悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その6

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

・雑感

 

12月24日、玲人は紫の希望を聞き入れ、時坂家にてクリスマスパーティを開催することになった。


調査続きでプレゼントを用意しておらず、急遽買い物に出た玲人だったが、街中で歩に尾行されていたことに気づく。
昨年の事件解決以来、探偵助手にして欲しいと熱心に請われていたが、玲人にその意思はない。
しかし歩は何かにつけて有能なため、プレゼント選びを手伝ってもらうことになった。

 

帰り際、杏子へプレゼントを渡しがてら喫茶・月世界に立ち寄った玲人は、いつぞや店で会った常連客の女性と再会する。
そこで玲人は彼女――茅原冬見が紫の友人である雪子の母親だと知る。

 

その晩、時坂家には紫、小羽、雪子、歩、玲人、真崎が集まり、小規模ながら和やかにパーティーが開催されるのだった。

 

一方そのころ、八木沼は冬史を呼び出し、天恵会とは別件で追加調査を依頼していた。
調査内容は、雛神製薬に違法治験の疑いがあることについてである。
八木沼は事件関係者の中に雛神製薬に関わりのある者が多いことを知り、内々で捜査を続けていた。
この十数年、雛神製薬の社員が様々な理由で亡くなっていることに気づいた八木沼は、違法治験を隠ぺいしているのではないかと考えたのである。

 

玲人たちが人形集落へ出立した翌日、小羽は一人になった紫を心配していた。そこで彼女は雪子を誘い、時坂家に泊まることを願い出る。
その晩、紫は雪子から彼女が以前いた学校についての話を聞かされる。
雪子は前に居た学校でとても親しくしていた友人がいたが、転校前に亡くなってしまったらしい。
その話を聞いた紫は、雪子が転校してきた当初、学校で噂話が囁かれていたことを思い出す。
曰く、雪子がその友人を殺したのでは、という噂。
雪子の消極性が以前の学校での出来事に由来すると察した紫は、彼女にずっと側にいると約束するのだった。

 

丸一日をかけて人形集落へと到着した玲人と真崎は、村唯一の旅館である二見旅館に宿泊することを決める。


翌日、玲人は上層部の意向を無視して「ヒンナサマの祟り」を捜査し続けている閑職の刑事・戌亥と顔合わせする。
そこで玲人は「祟り」は十数年おきに起きていることを聞かされる。
真崎が集落にいた当時や、昭和4年に起きた事件。
さらに過去にさかのぼれば、大正11年3月に1件、明治末期に3件、同様の事件が起きているという。


一方そのころ、旅館で留守番をしていた真崎は雛神真理子に見つかってしまい、雛神家へと連行される。
そこで現当主・秋弦の父にあたる秀臣より、雛神家を継ぐことを命令されてしまう。


真崎は使用人である由果より、自分が出奔した後の出来事について聞いてみる。
曰く、小夜は出奔した真崎の捜索の最中に心不全で倒れ、黒矢医院の人間が看取ったということになっているらしい。
それはおそらく雛神家が家名を守るために方々に圧力をかけて殺人の事実を隠蔽したのだと真崎は察した。


そのあと真崎は、旅館から荷物を持ってきた憂も交えて会話する。
真崎はそこで改めて雛神家を継ぐ意思はないこと、後継ぎなら花恋がなればいいと考えていることを伝える。
しかし、真崎の無責任とも取れる発言に由果は激昂。
実は真崎が出征している間に、花恋は生まれつき子供が産めない身体だとわかったのだと告白される。

 

翌日、真崎は小夜のことを聞き出すために雛神家を抜け出し、祠草神社へ向かう。
宮司となった賢静より、小夜の死を病死と偽ったのは村の総意だったと聞かされる。
小夜が砂月と雛神理花の四肢を隠蔽していた土蔵の地下室も埋められていて、すべてはなかったことにされていた。


神社へ至る参道の鳥居にて、玲人は真崎と鉢合わせる。


二人はこれまでの経緯から、雛神家と祠草家が共謀し、祟りと称して人を殺し続けているという推論を共有する。
しかし、現時点では何ら証拠のない戯言に過ぎないこともわかっていた。


