悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

天ノ少女《PREMIUM EDITION》 その1

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・余談

ついに……ついにこの日がやってきました。

全イノグレファンが10年近く熱望していた物語の完結編が、満を持して本日2020年12月25日に発売いたしました!!!!!!!!!

 

天ノ少女

※18歳未満立ち入り禁止!!!

 

とはいえ、本作は例によって本編の物語が始まるにあたってのベースとなる逸話が「無料体験版という名の前日譚」という形で公式ホームページにて無料配布されている。

 

本作を余すところなく楽しみたいのであれば、まずはそちらを読んでから製品版をプレイすることが推奨される。

 

(もっというと、本作は過去二作「殻ノ少女」「虚ノ少女」をプレイしていることが前提の物語でもあるため、開始直後から過去作のネタバレの嵐となっている。本作に興味を持ってもらえたなら最低限上記の2作品の概要は把握しておかないと、感動度合いも薄らいでしまうと思われる)

 

(欲を言えばイノセントグレイのデビュー作である「カルタグラ」から始めると、当時の事件関係者が数名ほど「天ノ少女」でも登場しているため、より没入感が深くなると思われる)

 

なお、本作はおよそ7年ぶりのシリーズ続編にして最終作であるため、心待ちにしていたファンは相当数に及んでいる。

 

そのため、一定期間が経過するまでは過去作のようなネタバレ満載な「まとめ」は行わない方針で雑感を書き記していく所存である。

(何月何日のイベントがどーのこーの、といった書き方はするが、話の全体像がわかるような書き回しはしばらく控えて、感想や考察を中心に書き散らしていく予定)

 

まずは無料体験版にもかかわらず4時間近いプレイ時間を要した前日譚から触れていく。

 

・雑感

「前日譚」は「虚ノ少女」の話が終わった直後、昭和33年(1957年)1月31日からスタートする。

 

葬儀のあと、後悔と喪失感に苛まれた玲人は何をする気も起きず家に閉じこもっていた。

自室にて過去に起きた事件のまとめと、捕らわれた者たちのその後について思い返す。

 

『capitolo0 火焔天』

昭和33年2月1日(土)~2月18日(火)までの出来事。

 

騙し騙し活動を再開させた玲人は消息を絶った子供の行方を探し始める。

一方で真崎は、玲人とも警察とも独立して旧友・黒矢尚織のあとを探し回っていた。

 

紫はもうそろそろ進路について考えなければならない時期に差し掛かっていた。しかし、美術部の活動で描いた絵が東京都美術館の特別展示「学生絵画展」にて入選する。とはいえ絵を描くことで生計を立てるのは難しいと考えているため、この先どうするかを悩んでいる。

 

ちょうどそのころ、紫は櫻羽女学園に入学するまで同じ学校だった幼馴染・窪井千絵と再会する。彼女は絵の専門学校に通っており、「学生絵画展」では見事に特賞を受賞した。曰く、それが絵の家庭教師をしてくれている人のと約束だったのだという。彼女はこれからも絵の道を進み続けるつもりらしい。

 

そのころ玲人は東京都美術館学芸員、マリス・ステラの用事に付き合わされていた。彼女とは「殻ノ少女」事件以来会っていなかったためおよそ2年ぶりの再会である。

 

先日、獄中の間宮心像が亡くなったことにより彼の絵画を整理する必要がでてきたのだという。間宮家のアトリエに向かった二人はそこで、心像の未発表作と思われる一枚の絵画を発見する。

 

両腕を持たない、片翼だけが生えた黒髪の女性の絵。

禍々しくもどこか美しいその絵を指して、ステラは「天使」と言い表した。

後日その絵画は東京都美術館にて一日限定で公開されることになる。

 

しかしその数日後、とある集合住宅の一室にて異常な装飾を施された女性の遺体が発見される。

その姿見は、先日発見された心像の未発表作品――「天罰」に描かれた女性そのものであるかのようだった。

 

 

 

 

 

 

無料体験版と言う割にあいかわらずな超ボリュームでお送りされた「前日譚」。

これ、明らかに本編を読み進めるにあたって必読な内容だと思われるのだが、まちがっていきなり本編から読み始めてしまったら混乱してしまうのではないだろうか?

 

何はともあれ、いよいよ物語が動き出したことは非常に喜ばしい。7年の歳月の間に原画担当である杉菜水姫氏の画調がより水彩画チックに変わっていることもあり少々慣れるまで時間がかかりそうだが、会話やら音楽やら時代の雰囲気やらはいつも通りの最高水準である。これなら安心して先を読み進められる。

 

この前日譚では、真崎が最初の事件の被害者と再会したり、再び精神科医の診察を受けたりといった描写も含まれている。

(まあ、事前のアナウンスのせいで登場人物紹介を見れば誰が最初に殺されるのかは明らかなのでここで伏せる必要もないかもしれないが、念のため……)

 

ここでは本作から新登場した女医「綿貫かえで」について軽く触れておきたい。

 

虚ノ少女」の際には六識の後任として真崎や未散の診察をしている外部の医師がいると示唆されていた。しかし前作の時点では未登場だったため、名前はおろか性別すら明かされていなかった人物である。

 

どんな人なのかと思っていたら、これは想像以上に曲者である。

いかにも研究者然とした堅い話口調でありながら、紡がれる言葉は常に皮肉と嘲りに満ちている。精神科医だけあって人を見る目は確かなようだが、彼女の診察を受けるほど状況が悪化しそうという真崎の感想には思わずうなずいてしまいそうになる。

まあ、どっかのサイコパス野郎のように診察と称して人を洗脳するような医師ではないことを祈るばかりだが、いまのところ犯罪傾向は見受けられないため、ただの独特な感性の女医ということでいいのではないだろうか。

 

 

この前日譚は基本的に一本道であるため、選択肢は登場しない。ただし、2月11日の真崎の単独行動時にのみマップ選択が現れる。とはいえ、どの行先を選んでも結末は変わらないため、その時間帯にどこで誰が何をしていたのかわかる程度の意味合いしかない。

 

この中で綿貫医師に会いに行くこともできるのだが、どうも彼女は今回起きた事件で犯人捜索のために警察に協力を要請されそうな雰囲気があった。自分は精神科医であって心理学者ではないのだから対象者の分析をさせたいのなら本人を連れてこい、と彼女はぼやいていたものの、おそらく今後は玲人たちも厄介になることになるのだろう。

 

 

前日譚の終わりは、謎の女性のモノローグで幕を閉じる。

暗闇に放置され、怖い、誰か助けて、と女性はつぶやく。果たしてここはどこで、彼女は何者なのだろうか。(おそらくこれは現実の描写ではないと考えられるが、ネタバレ回避のため詳しい言及を避ける)

 

 

 

 

なお余談だが、イノグレ作品では物語の場面転換をする際にタイトルロゴの一枚絵が表示されるという演出がよく行われる。このとき表示されるスチルの色彩が赤系統の禍々しいものになると、犯人視点に変わったり誰かが殺される場面だったりすることが多いので、これまでも心構えをする一種の目安になっていた。

 

今作でも場面転換の際にスチルが表示される使用は同一なのだが、今回はタイトルロゴではなく、イタリア語で記された長文と紋章が表示されるという演出になっている。

 

この文章について調べてみたところ、次のようなことが分かった。

 

・日常編が継続する場合のスチルに表示される文章:

Per correr miglior acque alza le vele

omai la navicella del mio ingegno,

che lascia dietro a se mar si crudele;

 

e cantero di quel secondo regno

dove l'umano spirito si purga

e di salire al ciel diventa degno.

 

Ma qui la morta poesi resurga,

o sante Muse, poi che vostro sono;

e qui Calliope alquanto surga,

 

seguitando il mio canto con quel suono

di cui le Piche misere sentiro

lo colpo tal, che disperar perdono.

 

⇒これはダンテの著作「神曲」の煉獄篇(purgatorio=プルガトリオ)の冒頭部の記述である。

 ただこれを直訳したところで宗教や歴史の前提知識がなければ理解不能な文章になっているため、ここでは大まかな意味合いだけ記録しておく。

 この部分は、ダンテが長い長い地獄巡りの旅を終えて、ウェルギリウスと共に煉獄の入口にあたる海のような世界にたどり着いた場面を表している。ダンテが詩的な表現で何やら感動を言い表しているのだが、詳しい内容を知りたければググってくだされ。(なげやり)

 

 

 

・犯人視点に変わる直前など、不穏な事態が発生する場合のスチルに表示される文章:

Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'

 

⇒これもダンテの「神曲」からの引用だが、こちらは地獄篇(Inferno)の序盤に示される地獄の門の看板に記されている文章である。

「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」という訳語は聞いたことがある者も多いだろう。(「殻ノ少女HD」の帯に記されている文章でもある)

「そんなことわかっとるわっ!!!」と吐き捨てたくもなるが、いよいよこんなことを言いだすあたりイノグレの本気具合が垣間見れる。どれだけ希望のない展開を描くつもりなのだろうか……

 

 

ついでに言うと、前日譚の章立てに表示された火焔天は「神曲」天国篇(Paradiso)に登場する「地球と月の間にある火の本源」とのこと。これは「天ノ少女」の帯に記された「その愛は紡ぐ、太陽と、すべての星々を」を意識してのことなのだろう。

 

殻ノ少女」の章立てが江戸川乱歩の小説のタイトル、「虚ノ少女」の章立てが七つの大罪と続いてきただけあり、今回はダンテの「神曲」縛りで表現するのだろう。いったいどのような含意があるのだろうか……

 

 

 

はてさて、ネタバレを避けながらの記述は思いのほか気を使うため、今後の内容はこれ以上に薄味になる可能性があるが、何となく生ぬるい視線で眺めていただければ幸いである。

 

 

さて、このまま年末年始は「天ノ少女」漬けな毎日を送って過ごそう!!!

