悪意ある善人による回顧録

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HUNDRED LINE -最終防衛学園- その3

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

hundred-line.com

 

●各ルートについて(続々)

・14:SF編2

「推理編」にてエンディング100に到達すると、「SF編」のシナリオロックが解除され、ようやく23日目以降の物語の続きを読むことができるようになります。

 

この「SF編」では、ほかのルートで説明されていなかった不可解な点がおおよそ解明する、いわば最後のルート分岐ということになっています。

 

このルートによって、澄野は雫原が自分と同じように別の100日間を経て過去に遡ってきたことを知るわけですが、雫原の身に起きている現象は、澄野の置かれている状況とは全く異なることが説明されます。

 

雫原の説明をまとめると、以下の通りになります。

・雫原はすでに146回もの時間遡行を繰り返しており、だいたいのルートにおいて100日間を過ごしているため、およそ40年近くもの間タイムループに囚われ続けている。

 

・タイムループは自らの意志で行っているのではなく、雫原が100日目を待たずに死亡するか、100日目の午前10時以降、つまり最終防衛学園から全方位ミサイルが発射されて地上の全生物が焼き尽くされる時間に到達すると、時刻に多少のズレはあっても、必ず2日目の夜間に意識が引き戻される。

 

・雫原自身がタイムループしていることに気づく時期にはタイムラインによってかなりのバラつきがある。過去のタイムリープのすべての記憶を、何十日もあとになって気が付くこともある。

 

・過去の経験則によると、雫原自身が特防隊の仲間たちにタイムループの事実を話すと、例外なく悲劇的な結末を迎える。

 

・何十回目かのタイムループを経て雫原は山中で謎の老人と出会い、謎のラボにある「パラレリープ装置」なるものを発見する。操作方法を突き止めるまでさらに幾度となくタイムループを経たが、この装置を使えば、別の世界線=タイムラインにおける同じ日の同じ時間に空間転移=パラレリープすることができる。移動できるのはあくまで別世界線のパラレリープ装置への平行移動だけであり、特定の場所を指定することも、過去や未来に移動することもできない。

 

・ただし、パラレリープするためには惑星フトゥールムを覆っているブラッドスペース(=異血の魔力的なエネルギーが満ち溢れている亜空間)の波形が適切なタイミングでなければならず、その時期はタブレット端末による計測によって予定を確認するしかない。つまり、任意のタイミングでパラレリープできるわけではない。

 

 

ーーここまでの説明を聞いても、澄野としては腹落ちしない点がありました。

なぜなら、澄野の認識としては今自分がいるSFタイムラインはあくまで「2週目」の世界だからです。しかも雫原と違って強制的に時間遡行に巻き込まれている認識はなく、自らの能力によって記憶を過去の自分に転送してきていると思っています。

 

ただ実際には、このルートにおいて澄野は別のタイムラインでの出来事を次から次へと徐々に思い出していくことになります。それらは雫原にとっては既に体験してきた出来事であり、やはり澄野もすでに何回もタイムループを繰り返していると納得せざるを得なくなります。

 

雫原はこの無間地獄とも呼べるタイムループから逃れる手段を探し続けていますが、一向に解決の予兆も見えないまま、時の牢獄に囚われ続けていました。

 

しかし、このSF編では澄野が「蒼月を拘留する」「タイムリープの事実を話さない」という選択をしたことがきっかけとなり、特防隊の仲間たちが全員生き残っている状態が続いていきます。このことは雫原にとっても、ほかのさまざまなルートを経験してきたプレイヤーたちにとっても唯一無二の事態であり、これを指して雫原は「奇跡」であると評しています。

 

この奇跡的な積み重ねの先に、もしかしたらタイムループを脱出できる手掛かりがあるかもしれない。澄野と雫原は仲間たち全員を守りながら、タイムループの謎を解き明かすことを目指していきます。

 