玲人は重ねて推理し続ける。
過去の祟りは天子が舞を踊った翌日に起きている。
であるならば、事件は天子本人か、天子を擁立する一団が起こしていると考えるのが自然である。
しかし、おそらくは最後の天子であっただろう砂月はすでに死んでいるにもかかわらず、現代でも祟りが起きている。祟りを起こしている人間がいる。
十数年おきに祟りが起きるのであれば、世代交代により新たな天子が顕現しているとも考えられるが……


改めて祠草神社にて話を聞こうと境内に向かうと、玲人と真崎は東京から戻ってきていた花恋と遭遇する。
復員以来、十数年ぶりに再会した真崎を前に花恋は感極まってしまい、話ができる状態ではなくなってしまう。


玲人は先に一人神社から立ち去るも、今度は花恋の帰郷に同行していたという菜々子と再会する。
曰く、仕事の都合で秋弦が帰れなくなったため、その代理とのことだった。


その日の晩、集落は大雪に見舞われる。
しかしそんな中、今度は由果が祟りの様相で殺されてしまう。


報せを受けた玲人は現場となった鳥居へ急行する。
戌亥刑事が言うには、玲人たちが現場に到着するまでにはあったはずの土人形がなくなっているという。
急いで境内に向かうと、雛神真理子が土人形を持ち出して壊してしまったところに行きつく。
彼女は言う。天子はいないのだから、祟りなど起こるはずがない――と。


隙を見て玲人は雛神家の神棚からヒンナサマの実物を確認し、土塊を採取する。
玲人は真崎に対し、真理子が破壊した土人形の残骸と合わせて東京へ持ち帰るように命じる。
先んじて東京へ戻ることになった真崎に、花恋も同行することになる。

 

その後、玲人は雛神家当主・秀臣への聞き取り調査を敢行する。
彼はこれまでに殺害された4人のうち、由果以外の3人は真崎の婚約者候補だったと認めた。
曰く、3人にはその資格はあるが、由果には資格がないらしい。
候補は他にもいるが、そのことは本人にも伝えておらず、誰が候補なのかは秀臣と秋弦しか知らないとのこと。

 

真崎たちを帰らせたあと、玲人は憂にも秘密裏に見合い話が来ていたことを知る。
相手は伏せられていたが、憂自身も真崎との縁談であることは察していたらしい。
つまり、憂には真崎の婚約者候補たる資格があるということになる。

 

玲人は戌亥刑事より、すでに時効を迎えている人形集落での事件資料を預かり、
菜々子と共に東京へと帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AAA

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その5

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

・雑感

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時は第二次世界大戦終結したあと(昭和20年=1945年末ごろ)に遡る。
 
後に真崎智之を名乗ることになる青年は、数多の同志が死にゆく中でたったひとりだけ日本へと帰還する。
砂月が殺され、その真実もわからぬまま放置され、ただ死に場所を求めて戦地に向かったはずなのに――彼は故郷である人形集落に戻ってきた。
 
すべては、無惨にも殺された砂月の復讐を果たすために。
 
どうして砂月は殺されなければならなかったのか。
まず青年は、彼女が何者だったのかを調べることにする。
 
生前、砂月があてがわれていたという神社の土蔵に侵入した青年は、長持ちの蓋の裏に残されたひっかき傷を見つける。
いくつも記された「アヤコ」という文字。これこそが砂月の本名だったのだろうか。
 
役所にて雛神家と祠草家の戸籍を調べても、それらしい名前は出てこない。
しかし、祠草未夜の兄について記録がなくなっていることから、両家が役所に圧力をかけ、戸籍の捏造をしていることがわかってしまう。


そうであるならば、砂月は誰かの隠し子だった可能性もある。
 
過去の新聞を調べているうち、昭和4年(=1929年)の3月に雛神秋弦の妻である理花が自殺したという記事を見つけてしまう。
しかも記事によれば、祭りの翌日に別の女性が殺害されたばかりであったとも記されていた。
 
数年ぶりに再会した戌亥刑事によると、これらの事件の第一発見者はどちらも祠草小夜だったとのこと。
また雛神秋弦は女癖が悪く、あちこちで愛人を作っていることが判明しており、先の被害者もその一人だったのではと推察されている。
そのため戌亥刑事は、秋弦および祠草家が事件を主導し、隠ぺい工作を図ったのではないかと考えているらしい。
 