「お空の物語」をフルオート操作しつつレプリカルド・サンドボックスの敵をしばく傍らで)

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その10

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

1/16
翌朝、玲人たちは派出所にて戌亥と対面し、事件について振り返る。

結局のところ東京・富山で起きた連続猟奇殺人事件は、人形集落で起きた「ヒンナサマの祟り」の模倣だったことになる。

 

東京へ戻る前に、玲人たちは再び祠草神社の賢静を尋ねる。

彼は最後に、理子を村から逃がす際、彼女がすでに身ごもっていたことを話してくれた。

まだ理子と連絡が取れていたころ、彼女は東京で子供を産んだものの、一人で育てることもできず孤児院に子供を預けたと聞いたという。

その孤児院の名は、白百合の園である。


場所は変わり、朽木病院。

小羽の意識が戻ったため、紫と雪子は見舞いに訪れていた。

紫が先導して雪子を待合室まで連れて行くも、雪子は小羽と顔を合わせづらいと躊躇る。

しかも小羽からは誰にも会いたくないと面会を拒否されてしまった。

 

紫たちはもう一つの目的であった杏子の見舞いをする。

雪子の姿を認めて杏子は言葉を詰まらせる。

涙を流して杏子を心配する雪子に、何も気にしなくていいと杏子は言う。

花瓶の水をつぎ足しに行った紫は廊下で未散と遭遇する。

共に杏子の病室に戻ると、未散は雪子の顔を見るや錯乱してしまう。

そのとき未散が雪子に対し「どうして殺したの?」と呟いたのを、紫は確かに耳にした。

 

病院からの帰り際、雪子は紫に一緒に来てほしい場所があると告げる。

そこは、私が始まった場所だから。雪子はそう言った。

 

 

 

1/17

東京に戻ってきた玲人と真崎は八木沼に会いに警視庁へ向かう。

夏目女史が同席したため話を聞くと、空木の死因は毒物を摂取したあと吐瀉物で気管が詰まったことによる窒息死だとわかったらしい。

事故の線もないではないが、誰かが毒物を飲ませた後に口を塞いで息の根を止めた可能性もある。


八木沼から預かった札束を返すため、玲人たちは茅原家を訪ねる。

真崎は雪子を引き取る以前について知っていることはないかと冬見に質問する。

雪子が身に着けていた髪留めは、かつて真崎がとある女性に送ったものである。

であれば、雪子は真崎とその女性との子供である可能性があると真崎は考えていた。

 

真崎の問いかけに動揺した冬見を前に、玲人はひとつの可能性を見出す。

玲人は真崎に用事を申し付けて家から追い出すと、冬見に自身の推理を聞かせる。

身寄りのない孤児であった雪子が、もとから髪飾りを持っていたとは考えにくい。

ならば髪飾りは冬見から譲り受けたものだと考えるのが自然である。

つまり、冬見こそかつて真崎と愛を交わした女性――理子だったのである。

 

冬見は十数年前、身を守るためだったとはいえ皐月を殺めてしまった。

そのトラウマがあったせいなのか、逃げた先の東京で子供を産んだものの、冬見は自分の娘を殺そうとしてしまう。

心身ともに限界だった冬見は、子供を取り上げた産科医の勧めで娘を孤児院に預けることにしたという。

しかもその産科医は、無戸籍だった冬見に茅原の戸籍を用意したばかりか、当時最先端の精神医学に基づく人格矯正術によって彼女の精神を回復させたらしい。

 

話を聞いていた玲人は、そんな離れ業をやってのける医師など一人しか思い浮かばなかった。

玲人の仇敵――六識命である。

 

冬見は生活が安定してきたころ娘を引き取ろうとしたが、そのとき既に施設――白百合の園はなくなっていたという。

同じころ、天恵会からの指示で雪子を引き取ったものの、いまだに娘の行方はわからないままらしい。


真崎は玲人に命じられた通り、土産物を配りに朽木病院まで足を運んでいた。

そこで真崎は未散と会話する。未散は雪子のことを知っていた。

未散は雪子を指してつぶやく。視えなくなったものを最初から視えなかった事にしちゃった人――と。

 

未散の言葉の意味を確かめるため、真崎は警視庁に向かう。

八木沼の許可を得て六識と面会できたものの、六識は患者のプライバシーに関わることは答えられないと一笑に付すのみ。

真崎は激昂しかかるも、後から現れた玲人に静止される。

落ち着きを取り戻した真崎は、これまで見聞きした情報をまとめ、六識にぶつける。

幼少期の未散はなぜ自ら左目をえぐり取ったのか。それは、彼女が雪子の兄・雪緒が殺される場面を目撃してしまったからではないか。

真崎の推理を聞いても、六識はその正否を答えなかった。


玲人は帰宅後、自宅の様子から紫と雪子が一日以上家に戻っていないことに気が付く。

すぐさま車に乗り込み、当て所なく二人を探し始める。

 

夜、白百合の園跡地にたどり着いた紫と雪子。

紫の問いかけに対して雪子は生返事を繰り返すばかり。

雪子が始まった場所の意味とは何か。彼女が何かを思い出そうとしていることを察した紫は、雪子の言葉を待ち続けるのだった。

 

 

1/18

翌朝、玲人は朽木病院にて目を覚ます。

紫たちを探し方々を巡ったあと、過労のため病院前で倒れていたらしい。

玲人の様子を見に来た未散と話したところ、雪緒を殺したのは雪子だったのだと確認が取れた。

 

真崎は冬見に雪子と紫が居なくなったことを伝えるため茅原家を訪れる。

天恵会の追っ手から保護してもらっていたはずの雪子が居なくなったことで冬見は動揺する。

ただ、現時点では誘拐されたのか自発的にいなくなったのかわからない。

二人の行方がわかる手がかりがあるかもしれないとして、雪子の部屋を見せてもらうことに。

 

そこで真崎と冬見は雪子の手帳を見つけ、中身を検める。

それは雪子が見た夢を記録に取ったもののようで、荒唐無稽な内容だった。

しかし次の一節を読んだとき、冬見は愕然としてしまう。

 

――大切な人をたくさん傷付けてしまった。
――私はあの人たちとひとつになりたかった。
――傷つけた処でどうにもならないのは解っている。
――でも私にはどうすることもできない。
――私はあの人に成り代わりたかった。
――だから私はあの人とひとつになって、本当の私になる。

 

雪子の思想は、かつて皐月と理子が抱いていた妄執とまったく同じものだったのである。

雪子は、紫のことを取り込もうとしていたのだ。

 

冬見は切羽詰まった様子で真崎を古いあだ名で呼びかける。

雪子に自分と同じ轍を踏ませられない、一緒に連れて行って欲しい。

冬見の言葉を聞き、ようやく彼女の正体に気づいた真崎。

しかし感傷に浸る暇はない。時は一刻を争うとして、二人は朽木病院にいる玲人と合流することにした。


朽木病院にて玲人は真崎たちから事情を聞く。

また、雪子の部屋に残されていたものから、杏子を刺した犯人も雪子だったとわかった。

このままでは紫の身にも危険が及ぶ。

雪子の行方に心当たりがないか入院中の小羽に尋ねる玲人たち。

小羽は以前、自分が元居た孤児院の話をしたところ、紫が関心を示していたことを思い出す。

雪子たちの居場所に当たりをつけた玲人たちは急ぎ出発しようとするも、なぜか未散も付いていきたいと口にする。

お母さんのために雪子ちゃんを助けたい――未散はそう告げた。

その言葉を聞いて未散が何者なのかに気づいた玲人は、彼女の同行を許すのだった。

 


玲人たち4人は自動車を急行させ、白百合の園跡地にたどり着く。

日暮れ時の礼拝堂には、今まさに紫を殺そうとナイフを手にした雪子がいた。

 

狂乱した雪子は、話す端から口調が変わっていく。それは、かつて彼女が取り込んだ者たちの人格だった。

自分には紫が必要だから、彼女とひとつになりたい。雪子は叫ぶように宣う。

 

しかし玲人は、そんな彼女に対して言葉をぶつける。

君はその人が好きで惹かれている訳ではない。

君がその人に成り代わりたいと願っているだけじゃないか――と。

 

玲人の言葉を雪子は激しく否定する。

しかしそのとき、玲人たちの前に割って入った未散が雪子に話しかける。

――本当の雪子ちゃんは、雪緒ちゃんが殺された時に死んでしまったのね。

 

未散の存在を認識した雪子は一瞬正気に戻り、かつて自分が犯した過ちのすべてを思い出す。

茫然自失となった雪子は、いつから自分は本当の自分を忘れていたのかとつぶやく。

罪を償う方法なんて、一つしか知らない。

雪子が手にしたナイフは、雪子自身に向けて突き出された。

しかし、刃が雪子の胸を貫く寸前、紫が素手でナイフを抑え込んでいた。

紫は涙ながら語る。

これ以上、大切な人を喪うのは厭だと。

一緒に生きてほしい。そう強く訴えかける紫に心打たれ、雪子はついに膝をつくのだった。

 

 

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その後、雪子は警察に逮捕された。

のちに玲人の調査でわかったことだが、彼女は天恵ノ会の教主と織部の妹との間に生まれた娘だったらしい。

血縁をたどるなら、冬見とは従姉妹に当たることになる。

しかし、そのような事実を伝えてわざわざ混乱を招く必要もないとして、玲人は調査資料を処分する。

ちょうどそのとき、冬史が事務所を訪れる。

件の小説家が、一年以上前に多摩の山中で目撃されていたというのである。

攫われた冬子の行方が分かるかもしれない。

二人は身支度をし、奥多摩へと調査へ向かった。

 

玲人たちが山中を捜索しているころ、真崎のもとに冬見から電話が入る。

保育施設・若葉園の手伝いに来ていた菜々子と連絡が取れなくなっているという。

彼女の子供も心配であるとして、二人は菜々子の住所を訪れる。

そこで真崎達は、服毒自殺を図った菜々子を発見する。

 

服薬量が足りず、菜々子は一命をとりとめた。

ただし彼女の自宅には子供の姿はなく、そればかりか致死量と思しき大量の血糊がこべりついた布団が見つかった。

病院で八木沼と顔合わせした真崎は、菜々子に空木殺害の容疑がかけられていたことを聞かされる。

 

復調した菜々子は、取り調べの場で空木を殺害したこと、さらに父親を殺害したことを自供した。

しかし、自宅で父親を殺したとしても、遺体を運び出すのに女性一人の手では困難である。取り調べに同席していた夏目女史は、彼女の同居人である黒矢尚織が共犯なのではないかと指摘する。

 

尚織が指名手配されて数日が経ったが、彼の行方はつかめなかった。

菜々子は取り調べの場で、自分が死ぬ前に育てていた子供を尚織に託したのだと話す。

尚織の居場所を話そうとしない菜々子に対して、真崎は懸命に説得を続ける。

このままではその子は無戸籍のまま、ろくな教育も受けられなくなってしまう。それがその子にとって本当に幸せなことなのか、と。

真崎の言葉を受け、ついに菜々子は尚織が住処として使っていた奥多摩の山荘の場所を供述する。

 

山間を捜索して数日が経過したころ、玲人たちはすぐそばに警察車両が大挙して訪れていることに気づく。

捜査指揮を執っている八木沼を見かけるや、玲人は驚きの声を上げる。

 

八木沼と真崎から事情を聞いた玲人は全てを悟る。

冬子を攫った小説家をかくまっていた者。

小説家から「プルガトリオの羊」の構想を聞き出し、代筆した原稿を出版社に送り付けた者。

すべて、尚織の仕業だったのである。

 

暗く沈む玲人を責め立てるかのように八木沼は続ける。

どうして「殻ノ少女」事件の際、あのような手術を施してまで朽木冬子は生き永らえさせられたのか――

八木沼がその真意を口にする前に、玲人は思わず彼を殴りつけてしまう。

 

菜々子の供述では、尚織が保護した少女は妊娠していたが、とても出産に耐えられるような状態ではなかったらしい。

だが尚織の手厚い処置によって、昭和31年11月に何とか出産までこぎつけたという。

しかし少女は子供を産んだ後ほどなく力尽きてしまった。

産まれた子供は未成熟児だった。そのため、菜々子が自分の子供としてこれまで世話をしてきたという。

つまり、正月の井の頭公園で菜々子が連れていた赤ん坊とは――

 

尚織が潜伏していたと思しき山荘の周辺には、三つの塚が作られていた。

真崎達は塚を掘り返す。

一つ目の塚には片足のない白骨遺体。菜々子の父親である。

二つ目の塚には後頭部を斧で割られたと思しき白骨遺体。件の小説家であろう。

そして最後の塚は、玲人自らが掘り起こした。

黒いぼろ布で覆われた、抱え込めるほどに小さな――四肢のない白骨遺体が現れる。

 