その最中、雫原は他のタイムラインで起きるであろう悲劇を未然に防ぐため、澄野と共に数々のタイムラインへとパラレリープを繰り返し、別世界の澄野たちの行動に干渉をし続けることになります。

 

このパラレリープに使う防護服こそ、ほかのルートでは不審者だったり殺人鬼だったりデスゲームの主催者だったりが着ていた、例の真っ黒な防護服です。澄野は他のタイムラインにおいて、この防護服を着た人物の姿を見る機会がありましたが、それらはだいたいにおいて、SFタイムラインから一時的に転移してきていた澄野と雫原の姿だったわけです。

 

ちなみにこのパラレリープ装置には非常に便利な機能が搭載されており、雫原がこれまで観測してきたタイムラインをチャート表として見ることができます。これらは、プレイヤーがチャプターセレクト画面で確認できるものとまったく同じものです。つまり我々プレイヤーは、知らず知らずのうちにパラレリープ装置の機能を使っていたことになるわけです。

 

澄野と雫原は、殺人鬼タイムラインの澄野の脳内から「ギィ」による殺人衝動を治癒しようとしたり、ワザワイの箱タイムラインにて「ギィ」に取りつかれた過子が様々な悪事を働く前に取り押さえようとしたりするものの、結論としてはすべてうまくいきません。

 

ただし二人は、20日目にノモケバタイムラインに時空転移することで、ほかのタイムラインでも時々登場する謎の老人から重要な証言を聞くことができます。

かつて、二人が囚われているような時の牢獄に囚われるタイムループ現象を研究していた「イノネ・ノリロウ」博士が、その研究結果を一冊の本にまとめたものがあり、もしかしたらその本にはタイムループを抜け出すための手掛かりとなる情報が記されているかもしれないというのです。

 

その本の名は「呪輪廻考(じゅりんねこう)」といいます。作中では老人自身が「呪術廻戦」と字面が似ているが偶然だ、と思いっきりパロディ発言を繰り出しますが、澄野と雫原にとっては貴重な情報です。

 

ただその本がどこにあるのか全く手掛かりがないため、ひとまず学園の図書室に収蔵されている膨大な書籍の中に「呪輪廻考」がないか、わずかな可能性にかけて何日もの間探し続けることになります。

 

結果としてその本は学園内に存在したのですが、よりにもよって本は拘留中の蒼月への差し入れとして渡されてしまっており、蒼月は澄野への嫌がらせとしてすでに本のほとんどを食べてしまっていました。

 

この時点でループから抜け出す手掛かりがなくなってしまい、二人は当面の目標を失ってしまうことになりますが、敵陣営は彼らの事情にかまうことなく学園へと攻め入ってきます。タイムループを抜け出すことも重要ですが、仲間たち全員の命を守ることも、二人にとって大切な目的です。

 

しかしこの後、雫原は過去のループによる知識をSIREIに提供することで、蒼月を完全に仲間に引き入れることに成功することになります。

蒼月が人類を皆殺しにしたいという凶悪な思想に取りつかれているのは、彼が生まれながらにして自分以外の人間を正しく識別できない認識障害に陥っているためです。バケモノは抹殺しなければならないというある種の歪んだ使命感によって、蒼月は数々の悪事を働いてきました。

(その場に飴宮がいたなら、間違いなく伝説的な名シナリオのエロゲ作品「沙耶の唄」かよ、とツッコミを入れそうな症状ではあります。っていうか実際、絆イベントにおいて飴宮はお勧めの名作エロゲとしてこのタイトルそのものを名指ししちゃってますし……)

 

実際、カリスマ澄野編では面影の薬品の効力によって澄野が人間離れした存在になっていくことで、蒼月の目から見ても正常な人間の姿に見えるようになり、蒼月が澄野の側近に落ち着くという奇妙な展開になったこともありました。

そのほか蒼月は、ノモケバ編ではノモケバを自身の体内に寄生させた飴宮の姿が正常な人間に見えたことをきっかけとして、飴宮を守るために自己犠牲を払ったこともあります。

これらの展開から、蒼月は「彼が人間に見える人物には積極的に味方をしてくれる」人物であることがわかります。

 

