悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

天ノ少女《PREMIUM EDITION》 その1

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・余談

ついに……ついにこの日がやってきました。

全イノグレファンが10年近く熱望していた物語の完結編が、満を持して本日2020年12月25日に発売いたしました!!!!!!!!!

 

天ノ少女

※18歳未満立ち入り禁止!!!

 

とはいえ、本作は例によって本編の物語が始まるにあたって大元になる逸話が「無料体験版という名の前日譚」という形で公式ホームページにて無料配布されている。

 

本作を余すところなく楽しみたいのであれば、まずはそちらを読んでから製品版をプレイすることが推奨される。

 

(もっというと、本作は過去二作「殻ノ少女」「虚ノ少女」をプレイしていることが前提の物語でもあるため、開始直後から過去作のネタバレの嵐となっている。本作に興味を持ってもらえたなら最低限上記の2作品の概要は把握しておかないと、感動度合いも薄らいでしまうと思われる)

 

(欲を言えばイノセントグレイのデビュー作である「カルタグラ」から始めると、当時の事件関係者が数名ほど「天ノ少女」でも登場しているため、より没入感が深くなると思われる)

 

なお、本作はおよそ7年ぶりのシリーズ続編にして最終作であるため、心待ちにしていたファンは相当数に及んでいる。

 

そのため、一定期間が経過するまでは過去作のようなネタバレ満載な「まとめ」は行わない方針で雑感を書き記していく所存である。

(何月何日のイベントがどーのこーの、といった書き方はするが、話の全体像がわかるような書き回しはしばらく控えて、感想や考察を中心に書き散らしていく予定)

 

まずは無料体験版にもかかわらず4時間近いプレイ時間を要した前日譚から触れていく。

 

・雑感

「前日譚」は「虚ノ少女」の話が終わった直後、昭和33年(1957年)1月31日からスタートする。

 

葬儀のあと、後悔と喪失感に苛まれた玲人は何をする気も起きず家に閉じこもっていた。

自室にて過去に起きた事件のまとめと、捕らわれた者たちのその後について思い返す。

 

『capitolo0 火焔天』

昭和33年2月1日(土)~2月18日(火)までの出来事。

 

騙し騙し活動を再開させた玲人は消息を絶った子供の行方を探し始める。

一方で真崎は、玲人とも警察とも独立して旧友・黒矢尚織のあとを探し回っていた。

 

紫はもうそろそろ進路について考えなければならない時期に差し掛かっていた。そんなとき、美術部の活動で描いた絵が東京都美術館の特別展示「学生絵画展」にて入選する。とはいえ絵を描くことで生計を立てるのは難しいと考えているため、この先どうするかを悩んでしまう。

 

ちょうどそのころ、紫は櫻羽女学園に入学するまで同じ学校だった幼馴染・窪井千絵と再会する。彼女は絵の専門学校に通っており、「学生絵画展」では見事に特賞を受賞した。曰く、それが絵の家庭教師をしてくれている人のと約束だったのだという。彼女はこれからも絵の道を進み続けるつもりらしい。

 

そのころ玲人は東京都美術館学芸員、マリス・ステラの用事に付き合わされていた。彼女とは「殻ノ少女」事件以来会っていなかったためおよそ2年ぶりの再会である。

 

ステラ曰く、先日獄中の間宮心像が亡くなったことにより彼の絵画を整理する必要がでてきたのだという。間宮家のアトリエに向かった二人はそこで、心像の未発表作と思われる一枚の絵画を発見する。

 

両腕を持たず、背中から片翼だけが生えた黒髪の女性の絵。

禍々しくもどこか美しいその絵を指して、ステラは「天使」と言い表した。

後日その絵画は東京都美術館にて一日限定で公開されることになる。

 

しかしその数日後、とある集合住宅の一室にて異常な装飾を施された女性の遺体が発見される。

その姿見は、先日発見された心像の未発表作品――「天罰」に描かれた女性そのものであるかのようだった。

 

 

 

 

 

 

無料体験版と言う割にあいかわらずな超ボリュームでお送りされた「前日譚」。

これ、明らかに本編を読み進めるにあたって必読な内容だと思われるのだが、まちがっていきなり本編から読み始めてしまったらわからないことだらけで混乱してしまうのではないだろうか?

 

何はともあれ、いよいよ物語が動き出したことは非常に喜ばしい。7年の歳月の間に原画担当である杉菜水姫氏の画調がより水彩画チックに変わっていることもあり少々慣れるまで時間がかかりそうだが、会話やら音楽やら時代の雰囲気やらはいつも通りの最高水準である。これなら安心して先を読み進められる。

 

この前日譚では、真崎が最初の事件の被害者と再会したり、再び精神科医の診察を受けたりといった描写も含まれている。

(まあ、事前のアナウンスのせいで登場人物紹介を見れば誰が最初に殺されるのかは明らかなのでここで伏せる必要もないかもしれないが、念のため……)

 

ここでは本作から新登場した女医「綿貫かえで」について軽く触れておきたい。

 