雪が降りしきる中、玲人は虚空を仰いで慟哭する。

哀しんでいる場合ではない。自分にはまだ、彼女が遺した子供を見つけ出す使命が残っている。

――帰ろう冬子、ここはとても寒いから……

 あたかも絞り出すかのように玲人は慙愧の言葉を口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これにて、虚ノ少女TRUEエンドルートの概要は終了である。

(なおこれまでも散々述べていることだが、本編はこの十倍以上は濃厚な描写と対話が繰り広げられており、本作の雰囲気を余すところなく体感するためにはプレイすることが必須である。当ブログの記述はあくまでも大まかな流れの『まとめ』でしかないことに注意されたし)

 

連続猟奇殺人事件を解決し、人形集落に根付いた悪しき因習を暴き立て、天子だった少女のその後さえも明らかにして見せた。玲人たち追跡者側の面目躍如であろう。

 

情報が一所に集まりすぎていたり時の運が味方した感もあるが、それでも複雑に絡み合った謎が紐解かれていく過程は最高に興奮させられた。

 

そして、本筋の事件と同時並行で動いていた雪子の問題も、ここでようやく解決を迎える。

 

雪子は幼いころから『他者を取り込んで己の一部とする』という妄執に取りつかれていた。

 

そうして好きになった相手、憧れた相手を何人も喰らい、そのたび相手の人格になりきることで過去の記憶をなくし続けていた。

 

雪子が生まれつきこのような精神疾患を抱えていたのかは定かではないが、幼少期の描写から読み解くことはできるかもしれない。

 

小羽との会話の中で、彼女たちは施設にいる間お祈りやら修行やらをさせられていたことがわかっている。これは教団に従順な人間を作るための洗脳の一種ともとれる。

 

また施設は雛神製薬ともつながりがあったことから、子供たちは新薬の実験台に使われていたと示唆する描写もある。雪子がもらったお菓子だけ他の子と違うものだった理由は、彼女のお菓子にだけは危険な薬品が含まれていなかったからなのだろう。

であれば、彼女が薬品の副作用により後天的に異常な妄執に囚われたとは考えにくい。

 

祠草の血筋も元をたどれば雛神に行きつくということだが、やはり遺伝的な異常だったのだろうか。

 

そもそも彼女が孤児院に預けられていた理由は何なのか。

彼女は天恵ノ会の教主の娘だったことが明らかにされている。ただし、その教主はとある理由により殺害されてしまったうえ、母親もすでに死亡している。血縁上は伯父にあたる織部が雪子を直接保護せず孤児院に紛れ込ませていたのは、彼女が権力闘争に巻き込まれてしまうとでも考えたのかもしれない。

 

 

 

なお、雪子が関わった4件の殺傷事件のひとつである「跨線橋転落事件」については、ドラマCD「虚ノ少女 ~天に結ぶ夢~」にて詳細を知ることができるので必聴である。

 

時系列的には雪子が逮捕された直後から始まる。このとき玲人は冬子の遺体が見つかった喪失感でいっぱいなはずなので、八木沼からの調査協力は真崎が受けることになる。

 

助っ人として逗子から高城秋五が呼び出されたり、紫が同行することになったりと、最終的には三人で過去の事件の再調査をするという流れになる。

 

ここでは敢えて結末には触れないが、ストーリーを聞き終えた素直な感想は次の通り。

「どつもこいつも危ねぇ思想の持ち主が多すぎじゃね?????」

 

 

 

ひとまず枝葉末節を気にしなければ、「虚ノ少女」単体としての事件はこれにてすべて解決を迎えている。

しかし、三部作の主人公である玲人にしてみれば物語はまだ終わっていない。彼が偏執(パラノイア)から解き放たれるためには、ケリをつけなければならない因縁が残っている。

 

その完結編である「天ノ少女」はまもなく発売されるわけだが、ここまで7年間も待たされた身からすると今の時点で両の手が微かに震えてしまう。

 

いったいどのような結末を迎えるのか。果たして玲人が救われる未来は訪れるのか。

 

繰り返すようだが、旧版「虚ノ少女」から数えて7年も、旧版「殻ノ少女」から数えて12年も待ちぼうけを食らっている。

 

もういい加減ビターエンドじゃなくってもいいんではないだろうかイノグレさん……?

 

 

 

 

 

最後に、「虚ノ少女RE」初回生産版に付属していた別冊小説について少しだけ触れておきたい。

収録されている作品は次の通り。


・「流し雛の邂逅」
⇒人形集落から東京へ逃がされた理子がいかにして昭和33年現在まで生きてきたか、その経緯が理子の視点で語られた物語。

戦中・戦後の困窮した状況の中、娘を殺してしまいそうになった苦悩が切実に描かれている。

 

六識とは子供を取り上げてもらった頃から世話になっており、ヤツが逮捕されるまで5年ほど関わりがあったらしい。

あのサイコパス野郎が純粋な善意で無戸籍の女性を助けてやったなど、旧版を読んだときには信じられなかったものだが、この小説を読んで納得した。

やはり六識は他人のことを実験台としか思っていなかったのだろう。その結果が理子の場合たまたま好転しただけで、下手すれば彼女が連続殺人の被害者になっていた可能性だってあったのだ。

 

また、文中では明言されていないものの、逃亡中の理子が日常の中で、中原美紗や上月由良・祠草時子といった面々と絶妙に関わっていたというのはとても興味深かった。

 

 

・「プルガトリオの羊」
⇒本編中でも冒頭部分に一節が表示されるが、こちらは全文が掲載されている。

メアリという名の木偶の体を持つ少女が、羊男に導かれて七つの大罪を犯した木偶たちが受ける罰を眺めながら煉獄の山頂を目指す話……でいいのだろうか。

ただ、道中に出てきた大罪は六つしかなく、最後のひとつである「愛欲」はおそらくメアリ自身に問われた罪なのだと思われるが、もしかしたら「天ノ少女」へ向けた何らかの伏線ではないかと考えてしまいました。(中並感)

 

 

 

 

 

あとほんの数日で待ちに待った完結編のストーリーを拝めると思うと緊張してしまう。

とりあえず、この後は貯めに貯めこんだショートストーリーと「無料体験版という名の前日譚」をプレイして発売日当日に備えなければ……

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その9

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

1/13
玲人は警視庁にて事件の事後処理に追われていた。

玲人と八木沼は被害者たちや事件関係者の血液型から、彼女たちの共通点を推測する。

おそらく最後の被害者を除く3名については、全員が雛神秋弦の子供だったのではないか。

現代の科学力では、メンデルの法則を駆使して「親子関係にない者」を確定させることしかできないため、推測の域を出ない考察ではある。

だがもしこの予測が事実ならば、真崎の婚約者たる条件とは――天子となるための条件とは、雛神の血を継いだ娘であることになる。


つまり、砂月と真崎は姉弟だったということなる。

雛神家とは、意図的に近親婚を繰り返すことにより血統を維持してきた一族だったのである。


玲人たちが考察を続けていると、突如として警視庁に激震が走る。

天恵会の幹部だった空木が遺体で発見されたという報告が上がってきたのだ。

玲人は八木沼と共に天恵会本部へ急行するも、信者たちは空木の死を認めず、警官隊は捜査できていない模様。

 

そんな中、本部の建物から冬見が出てきたので話を聞くことに。

挙動不審な冬見を訝しんだ八木沼は、彼女が持つカバンの中身を検める。中には大金が入っていた。

冬見は雪子を育てた謝礼として無理やり渡された大金を返すため、雪子を探すために来たのだと答える。

雪子は昨晩から時坂家で保護していることを説明すると、冬見は泣き崩れた。

詳しく事情を聴取するために冬見は警視庁へ送り届けられる。

 


一方そのころ、真崎は朽木病院の応接室にて待機していた。紫と雪子を時坂家に送り届けたあと、冬史と交代で小羽の様子をうかがうためである。

そのとき真崎は未散に遭遇する。病室に掲げられた小羽の名前を見た未散は、白百合の園で彼女と友達だったと話し、真崎は驚愕する。

そこで真崎は雪緒という名前に聞き覚えがないか尋ねると、未散は取り乱して左目を掻き出そうとしてしまう。

未散は言う。雪緒は見えなくなったが、小羽は雪緒を見てしまっている。見えなくなったものを見続けてはいけないのに――と。

 


場所は変わって、警視庁。玲人と八木沼は取調室にて冬見から事情を伺っていた。

先の大金は、雪子を育てたことに対する謝礼として天恵会から渡されたとのこと。

雪子を孤児院から引き取った当時、彼女を育てるように天恵会から指示があったのだという。

しかし雪子が教団の重要人物の血筋なのだとしたら、なぜ孤児になっていたのかはわからないらしい。

 


冬見を帰したあと、警視庁に連絡が入る。

富山県警の刑事が雛神製薬に押し入り居座っているため対処して欲しいとのことだった。


八木沼の指示で嫌々雛神製薬に赴いてみると、応接室で戌亥刑事が待ち受けていた。

曰く、雛神秋弦を殺人教唆の疑いで逮捕するために来たとのことだが、逮捕状は出ていない。ただの独断専行ということになる。


しかしここで玲人は戌亥から重要な情報を聞かされる。

まずは人形集落の山小屋付近に埋められていた四肢について。これは状況から見て鳥居に吊るされていた少女――砂月のもので間違いない。

古い捜査資料を見返したところ、被害者は正面から扼殺されていたが、遺体には暴行の痕跡はなかったという。つまり、被害者は処女だった。

だが玲人は真崎が砂月と枕を交わした事実を知っている。

であるならば、殺された少女は砂月ではなかったということになる。

 

同時刻帯、冬史は上野駅前のたこ焼き屋にて高城探偵事務所のチラシを眺める女学生を見かけ、声をかける。

いつぞやと同じ状況だと思いきや、少女の探し人はまたしても真崎であった。

冬史はその少女――祠草賢静の娘・夜宵を連れて警視庁に向かい、玲人に引き渡した。

曰く、雛神秀臣が危篤状態となったため、東京にいる真崎を連れ戻すよう指示されたらしい。

玲人は夜宵を引き連れて朽木病院へ向かい、真崎と合流。その足で急遽、人形集落へ向かうことになった。

 

 


1/14
丸一日かけて人形集落へやってきた玲人一行。

玲人は再び二見旅館に宿泊することに。

 

応対に現れた憂に千鶴が撮った写真を見せてみると、彼女は一枚の写真を見て疑問の声を上げた。

人相はわからないが、黒い装束をまとった天子と思しき女性の写真。憂は彼女を指して砂月ではないかと述べる。

しかしこの写真が撮影されたのは祭りの夜、彼女たち学生世代の面々はその砂月と一緒に天子が舞を踊るところを見ていた。

これでは、同時刻の別の場所に同じ人間が存在していたことになってしまう。

 

 

 

1/15
人形集落に泊まった翌朝、玲人は黒矢医院に話を聞きに行った。

弓弦の義父である創に対し、砂月の健康診断の記録などがあれば見せてほしいと頼み込む。

記録によると、黒矢医院で健康診断を受けた少女の血液型はAB型である。

しかし、砂月だと思われていた遺体の少女の血液型はA型で、保管されていた記録と合致しない。

 