また二見憂の祖母から伝え聞いた話によると、雛神家に嫁ぐ前、理花は天子だったのだという。
雛神家現当主の妻である真理子も元は天子だったとのこと。
村の老人たちはみな、村の外から招かれた「お客様」こそが天子であり、その天子が雛神家に輿入れするという風習を知っていたという。
 
これまでの話をまとめるならば、やはり砂月は天子だったことになる。
しかし出征前の祭りの夜、青年は天子が神楽を舞っている様子を他ならぬ砂月と共に見ている。
砂月が天子だったなら、舞を踊っていた女は誰だったというのか。
 
その日の晩、青年は事実を明らかにするべく、もう一度祠草神社の土蔵へと侵入する。
そこで青年は長持の底に隠されていた階段を発見し、土蔵の地下へと歩みを進める。
地下室には二つの行李が置かれていた。
だがその中身は、油紙に包まれた人間の両手足だった。
 
慄き土蔵へと戻った青年は、祠草小夜に不法侵入を見咎められ、母屋へと連れていかれる。
そこで青年は逆に小夜を問い詰めた。
 
砂月は天子だったのではないか。
それならあの祭りの夜、神楽を舞っていたのは誰だったのか。
 
小夜は答える。
――砂月は天子ではない。天子は別の者が勤め上げた。
 
青年は続けて問う。
それは「アヤコ」のことか。
砂月を殺したのは小夜なのか。
 
――「アヤコ」とは砂月の本名である。
――自分が彼女を殺しても何の得もない。
――しかし、彼女の遺体から四肢を切り取って保管したのは自分である。
 
小夜は青年が地下室から持ち出した両手足を奪い取ると、恍惚とした表情を浮かべながら語り続ける。
 
――地下室のもう一つの行李には、大好きだった雛神理花の両手足も保管してある……
 
あまりの妄言に青年はついに怒りを抑えきれなくなり、思わず小夜を絞め殺してしまう。
 
自分の過ちが恐ろしくなった青年は、行李ごと砂月の両手足を持ち出し、山中へと逃亡する。
そして人形集落を出奔する前に、いつかの隠れ家に行李を埋め、またいつかここに戻ってくると誓うのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 
※恐るべき母の独白
 
真崎から過去の過ちを聞き終えた玲人と八木沼は、一旦その話を保留にすることにした。
八木沼曰く、たとえ真崎の殺人が時効になっていなくとも、十数年前に片田舎で起こった事件ではろくな証拠など出るはずもなく、起訴にこぎつけないためだった。


連続殺人事件の捜査に戻るにあたって、玲人と真崎は菜々子に話を聞きに行くことにする。
めぐりの死亡推定時刻から察するに、菜々子がめぐりと会ったあとに訪れた客人が真犯人である可能性が高かったからである。
 
玲人たちは朽木病院の小児科で非常勤職員をしていた菜々子と面会する。
詳細は伏せながら、めぐりの腹部に埋め込まれていた土人形の写真を見せたところ、彼女はそれを指して「ヒンナサマ」であると証言した。


以前、菜々子と同郷であるはずの真崎にも同じように確かめたときにはわからないとの答えだったが、それは自分を始めとするほとんどの村人は実物を見たことがないからである、と彼は釈明した。
菜々子は戦前に人形集落で起きた殺人事件の第一発見者であったため、過去に土人形を目撃したことがあったのである。
 
これまでの連続殺人事件は、すべて人形集落で起きた事件と関わりがある。


玲人と真崎は「ヒンナサマの祟り」と呼ばれる事件を調査するため、数日中に人形集落へ出立することを決めるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
過去編「二部」はわりかし短めに終わる。というのも、従軍していた真崎が人形集落に帰ってきてから精々1週間程度のエピソードだからである。
 
中でも印象的なのは、やはり小夜の自白シーンだろう。あれは劇中屈指のホラー展開だといえる。どんなグロい死体の画像よりも精神的に迫って来る悍ましさがあった。
 
小夜が砂月や雛神理花の両手足をバラして保存していたのは、彼女たちを愛するが故というよりも、独占したい、支配したいという偏執(パラノイア)に囚われていたからである。それはもはや一種のネクロフィリア的嗜好であり、常人にはまったく理解しかねる狂気である。
 