SFタイムラインの蒼月は1週目とは違い、SIREIを破壊しようとした未遂の罪はあるものの、まだ誰のこともその手にかけていません。いちおう、まだ仲間にできる余地がある状態ではありました。しかし、凶悪な思想に取りつかれている蒼月を仲間にできるとしたら、正しい手順で蒼月の認識障害を治療することが必要でした。

 

ただし、青春編でもSF編のように蒼月を洗脳することで正常に戻せないか試したことはありましたが、このルートでは洗脳がうまくいかず、結局蒼月は澄野たちと敵対してしまいました。

 

今回もまたうまくいかないのではないかと思われたのですが、雫原はSIREI達がイヴァーの洗脳に用いている機械の改良方法を過去のループで熟知していたため、それによって蒼月に対して完全な治療を行うことができたというわけです。

 

これ以降、蒼月は1週目で猫をかぶっていた時のように青臭い発言を繰り返す優男風な立ち振る舞いに戻ることになります。さらには自身が食べてしまった「呪輪廻考」の概要を澄野と雫原に教えてくれるまでに協力関係が築かれることになります。

 

蒼月曰く、時間の牢獄から抜け出すためには、終点となっている時点においてより多くの異血のパワーがタイムルーパーの周りに存在していることが必要である旨が記されていたと言います。

これは言い換えると、100日目の午前10時の時点において、特防隊の仲間たちが全員生き残っている状態であれば、タイムループを抜けられる可能性があることを示唆していました。

なぜなら雫原の過去146回のループの経験では、100日目を全員が生存した状態で迎えたことはただの一度もなかったからです。

 

この情報は澄野と雫原に希望を与え、決意をより強固なものへと変えました。何が何でも仲間たちを全員守り抜き、100日目を迎える必要があります。

 

しかし最終ルートだけあってか、話はそう簡単には進みません。

 

ワザワイの箱タイムラインから転移してきた「ギィに寄生された過子」が妨害してきたり、様々な困難が彼らに直面します。

 

ある展開では、「ギィに寄生された過子」によって味方5人が殺害されてしまい、しかも脱出ポットが故障しているために100日目の全方位ミサイル攻撃から逃げ出す手段さえないという絶望的状況に陥ることがあります。

 

この展開において澄野は度重なるタイムリープの負担に耐え切れず、PL障害という副作用によって命を落としてしまうのですが、彼は死の間際に雫原に対し、その時点で生き残っている仲間たちを急いで「推理タイムライン」に逃がすように指示を出します。その時間軸では全方位ミサイル攻撃が実行されないことを、澄野は思い出したからです。

 

これこそが「推理編」のエンディング100において、死んだはずの仲間たちが100日目に全員集合できた経緯です。彼らはSFタイムラインにおいて、「ギィに寄生された過子」の魔の手から逃れた生き残りだったわけです。

 

とはいえ、仲間たち全員を守りきることができなかった雫原は、結局タイムループから抜け出すことはできないため、SF編の仲間たちが無事に推理編の仲間たちと合流できたことを確認できたのち、ただひとりSF編のタイムラインへと戻っていきます。すでに息を引き取っている澄野と共に、全方位ミサイル攻撃によって消滅するまでのセリフには、心揺さぶられるものがありました。

 

よくできたエンディングの一つであるとは思いますが、このような展開だけで終わってしまってはあまりにも無情すぎます。

 

他のとあるルートにおいては、PL障害によって瀕死の状態になっているのは澄野ではなく雫原であり、ここでも全員生き残ることはできないのかというあわやな展開が進行します。

 

しかしここで澄野が男を見せると、これまで助け合ってきた特防隊たち全員たちの協力によって、澄野は雫原を連れて脱出ポッドに乗り込むことができ、見事100日目の午前10時を通過することができました。雫原は、ようやく時の呪縛から解放されたというわけです。