玲人は雛神家に向かい、秀臣の妻である真理子に対して自身の推理を聞かせる。

天子の正体とは、雛神家に生まれた娘を別の場所に移して育て、輿入れの時にお客様として戻していた女性のことである。

玲人は言う。雛神家を存続させるために年端も行かぬ子を監禁して育てる、そんなことはもう許されない時代となっている。

悪しき伝統に巻き込まれた少女――砂月は救われなければならないのだと。


しかし、真理子は砂月と呼ばれる少女が2人いたことを知らなかった。

そこで真崎は声を上げる。もうひとりの砂月とは、土蔵の長持ちに刻まれていた名前の主「アヤコ」なのではないか。

 

 

玲人と真崎は事実を確認しに祠草神社へ向かうことに。

2人は賢静に対し、「アヤコ」とは誰なのかと尋ねる。

玲人はこれまでの情報をもとに、彼女が天子の影武者として土蔵で生活させられていたのではないかとの推理を聞かせる。

 

賢静はその推理が事実であったことを認めた。

「アヤコ」とは、祠草小夜が天子の影武者とするためだけに産んだ子供だったのだという。

雛神理花が生んだ天子の本名は皐月(さつき)、そして影武者として生み出された少女の名前は理子(あやこ)といった。

この2人が演じ分けてできた虚像が、砂月という少女だったのである。

 

賢静の話を聞いて真崎は疑問を口にする。なぜ天子である皐月が死んだあと、影武者である理子を天子に据えなかったのか。

 

その理由は、理子が皐月を殺害して逃亡したからではないかと玲人は推理する。

 

真崎の記憶では、当時祠草家の人間は全員雛神家にいたことが確認されているため、少女を殺害できる人間はいなかったという結論だったはず。

だがそこでもう一人、理子が存在すれば犯行は可能である。

 

玲人の推理を聞き、賢静はついに告白する。

彼は家族の将来を守るために、集落で起きた事件をなかったことにすることを決意したのだという。

皐月の遺体が発見されたあと、理子は土蔵にあった長持の中に隠れていたという。

そこで死んだ皐月が小夜に解体される一部始終を見ていたショックのせいか、理子は自分が皐月を殺したということをよくわかっていなかったらしい。

理子の存在が警察に知られる前に、信頼できる知人に彼女を託し、東京へ逃がしたとのこと。

そのあと東京は空襲で焼き尽くされ、理子の行方はわからなくなってしまったらしい。


話が佳境になったとき、夜宵が座敷に乱入。秀臣の意識が戻ったとのこと。

  

 

再び雛神家に訪れる玲人と真崎。

玲人は病床の秀臣にヒンナサマの祟りの真実について尋ねる。

 

人形集落で囁かれていた迷信では、偽物のヒンナサマを祀った者は祟りにあうという話だった。

しかし本物のヒンナサマは雛神家の神棚にしまわれており、真崎を始めとしたほとんどの村人たちはそれがどんな形状のものかすら知らなかった。

であれば、これまでの被害者たちがみな独自に「胎児を模した土人形」を作ったとは考えられない。

 

ならば遺体発見現場にヒンナサマを残すことができたのは何者かというと、ヒンナサマの形状を知っていた祠草か雛神の人間だけということになる。

 

それに雛神製薬には戦前から違法な人体実験に関わっていたという容疑がある。

玲人は、その延長で未認可の薬品を村人たちに使わせていたのではないかと推察する。

 

証拠はあるのかと秀臣は問う。そこに戌亥警部が部屋に乱入し、被害者の解剖記録を読み上げる。

戦前、祟りと称して殺害された女性の子宮には腫瘍ができていた。

解剖記録によれば、それが投与されていた薬品の副作用であることは明らかであると。

 

つまりヒンナサマの祟りの正体とは、違法な人体実験の露見を防ぐため、重篤な副作用を発症させうる村人を天子に暗殺させていたという組織的犯罪である。

そして祟りによって天子と雛神家、祠草神社の権威を印象付けるため、この犯行は何十年にもわたって続けられてきたのだ。


玲人は断罪する。過去の祟りのすべてが公訴時効を迎え罪に問えなくなっているとしても、これらは殺人事件である。

秀臣がどこまで祟りに関わっていたのかはわからないが、雛神家の当主であった以上、これは彼の罪であると。

 

秀臣は玲人の推理を認めたあと、「煉獄にて罪を償う」と言って息を引き取った。

 

部屋を立ち去ろうとする玲人を真崎は殴りつける。

秀臣の肩を持つわけではない。しかし、今際の際の人間をあそこまで追い詰める必要はあったのか。

事件を解決するためなら何もかも踏みにじってもいいと思っているのか、と。

 

玲人は答える。

人でなしじゃなければ他人の秘密に足を踏み入れたりするような真似はできない――と。

 

その晩、真崎は気まずそうにしながらも二見旅館の玲人のもとを訪れる。

2人は話し合い、東京に戻ったら今なお行方不明になっている理子を探すことを決めた。

 

そのとき、真崎はふと玲人が持っていた写真に目を止める。

それは朽木千鶴から預かった祭り当日の写真に混ざっていたもので、写っていたのは井の頭公園で写生する雪子・小羽・紫の3人だった。

 

そこに写る雪子を見て真崎は息を飲む。慌てて祭り当日の理子の写真と見比べる。

二人がしているのは同じ髪飾り――祭りの夜、真崎が理子に買ってプレゼントしたものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


本作は一度1月18日のエンディングを迎えたあと、初めからプレイしなおすことで二週目限定の演出・描写が見られるようになる。

 

この二週目以降の追加要素の一つとして、視点となっている人物が「砂月」であった場合、それが皐月だったのか理子なのかがわかるように文章が書き変わっているというものがある。

 

たとえば、村の入口で神社への帰り道がわからなくて困っていた「砂月」は理子、雛神家にて土人形用の土をこねる手伝いをしたあと理人から祭りに誘われたのは「皐月」というように、彼女たちは入れ代わりつつ理人の前へ姿を現している。

(とはいえ過去編を見返してみると、理人と砂月の好感度が上がる出来事が起きた際は、理子が相手だったことがほとんどである。理人は二人の区別ができていなかったが、おそらく好意を向けていた相手は最初から一貫して理子の方だったのだろう)


一週目のプレイ時に砂月に対する小夜の態度に違和感があった理由もここで明かされる。とかくこの小夜という人物は、先代天子である雛神理花に関連のあるものにしか興味がなく、それ以外はたとえ自分の実の子供であってもどうでもよかったのである。

 

まったく、この物語に登場する人間の歪みの深さには恐れ戦かされる。

憧れの女性の子供に人殺しをさせないためだけに、自分の子供を殺人の道具として育てたなんて、人でなしにもほどがある。

 

作中では明言されていないが、本作冒頭に語られた「どっかの寒村で女が女を惨殺する場面」に出てくる少女というのも小夜である。


おそらくこの時にはすでに小夜も「ヒンナサマの祟り」のシステムに組み込まれていたのだろう。そうでなければ、当時未成年だったと思しき少女があんなにも手際よく祟りの様相で遺体を加工できはしまい。

 

こんな集落滅びてしまえ、と本文を読んでいて何度思ったことか。あまりにも邪悪で、理解しようにも拒否反応が強すぎてこれ以上考察する気にもなれないが……

 

 

 

話は変わり、昭和32年の殺人事件について。

犯人を逮捕したあと、玲人と真崎は諸所の事情によってふたたび人形集落に舞い戻ることになる。

 

このときすでに八木沼から依頼された捜査協力は完了している。本来なら玲人はこの時点で事件から手を引くこともできた。

そもそも既に時効が成立している「ヒンナサマの祟り」事件を追い続ける理由などないのだから。

 

しかし玲人は事件当事者である真崎と関わり、事件の背後にあった悍ましい悪意の数々を知ってしまった。

しかも戌亥刑事からの言葉で、真崎の愛した女性が生きている可能性を見出してしまった。

だからこそ玲人は事実を明らかにするために、真崎の帰郷に同行するという体で人形集落までついて行ったのだろう。

 

それは玲人の探偵としての義侠心から成せる行いだったのだろうが、先に述べたように連続殺人を解決した時点で玲人はお役御免でもおかしくない。

それでも事件を追う姿勢は探偵としてというより、人としても偏執的すぎると言えなくもない。

すでに終わった過去の事件を執拗にほじくり返す者の存在は、当事者からすればさぞ煩わしいものだっただろう。

 

ただ個人的には、真崎が玲人を殴りつけたのは直情的な暴走だったと感じている。

被害者とも加害者とも密接に関わっていた彼にとってみれば、身内の死に際に知りたくもなかった残酷な真実を突きつけられた混乱が大きかったのもわかるが、雛神家が成してきた悪行の数々を思えば間違っても反論できる立場にはないはずである。

 

一方、そんな直情的で思慮の足りない真崎にもまだ希望が残されている。彼が砂月と認識していた女性が――理子が生きている可能性である。

 

そう思った矢先に髪飾りの伏線を回収してくるのだから、イノグレもやりやがるものである。
人によってはご都合主義と感じてしまう読者もいるかもしれないが、個人的にはこのどんでん返しは胸熱な展開だった。
死んだと思っていた想い人が実は落ち延びて生きていた――ロマンチックじゃありませんか。

 

ただし、このゲームメーカーがそんなお涙頂戴なだけの物語を提供するはずがない。

さんざん伏線が張られながらいまだ解決していない、雪子の問題が残っている。

 

「ヒンナサマの祟り」から始まったこの物語のメインヒロインがどうして雪子だったのか。

本作のタイトルになぜ「虚」と冠されているのか。

その意味は、イノグレの真骨頂である伏線回収手腕を伴ってまもなく明かされる。

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その8

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

余談

 いよいよ「天ノ少女」発売まであと2週間となり、公式ホームページでは例によって「無料体験版という名の前日譚」が公開されました。

 

今作では条件さえ満たせば製品版「天ノ少女」でもこの前日譚を読むことはできるそうですが、イノグレ側から「本編プレイ前に読むことを推奨」と発表されているので、「天ノ少女」を読み切る覚悟があるプレイヤーであれば必ず事前に前日譚を読むべきでしょうね。

 

……ただまあ阿久井としてはあまりに先んじてにプレイしてしまうと発売前に待ち遠しすぎて発狂しかねないため、ボイスドラマも含めて前々日ぐらいにまとめて体験しようと思い貯めこむ所存ではありますが。

 

 

・雑感

 

1月9日
雪子が登校してこないため、紫は彼女の身を案じていた。
しかし小羽より、今朝になって雪子の退学届が出されたため教師陣も混乱していると知らされる。
思い当たるのは昨日の出来事しかない。小羽によれば、昨日雪子を連れて行ったのは黒矢という名の医者だったはずという。

紫は玲人の事務所を掃除した際、書類の中にその特徴的な名が記されていたことを覚えていた。
雪子が何か良からぬことに巻き込まれたのかもしれないと考えた紫は、学校をサボタージュして事務所へ急行する。

 

事務所には真崎がいたが、突如現れた紫から事情を聴いて驚く。
真崎は「白百合の園」で起きたという集団自殺の件に黒矢尚織が関わっているとあたりをつけ、ちょうど彼に会いに行く予定だったのである。
紫の頼みを断り切れず、真崎は彼女の同行を許す。

 

天恵会本部にて真崎と紫は尚織と対面する。
尚織は集団自殺が起きた当時その施設の職員だったことを認めた。
また、雪子がかつて孤児として施設にいたこと、さらに教団にとって重要な血筋の者であるため、新たな「御子」として迎えに上がるよう命じられていたことを説明する。
それゆえ雪子と会って話すことは許可できないとして、真崎たちは引き下がることに。