そんな狂気を自分の大切な人たちに向けられて、彼女たちの死を冒涜されていると知ってしまったら……真崎が怒り狂うのも無理からぬことではあった。
 
ただ、真崎はこのあと自身の過ちによって人形集落に帰ることも砂月の無念を晴らすこともできず、ついには精神を病んでしまうことになる。
 
もしあのとき彼が踏みとどまっていたら……と考えてはみたものの、結局同様の展開になってしまったのではないかとも思えてしまった。
 
上述した通り人形集落では雛神家が圧倒的な権力を握っており、いわばやりたい放題な野放図がまかり通っている。彼はいちおう後継ぎの資格があったとはいえ、長らく村の暗部からは遠ざけられており、実情は何ひとつ知らない。
 
そんな彼が「ヒンナサマの祟り」の真実を知ったら、遅かれ早かれ雛神家を、ひいては小夜のことを許せなくなってしまったのではないだろうか。物語を一読した身からするとそう思えてしまう。
 
 
もし仮にそれすら彼が飲み含めて雛神家を継いだところで、昭和32年現在と同様の問題が解決されないままなので、結局は連続殺人に発展する可能性が高い。
 
そういう意味でも、このときすでに人形集落という閉ざされた社会は「詰んでいた」と言えるのかもしれない。
 
 
 
あとは、過去編から現代編へと戻る際に挿入されたモノローグについて。
 
物語の冒頭に「命が尽きる瞬間と思しき母の独白」があったと記録「その1」にて書き記したと思う。
今回のもシチュエーションこそ似ているものの、その内情は打って変わって悪意に満ちている。
 
我が子を単なる道具としてしか見なしていない、あまりにも邪悪で恐るべき母の独白。
 
この独白が何者によるもので、その悪意が誰に向けられていたのかは重大なネタバレのためもうしばらく伏せられることになる。
(まあ、勘のいい読者ならこの時点でも母だけなら何者かわかるかもしれないが)
 
ただ、全ての真実を知った読者は必ずこう思うことだろう。
「吐き気を催す邪悪」とはこのことである――と。

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その4

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

・雑感

紫の誘いに応じて美術部に加入した雪子は、少しずつ打ち解けるようになった。

小羽が言うには、彼女は幼いころに雪子と同じ保育施設で仲良く遊んでいたはずなのだが、当の雪子自身はそのことを覚えていなかった。雪子は昔から「忘れっぽい」のだという。

 

12月も中旬に差し掛かるころ、東京に一人の来訪者が現れる。嵩宮めぐりである。

彼女はある人物を探すため人形集落を発ち、東京は上野までやって来ていた。

人探しを依頼するための探偵を探していた彼女は、たまたま出くわした冬史より、時坂探偵事務所を紹介される。

 

同じころ、真崎は朽木病院を退院した。しかし真崎は自殺を図るにあたって借家を引き払っており、どこにも帰る場所がなかった。

連続殺人事件の重要参考人でもある真崎を野放しにするわけにもいかず、玲人は探偵助手という名目で真崎を雇い、監視をすることにした。

 

玲人が事務所を留守にしている間、めぐりが人探しの依頼をしにやって来る。来客対応していた真崎は、そんなめぐりを見て思わず彼女のあだ名を告げてしまう。

真崎こそ、めぐりが探していた張本人だったのだ。

 

真崎が自殺を図った理由は、故郷である人形集落の出身者に見つかったことで、実家に居場所が知られてしまったからである。

所在が割れてしまえば、彼は実家を継ぐために見合い結婚させられてしまう。

しかし真崎には、実家を倦んでいると同時に、どうしても故郷に帰ることができない事情があった。

 

偽名を使って暮らしている真崎を慮って、めぐりは深くは追及しなかったが、彼女もまた使命を帯びて上京してきた身である。

というのも、その真崎の見合い相手というのがめぐり自身だったのである。

彼女が言うには、以前にも何人か見合いの候補が居たらしいが、種々の事情によりご破算になり、めぐりに話が回って来たらしい。

 

だが、真崎は人形集落に戻るつもりはなく、実家を継ぐ意思もないことをめぐりに伝えた。真崎の回答を予期していためぐりは彼の意を酌み、人形集落へ戻っても真崎を見つけることはできなかったと伝えるつもりであると言ってくれた。

