***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
プレイし終えてみての前置き
Nintendo Switch版「カルタグラ」が発売されてからちょうど2か月経った2週間前に、ようやく本作を読み終えました。
PS2版⇒原作PC版⇒FHDリメイク版ときて今回のSwitch版なので、少なくとも4回以上は「カルタグラ」の全シナリオを読み続けてきたわけですが、今回はFHD版の移植作ということなので、全シーンをFHD版と共に読み比べるという検証作業とセットで読破してみました。
結果として、おそらくFHD版との差異はほぼすべて網羅できたのではないかと自負していますが、変化が細やかすぎる部分も非常に多かったため、それらすべてをあげ連ねるのはやめておきたいと思います。
(列挙するだけで疲れますし、おそらくそこまで細かな差を知りたがる奇特なファンは私くらいしかいないでしょうし)
とはいえ、携帯ゲーム機であるニンテンドースイッチで「カルタグラ」が読めるというのは、原作が発売した2005年当時では考えもしなかったことでしたので、それだけでも感動の連続ではありました。
FHDリメイク版は18禁PCゲームであることから、ゲームの挙動は使用しているPCによって大きく異なるのだろうということは想像に難くありません。
実際、私が使用している低価格帯のデスクトップPCだと、会話の途中でキャラクターの表情や姿勢が切り替わる際、一瞬前の画像が見切れてから切り替わるという「微妙な間」があったんですよね。
それがSwitch版だと、スチルの切り替えもキャラクターの立ち絵の切り替えもぱっぱと速やかに変化するんですよ。「微妙な間」なんてコンマ数秒の待機時間など存在しない。
UIもSwitch向けに工夫が凝らされていましたし、「次の選択肢へ移動」「前の選択肢へ移動」を駆使することで、大変なルート分岐も楽々検証することができました。
あと個人的には、「エンディングリスト」がただの達成記録にとどまらず、シーン再生機能を兼ねていたことも非常に好感度が高いですね。
本作はあくまでコンシューマー向け移植されたアドベンチャーゲームですので、原作やFHDリメイク版にあったようなHシーンのシーン再生なんて搭載できるわけもありませんが、代わりにエンディングにいたる直前のシーンから読み始められて、エンドロールまで見られるのはなかなか親切だと感じます。
総じて、アドベンチャーゲームとしてはものすごく「読みやすい」部類であったと言っていいと思います。
心残りな点について
ただ――ただですよ?
今回、Switch版が発売するにあたって、新規描きおろしCGが追加されるというのが(大々的ではないにせよ)一つの宣伝文句になっていました。
しかしながら、全編通してみて追加されたCGは、以下の4つのみであり、シーン追加はされていないことが確認できました。
・END4「凛の幸せ」に至る前の秋五と凛の仲睦まじい挿絵
⇒FHDリメイク版で追加された凛とのHシーンに入る直前の会話シーンに追加された。(Hシーン自体はカット)
・「サクラメント編」の和菜ルートにおいて、秋五の下宿先にて秋五と再会した和菜とのキスシーン
⇒原作「サクラメント編」において和菜とのHシーンに移行する直前の会話シーンに追加された。(Hシーン自体はカット)
・END15「トゥルーエンド」(和菜エンド)に至る前の、秋五と和菜とのキスシーン
⇒FHD版で追加された和菜とのHシーンに移行する直前の会話シーンに追加された。(Hシーン自体はカット)
・END18「海の光」(由良エンド)に至る前の、布団で寝そべる全裸と思しき由良の肩口から上の部分だけを(秋五視点で)見下ろすセミヌードのシーン
⇒FHD版で追加された由良とのHシーンに移行する直前の会話シーンに追加された。(Hシーン自体はカット)
――まあ、この物語の正ヒロインは和菜なのですから、彼女が一番描き下ろしCGが追加されていることについては、何ら文句はありません。むしろ当然と言ってもいいかもしれません。
しかし……それにしたって追加CGが4点のみというのは、少しばかし寂しい結果ではありましたね。
FHDリメイク版では凛のほかに楼子や冬史の個別エンディングが追加されていたこともあったので、彼女たちにも何らかの追加があってもおかしくないと思っていたのですが、結果としては既存CGの拡大編集や画角カットに留まるものだけでした。こればかりはちょっと残念と言わざるを得ません。
既存CGの再編集という意味では、結構攻めたCGを使っているシーンもあったので、そこは驚かされたポイントではありました。
基本方針として「乳首は隠す」というCGの微修正・拡大編集が多岐にわたってなされていたのですが、「乳首さえ見えなきゃいいんだろ!?」と言わんばかりの雨雀のCGの数々や、上述した冬史との個別エンディングにおいてHシーン前後で用いられたCGを駆使してのセミヌード画像などなど。CERO規制に抗いつつも移植前のお色気要素の片鱗だけでも見せつけてやりたい……そんな思惑を勝手ながら感じ取ってしまいました。