 

 

1月10日
玲人と冬史は天恵会本部へと向かっていた。
「白百合の園」の背後に天恵会の幹部である空木が絡んでおり、そこに雛神製薬とも関連した怪しい資金の動きがあったためである。
しかし天恵会につくや辺りが騒然としており、玲人たちは門前払いをされてしまう。

 

あたりを聞き込みしたところ、天恵会代表である織部が何者かに殺害されたらしいことが発覚。

 

事態を報告しに警視庁に向かった玲人たちは、八木沼と真崎が対峙している場に行き会う。
真崎は「白百合の園」に関する過去の捜査資料を見せてほしいと願い出ていたが、現在起きている連続殺人事件と関連性がないため見せられないと八木沼に断られていた。

 

玲人は織部が殺害されたことと、その前日に雪子が教団に連れていかれたことは何らかの因果関係があるかもしれないとして、かつて雪子が所属していた「白百合の園」に関する資料を見せるよう交渉する。

 

渋々とった様子の八木沼から資料を借り受けた玲人は、孤児名簿の中から見知った名前を3つも見つけてしまう。
「雪子」、「未散」、そして「小羽」。

 

警視庁を出たあと、玲人は朽木病院にて未散と会話する。
未散は幼いころ、見てはいけないものを見てしまったショックで、自ら左目をえぐり取ったのだという。
彼女が言うには「ひとりがひとりを取り込んだ。ふたりがひとりになって、残ったひとりはふたりになった」――らしい。
ちなみにこの出来事は集団自殺事件が起きる前のことであり、事件があったとき未散は治療のために入院していて既に施設にはいなかったとのこと。

 

玲人は未散の話の裏取りをするため、朽木文弥に院長権限で未散のカルテを見せてもらうよう頼みこむ。

 

当時の担当医である六識の記録によると、未散は昭和27年7月に入院する以前から、向精神薬を大量投与されたことによる中毒症状が見られたのだという。
未散の話と擦り合わせると、彼女は白崎家へ養子に出されたすぐあとに長期入院していることになってしまう。
つまり未散の精神疾患は白崎家ではなく、「白百合の園」に居たときの出来事に起因する可能性が高い。

八木沼から聞いた雛神製薬による違法治験の疑惑と、天恵会幹部である空木が雛神製薬の株式を持っている件。
以上の情報から、玲人は「白百合の園」で薬品改良のための違法な人体実験が繰り返されていたのではないかとの推論に達する。

 

 


1月11日
玲人は役所で取り寄せた小羽の戸籍を確認する。
彼女の旧姓は「吉野」。母親の戸籍は戦災により滅失していたが、秋弦が選定した真崎の婚約者候補の一人と苗字が合致する。

事情を探るために玲人は小羽の家を訪ねることにした。

 

小羽は物心ついたときから「白百合の園」で過ごしており、およそ5年ほど前に鳥居家に引き取られたという。
当時は雪子や雪子の兄・雪緒とよく遊んだらしい。
玲人は「雪緒」という名を聞いたとき、先日確認した孤児名簿の死亡欄にその名が記されていたことを思い出す。

 

鳥居家から帰る道すがら、玲人は小羽こそが真崎の最後の婚約者候補であると断定する。
このままではそう遠からず彼女が被害にあう可能性があると考えた玲人は、連続殺人犯をとらえるために一策を講じることを決意する。

 

その夜、冬見は自宅にて雪子を手放してしまったことを深く後悔し続けていた。
そこに突如として小羽が訪ねてくる。彼女は深刻そうな様子で「雪緒に会わせて欲しい」と冬見に頼み込む。
しかし、冬見は雪子に兄がいるということすら聞かされていなかったため、満足な返答もできない。
すると小羽はその場で手紙を書いたあと、明日中に雪子に渡して欲しいと懇願するのだった。

 

 


1/12
翌日、冬見は若葉園にて菜々子から子供を預かる際、小羽から預かった手紙を菜々子に託す。
自分が教団本部に出向いても門前払いされるため、教団の手伝いをしている菜々子に頼み込むという苦肉の策であった。

 

一方そのころ、時坂家に冬史が訪ねてくる。用件は「プルガトリオの羊」に関する調査の続報だった。
曰く、かつて件の小説家が取引していた出版社に「プルガトリオの羊」の初期案とおぼしき梗概が保存されていたとわかったという。
その内容は市場に出回っているものと酷似していることから、逃亡中の小説家を見つけた何者かがあらすじを教えられ、本人の代わりに小説を書いた可能性があるという。

 

報告を終えた冬史に対し、玲人は連続殺人犯を捕らえるため協力して欲しいと依頼する。

 

その日の夕刻、時坂家から出てきた女学生の後を追う人影が一つ。
女学生が人気のない通りに差し掛かるや、人影は鬼の面を装着して女学生に襲い掛かる。

 

しかし女学生は襲撃を察知すると、振り返り際にトンファーを横薙ぎして反撃。
女学生――歩が自身のターゲットでないことに気づき、襲撃者は罠にかかったことを悟る。

 

そこに玲人が現れ、この人物こそが4人もの女性を惨殺した連続殺人犯であることを指摘。
玲人はこれまでの状況証拠からこの人物こそが犯人であると見当をつけていたものの、逮捕に結びつく決定的な物証はなかった。
そのため歩を小羽と偽って囮にし、犯行の瞬間を捕らえるという奇策に打って出たのである。

 

すべては雛神家の血統を守るために成したこと――。犯人は玲人に対し誇らしげに嘯く。

 

しかしそんな犯人に対し玲人は、そんなものは建前で、真崎に対するただの嫉妬心でしかないと切り捨てた。

 

犯人は遅れて現れた八木沼ら警察に引き渡され、連行される。
東京・富山とまたがって繰り広げられた連続猟奇殺人事件は、これにてひとまずの解決を見たのである。

 

 

一方そのころ、真崎と冬史は保護対象である小羽の行方がわからなくなったため方々を探し回っていた。


若葉園にて紫や冬見に尋ねたところ、彼女は先日からどこか様子がおかしくなり、雪子の兄・雪緒に会いたいとしきりに口にするようになっていたという。

冬見の証言により、真崎達は小羽が手紙を使って雪子を櫻羽女学院に呼び出していることを突き止めた。


夜の学校に侵入すると、「雪緒に会わせろ」と言って取り乱した小羽が雪子ともみ合っている場面に出くわす。
冬史は二人を引き離すも、雪子は頑として雪緒などという者は知らないと言い切る。

小羽は興奮のあまり過呼吸となってしまい、冬史は彼女を病院へ連れていくことになる。
残された紫と雪子は、真崎が時坂家へと連れ帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は中盤戦から後半戦へと移行し、ようやく昭和32年時点で起きた連続殺人事件は解決を迎える。

 

個人的にはこの犯人についてあまり同情的にはなれない。

 

やらかしたことも心情的にも「カルタグラ」と通じるところがあったというのに、この違いはいったい何なのだろう。

 

片や親族含めた村ぐるみで排斥され続け、人体実験の果てに妄執と狂気に至った者。

片や恵まれた境遇にありながら村の因習に飲み込まれ、爛れた嫉妬心から狂気に至った者。

比較してみると、今回の犯人の方が狂気に至る理由が身勝手に見えるからではないか、と感じた。

 

もちろんどんな理由があっても罪もない人間を大量に殺しまくっていい理由にはならない。


ただやはり人が人を殺すということは、どうしようもなく大きな一線を越える行為だと思う。


であるならば殺人者には「こういう理由で正気を失った結果、殺さざるを得なかった」というやるせない事情があるのが自然だと感じるのである。

 

このような背景や事情がない犯罪者は、常人には理解できない狂人として描かれることが多い。近年ではサイコパスやソシオパスという名称も広く知れ渡っている。

 

殺人を犯している以上ある意味で犯人は狂人と言えなくもないのかもしれないが、理解できる範疇の理屈や避けがたい事情がある犯人であるならば一定の情状酌量の余地はあるとも思うのだ。

 

別に罪を憎んで人を憎まずなんて高尚なことを語るつもりはないが、罪と罰のバランス感覚として「犯罪者=悪即斬」と切り捨ててしまうのはあまりに極端ではないかという提言である。

 

ただそういった価値基準をもってしても、やはり今回の犯人にはあまり同情的になれない。

 

この犯人も「もしかしたら叶うかもしれない」という希望を一瞬でも見せつけられたものだから、不可能だとわかった瞬間に深く絶望したのであろうことは理解できる。

 

ただし、そんな偽物の希望を見せられるまではそこそこ普通の倫理観を持って生活してきたはずである。家族にも友人にも恵まれて、金銭的に困窮したことも迫害されたこともなかったはず。

 

にもかかわらずこの犯人は、叶うはずもない望みに固執して見ず知らずの他人を殺し、同郷の朋友を殺し、ずっと世話になった者まで殺した。


これではあまりにも極端に振り切れた、身勝手極まりない暴走としか映らない。もはや嫉妬の域を超えた、理解の及ばないモンスターである。

 

TRUEルートでは犯人は5人目のターゲットを殺害する前に逮捕されるが、バットエンドのルートの中には5人全員を殺害しきるものも存在する。
しかし、そうして自身の願望を叶えたとしても本当に欲しいものが手に入るわけではないため、結局犯人は自ら命を絶つことになる。
IF展開の末路まで含めて、度し難いほどに身勝手であると感じるのは阿久井だけであろうか。
(まあ、この犯人を狂気に至らせるきっかけを作った村の首脳陣にも償いきれないほど大きな責任はあるのだが……)

 

 

 

 

 

事件が解決した一方で、今度は雪子と天恵会にまつわる問題が進行していく。

 

玲人や真崎にとって、天恵会に関する調査はあくまで殺人事件の参考案件として追っていたにすぎない。
被害者の一人が天恵会の信者だったことを除けば、この団体が殺人に関わっていた証拠は出てこなかったからである。

 

しかし、どういうわけだが今回の事件の関係者は、同時に天恵会にも関係していることが多い。

未散と雪子・小羽に関してはこれまで何の接点もなさそうに見えたのに、同じ養護施設で育った孤児であるという共通点が突如として明らかになった。

 

雪子自身についても問題は起きている。
昔のことを思い出せない一方で、たびたび悪夢を――人を殺す夢を見るようになってしまった。

 

彼女は義母である冬見に恩返しがしたいという思いから、織部達の発案にのって天恵会へ所属することを決めてしまったわけだが、今度はその天恵会でも殺人事件が起こる始末。

読者もさぞかし混乱する展開の連続だったことだろう。

 

ただ、ここまでに提示された数々の情報と伏線を見たことで、だいたいの読者にはこの時点である疑念が生じているのではないかとも思う。

 

雪子の出自と、失われた記憶。彼女の言動に関する違和感の正体。おそらく、読者諸氏が閃いた答えは正しい。

 

それらが玲人たちの運命と絡み合うまでにはあと少しだけ時間を要することになるが、ここからは一気に解決編へと雪崩れ込むことになるのでどうか最後まで刮目していただきたい。

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その7

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

・雑感

 

時は玲人たちが人形集落にて新たな殺人事件に遭遇していた12月29日に遡る。

 