 

 一方そのころ、玲人は連続猟奇殺人事件の捜査が進展しないことを危惧していた。

そこで玲人は、最初の被害者と面識がありながら素性の判然としない真崎の過去を調べることで事件へのアプローチを試みる。

その手段として玲人は、かつて真崎のカウンセリングを担当していた精神科医を訪ねることにした。

その医師の名は、六識命。かつて玲人の恋人を含め何人もの女性を惨殺し、2年前の猟奇殺人事件を教唆した疑いで今なお警視庁の代用監獄に留置され続けている男である。

ろくに口を開こうとしない六識だったが、 玲人が提示した推理に対して彼は静かに首肯する。

 

真崎が頑なに素性を隠す理由。それは、彼が殺人を犯して逃亡中の身だからである――と。

 

 

一方そのころ、玲人から自由行動を許された真崎はめぐりの観光につきあっていた。
真崎はお茶の水にあるホテルにめぐりを送り返したあと、めぐりを訪ねてきた菜々子と遭遇しそうになり、隠れるように逃げ帰った。

 

その日の晩、めぐりは連続殺人の犠牲者となってしまう。

翌日、玲人は八木沼からの報せを受けて事件を知る。


3人の被害者のうち2人も関わりがあった真崎は、再び重要参考人として連行されることになる。

 

いよいよもって、事件の中心に真崎がいることが濃厚になってきたため、玲人は警察のつてを頼りに真崎の過去の記録を読み返す。


従軍名簿によれば、真崎という人物は戦場にて病死していることが判明。
しかし、本物の真崎が組み込まれていた師団の中に、たった一人だけめぐりと同じ人形集落の出身者が含まれていた。

 

玲人はその人物こそ真崎の名を騙っている張本人であると看破する。

 

ついに身元を明かされた真崎は、復員後に殺人を犯したのち、10年近く東京に潜伏していたことを自供するのだった。

 

 

 

 

 

 

ついに起きてしまった第3の殺人。

ここから「ヒンナサマの祟り」事件は一気に進行していく……と思いきや、この直後から再び過去編が始まるため、またしばらくの間は昭和32年の世界からはサヨナラすることになる。

 

さて、物語も中盤に差し掛かるかといったところでようやく真崎の正体が明らかになった。

まあ、玲人が真崎の本名を指摘する際に表示される選択肢は3つしかないうえ、そもそもここまで話を読んでいた読者であれば、彼が何者かなんてことはわかりきっていたことだろう。

 

ここまでの真崎の印象としては、「何か」から逃れることばかり考えている覇気もやる気もないダメなオッサンというイメージしか与えられていない。それはひとえに「燃え尽きてしまった」ことが原因なわけだが、その経緯はまもなく語られることになる。

 

 

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その3

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・余談

 ついについに、ようやっと発表されました。

 

殻ノ少女」シリーズ3作目にして完結作、「天ノ少女」の発売日は2020年12月25日と相成りました!!!!!

 

いやあ本当にめでたい。この日をどれだけ心待ちにしてきたことか。これでまた一つ、長生きしなければならない理由ができてしまいました。この物語の結末を見ずして死ぬことなど絶対にできませんからね……!!!

 

 

 

・雑感

祭りの翌朝、黒矢医院へ出勤する道中で菜々子は異臭を嗅ぎつける。

看護婦の立場ゆえ村民の安否を確認すべく菜々子は臭いの元となる民家に立ち入る。そこで彼女は、惨殺された女性の遺体を発見する。

その女性は両腕を梁に結わかれて、あたかも磔のように吊るされたうえ、腹部が不自然なほどに大きく膨らんでいた。

 

通報を受けて臨場した富山県警の戌亥(いぬい)は遺体を確認するや、鑑識を待たずに腹部の縫い目を断ち切り、腹の中身を検める。腹に詰められていたのは、両手に収まるほどの大きさをした土人形であった。

 

女性の死は瞬く間に集落中に広がり、村民たちは口をそろえてこう言った。

「ヒンナサマの祟り」があったのだと。

願いを叶えるために「ヒンナサマ」を隠れて祀った罰が下ったのだと。

 