その他もろもろについて
Switch版に移植されるにあたって、とにかく文章やセリフの編集がいたるところで細かくなされていました。
以前別記事でも言いましたが、殊更に性的な表現はNGということだったらしいのです。
たとえば、以下のような変化が見つかりました。
・年齢表記はすべて削除。
⇒劇中に何度か、秋五が新聞の記事を読むシーンがあるので、原作ではそこで登場人物たちの年齢が明らかになるのだが、Switch版では年齢は意図的に隠されている。
これは、秋五と由良が出会った年数と、新聞に表記される現時点での由良の年齢とを計算すると、由良が当時14歳以下であったことが簡単に計算できてしまうためだと思われる。
たとえZ指定作品であっても、20歳前後の青年が未成年者と不純な関係にあったと明言することは避けるべき、というCERO側からの指示だろうか。現代劇ならともかく、昭和中期の日本における人間関係にまで現在の価値観で表現規制を敷くのはどうかと思うが……
・芹・小雪が新造として客を取っている下りが全カット。
⇒そのせいか、END5「襲撃者」に至るシーンにおいて、千里教の地下施設で芹・小雪が強制売春の被害にあっている下りがものすごいぼかされているのが気にかかりました。
CGカット、セリフカットだけならまだしも、地の文を大量にカットしたうえに男のうめき声しか聞こえないんじゃ、「何が起こっているのか」想像するのは原作未読者ではかなり厳しかったのではないかと。
・初音ルートにおいて、初音が遊郭「雪白」の遊女になる日が近づいている、という下りが地の文やセリフのカットによってぼかされている
⇒PS2版と違ってSwitch版では雪白は「遊郭」で、そこで働く女性たちは「遊女」であると明言しているにもかかわらず、初音が「遊郭に上がる」ということが何を意味しているか自明であるにもかかわらず、それをぼかす意味とは……?
・END9「暗闇の光」に至るシーンにおいて、秋五が不良警官たちから散々な拷問・虐待を受ける下りの地の文が差し変わっている
⇒たとえば、原作だと「タバコの火を睾丸に押し付けた」という恐るべきシーンだったはずが「首筋に押し付けた」に変わっている、など。(それでも凶悪な拷問には違いないが)
・上野連続猟奇殺人事件の解決後、あらためて逗子に向かう列車内における秋五と和菜の会話において、秋五が由良と知己であったと説明するセリフの一部がカット
⇒由良と交際していたことを認めるくだりまではそのままだが、秋五がやけっぱちになって和菜から嫌われるために「オレは、お前の姉を、何度も抱いたんだ」と直接的な表現をする一連の下りがカットされている。
結果としてSwitch版では「秋五と由良は恋人関係だった」ことまでは明言しているものの、実際にどんなやり取りがあったのか(肉体関係があったのか)について和菜は推察した、という表現で統一されている。
そのほかだと、物語上の整合性や画面の見やすさなどを整えるための修正というのも大量になされているようでした。
・時系列周りの細かな修正が至る場所で確認できた。
(例1)
たとえば、2月7日の秋五と和菜とがミルクホールで会話したあとの地の文において、由良と思しき女が葵町で目撃されたのは「一週間前」ではなく「二週間前」に修正。
(例2)
上野連続猟奇殺人事件の解決後、逗子から東京に戻ってきた直後に秋五は警察に連行されたが、その様子を報じた新聞が「2月18日朝刊」ではなく「2月19日朝刊」に書き換わっていた。確かに、秋五が2月18日の夜に逗子から東京に戻ってきてそのまま警察に連行されたなら、その様子を最速で報じることができるのは翌日である「2月19日朝刊」のはず。
(例3)
秋五の部屋に匿った時子を冬史が尋問する際、死の腕の幹部の情婦・雹と思しき女が逃げ出した時期が「二週間前」と明言するセリフがまるまるカットされた。
尋問が行われたのは2月22日。二週間前ということは2月8日。しかし、実際に雹が行方をくらましたのは「2月8日の二週間前」であるはずなので、尋問の時点から数えると四週間前というのが正しい。セリフの再録をせず、周辺台詞をカットすることで整合性をとったらしい。
(例4)
千里教にまつわる事件の【黒幕】が由良を世話していたと秋五に説明する際のセリフが「二年間」ではなく「三年間」に変わっていた。
Switch版において、基本的に女性陣セリフの追加・修正はなかったと認識している。既存のセリフをカットしたり順番を入れ替えたりすることはあっても新録はない――はずである。(ごく一部、秋五のセリフが新録されたかも、という部分はあるにはあったが)
しかし、ここでの【黒幕】のセリフの話口調は聞き覚えがないのも事実。明らかにFHDリメイク版にも原作にもなかった音声なのである。もしやPS2版の音声か、とも思ったが、それも違うらしい。だとすると、別のシーンから「さん」という発音のセリフを探しだし、違和感がないように音声を切り張りをした、ということなのか……?