虚ノ少女」の際には六識の後任として真崎や未散の診察をしている外部の医師がいると示唆されていた。しかし前作の時点では未登場だったため、名前はおろか性別すら明かされていなかった人物である。

 

どんな人なのかと思っていたら、これは想像以上に曲者である。

いかにも研究者然とした堅い話口調でありながら、紡がれる言葉は常に皮肉と嘲りに満ちている。精神科医だけあって人を見る目は確かなようだが、彼女の診察を受けるほど状況が悪化しそうという真崎の感想には思わずうなずいてしまいそうになる。

まあ、どっかのサイコパス野郎のように診察と称して人を洗脳するような医師ではないことを祈るばかりだが、いまのところ犯罪傾向は見受けられないため、ただの独特な感性の女医ということでいいのではないだろうか。

 

 

この前日譚は基本的に一本道であるため、選択肢は登場しない。ただし、2月11日の真崎の単独行動時にのみマップ選択が現れる。とはいえ、どの行先を選んでも結末は変わらないため、その時間帯にどこで誰が何をしていたのかわかる程度の意味合いしかない。

 

この中で綿貫医師に会いに行くこともできるのだが、どうも彼女は今回起きた事件で犯人捜索のために警察に協力を要請されそうな雰囲気があった。自分は精神科医であって心理学者ではないのだから対象者の分析をさせたいのなら本人を連れてこい、と彼女はぼやいていたものの、おそらく今後は玲人たちも厄介になることになるのだろう。

 

 

前日譚の終わりは、謎の女性のモノローグで幕を閉じる。

暗闇に放置され、怖い、誰か助けて、と女性はつぶやく。果たしてここはどこで、彼女は何者なのだろうか。(おそらくこれは現実の描写ではないと考えられるが、ネタバレ回避のため詳しい言及を避ける)

 

 

 

 

なお余談だが、イノグレ作品では物語の場面転換をする際にタイトルロゴの一枚絵が表示されるという演出がよく行われる。このとき表示されるスチルの色彩が赤系統の禍々しいものになると、犯人視点に変わったり誰かが殺される場面だったりすることが多いので、これまでも心構えをする一種の目安になっていた。

 

今作でも場面転換の際にスチルが表示される使用は同一なのだが、今回はタイトルロゴではなく、イタリア語で記された長文と紋章が表示されるという演出になっている。

 

この文章について調べてみたところ、次のようなことが分かった。

 

・日常編が継続する場合のスチルに表示される文章:

Per correr miglior acque alza le vele

omai la navicella del mio ingegno,

che lascia dietro a se mar si crudele;

 

e cantero di quel secondo regno

dove l'umano spirito si purga

e di salire al ciel diventa degno.

 

Ma qui la morta poesi resurga,

o sante Muse, poi che vostro sono;

e qui Calliope alquanto surga,

 

seguitando il mio canto con quel suono

di cui le Piche misere sentiro

lo colpo tal, che disperar perdono.

 

⇒これはダンテの著作「神曲」の煉獄篇(purgatorio=プルガトリオ)の冒頭部の記述である。

 ただこれを直訳したところで宗教や歴史の前提知識がなければ理解不能な文章になっているため、ここでは大まかな意味合いだけ記録しておく。

 この部分は、ダンテが長い長い地獄巡りの旅を終えて、ウェルギリウスと共に煉獄の入口にあたる海のような世界にたどり着いた場面を表している。ダンテが詩的な表現で何やら感動を言い表しているのだが、詳しい内容を知りたければググってくだされ。(なげやり)

 

 

 

・犯人視点に変わる直前など、不穏な事態が発生する場合のスチルに表示される文章:

Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'

 

⇒これもダンテの「神曲」からの引用だが、こちらは地獄篇(Inferno)の序盤に示される地獄の門の看板に記されている文章である。

「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」という訳語は聞いたことがある者も多いだろう。(「殻ノ少女HD」の帯に記されている文章でもある)

「そんなことわかっとるわっ!!!」と吐き捨てたくもなるが、いよいよこんなことを言いだすあたりイノグレの本気具合が垣間見れる。どれだけ希望のない展開を描くつもりなのだろうか……

 

 

ついでに言うと、前日譚の章立てに表示された火焔天は「神曲」天国篇(Paradiso)に登場する「地球と月の間にある火の本源」とのこと。これは「天ノ少女」の帯に記された「その愛は紡ぐ、太陽と、すべての星々を」を意識してのことなのだろう。

 

殻ノ少女」の章立てが江戸川乱歩の小説のタイトル、「虚ノ少女」の章立てが七つの大罪と続いてきただけあり、今回はダンテの「神曲」縛りで表現するのだろう。いったいどのような含意があるのだろうか……

 

 

 

はてさて、ネタバレを避けながらの記述は思いのほか気を使うため、今後の内容はこれ以上に薄味になる可能性があるが、何となく生ぬるい視線で眺めていただければ幸いである。

 

 

さて、このまま年末年始は「天ノ少女」漬けな毎日を送って過ごそう!!!

「お空の物語」をフルオート操作しつつレプリカルド・サンドボックスの敵をしばく傍らで)