悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》 その5

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・八重の櫻の樹の下で

カルタグラ REBIRTH FHDリメイク版に付属している全87ページの短編小説です。

 

全編を通して本作の主人公・高城秋五が視点となっており、終戦直後に当時の上官だった有島刑事の紹介によって警察官になった1946年(昭和21年)を舞台とした物語が描かれています。

 

内容としては、カルタグラ本編でさらっと流された「綾崎家で起きた後継者争い」について、その詳細な経緯が語られています。

 

有島刑事からの密命を帯びた秋五は、出雲(島根)に本拠地を構える大財閥・綾崎家へと派遣されます。綾崎家当主より任されたのは、末の孫娘である楼子の護衛。すでに死者が出ていることもあり、剣呑な空気の漂う綾崎の本家にて幼い楼子が害されることのないように、書生に扮して彼女を護るように依頼されたのでした。

※このとき秋五は、有島刑事より「お前は目力が強いから前髪を垂らして隠して威圧感をなくせ」といった趣旨の助言を受け、服装の指定までされています。本編中に秋五の容貌がはっきりと描写されたことはこれまで一度もありませんが、実はなかなかの強面なのかもしれませんね。彼の無気力な言動からは想像もつきませんが……

 

 

当時おそらく10歳前後と思しき楼子との交流は微笑ましいものがありましたが、主な内容は綾崎家で起きた殺人事件の謎を解き明かすミステリー小説です。珍しく秋五がきちんと頭を使って活躍している様子が見られます。

 

 有島刑事から指名を受けた経緯からも察せられますが、秋五の洞察力や推理力には一定の信を置かれているようです。カルタグラ本編でも何だかんだ言って有島刑事の悪事を突き止めたのは彼の手柄ではありますので、いちおう探偵役を務められるだけのポテンシャルはあるのでしょう。

 

 ただカルタグラ本編において、事件の裏で暗躍していた由良の策謀に秋五は全く気付くことができず、それらを看破したのは変態妹である七七でした。そのため、どうしても事件解決における秋五の貢献度が霞んで見えるというか目立たなくなってしまうというのは如何ともしがたいですが……

 

 

 

 あと、今回の付属小説にて秋五自身の個人情報や周辺人物の情報がさりげなく更新されたのは大きな魅力ですね。

 

 作中で秋五の年齢が明示されたことはありませんが、30歳ほどであると仄めかされている凜より年下なので20代後半であることはわかっています。しかし、今回の付属小説の情報によってかなり正確に年齢を逆算できるようになりました。

 

 小説曰く、秋五は旧制中学を卒業してから家業を手伝ったのちに召集令状を受け取って出兵したとのことです。

 

 第二次世界大戦当時の学制では中学は5年制なので、小学校6年+中学校5年=17歳で卒業し、家業を手伝ったのち逗子に疎開して由良と出会ったあと召集令状を受け取ったのが18・9歳ごろ。秋五と由良の別れはカルタグラ本編の時間軸である1951年(昭和26年)から7年前である1944年(昭和19年)の出来事なので、彼が出征したのも同じころだとわかります。

 

 秋五はそのあと南方戦線へと送り込まれ、このときに有島刑事を部隊長とした小隊に編成されることになります。その当時の戦友が、「殻ノ少女」シリーズの主人公である時坂玲人です。「殻ノ少女」シリーズでの描写によると玲人は秋五より年下だそうですから、当時17歳前後ということになるのでしょうか。1944年(昭和19年)ごろには戦局悪化のあおりで徴兵年齢が17歳まで引き下げられていたと聞きますし、身震いするような恐ろしい話ですが矛盾はないようです。

 

 なお、秋五も玲人も肉体派ではないので体力に自信はないとそれぞれ作中でぼやく描写が見受けられます。二人とも出兵した割に意外と戦闘力は低いのね、と思われるかもしれませんが、玲人に関しては戦車の操縦兵だったことが明かされています。

 ※玲人はそのときに受けた左目の傷を治療するために南方戦線から旅順へ離脱したことが「殻ノ少女」シリーズでも語られています。玲人のワカメヘアーはそのころの傷を目立ちにくくするための工夫というわけです。

 

 以上の情報から、カルタグラ本編における秋五の年齢は26・7歳ほどということになります。和菜・由良の年齢は21歳と明かされていますので、思ったほど歳は離れていなかったようですね。

 

 

 あとは謎に兄弟姉妹が多い高城家についても少々の情報公開がありました。秋五が男子としては末の弟であることは「殻ノ少女」にて検視官・高城夏目女史より語られていましたが、5番目の弟であることは今回新たに判明しました。少なくとも秋五の上に4人も兄がいるわけです。夏目女史は一番年上の長女であることを自身で語っており、七七は一番年の離れた末の妹であることも分かっています。その多くは実家のある京都で暮らしているようですが、今後のイノグレ作品で関わることはあるのでしょうか。

※確か、ほかにも秋五の姉がいるようなことがどこかで語られていた気がするのですが、残念ながらちょっと思い出せませんね……

 

 小説の最後の最後に帝大医学部で勉学中の夏目女史や、このころから既にド変態で天才の片鱗を見せている七七が乱入してきたのにはちょっと驚きましたが、こういう登場人物の層の厚さもイノセントグレイ作品群の魅力の一つです。

 

 

 

 

はてさて、これにてカルタグラ RIBIRTH FHDリメイクについて語りたいことはだいたい語ってしまいました。毎度のことながら長々とすみません。

 

後日、思い出したかのように何事かを書き散らすこともあるかもしれませんが、いまはひとまず18年越しに再誕したカルタグラの余韻に浸りたいと思います。

 

本作はパッケージ版が初回限定生産のため、在庫がなくなり次第この付属小説を読む機会は失われてしまいます。

 

現時点でイノセントグレイ公式通販サイトでの在庫が確認できていますので、本作品に興味があるのであれば是非是非お買い求めいただければと思います。

(注:阿久井は決してイノセントグレイの回し者ではありませんので悪しからず)

 

いまなら通販購入特典として「天ノ少女」の後日談である短編小説「或る晴れた暑い日に」もついて来てしまうので、なおのことお買い得です。

※「或る晴れた暑い日に」のレビューについては本ブログ「カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》 その1」にて語っていますので、ご興味があればどうぞ。

 

 

それでは、またご縁があれば。