カルト教団・天恵会の代表者たる織部は、余命わずかな自身の代わりに信徒たちを導く者が必要であると部下の空木に説いていた。

かつて教団が千里教を名乗っていた頃は託宣の御子の存在が信徒たちの拠り所になっていたこともあり、それと同様に「正当なる血を持つ者」を祭り上げるつもりだという。

 


一方そのころ、雪子は紫や小羽と連れ立って「若葉園」という保育施設にやって来ていた。
雪子は先日、義母・冬見に頼み込まれ、年末の人手が少ない時期に彼女の職場で幼児たちの面倒を見ることになったのである。
慣れない手つきで幼児たちをあやす雪子に対し、彼女に同行した小羽は手際よく世話をしていく。
揺り籠の中でぐずついていた赤ん坊は、紫が抱きかかえると静かに眠りに就くのだった。

 

保育施設からの帰り道、紫は書店にてとある小説が売り出されていたことを知る。
「プルガトリオの羊」――。

それは、昨年初春に起きた猟奇殺人事件の犯人であり、瀕死の朽木冬子を連れ去った小説家の最新作とのことだった。
紫は喫茶・月世界にて兄の仕事仲間である冬史と知り合い、小説のことを相談する。

 

のちに冬史は「プルガトリオの羊」を発売した出版社の編集者と面会を取り付ける。
曰く、この出版社は件の小説家とは付き合いがなかったものの、ある日突然、差出人の名前が記された直筆の原稿用紙が送り付けられたのだという。
原稿が送られてきた意図はわからなかったものの、話題性重視で発売に踏み切ったらしい。

 

晦日の昼頃、玲人と菜々子が東京に到着する。

そのあと玲人は上野駅にて冬史と遭遇し、彼女の口から「プルガトリオの羊」の件を伝えられる。
玲人は件の小説家の居場所がわかるのではないかと取り乱すも、現状では何の手掛かりもないとして冬史になだめられる。

 

同日の夕刻、紫は時坂家に小羽・雪子・真崎を招き、玲人もあわせて大晦日の夕食を共にする。
食後、冬見が雪子を迎えに来たため、真崎が2人を自宅まで送り届けることに。
真崎は冬見との何気ない雑談の中で、彼女が宗教というものに何らかの忌避感を持っていることを察する。

 


※玲人の悪夢

 


元旦、玲人は単身朽木家へ正月の挨拶へ向かう。
そこで千鶴より、十数年前に撮影したという人形集落の写真を預からせてもらう。

 

一方そのころ、玲人から天恵会の調査を命じられていた真崎は、かの団体が買い取ったという井の頭公園の神社に訪れていた。
彼はそこで、天恵会幹部の証である白装束を纏った黒矢尚織と遭遇する。真崎が出征する前から数えて実に十数年ぶりの再会であった。
真崎は教団について尚織から話を聞くため、翌日改めて会うことにする。

 

朽木家を出た玲人は、井の頭公園にて赤ん坊を抱いた菜々子と遭遇。
曰く、血のつながった子供ではないものの娘として世話をしており、勤務中は保育所に預けているのだという。
喫茶・月世界にて保母と待ち合わせしているとのことだったので、挨拶がてら玲人も同行する。
案の定、待ち合わせに現れた保母とは茅原冬見であり、杏子も併せ女3人の姦しい会話にいたたまれなくなる玲人。
そのしばらく後、今度は尚織が菜々子を迎えに店に現れる。彼は奈々子の同居人であり、嘱託医のようなことをしているという。

 


翌1月2日、真崎は尚織に会いに行った。
天恵会の本部では菜々子も手伝いをしており、真崎は二重の意味で驚かされるが、彼らは共に教団の信者ではないのだという。
尚織は戦後に医師の資格を取ったものの、敗戦直後の困窮した状況では満足な治療もできず、何人もの子供たちを助けられなかったことを悔いて、現在の職務に就いているらしい。

真崎は尚織から教団の前身である天恵ノ会から千里教、そして天恵会へ至るまでの経緯を説明される。
現在、天恵会の上層部たちは千里教時代における「託宣の御子」のようなものを作ろうとしているのだという。

 


※雪子の悪夢1

 

 

1月3日、土塊の鑑定結果が出たと八木沼から連絡が来る。
鑑定によると、東京の被害者3名の腹に詰められていた土は関東で取れるものであり、科学的にも犯人は同一であると確定できるとのこと。
また、富山の被害者の腹に詰められていた土も関東のものであるとのこと。
一方、雛神家でまつられていたヒンナサマから採取した土は北陸方面で取れるもので、その内容物から墓場から採取したものである可能性が考えられるという。
以上の情報より、犯人は東京から富山までわざわざ土人形を持ち込んでいることになる。
つまり犯人は富山で事件が起きた際、東京から人形集落に向かった人物である可能性が高い。

 


1月4日の早朝、玲人と真崎は雛神製薬を訪ね、雛神家の現当主である秋弦と面会する。
秋弦によれば、真崎の婚約者候補が次々と殺されていることは把握しているものの、理由はわからないとのこと。
そもそもこの結婚話を進めているのは前当主である秀臣・真理子夫妻であり、秋弦は候補を選定しただけに過ぎないという。

秋弦によるとあと一人候補となりうる者が残っているらしい。
ただし、候補者の母親の名前しかわからず、候補者本人の居場所はわかっていないとのこと。

玲人はなぜ婚約者本人の素性もわからないのに候補者たりうるのか疑問を口にしたが、秋弦は口をつぐむばかりであった。

 

 

その晩、小羽は紫に冬休みの宿題を写させてもらうため時坂家を訪ねていた。
そこで紫は、かつて小羽が孤児として保育施設にいたこと、同じ境遇だった雪子の実兄にあこがれていたことを聞かされる。
しかし、雪子は自分の兄のことすら覚えていない様子である。
2人は、雪子が記憶を失うほど恐ろしい出来事に巻き込まれたのではないかと推察するのだった。

 


1/5
※未散誘拐未遂
※未散の悪夢


1月6日
玲人は冬史より「プルガトリオの羊」についての調査結果を伝えられる。
警視庁に押収されていた原稿用紙と、先日出版社に送り付けられた原稿用紙を比較したところ、二つの筆跡は明らかに別人のものであると判断された。
つまり、件の小説家の名前を騙った何者かがこの小説を出版社に送ったということになる。

 

※真崎と六識との面会

 

その日の夜、玲人は喫茶・月世界に花恋を呼び出し、事件について聞き取り調査をする。
しかし2人が話をしているとき、ガラの悪い男2人組が月世界に乱入する。
玲人は何とか男たちを撃退するも、話を続けられる雰囲気ではなくなったため花恋は帰ることに。
杏子によると、先の2名は彼女が融資を受けている金融会社に雇われた借金取りなのだという。

騒ぎの直後、何も知らない雪子が店にやって来る。
しかし杏子は既に接客できる状況ではなかったため、玲人が雪子を家まで送り届けることになった。
そこで玲人は、雪子が将来について悩んでいると相談される。
雪子は、これまで世話になった義母の役に立つことがしたいのだと零す。

 

※雪子の悪夢2


1月7日
真崎は引き続き天恵会について調査するにあたり、事情に詳しい冬史に話を聞きに行く。
曰く、天恵会はかつて経営していた「白百合の園」という保育施設にて児童の集団自殺という事件を引き起こしたことがあるという。
資料によれば施設内での虐待に堪えかねた児童たちが抗議する目的で自死を選んだことになっている。
その後この保育施設は「若葉園」と名を変え存続しており、そこの実質的な責任者は茅原冬見であるという。

 

※紫と雪子の部活動


1月8日
早朝、時坂家に一本の電話が入る。朽木病院の菜々子からであった。
昨晩、杏子が何者かに刺されて緊急搬送されたという。

玲人は経緯を確認するため朽木病院に急行する。
彼女の手術を担当したのは、たまたま用事で病院に訪れていた夏目女史であった。
命に別状ないとはいえ、夏目女史の考察では自傷とは考えにくいという。

紫は兄の様子から杏子に何かあったのではないかと察しながらも、平静を装って登校する。
そんな紫に対して、雪子は職員室から持ち出したというドリッパーでコーヒーを入れ出す。
雪子の様子もどこかおかしい。
そう思った矢先、雪子は自分に会いに来た者がいるとの知らせを聞いてその場を立ち去ると、白づくめの服の輩が運転する車に乗り込んで学校を去ってしまう。

 

※真崎の出張調査(白百合の園跡地)

 


その日の晩、茅原冬見はひとり自宅で悲しみに暮れていた。
目の前には鞄に収められた大量の札束。
先刻、天恵会の男たちが大挙して訪れ、これまで雪子を育てた謝礼として一方的にこの金を渡していったのである。
しかしそれは、引き換えに雪子がもう帰ってこないということを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにきて連続殺人事件とは別の問題まで噴出し、玲人たちを取り巻く状況はさらに混迷の様相を呈していく。

 

本作が探偵・時坂玲人を単独主人公として扱わなかった理由のひとつは、おそらく深く絡み合うまったく別々の事件が同時進行しているためなのだろう。

これでもし追跡者側が玲人ただ一人だけだった場合、扱う事件が多すぎて手に負えないことは明白である。

 

いまの時点で追跡者側が捜査している主だった事象と言えば、

 

・ここ数か月、昭和32年11月以降に東京(および富山)で起きている連続猟奇殺人事件

・戦前から十数年おきに続いている人形集落での「ヒンナサマの祟り」事件(≒砂月の出自について)

・昭和31年初春、朽木冬子を攫った連続殺人犯の行方(≒「プルガトリオの羊」の出元調査)

カルト教団・天恵会にまつわる黒い金の流れ

・雛神製薬が戦前から違法治験を隠蔽している疑い

・昭和27年、保育施設「白百合の園」で起きた集団自殺事件(≒雪子、未散、小羽に関する身辺調査)

 

などなど、ざっと上げただけでもこれだけ多岐にわたっている。

(それゆえ、雑感にて取りまとめたあらすじも、極力本筋に関わる重要な部分のみを短めにまとめることを目指しているものの、それをもってしてもこれだけ多くの文量が必要になるのだからどれほど長大な物語かということは想像してもらえるだろうか)

 

こんなにも多くの事件を探偵がたった一人で同時に解決できるはずがない。

 

それゆえ本作では事件当事者でもあり準主人公かつ探偵助手として真崎が登場し、調査の役割を分担している。

 

さらに突っ込んだ調査では八木沼警視とフリージャーナリスト冬史が事前に活躍済みという状態になっている。
いわば3分クッキングにおける「下ごしらえした状態」を作り出すわけだ。

 

メタ視点的に見ても、過去作「カルタグラ」の主人公・高城秋五が「上月由良の捜索」と「上野の連続猟奇殺人事件」の板挟みになった結果、どちらも満足に捜査できなかったことを考えると、このような人員配置になったのはある種当然だと言える。

 

というか、こうでもしないとすでに長大なシナリオがもっと膨大なものになり、あまりの情報量の多さに頭がパンクする読者も現れかねない。

 

 


天恵会はもともと祠草未夜・小夜の兄にあたる美智男という人物が戦前に立ち上げた天恵ノ会という団体が大本である。
あまりに悪辣だったせいで彼はのちに謀殺されるが、その後この団体は千里教と名を改めて過去作「カルタグラ」に登場している。
(天恵ノ会 → 千里教 → 天恵会)

 

