***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
・余談
ついについに、ようやっと発表されました。
「殻ノ少女」シリーズ3作目にして完結作、「天ノ少女」の発売日は2020年12月25日と相成りました!!!!!
いやあ本当にめでたい。この日をどれだけ心待ちにしてきたことか。これでまた一つ、長生きしなければならない理由ができてしまいました。この物語の結末を見ずして死ぬことなど絶対にできませんからね……!!!
・雑感
祭りの翌朝、黒矢医院へ出勤する道中で菜々子は異臭を嗅ぎつける。
看護婦の立場ゆえ村民の安否を確認すべく菜々子は臭いの元となる民家に立ち入る。そこで彼女は、惨殺された女性の遺体を発見する。
その女性は両腕を梁に結わかれて、あたかも磔のように吊るされたうえ、腹部が不自然なほどに大きく膨らんでいた。
通報を受けて臨場した富山県警の戌亥(いぬい)は遺体を確認するや、鑑識を待たずに腹部の縫い目を断ち切り、腹の中身を検める。腹に詰められていたのは、両手に収まるほどの大きさをした土人形であった。
女性の死は瞬く間に集落中に広がり、村民たちは口をそろえてこう言った。
「ヒンナサマの祟り」があったのだと。
願いを叶えるために「ヒンナサマ」を隠れて祀った罰が下ったのだと。
十数年前、年号が昭和に変わる以前にも、これと酷似した殺人事件が起きていることを戌亥は知っていた。その時も三月三日の祭りの翌日に事件が発覚し、いまだ犯人が捕まっていないことも。
しかし村人たちは祟りを恐れて思考停止してしまい、碌な証拠も証言も集まらず、捜査は難航する。とはいえ戌亥は、「祟り」の名を借りた殺人を繰り返している犯人がいると確信して村に留まり続けた。
一方、砂月は事件の直後から祠草神社に引きこもりがちになった。あてがわれた蔵の中で彼女はひたすら人形と対話を続ける。
彼女は言う。
どうして実際に手を下した「あなた」より、見ていただけの「自分」の方がまいっているのか。
どうして理人を奪ってしまうのか。
彼女は答える。
そんなつもりはない。自分はもうすぐ消えなければならないのだから――と。
そのしばらく後、砂月は何者かに扼殺されてしまう。
翌日、砂月に会いに祠草神社へ向かっていた理人と尚織は、境内に至る参道の鳥居に吊るされた砂月の遺体を発見する。彼女の遺体からは四肢が喪われており、その異様を見た理人は深く慟哭するのだった。
砂月の死後、日本は第二次世界大戦へと突き進み、戦禍の混乱の中で事件は迷宮入りすることになる。
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時は昭和32年(1957年)12月へと戻る。
妹・紫から悲壮感溢れる電話を受けた玲人は朽木病院へと急行した。
紫曰く、公園で自殺を図っていた男性を発見したはいいものの輸血が必要な状態であり、血液型が合う者として玲人しか思い浮かばなかったのだという。
手術の結果、男は一命を取り留めるものの、予断を許さない状況が続いた。
彼はなぜ死のうとしたのか。理由が気になる一方で、紫は編入生である雪子のことも心配していた。
編入してからひと月ほど経つものの、いつも一人で誰とも打ち解けていない。そこで紫は、雪子を美術部に勧誘することにした。
雪子はまだまだぎこちない態度ながら、幽霊部員である小羽ともども3人で友好を深めていくのだった。
※未散イベント
かたや玲人は朽木病院の看護婦が惨殺された事件の捜査を進めていた。殺害状況の異常性や、彼女がおよそ2年前まで精神科を担当していたことから、かつて玲人が捕らえた猟奇殺人鬼・六識が事件の手引きをしている可能性が頭を掠める。しかし、まだ憶測の域を出ない推論である。
看護婦が殺された理由もわからないまま、今度は調布にて第二の被害者が発見される。
殺害された女性は看護婦と同様、磔刑を思わせるように両腕を縄で吊るされており、腹部には胎児を模したと思しき土人形を押し込まれていた。
被害者の殺害時の状況は一般公開されていない。つまり、ほぼ確実に同一犯による犯行である。
現場の指揮を執っていた八木沼は、遺留物のペンダントから被害者がカルト教団「千里教」の関係者であることに気が付く。
「千里教」は6年前、玲人の同業者である高城秋五が関わった猟奇殺人事件をきっかけとして解体されていたが、その残党とも呼べる者たちが「天恵会」と名を変えて存続していることが明らかになる。
玲人は八木沼の仲介で、当時の事件関係者でフリージャーナリストの蒼木冬史と手を組むことになる。