 

100ものエンディングの中で、蒼月やイヴァーを含めた全ての味方が生存した状態で結末を迎えるのは、SF編におけるエンディング55ただ一つだけとなっており、到達した際の達成感は一入のものがありました。


(厳密にいえば、エンディング54でも蒼月やイヴァーを含めた特防隊員たちは全員生き残った状態で脱出ポッドに乗り込んでいるものの、全方位ミサイル攻撃を止めることができなかったため、フトゥールムの全生物は焼き殺されてしまします。その中には当然、イヴァーの義理の娘であるカミュンも含まれています。脱出ポッドの中で焼き尽くされるフトゥールムの光景を目にしたイヴァーは洗脳状態から覚醒し、人工天体の人類を皆殺しにすると宣言して幕を引くことになります)

 

ただしSF編では、真相解明編で明るみになった戦争の真実や、澄野たち特防隊員たちの真実について、澄野たちは何も知ることなく人工天体への帰還を果たすことになってしまいます。

 

そのため、一見ハッピーエンドに見えるけれど、彼らは「全方位ミサイル攻撃によって惑星フトゥールムの全生物を焼き尽くして惑星丸ごと乗っ取る作戦」をご破算にして人工天体に向かっていることになるため、その後の物語には一抹の不安が付きまといます。

 

これについては澄野自身も、人工天体についた途端に命令違反の咎で処刑されるかもしれないと心配していますが、ここまで助け合ってきた仲間たちとの絆を信じ、どのような目にあおうとも全員で生き残ってみせると決意を新たにします。

 

 

いやーまさか、全員(カミュンを含む)が無事に生き残れるルートがたったの一つしかないとは、恐れ入りましたよ。どんだけみんな悲劇が大好きなんだよと言いたい。

まあなんにせよ、何とかしてまともなハッピーエンドを迎えたいという欲はそれなりに達成できることができました。

200時間余りも澄野たちに付き合ってきた以上、特防隊の全員のことが大好きとなっていたため、何とかしてやりたいという思いが募っていましたので……

 

 

●残った謎について

しかし……しかしです。

これまで100ものエンディングを見渡してきたというのに、実は伏線回収されていない、謎のまま残っている問題がいくつも存在します。

 

たとえば、SF編の感想で少し触れた謎の老人や、「イノネ・ノリロウ博士」について。

 

雫原が言うには、老人はノモケバタイムラインなどの特定のタイムラインでしか絶対に出会うことができないという謎の存在です。しかも彼が教えてくれた博士の名前は、明らかに日本人名なんですよね。

 

最終防衛学園が設置されているのが実は地球ではなく惑星フトゥールムであるということは既に分かっています。つまりは、異血やタイムループの研究をしていたのは現地人であるフトゥールム人ではなく、侵略者である地球人の方だったということを意味しています。

 

ではそれをなぜ、現地人っぽい謎の老人が知っているのか。もしや彼もまた、タイプリーパーなのではないか。そもそも老人はどうしてノモケバの幼体なんていう危険物を保管していたのか。わからないことだらけです。

 

謎はまだまだ残っています。

 

SF編において雫原は、パラレリープ装置を発見したきっかけが、何者かが夢枕にでて「あの装置はいつか君たちの助けとなる」という言葉を聞いたからだと澄野に証言しています。

 

澄野はそれを指して単なる夢だろうと一笑に付していますが、プレイヤー視点としては見逃せない情報です。なぜなら雫原はこのほかにも、折に触れて「白衣を着たおばさん(推定50代)」にアレコレ助けてもらったと澄野に話しているからです。

 

たとえば澄野はSF編の90日目において、「炎の少年(シオン)」の命を救いつつ全方位ミサイル攻撃を止めるため、赤子ジャーという装置の材料を集めに青春タイムラインへと移動したとき、雫原と何者かが会話しているところを目撃します。

 