十数年前、年号が昭和に変わる以前にも、これと酷似した殺人事件が起きていることを戌亥は知っていた。その時も三月三日の祭りの翌日に事件が発覚し、いまだ犯人が捕まっていないことも。

 

しかし村人たちは祟りを恐れて思考停止してしまい、碌な証拠も証言も集まらず、捜査は難航する。とはいえ戌亥は、「祟り」の名を借りた殺人を繰り返している犯人がいると確信して村に留まり続けた。

 

一方、砂月は事件の直後から祠草神社に引きこもりがちになった。あてがわれた蔵の中で彼女はひたすら人形と対話を続ける。

彼女は言う。

どうして実際に手を下した「あなた」より、見ていただけの「自分」の方がまいっているのか。

どうして理人を奪ってしまうのか。

彼女は答える。

そんなつもりはない。自分はもうすぐ消えなければならないのだから――と。

 

そのしばらく後、砂月は何者かに扼殺されてしまう。

 

翌日、砂月に会いに祠草神社へ向かっていた理人と尚織は、境内に至る参道の鳥居に吊るされた砂月の遺体を発見する。彼女の遺体からは四肢が喪われており、その異様を見た理人は深く慟哭するのだった。

  

砂月の死後、日本は第二次世界大戦へと突き進み、戦禍の混乱の中で事件は迷宮入りすることになる。

 

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時は昭和32年(1957年)12月へと戻る。

妹・紫から悲壮感溢れる電話を受けた玲人は朽木病院へと急行した。

紫曰く、公園で自殺を図っていた男性を発見したはいいものの輸血が必要な状態であり、血液型が合う者として玲人しか思い浮かばなかったのだという。

 

手術の結果、男は一命を取り留めるものの、予断を許さない状況が続いた。

 

彼はなぜ死のうとしたのか。理由が気になる一方で、紫は編入生である雪子のことも心配していた。

編入してからひと月ほど経つものの、いつも一人で誰とも打ち解けていない。そこで紫は、雪子を美術部に勧誘することにした。

雪子はまだまだぎこちない態度ながら、幽霊部員である小羽ともども3人で友好を深めていくのだった。

 

※未散イベント

 

かたや玲人は朽木病院の看護婦が惨殺された事件の捜査を進めていた。殺害状況の異常性や、彼女がおよそ2年前まで精神科を担当していたことから、かつて玲人が捕らえた猟奇殺人鬼・六識が事件の手引きをしている可能性が頭を掠める。しかし、まだ憶測の域を出ない推論である。

 

看護婦が殺された理由もわからないまま、今度は調布にて第二の被害者が発見される。

 

殺害された女性は看護婦と同様、磔刑を思わせるように両腕を縄で吊るされており、腹部には胎児を模したと思しき土人形を押し込まれていた。

 

被害者の殺害時の状況は一般公開されていない。つまり、ほぼ確実に同一犯による犯行である。

 

現場の指揮を執っていた八木沼は、遺留物のペンダントから被害者がカルト教団「千里教」の関係者であることに気が付く。

「千里教」は6年前、玲人の同業者である高城秋五が関わった猟奇殺人事件をきっかけとして解体されていたが、その残党とも呼べる者たちが「天恵会」と名を変えて存続していることが明らかになる。

 

玲人は八木沼の仲介で、当時の事件関係者でフリージャーナリストの蒼木冬史と手を組むことになる。

 

いずれの被害者も儀式めいた方法で殺害されていることから「天恵会」の関与を疑うが、会の代表者である織部は事件とは無関係であると主張する。

 

そのころ、自殺未遂の末に昏睡状態だった男・真崎が目を覚ます。真崎には2件の殺人事件に関与できないことはわかっていたが、彼の捨て鉢な態度が気に食わず、玲人は語気を強めて詰ってしまう。

 

捜査に進展がないまま数日が経過したとある夜、玲人は喫茶・月世界から帰っていく女学生が忘れ物をしていることに気づく。

少女が忘れていったものは、2年前に冬子を連れ去ったまま逃亡を続けている連続殺人犯が記した小説だった。

少女に追いついた玲人は思わず、彼女に本の感想を聞いてしまう。

 

少女は語る。この物語の主人公は、本当の母親の愛情を求めてさ迷っていたのだと。その気持ちが、自分にもわかると。

 