本作の前半部分で教団の名が示されたのは、連続殺人の被害者の一人が天恵ノ会の信者だったからだ。


事件自体は人形集落の因習と深く関わっているという描写がなされていたため、天恵ノ会については過去作との関連で登場したくらいの認識しかできないようにされていた。

 

しかし団体の創立者が「祠草」の血筋の者であり、真崎の旧友が教団に関わっていて、しかも本作のメインヒロインともいえる雪子が団体に引き込まれた段になると、ようやく玲人たちの物語とも深く絡まってくる。

 

物語の随所で描かれた「閉ざされた社会」「異常なまでの偏執(パラノイア)」といった要素がここにきても顔を出し、読者はより一層の衝撃を与えられることになる。

 

日常と非日常はつながっている、その差は主観的なものでしかない――とは阿久井の聖書でもある著作「電波的な彼女(3巻)」の一節であるが、これは本作でも当てはまる。

 

宗教色と狂気に塗れた猟奇殺人事件と、花も恥じらう女学生たちの日常がつながっていたなどと誰も想像しはしないだろう。

 

だが玲人たちが追い求めた「ヒンナサマの祟り」の真相と雪子は、とある人物を介して確かにつながっていたのである。

 

物語を読み進めるごとに登場人物たちを取り巻く関係性や背景が明るみになっていき、そのたび驚きのあまり息を飲んでしまう。
このカタルシスこそが本作の、ひいてはイノグレ作品の魅力と言えるかもしれない。

 

 

 

あとは、前作「殻ノ少女」のヒロインである朽木冬子という存在も大きい。

 

本作では回想シーンと特殊ルートにおけるIF展開でしか登場しないものの、彼女の存在こそが探偵・時坂玲人を突き動かす原動力になっている。

 

紫を始めとしたまわりの人々はそれを指して玲人が囚われている偏執(パラノイア)だといい、陰ながら心配している。それはもちろん我々読者も同様である。

 

彼はかつて婚約者を殺されたばかりか、自身の心に寄り添ってくれた少女を守れなかったという無念さを抱えている。


普段何でもないふうに振る舞っているのに、こと冬子のことになると平静さを失って、後悔のあまり取り乱す場面を読者は何度も目にしている。

 

本作における事件の本筋とは直接のかかわりのないサブテーマではあるが、彼女の行方を追い続けている玲人はこのあと、信じられない角度から予想外の事実を突きつけられることになる。

 

……まあ、本作冒頭における例のモノローグとこれまでの描写をあわせると、既に充分すぎるほど伏線がばらまかれている。


舞台を俯瞰して見れる読者側からすれば「ちょっ、玲人!! そこだよ気づけよ!!」というドリフ劇場のようなもどかしさがあってモヤモヤするが、物語の終盤ではキッチリと伏線を回収してから新たなフックを残していくためどうか安心して欲しい。(できない)

 

 

 

 

 

最後にひとつ、本作のゲームとしての一面から感想を述べておきたい。

 

ノベル系アドベンチャーゲームであれば、通常はいくつもの選択肢から正しい選択肢を選ぶことで良いエンディングを目指すのがお決まりになっている。当然それは本作でもそうなのだが……実は劇中のとある場面ではそのお決まりが通用しない。

 

プレイヤーである読者が知っている事実をありのままに答えてしまうとバッドエンドが確定してしまう展開があるのである。

 

確かに事件の追跡者たる探偵として、伝えてはいけない相手に情報を与えてしまうという言動は間違いなく最悪な行動であるため、物語の筋としてもそれは正しい展開だと言える。

 

ただ、旧版をプレイしていた最初の周回ではとにかく「正しい」選択を選ぶことにこだわりすぎるあまり、結果として悲惨なバッドエンドを何回も迎えてしまったものである。

 

とかく初見で最良のエンディングを迎えるのが難しいイノグレ作品だけあって、最終作である「天ノ少女」でも同様の罠を仕掛けてくるのではないかと戦々恐々しつつ、ひそかに楽しみにしている自分もいる。

そもそもTRUEルートを出すためには必ず周回しなければいけないのは通例なので、結局何回失敗しても挑戦し続けるのだが。

 

あと20日たらずで最終作が自宅に届くと思うと今から待ちきれない気持ちである。

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その6

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

・雑感

 

12月24日、玲人は紫の希望を聞き入れ、時坂家にてクリスマスパーティを開催することになった。


調査続きでプレゼントを用意しておらず、急遽買い物に出た玲人だったが、街中で歩に尾行されていたことに気づく。
昨年の事件解決以来、探偵助手にして欲しいと熱心に請われていたが、玲人にその意思はない。
しかし歩は何かにつけて有能なため、プレゼント選びを手伝ってもらうことになった。

 

帰り際、杏子へプレゼントを渡しがてら喫茶・月世界に立ち寄った玲人は、いつぞや店で会った常連客の女性と再会する。
そこで玲人は彼女――茅原冬見が紫の友人である雪子の母親だと知る。

 

その晩、時坂家には紫、小羽、雪子、歩、玲人、真崎が集まり、小規模ながら和やかにパーティーが開催されるのだった。

 

一方そのころ、八木沼は冬史を呼び出し、天恵会とは別件で追加調査を依頼していた。
調査内容は、雛神製薬に違法治験の疑いがあることについてである。
八木沼は事件関係者の中に雛神製薬に関わりのある者が多いことを知り、内々で捜査を続けていた。
この十数年、雛神製薬の社員が様々な理由で亡くなっていることに気づいた八木沼は、違法治験を隠ぺいしているのではないかと考えたのである。

 

玲人たちが人形集落へ出立した翌日、小羽は一人になった紫を心配していた。そこで彼女は雪子を誘い、時坂家に泊まることを願い出る。
その晩、紫は雪子から彼女が以前いた学校についての話を聞かされる。
雪子は前に居た学校でとても親しくしていた友人がいたが、転校前に亡くなってしまったらしい。
その話を聞いた紫は、雪子が転校してきた当初、学校で噂話が囁かれていたことを思い出す。
曰く、雪子がその友人を殺したのでは、という噂。
雪子の消極性が以前の学校での出来事に由来すると察した紫は、彼女にずっと側にいると約束するのだった。

 

丸一日をかけて人形集落へと到着した玲人と真崎は、村唯一の旅館である二見旅館に宿泊することを決める。


翌日、玲人は上層部の意向を無視して「ヒンナサマの祟り」を捜査し続けている閑職の刑事・戌亥と顔合わせする。
そこで玲人は「祟り」は十数年おきに起きていることを聞かされる。
真崎が集落にいた当時や、昭和4年に起きた事件。
さらに過去にさかのぼれば、大正11年3月に1件、明治末期に3件、同様の事件が起きているという。


一方そのころ、旅館で留守番をしていた真崎は雛神真理子に見つかってしまい、雛神家へと連行される。
そこで現当主・秋弦の父にあたる秀臣より、雛神家を継ぐことを命令されてしまう。


真崎は使用人である由果より、自分が出奔した後の出来事について聞いてみる。
曰く、小夜は出奔した真崎の捜索の最中に心不全で倒れ、黒矢医院の人間が看取ったということになっているらしい。
それはおそらく雛神家が家名を守るために方々に圧力をかけて殺人の事実を隠蔽したのだと真崎は察した。


そのあと真崎は、旅館から荷物を持ってきた憂も交えて会話する。
真崎はそこで改めて雛神家を継ぐ意思はないこと、後継ぎなら花恋がなればいいと考えていることを伝える。
しかし、真崎の無責任とも取れる発言に由果は激昂。
実は真崎が出征している間に、花恋は生まれつき子供が産めない身体だとわかったのだと告白される。

 

翌日、真崎は小夜のことを聞き出すために雛神家を抜け出し、祠草神社へ向かう。
宮司となった賢静より、小夜の死を病死と偽ったのは村の総意だったと聞かされる。
小夜が砂月と雛神理花の四肢を隠蔽していた土蔵の地下室も埋められていて、すべてはなかったことにされていた。


神社へ至る参道の鳥居にて、玲人は真崎と鉢合わせる。


二人はこれまでの経緯から、雛神家と祠草家が共謀し、祟りと称して人を殺し続けているという推論を共有する。
しかし、現時点では何ら証拠のない戯言に過ぎないこともわかっていた。


玲人は重ねて推理し続ける。
過去の祟りは天子が舞を踊った翌日に起きている。
であるならば、事件は天子本人か、天子を擁立する一団が起こしていると考えるのが自然である。
しかし、おそらくは最後の天子であっただろう砂月はすでに死んでいるにもかかわらず、現代でも祟りが起きている。祟りを起こしている人間がいる。
十数年おきに祟りが起きるのであれば、世代交代により新たな天子が顕現しているとも考えられるが……


改めて祠草神社にて話を聞こうと境内に向かうと、玲人と真崎は東京から戻ってきていた花恋と遭遇する。
復員以来、十数年ぶりに再会した真崎を前に花恋は感極まってしまい、話ができる状態ではなくなってしまう。


玲人は先に一人神社から立ち去るも、今度は花恋の帰郷に同行していたという菜々子と再会する。
曰く、仕事の都合で秋弦が帰れなくなったため、その代理とのことだった。


その日の晩、集落は大雪に見舞われる。
しかしそんな中、今度は由果が祟りの様相で殺されてしまう。


報せを受けた玲人は現場となった鳥居へ急行する。
戌亥刑事が言うには、玲人たちが現場に到着するまでにはあったはずの土人形がなくなっているという。
急いで境内に向かうと、雛神真理子が土人形を持ち出して壊してしまったところに行きつく。
彼女は言う。天子はいないのだから、祟りなど起こるはずがない――と。


隙を見て玲人は雛神家の神棚からヒンナサマの実物を確認し、土塊を採取する。
玲人は真崎に対し、真理子が破壊した土人形の残骸と合わせて東京へ持ち帰るように命じる。
先んじて東京へ戻ることになった真崎に、花恋も同行することになる。

 

その後、玲人は雛神家当主・秀臣への聞き取り調査を敢行する。
彼はこれまでに殺害された4人のうち、由果以外の3人は真崎の婚約者候補だったと認めた。
曰く、3人にはその資格はあるが、由果には資格がないらしい。
候補は他にもいるが、そのことは本人にも伝えておらず、誰が候補なのかは秀臣と秋弦しか知らないとのこと。

 

真崎たちを帰らせたあと、玲人は憂にも秘密裏に見合い話が来ていたことを知る。
相手は伏せられていたが、憂自身も真崎との縁談であることは察していたらしい。
つまり、憂には真崎の婚約者候補たる資格があるということになる。

 

玲人は戌亥刑事より、すでに時効を迎えている人形集落での事件資料を預かり、
菜々子と共に東京へと帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殻ノ少女の時と違って、虚ノ少女では連続殺人とは言いつつも、一件ごとの事件はそこそこ日が空いて実行されているため、必然玲人たちが事件を追う日数も長期にわたっている。

 

まあ犯人も人間なので、どこぞの「名探偵の孫」や「体は子供、頭脳は大人」な主人公らが登場する事件の犯人のように連日連夜人を殺したりするバイタリティなどありはしない。
(それこそオペラ座の怪人の言う通り「やることが多い……!」になってしまうし)

 

そのあたりも含めて本作は日常と事件とのバランスをかなり意識して丁寧に描いているので、そこも高評価なポイントであると感じる。


ただ物語の構造上、玲人たち追跡者側のメンツは常に後手に回ってしまうため、事件がなかなか解決しないもどかしさも併せてモヤモヤしてしまう読者もいるかもしれない。
(とはいえ、個人的にはそこも含めて現実的な描かれ方をしていると感じたが)