いずれの被害者も儀式めいた方法で殺害されていることから「天恵会」の関与を疑うが、会の代表者である織部は事件とは無関係であると主張する。
そのころ、自殺未遂の末に昏睡状態だった男・真崎が目を覚ます。真崎には2件の殺人事件に関与できないことはわかっていたが、彼の捨て鉢な態度が気に食わず、玲人は語気を強めて詰ってしまう。
捜査に進展がないまま数日が経過したとある夜、玲人は喫茶・月世界から帰っていく女学生が忘れ物をしていることに気づく。
少女が忘れていったものは、2年前に冬子を連れ去ったまま逃亡を続けている連続殺人犯が記した小説だった。
少女に追いついた玲人は思わず、彼女に本の感想を聞いてしまう。
少女は語る。この物語の主人公は、本当の母親の愛情を求めてさ迷っていたのだと。その気持ちが、自分にもわかると。
茫洋としていながら、どこか儚さもある少女に玲人は冬子の面影を見る。
それが、玲人と茅原雪子との出会いだった。
……さて、これにて超長大な過去編の「一部」は終了である。
ついに本作の事件の根幹を担う「ヒンナサマの祟り」が始動し、物語は次々と動き始めることになる。
ここまでに登場した犯人視点の描写や砂月の奇妙な一人語りの様子から、彼女が殺人事件に関与しているであろうことは大方の読者は予想済みであろうと思う。しかし、ここにきてその本人が殺害されるという急展開ぶりに驚いた読者は多かったのではないだろうか。
精神科医である黒矢弓弦の見立て通りなら、砂月は多重人格障碍者ということになる。だが、彼女の一人語りの最後は「砂月は砂月の首に手を伸ばした」といった文体で締めくくられる。
彼女が自殺ではなく他殺であることは、一人語りの直後に表れたスチルによって明確に示されている。倒れた彼女の首筋にロープ痕ではなく両手の痕がついていたということは、確実に他者の手にかけられたということである。しかもそのスチルが公開されたのは、彼女の遺体から四肢を取り外して保管するという狂気じみた人間のモノローグの最中というと、普通に考えればこの人物が砂月を殺害した張本人であるはずだが……?
現代編で特筆すべきは、我らが頼れる女傑・蒼木冬史の再登場であろう。
彼女はイノグレの過去作「カルタグラ」の主人公・秋五の協力者として登場した、非合法組織の武闘派幹部である。カルタグラの事件のあとは裏社会から足を洗い、硬派なジャーナリストとして生計を立てているようなのだが、腕っぷしが強いのは相変わらずである。また、あのクソ小生意気なインテリ野郎・八木沼を言い負かせられる数少ない人物でもあり、彼女の登場シーンは襟を正して拝読したいものである。
次回作「天ノ少女」での活躍も大いに期待させられる。
また、上記のまとめでは省かせてもらった登場人物を2人ほど紹介して今回の雑感は終了したいと思う。
一人目は私立櫻羽女学院の生徒で紫の後輩である佐東歩(あゆむ)。
剣道部に所属しており、冬子とは違った意味で中性的な立ち振る舞いの凛々しい少女である。ちなみに彼女は前作「殻ノ少女」からの続投だ。
前作では第一の被害者の親友というサブキャラ扱いだったのだが、劇中でもちょこちょこと玲人たちと関わってきたり、好感度を上げることによってTRUEエンド時に特殊スチルが見られたりと、サブキャラにしてはそこそこ目立つ役回りを与えられていた。それが今作では晴れて攻略キャラクターに昇格である。
今作ではその武闘派な要素を伸ばして、玲人に探偵助手にして欲しいと頼み込んだり、冬史から武器を借り受けたりといった熱い展開が待っている。
(まあ、中の人が凛や杏子と同じなので、一体何役兼任させるんだイノグレと思わないでもないが……同じ中の人であると思わせないほどの演じ分けがされているので必聴である)
二人目は朽木病院に入院している少女・白崎未散。
とある事情により左目を失って精神を病んでおり、いつもお気に入りの人形を持ち歩いてる。玲人とは顔を合わせる度に不可思議な言動で困惑させてくる電波系な少女である。
ここまでの描写ではほんの一時しか登場しなかったため記述は省略したものの、物語の後半になるにつれて彼女を取り巻く驚くべき人間関係が明らかにされるため、やはり必見である。
(ちなみに中の人は「カルタグラ」の綾崎楼子、「ピアニッシモ」の御巫久遠を演じた方である。うーん、わかる人には中の人の格だけでキャラクターとしての重要度がわかってしまうようなキャスティングである)
さて、来月のクリスマスには「天ノ少女」が発売してしまうため、今回こそは極力早めに物語を復習し終えてしまわなければ……