悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

99.9―刑事専門弁護士― 第4話

 

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

第4話は、とある大企業で世界的な発明を行っている研究者が、元同僚に強制わいせつをした容疑で訴えられた。本人は泥酔していたため心当たりがないというのだが……などの話だった。

 

強制わいせつやら強姦罪やら痴漢やら、親告罪関連の犯罪ほど恐ろしいものはない。

 

罪の様態自体が恐ろしいことはさることながら、それ以上に恐ろしいのは訴えられたときである。

 

親告罪というのは立証が難しいせいなのか、被害者側の言い分が一方的に通ることが多い。通常の裁判なら本来、「被告人が罪を犯したという揺るぎない証拠」を検察側が出さなければならないはずなのに、こと親告罪関連の裁判となると「被告人が罪を犯していないという揺るぎない証拠」を提出するように求められる。裁判の原則を無視し、立証責任を被告側に押し付けるという「悪魔の証明」のようなことがまかり通っているのである。

 

今回の被疑者もそういう事情で、このまま裁判で争っても長期間拘束され、必ず無罪を勝ち取れる保証はないという立場だった。そのうえ急いで特許を取得しなければならない研究のラストスパートというときにいつまでも拘束されているわけにはいかないという責任もついてまわった。そのため彼は、彼の雇い主である社長の言われるがままに、自称被害者と示談をして告訴を取り下げてもらった。ようは、やってもいない罪を認めてしまったのである。

 

痴漢冤罪だろうとなんだろうと、「やってもいない罪を認める・認めさせる」ということほど罪深い行為はない。それによってほんの一時だけ自由を手にしたとしても、一度罪を認めてしまったら失うものがあまりにも多すぎる。やってもいない罪のために一生後ろ指を差されるくらいなら、罪を被せようとするすべてに対して死に物狂いで抗うしか道はないと思えるのは筆者だけなのだろうか。

 

結局、この研究者は留置所から出たあと、職場の人間から白い目で見られたり、家屋に心無いラクガキをされたりしたことによって自分の無実を証明したいと言い出すのである。この国に住んでいて、罪を認めたらこうなることくらいどうして想像できなかったのか。悔やまれるところである。

 

また恐ろしいのは、こうやって容疑者宅にラクガキだの投石だのをする人間があまりに多いという現実だろうか。仮にその相手が極悪人だからといって、まったく無関係の第三者がしゃしゃりでて迷惑行為をしていい理由にはならない。そういう自称正義の人間が多すぎるから、日本はこんなにも息苦しい社会なのだろう。(もっとも、被害者が加害者にたいして復讐することについては制限するべきではないとも思うけれど)

 

 

今回の事件は、かの青色発光ダイオードにおける特許権の扱いを思い出させるやり取りがあった。

 

企業に属する人間が取得した特許は、その企業が取得する。2015年に特許法が改正され、この点が明確にされてしまったことといい、日本の会社員はとにかく扱いが雑すぎる。企業に多大な利益をもたらす発明をしたところで、関連する権利はすべて会社が独占してしまい、開発者や周辺協力者たちへの見返りは数万円というお小遣い程度の金だけ。こんなことではやる気もクソもないだろう。立場が上のものがその立場を殊更に悪用すると言う構図は見ていて吐き気を催すだけである。どうせ今後もこのような扱いが増え、裁判も増えることになるのだろう。嫌な国である。事件の黒幕だった社長には充分に社会的制裁を受けていただきたいものである。