 


前作まではあまり目立っていなかったものの、八木沼が管理官として目端の利いた良い捜査指揮を執っているのもなかなかいい。

 

物語の冒頭で容疑者段階だった真崎を勢いで逮捕していたときには正直どうしたんだコイツと心配になったものの、玲人や冬史にそれぞれ別々の調査を依頼しつつ、自身もその裏取りをして証拠を固めるという抜け目のなさを発揮していた。

 

 

 


ただし本作をミステリーとして考えるなら、こと昭和32年に起きている連続殺人事件に関しては心ばかしのマイナス要素もある。

 

東京で起きていた事件が富山(人形集落)でも起きた、というのは確かに衝撃的な展開ではあった。


しかし人形集落でも事件が起きてしまったせいで、ここまでの描写でもすでに容易に犯人が特定可能な状況になってしまっているのである。

 

玲人が真崎に持ち帰らせた土塊の鑑定結果はすぐ後に語られることになるが、この情報を待たずしても「東京と富山の両方に存在できた人物」しか犯人たりえないことから、少なくとも実行犯が誰かという点については推理すら必要がなくなっている。

 

被害者の中には生きていれば容疑者たりうる者も含まれていたというのに、犯人自らが容疑者を減らしてしまっている。

 

過去作「カルタグラ」をプレイしている読者であれば猶更、犯行動機の推察も充分可能な状態になっているため、ミステリーとして見ると少々盛り上がりに欠ける展開と言えなくもない。

 

 

もっとも、この時点では犯人が単独なのかグループなのかまでは判定不可能なため、そこだけは厳然として謎が残っている。


玲人は戌亥刑事から「ヒンナサマの祟り」が何十年もの長期にわたって繰り返されている事件だと聞かされていることもあり、組織的犯行の線を捨てていない。

 

それにたとえ昭和32年時点で起きた事件については経緯の説明ができても、過去に人形集落で起きた事件とのつながりを考えるとまだまだ謎も闇も深い。


シナリオ構成をメタ的点に捉えるなら、昭和32年現在の事件は「ヒンナサマの祟り」という巨大な事件を紐解く切っ掛けにすぎないから謎の要素も少なくした、と言えるのかもしれないが。

 

 

 

事件の凄惨さに心を削られる読者にとって、日常パートは清涼剤のようにも思えたかもしれない。


ただしこれらをただ茫然と流し読みしていると、とんでもなく重要な伏線を見逃してしまう可能性があることは忠言しておきたい。

 

たとえば、クリスマスパーティーから年末に至るまでの間、とある人物の外見に些細な変化が見られるのだが、そこに気づけたなら拍手喝采

 

この時点で目敏く違いを見抜き、その意味を正しく推理できたなら、名探偵を名乗っても良いと個人的には思う。

 

あとから振り返った時、「なんでクリスマスの時点であの朴念仁は気づきやがらなかったんだ!?」と思ったとしても、そこは演出の妙である。


なぜなら、あの朴念仁が居る前ではその「些細な変化」が現れていなかったのだから。
(だとしても何やかんやあったのだから気づきそうなものだが、そこはヤツ自身が言う通り「思索は苦手」というのが大きかったのだろうが……)

 

 

 

さてさて、「天ノ少女」発売までに油断せずにどんどん復習していきたいものである。

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その5

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

・雑感

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
時は第二次世界大戦終結したあと(昭和20年=1945年末ごろ)に遡る。
 
後に真崎智之を名乗ることになる青年は、数多の同志が死にゆく中でたったひとりだけ日本へと帰還する。
砂月が殺され、その真実もわからぬまま放置され、ただ死に場所を求めて戦地に向かったはずなのに――彼は故郷である人形集落に戻ってきた。
 
すべては、無惨にも殺された砂月の復讐を果たすために。
 
どうして砂月は殺されなければならなかったのか。
まず青年は、彼女が何者だったのかを調べることにする。
 
生前、砂月があてがわれていたという神社の土蔵に侵入した青年は、長持ちの蓋の裏に残されたひっかき傷を見つける。
いくつも記された「アヤコ」という文字。これこそが砂月の本名だったのだろうか。
 
役所にて雛神家と祠草家の戸籍を調べても、それらしい名前は出てこない。
しかし、祠草未夜の兄について記録がなくなっていることから、両家が役所に圧力をかけ、戸籍の捏造をしていることがわかってしまう。


そうであるならば、砂月は誰かの隠し子だった可能性もある。
 
過去の新聞を調べているうち、昭和4年(=1929年)の3月に雛神秋弦の妻である理花が自殺したという記事を見つけてしまう。
しかも記事によれば、祭りの翌日に別の女性が殺害されたばかりであったとも記されていた。
 
数年ぶりに再会した戌亥刑事によると、これらの事件の第一発見者はどちらも祠草小夜だったとのこと。
また雛神秋弦は女癖が悪く、あちこちで愛人を作っていることが判明しており、先の被害者もその一人だったのではと推察されている。
そのため戌亥刑事は、秋弦および祠草家が事件を主導し、隠ぺい工作を図ったのではないかと考えているらしい。
 
また二見憂の祖母から伝え聞いた話によると、雛神家に嫁ぐ前、理花は天子だったのだという。
雛神家現当主の妻である真理子も元は天子だったとのこと。
村の老人たちはみな、村の外から招かれた「お客様」こそが天子であり、その天子が雛神家に輿入れするという風習を知っていたという。
 
これまでの話をまとめるならば、やはり砂月は天子だったことになる。
しかし出征前の祭りの夜、青年は天子が神楽を舞っている様子を他ならぬ砂月と共に見ている。
砂月が天子だったなら、舞を踊っていた女は誰だったというのか。
 
その日の晩、青年は事実を明らかにするべく、もう一度祠草神社の土蔵へと侵入する。
そこで青年は長持の底に隠されていた階段を発見し、土蔵の地下へと歩みを進める。
地下室には二つの行李が置かれていた。
だがその中身は、油紙に包まれた人間の両手足だった。
 
慄き土蔵へと戻った青年は、祠草小夜に不法侵入を見咎められ、母屋へと連れていかれる。
そこで青年は逆に小夜を問い詰めた。
 
砂月は天子だったのではないか。
それならあの祭りの夜、神楽を舞っていたのは誰だったのか。
 
小夜は答える。
――砂月は天子ではない。天子は別の者が勤め上げた。
 
青年は続けて問う。
それは「アヤコ」のことか。
砂月を殺したのは小夜なのか。
 
――「アヤコ」とは砂月の本名である。
――自分が彼女を殺しても何の得もない。
――しかし、彼女の遺体から四肢を切り取って保管したのは自分である。
 
小夜は青年が地下室から持ち出した両手足を奪い取ると、恍惚とした表情を浮かべながら語り続ける。
 
――地下室のもう一つの行李には、大好きだった雛神理花の両手足も保管してある……
 
あまりの妄言に青年はついに怒りを抑えきれなくなり、思わず小夜を絞め殺してしまう。
 
自分の過ちが恐ろしくなった青年は、行李ごと砂月の両手足を持ち出し、山中へと逃亡する。
そして人形集落を出奔する前に、いつかの隠れ家に行李を埋め、またいつかここに戻ってくると誓うのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 
※恐るべき母の独白
 
真崎から過去の過ちを聞き終えた玲人と八木沼は、一旦その話を保留にすることにした。
八木沼曰く、たとえ真崎の殺人が時効になっていなくとも、十数年前に片田舎で起こった事件ではろくな証拠など出るはずもなく、起訴にこぎつけないためだった。


連続殺人事件の捜査に戻るにあたって、玲人と真崎は菜々子に話を聞きに行くことにする。
めぐりの死亡推定時刻から察するに、菜々子がめぐりと会ったあとに訪れた客人が真犯人である可能性が高かったからである。
 
玲人たちは朽木病院の小児科で非常勤職員をしていた菜々子と面会する。
詳細は伏せながら、めぐりの腹部に埋め込まれていた土人形の写真を見せたところ、彼女はそれを指して「ヒンナサマ」であると証言した。


以前、菜々子と同郷であるはずの真崎にも同じように確かめたときにはわからないとの答えだったが、それは自分を始めとするほとんどの村人は実物を見たことがないからである、と彼は釈明した。
菜々子は戦前に人形集落で起きた殺人事件の第一発見者であったため、過去に土人形を目撃したことがあったのである。
 
これまでの連続殺人事件は、すべて人形集落で起きた事件と関わりがある。


玲人と真崎は「ヒンナサマの祟り」と呼ばれる事件を調査するため、数日中に人形集落へ出立することを決めるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
過去編「二部」はわりかし短めに終わる。というのも、従軍していた真崎が人形集落に帰ってきてから精々1週間程度のエピソードだからである。
 
中でも印象的なのは、やはり小夜の自白シーンだろう。あれは劇中屈指のホラー展開だといえる。どんなグロい死体の画像よりも精神的に迫って来る悍ましさがあった。
 
小夜が砂月や雛神理花の両手足をバラして保存していたのは、彼女たちを愛するが故というよりも、独占したい、支配したいという偏執(パラノイア)に囚われていたからである。それはもはや一種のネクロフィリア的嗜好であり、常人にはまったく理解しかねる狂気である。
 
そんな狂気を自分の大切な人たちに向けられて、彼女たちの死を冒涜されていると知ってしまったら……真崎が怒り狂うのも無理からぬことではあった。
 
ただ、真崎はこのあと自身の過ちによって人形集落に帰ることも砂月の無念を晴らすこともできず、ついには精神を病んでしまうことになる。
 
もしあのとき彼が踏みとどまっていたら……と考えてはみたものの、結局同様の展開になってしまったのではないかとも思えてしまった。
 
上述した通り人形集落では雛神家が圧倒的な権力を握っており、いわばやりたい放題な野放図がまかり通っている。彼はいちおう後継ぎの資格があったとはいえ、長らく村の暗部からは遠ざけられており、実情は何ひとつ知らない。
 
そんな彼が「ヒンナサマの祟り」の真実を知ったら、遅かれ早かれ雛神家を、ひいては小夜のことを許せなくなってしまったのではないだろうか。物語を一読した身からするとそう思えてしまう。
 
 
もし仮にそれすら彼が飲み含めて雛神家を継いだところで、昭和32年現在と同様の問題が解決されないままなので、結局は連続殺人に発展する可能性が高い。
 
そういう意味でも、このときすでに人形集落という閉ざされた社会は「詰んでいた」と言えるのかもしれない。
 
 
 
あとは、過去編から現代編へと戻る際に挿入されたモノローグについて。
 
物語の冒頭に「命が尽きる瞬間と思しき母の独白」があったと記録「その1」にて書き記したと思う。
今回のもシチュエーションこそ似ているものの、その内情は打って変わって悪意に満ちている。
 
我が子を単なる道具としてしか見なしていない、あまりにも邪悪で恐るべき母の独白。
 
この独白が何者によるもので、その悪意が誰に向けられていたのかは重大なネタバレのためもうしばらく伏せられることになる。
(まあ、勘のいい読者ならこの時点でも母だけなら何者かわかるかもしれないが)
 
ただ、全ての真実を知った読者は必ずこう思うことだろう。
「吐き気を催す邪悪」とはこのことである――と。