どこかで見たことのある出演者の組み合わせに惹かれて録画した次第です。
***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
●概要
松本清張 特別企画 村上弘明主演 剛力彩芽、陣内孝則豪華キャスト再び!
医師連続殺人事件の謎を追う本格ミステリー!三人のトップスターが顔を揃える医療サスペンス第二弾!
ふたつの死が暴く、封印された医療の闇
この作品は、過去にも映像化されたことのある人気作で、今もなお多くの人を魅了し続けています。
主演を務めるのは、静岡県警の刑事・大塚役を演じる村上弘明、さらに、警視庁捜査一課の刑事・須田役として陣内孝則、大塚の後輩新人刑事役として剛力彩芽の、豪華3人のメインキャストを迎えておおくりします。
昨年3月に開局50周年特別企画として放送した、松本清張『黒い画集-草-』から1年、再び松本清張作品での三人の共演が実現しました。
今作では、三人が個性豊かな刑事として登場し、難解な医師連続殺人事件の謎に迫ります。
医師と医療機器メーカーの荒廃した癒着と、意外な愛憎関係がもたらした連続殺人事件。
重厚に描いた本格ミステリーをお楽しみ下さい。
●感想
2016年3月30日にテレビ東京で放送されたスペシャルドラマ。原作は言わずもがな、松本清張の同名小説である。
なお、本作は過去にも2回ドラマ化されているらしい。それだけ人気があるエピソードということなのだろうか。
今回の主演は村上弘明氏。準主演級として剛力彩芽氏、陣内孝則氏といった豪華な布陣である。
番組表を何となく眺めていたとき、この三人の名前が一遍に目に入ったことで、自分の頭の中にあるドラマの映像が再演された。
上記の概要にも書かれていることだが、この三人は昨年に放送されたスペシャルドラマ『松本清張「黒い画集-草-」』にて共演している。こうも同じ顔ぶれが揃うと木になって仕方がないため、本作も見てみることにした次第。とはいえ、本作は「黒い画集」とキャストが同じと言うこと以外、ストーリー的には何のつながりもない独立した話である。
なお、そのときの感想は以下のリンクを参照。
松本清張「黒い画集-草-」 テレビ東京開局50周年特別企画 - 悪意ある善人による回顧録
村上弘明氏の扮する主人公・大塚は静岡県警捜査一課の刑事である。物語はとある旅館の一室で医者の死体が発見されたことをきっかけにはじまる。
相方の田村(剛力彩芽)は病死や自殺の線で事件を捉えていたが、大塚は遺体を人目見てその不自然さに気づく。手首についた1センチほどの切り傷から、徐々に徐々に血を抜いて失血死させるという、怖気が走るような方法による殺人事件だと大塚は判断した。
一方で、東京の公園でも医者の一人が残忍な方法で殺害された。大塚と因縁の深い刑事・須田(陣内孝則)は遺体の状況から物取りによる犯行ではないと判断。それどころか、被害者を刺してからわざと逃げ出させ、血が無くなって動けなくなるまでじっと眺めているという怨念のこもった犯人によるものだと考えた。
捜査のために上京してきた大塚と田村は、その途中で大塚と鉢合わせになる。というのも、被害者が二人とも同じ医療セミナーに参加していたということがわかり……などの展開だった。
原作が書かれたのが1969年とだいぶ昔の話なはずなのに、今に通ずる恐ろしさがあった本作。ぶっちゃけてしまうと、本作があぶりだした被害者たちの落ち度とは、医療現場でたびたび問われる重大問題についてだった。
50年近く前に書かれた小説からすでにこの問題を重要視していたというのだから、松本清張のアンテナの張り方がいかに敏感だったかが窺える。
東京で殺された医者は愛人との浮気に夢中で、交通事故にあった患者の受け入れを拒否したゴミ。
静岡で殺された医者はたらい回された次の病院で患者の治療をし、看護師でも間違えないレベルの投薬ミスをしておきながら事実を隠蔽してさらに別の病院へたらい回ししたクズ。
どちらも殺されても文句が言えないような極悪人だった。
自己保身やら金やらに夢中で職務をまっとうしようとしない医者に連続でぶち当たってしまったその患者は3つ目の病院にたどり着いたときには手遅れになっていた。
被害者遺族は事件のことを丹念に調べ上げ、この二人の医師が患者を死に追いやったと突き止めた。そして、復讐したのである。
この医者たちのどこがすごいかと言うと、自分が原因で人を死なせてしまったというのに、名前を聞いても思い出すこともしなかったということである。よほど罪悪感に縁遠い生き方をしてきたのか、それとも普段医療現場で死に触れすぎていると、他人の死にも鈍感になってしまうのだろうか。だとしたらそんな冷血な医師になど絶対に看てもらいたくないものだが。
犯行が露見し、犯人たちは自殺しようとする。しかし、ミステリーにお決まりの展開として、主人公たちが犯人たちを止めようとするのである。
そこで大塚たちは犯人たちに向かって言うのである。
「復讐は何も生み出さない」
「彼(犠牲になった患者)はあなたがたに復讐なんて望んでいなかったはずだ」と。
刑事が主人公である以上、彼らが語っていることは法律にのっとった正論なわけだが、そんなもの被害者遺族には関係がない。
第一、「復讐は何も生み出さない」というが、それは事実の一側面を語っているに過ぎない。野放しになった極悪人に報復することの効能は何も憂さ晴らしだけではないのである。その極悪人が息をしていることによって、再び同じような悲劇が繰り返される危険性が著しく高いのに、それを防ぐ手立てがない。それなら、非合法な手段を使ってでも排除できれば、より多くにとって幸せになる。「くさった蜜柑」理論と言えばそれまでだが、「これ以上何も失わせないために成す復讐」というのは価値のある行為だと筆者の目には映る。
まあ、復讐を成すために家族不和を演じたり、偽装結婚までしたりと、犯人たちの執念は凄まじいものがあった。彼らが社会悪を世界から消し去ろうと思って犯行を成したわけではないのは明らかだが、それでも彼らを捕まえたところで何かが改善されるわけでもない。むしろ、医療不信をもたらす害悪を排除したのだから表彰してもいいくらいだと思えるのだが、我らが日本は法治国家ゆえにそのような蛮行は許されないと言うしかないのだろう。建前だけの役人は嫌いである。
「黒い画集」のときは麻薬取締官のコンビと刑事という対立だったが、今回はメイン3人が刑事役となっていた。役も立場も異なるはずなのに、なぜか前回の続きを見ているような気分になってしまったのは、あまりにも人物の立ち居地というか相関図が似通っていたせいなのか。
ともあれ、本作もまた興味深い作品であったのは確かである。