と対峙した際に、何故二人を標的にしたのかを問い質す。
それに対し赤尾は、すべては秋五が原因だと告げる。
由良がそう望んだから、自分が手を下したのだと。
しかし、このとき秋五と冬史には「由良は雹によって殺害されている」という先入観があった。だから二人は、赤尾のこの言葉をそのままの意味として受け取ることができなかった。
祠草時子の告白を信じるならば、凛や楼子が殺害されている時点で由良は土の中のはずである。土の中にいる死体が、どうして赤尾に殺人の指令を出すことができようか。冷静に考えれば事実は自ずと見えたはずである。
秋五たちは先入観があったために、
「赤尾が雹に指示を出し、自分を省みない由良を殺させた」、
「しかし、亡き由良の望みを叶えることに固執して凛と楼子を標的にした」と考えてしまったのだろう。
事実は異なり、二人の殺害を指示したのは由良である。
凛は赤尾を介して深水に、楼子は赤尾自身に、それぞれ殺人を犯すように指示したのである。
理由は単純にして明白。すべては、秋五の周りから余計な女を排除するためだったのだ。
雹を手にかけた時点で、由良の妄執と狂気はピークに達している。
「秋五に愛される」という目的を果たすまで彼女の劣情は止まらない。
新進気鋭の舞台女優として売り出し中だった和菜の噂は、彼女が活躍している上野にいればイヤというほど由良の耳にも入ったことだろう。
由良はとある理由から、自分の存在を消し去ってしまいたいと思っている。自分は決して誰からも愛されないのだと思い込んでいる。
だからこそ由良は、次に和菜を殺すための準備を始めた。
和菜が由良を探すきっかけになった出来事がそれである。
1月下旬ごろ、上野葵町で目撃された「和菜に似た巫女装束の女」は、おそらく由良によるものだろう。秋五たちはこの目撃談が情婦・雹のものだと考えたようだが、これまでの流れを考えると、このとき既に雹は土の中にいるはずである。
お人よしの双子の妹がこの目撃談を聞けば、必ず自分を探し出そうと言い出すはず。由良にはこんな思惑があったのではないか。そうでなければ、わざわざ由良が千里教の本部から町中に出てくる理由がない。
つまるところ由良のこの行動には、いくつかの理由があるはずである。
自分を、ひいては自分自身に偽装した死体を発見させること。それが第一の目的。
そして第二の目的は、和菜と秋五を接近させることだったのではないかと推測する。
由良は赤尾を排除したあと、どのような結果になろうとも自分が秋五の隣にいるための策を巡らせた。自分が「上月由良」でなくなったうえで、秋五と添い遂げること。それこそが最大の目的である。
その目的を果たすのに最も都合がいいのは、双子の妹である和菜に成り代わること。
和菜に成り代わるだけなら、仕事は非常に単純で済む。赤尾や子飼いの信者たちに和菜を誘拐させ、何食わぬ顔で和菜を演じればそれでよい。
しかし由良にはそれができない理由があった。和菜と由良の顔は、厳密に言えばまったく同じではなかったからである。
二人の最大の違いである「瞳」を隠す合理的な理由がなければ、由良は和菜のフリをすることができない。
それに、そこまでして由良が和菜に成り代わっても、和菜が由良を探そうと言い出さなければ和菜と秋五は赤の他人である。
和菜に成り代わったところで、和菜と何の関わりもない秋五にどうやって知り合おうというのか。(秋五が私立探偵もどきのようなものだから、その方面で仕事を依頼する、とか?)
由良としては、和菜と秋五が顔見知りになってくれさえすればそれでよかったはず。二人が予想をはるかに超える短期間で恋仲になってしまったのは、由良にとっては計算外だったのではないだろうか。
どうして有島刑事が秋五に「上月由良」捜索の依頼を斡旋したのか、ずっと疑問だった。有島刑事にとって由良は金の卵を生む鶏である。そんな彼女を簡単には手放したくはないはず。しかし、有島刑事の監視が及ばないところで由良が独自に行動をはじめてしまった。雹の殺害と、上野葵町での目撃情報。由良の思惑通り、由良は自分自身が探し出される状況を作り上げた。有島刑事は職務として、探してくれと頼まれれば断ることはできない。
ではなぜ、捜索者として秋五に白羽の矢が立ったのか。探偵としての彼の能力が未熟で、由良を探し出せないと高をくくっていたからか。
それは否。おそらくそこには、由良の指示があったのではないかと考える。
由良は有島刑事に対して、「自分を探す役目は、高城秋五にやらせること。そうでなければ、教主としての役割を廃し、お前の犯罪をすべて暴露する」とでも言ったのではないか。
4幕における有島刑事の最期のセリフに、「つけこまれるなよ」という発言があった。
これは、自分の想像を超える立ち回りを見せた由良への警戒の意図だったのではないだろうか。
またしても筆が走りすぎてしまった。
まったく反省していないが、続きはまた後日。