澄野は話し相手の姿も、話している内容もはっきりと知ることはできませんでしたが、雫原と誰かが話していることだけは識別することができていました。直後、澄野は雫原に誰と何の話をしていたのか問いただしますが、雫原は困惑気味に、「白衣を着たおばさん(推定50代)」から赤子ジャーの材料と、とあるメモリースティックをもらったと証言するのです。

 

いわくそのメモリースティックには「装置+(プラス)の設計図」が入っており、白衣のおばさんが言うには「縦だけじゃなくて横にも移動できるもの」であるとのこと。

 

澄野の視点どころか、プレイヤー目線から見ても何のことだかさっぱりな謎の情報です。この情報の意図するところは、ほかの全ルートにおいても察することすらできませんでした。

 

おそらくタイムリープ装置を改良し、同じ日付同じ時間に平行移動するだけでなく、過去や未来にも移動できるようにするための設計図が入っている、という意味なのでしょうが、劇中においてそれらが活かされる場面が全くなかったことが気がかりで仕方がありません。

 

ネット上の未確定情報では、ハンドレッドラインにDLCにてストーリーが追加されるのではないかと噂されており、この「白衣を着たおばさん」の正体やらタイムリープ装置の改造やらは、このときにはじめて語られることになるのかもしれません。

 

謎というか、投げっぱなしの伏線は他にもあります。

 

SF編のとある展開では、ワザワイの箱タイムラインから移動してきた「ギィに寄生された過子」によって、昏睡中の霧藤が誘拐されるという話があります。

 

澄野が度重なるタイムリープの負担によって長い間意識を失っている間に、霧藤の身にも不幸が起きており、彼女もまた昏睡状態に陥っていたのです。

雫原曰く、仲間たち全員にタイムループのことを説明するためにラボに向かったが、その帰りの道筋で隕石が落下してきて、隕石から発せられた光を浴びた霧藤は、そのまま意識を失ってしまいます。しかも、その隕石と同じように、霧藤もまた光を放つようになっていました。

 

まったくわけのわからない状況ですが、澄野たちは霧藤を拉致した「ギィに寄生された過子」から、次のような発言を引き出せています。

 

いわく、

・とある奇怪な種族がトリームレイという特殊な光を浴びると体の組成が変化して、特異体というものになる。
・特異体は寄生生物ギィの種族にとって貴重な食材で、母星に帰って体を献上しなければならない。

ーーだそうです。

 

とある奇怪な種族というのは、ほぼ間違いなく「地球人」のことでしょう。

これこそが澄野を含めた14名の特防隊員と、不正規隊員である霧藤の明確な違いだからです。

澄野たちは、「神の再来」と称された「炎の少年(シオン)」の遺伝子によって生み出されたクローン体であり、実質的にはフトゥールム人ということになります。

 

なぜ、惑星フトゥールムから何百光年も離れた地球人のことを、フトゥールムの伝承として生息していたはずのギィが知っているのか気になるところではありますが、その説明はありませんでした。

 

しかし「ギィに寄生された過子」が言うところによると、澄野たちが戦っていた100日の間、どこかのタイムラインでは「ギィ」を母星へと運ぶための、「ワープ機能のある宇宙船」が山中に隠ぺいされていたはずだというのです。

 

幸いにして澄野たちは霧藤の奪還に成功することができますが、これまで読み進めてきた100ルートの物語において「ギィの宇宙船」の存在が絡んできたことは一度もなかったはずです。これもまた、未回収のまま放置された伏線ということになります。

 

 

あと、タイムループ設定そのものについての疑問というものも残っています。

 

たとえば以前、独裁政権編の解説をした際に、エンディングの一つに防衛戦の終結時点から10数年かけて、イヴァーの義理の娘・カミュンと共に独立政権を樹立するために奮闘し続けるというものがあると言ったかと思います。

 

しかしこのルートの存在は、雫原の説明したタイムループの条件と大きく矛盾しています。

 