⇒実はこの「黒幕が由良を世話していた期間」については、10年前に阿久井がしたためた別記事 においてもかなり細かく検証した部分だったので、この修正が加わったのは実に興味深い変化である。これで由良の過去にまつわる時系列の整合性が取れるようになった。
・立ち絵を引きで表示するのではなく、顔面をズームアップするシーンが増やされていた。
⇒会話中の位置関係の都合から、明らかに相手が秋五と顔を近づけていた場合にズームアップに直されるのはもとより、登場人物からの「圧力」を感じさせるための演出として、ズームアップ表示に直されたと思われるシーンも散見されました。
たとえば、千里教の入信者に成りすまして「宣託の巫女」に話を聞こうとした秋五に対して、時子が警告のセリフを発するするシーンなど。
・基本的に夜の屋内のシーンは「明かり一つない真っ暗な部屋」ではなく「窓の外から街灯か月明かりが差し込んでいる部屋」であるとしてCGの光量が修正されている
⇒FHDリメイク版で地味に気になっていた部分で、真っ暗な部屋で登場人物たちが会話すると立ち絵も含めて薄暗い配色になっており、そんなシーンが少なからずあったので画面が見づらく感じていたのだが、Switch版では暗い部屋での立ち絵は光量が絶妙に調整されていて見づらさは感じなかった。
――総じて、ただ漫然とSwitch版へと移植するのではなく、シナリオの整理を含めて徹底的にやってやる、という強い意気込みを感じる修正の数々で、非常に驚かされた。
原作を何度も読んでいる自分ですら見落としていたような部分にまで修正が入るとは、凄まじい仕事量だったろうに……その熱意には文句なしに敬意を表したいと思う。
まとめ
原作が発売された2005年当時には、まさかゲーム機器がここまでの進化を遂げるとは想像もしていなかったし、まさか「カルタグラ」を手元で読めるようになるとも思ってはいなかったが、コンシューマ移植作品としてはかなり上等な出来栄えになっているように思えた。
驚かされたのは、原作18禁版におけるエログロシーンのうち「グロ」の要素については微修正にとどまるだけで、大筋そのまま採用しているシーンがほとんどだったことだろうか。例の鉄柵のシーンとか、PS2版では画角カットで首から上は見えないように修正されていたものだが、Switch版では目元にうっすらと影が差していることにして画像自体はそのまま使っていて、依然として痛々しいのなんのって……恐れ入りましたよ。
Switch版ではほぼすべてのエロ要素は排除されており、あったとしてもお色気描写にとどまっているので、ミステリのシナリオだけを楽しめればよいという人にとっては充分な内容になっていたのではないかと。
とはいえ、会話の流れから「あ、このあとHシーンに入るんだな?」という直前でシーン暗転・切り替えがたびたび差し挟まれるので、そこで何があったのか気になるという場合には、やはりFHDリメイク版を読むことをお勧めすることになるだろう。
(非常にエロティックなCGの数々に驚くことになるかもしれないが、それも「カルタグラ」の魅力の一つでもあるわけなので、気になるならば是非に)
はてさて、これにて「カルタグラ」は本当の本当に物語の終焉を迎えてしまったのかもしれないと考えると、やはり一抹の寂しさはぬぐえないものがある。
降ってわいたような移植話で、1年近く楽しみに過ごさせてもらったが、なんやかんやSwitch版を通して改めて「カルタグラ」の魅力を再確認できた2か月間だったように思う。
イノセントグレイでは現在、「カルタグラ」のトゥルーエンド後の時系列にて、別主人公・時坂玲人を据えた「カラノショウジョシリーズ」3部作のセット販売に向けていろいろと準備していると報じられている。
併せて、何か最新作の開発も並行しているということらしいので、そちらについても気長に待つことにしたい。
ーー追伸
Switch版「カルタグラ」の初回限定版付属冊子「雪中花」についてだが、描かれているのはEND18「海の光」(由良エンド)の後日談になっている。
これらはイノグレ作品群からすると正史ではなくif展開の後日談にはなってしまうが、あの後どうなったのかを知ることのできる唯一無二の作品であるので、気になるならばなんとかして初回限定版を手に入れてほしいところである。