SF編における雫原曰く、タイムループの終点は100日目の午前10時=全方位ミサイルミサイル攻撃の開始時刻であり、その時間を経過すると雫原の意識は2日目の夜間へと引き戻されるとありました。

そして、澄野も別のタイムラインの出来事を徐々に思い出したはいいものの、そのいずれも100日目以降の記憶がなかったことから、澄野も雫原と同様に無限タイムループに囚われているのだと彼らは解釈していました。

 

ではこの矛盾をどう解釈すればいいのか。作中では明確な答えは提示されていないため、推測するしかありません。

 

考えられることの一つは、雫原のタイムループと、澄野のタイムループは違うルールで実行されている似て非なるものなのではないか、という推論です。

 

なぜこんなことを述べるかというと、澄野はSFタイムラインにおいて独裁政権編の出来事やノモケバ編の出来事を全く思い出すことがなかったからです。しかし、少なくとも雫原はSFタイムラインの時点でノモケバ編の存在を知っていたます。だからこそ雫原は、澄野の視点ではノモケバタイムラインの出来事はSFタイムラインのあとに澄野が体験するから、いまの澄野は知らないのではないか、という推論を述べたのです。

 

確かに、雫原と澄野が全く同じ順番であらゆるタイムラインを体験していると考えるのは不自然ではあります。どちらかというと、無数に存在する平行世界のなかで、たまたま二人の意識が同じ世界線にいるときだけ、二人の認識が一致しているのではないかと考えた方がしっくりくるでしょう。

 

たとえば、雫原の認識では「ギィの殺人衝動に操られている澄野」に殺される世界を体験したことがあると話していましたが、澄野はもちろんのこと、プレイヤーの視点ではそのようなタイムラインは確認できません。このことは、雫原が嘘をついていない限り、二人は必ずしもその時点において共通するタイムラインの記憶を保持している保証がないことを意味します。

なんといえばいいのでしょうか、例えば1から10までの数字があってそのすべてを読み上げろと言われたときに、片方は1から10の順番で読み上げたが、もう片方は10から1の順番で読み上げてしまったせいで、5の時点で5そのものは双方共通して読み上げているものの、片方にとって読み上げ終わった1の数字を、もう片方の方はまだ読み上げていない、というような状態だと言えばわかりやすいでしょうか。

 

劇中で雫原自身が言っていた通り、タイムループを観測できるのは、あくまでループしている本人だけであって、同じ世界に二人以上タイムループできる能力者がいたとしても、ある人物がタイムループしたかどうかを、別の人物の視点では観測することはできない、というわけですね。だからこそ、タイムルーパー同士がどのような順番で別世界を体験し続けているかは、その本人にしか知りようがないことになります。

(実はこれと同様の時間遡行問題は、今年アニメ化が決まっている大人気シミュレーションゲーム「グノーシア」でも語られることになるため、微妙にホットな話題でもあります)

 

ーーまあ頭が痛くなるような細かな話は置いておくとしても、少なくともプレイヤーが観測した澄野のうち、防衛戦のあと十数年にわたって行動し続けた澄野が存在する以上、澄野にとってのタイムループの条件は雫原と完全に同じなわけではないことが予想されるわけです。

 

ノモケバ編や独裁政権編に到達した澄野は、単独で無限ループの解除条件を満たしたのかもしれません。しかしこれらの推論を裏付ける根拠が物語中において語られてはいない以上、結局は推論の域を出ない話ではありますが……

 

 

 

さてさてーーあまりにも膨大遠大すぎる物語ゆえに忘れている要素もかなり含まれている気がする一方で、語りだしたらいつまでも語ってしまいそうな恐ろしさもあります。
正直、こうして思い出しながら文章を書き起こしてみると、だんだん疲れ果ててきました。

 

ひとまず各ルートの概要についてはこの辺にして、あとは気が向いたときに、各キャラクターたちの総評でもしてみようかと思っています。

それではまた、機会がありましたら。