茫洋としていながら、どこか儚さもある少女に玲人は冬子の面影を見る。

 

それが、玲人と茅原雪子との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……さて、これにて超長大な過去編の「一部」は終了である。

 

ついに本作の事件の根幹を担う「ヒンナサマの祟り」が始動し、物語は次々と動き始めることになる。

 

ここまでに登場した犯人視点の描写や砂月の奇妙な一人語りの様子から、彼女が殺人事件に関与しているであろうことは大方の読者は予想済みであろうと思う。しかし、ここにきてその本人が殺害されるという急展開ぶりに驚いた読者は多かったのではないだろうか。

 

精神科医である黒矢弓弦の見立て通りなら、砂月は多重人格障碍者ということになる。だが、彼女の一人語りの最後は「砂月は砂月の首に手を伸ばした」といった文体で締めくくられる。

 

彼女が自殺ではなく他殺であることは、一人語りの直後に表れたスチルによって明確に示されている。倒れた彼女の首筋にロープ痕ではなく両手の痕がついていたということは、確実に他者の手にかけられたということである。しかもそのスチルが公開されたのは、彼女の遺体から四肢を取り外して保管するという狂気じみた人間のモノローグの最中というと、普通に考えればこの人物が砂月を殺害した張本人であるはずだが……?

 

 

 

 

現代編で特筆すべきは、我らが頼れる女傑・蒼木冬史の再登場であろう。

 

彼女はイノグレの過去作「カルタグラ」の主人公・秋五の協力者として登場した、非合法組織の武闘派幹部である。カルタグラの事件のあとは裏社会から足を洗い、硬派なジャーナリストとして生計を立てているようなのだが、腕っぷしが強いのは相変わらずである。また、あのクソ小生意気なインテリ野郎・八木沼を言い負かせられる数少ない人物でもあり、彼女の登場シーンは襟を正して拝読したいものである。

次回作「天ノ少女」での活躍も大いに期待させられる。

 

 

 

 

また、上記のまとめでは省かせてもらった登場人物を2人ほど紹介して今回の雑感は終了したいと思う。

 

 

一人目は私立櫻羽女学院の生徒で紫の後輩である佐藤歩(あゆむ)。

剣道部に所属しており、冬子とは違った意味で中性的な立ち振る舞いの凛々しい少女である。ちなみに彼女は前作「殻ノ少女」からの続投だ。

前作では第一の被害者の親友というサブキャラ扱いだったのだが、劇中でもちょこちょこと玲人たちと関わってきたり、好感度を上げることによってTRUEエンド時に特殊スチルが見られたりと、サブキャラにしてはそこそこ目立つ役回りを与えられていた。それが今作では晴れて攻略キャラクターに昇格である。

今作ではその武闘派な要素を伸ばして、玲人に探偵助手にして欲しいと頼み込んだり、冬史に弟子入りしたりといった熱い展開が待っている。

(まあ、中の人が凛や杏子と同じなので、一体何役兼任させるんだイノグレと思わないでもないが……同じ中の人であると思わせないほどの演じ分けがされているので必聴である)

 

 

 

二人目は朽木病院に入院している少女・白崎未散。

とある事情により左目を失って精神を病んでおり、いつもお気に入りの人形を持ち歩いてる。玲人とは顔を合わせる度に不可思議な言動で困惑させてくる電波系な少女である。

ここまでの描写ではほんの一時しか登場しなかったため記述は省略したものの、物語の後半になるにつれて彼女を取り巻く驚くべき人間関係が明らかにされるため、やはり必見である。

(ちなみに中の人は「カルタグラ」の綾崎楼子、「ピアニッシモ」の御巫久遠を演じた方である。うーん、わかる人には中の人の格だけでキャラクターとしての重要度がわかってしまうようなキャスティングである)

 

 

 

さて、来月のクリスマスには「天ノ少女」が発売してしまうため、今回こそは極力早めに物語を復習し終えてしまわなければ……

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その2

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

昭和32年(1957年)の12月、生きる意欲を失った男がひとり、夜の井の頭公園をふらついていた。

 

男の名前は真崎智之。つい先日都内で起きた殺人事件の被疑者として、いっとき警察に捕らえられていた。

 

彼は釈放された数日後、雪の降りしきる公園で手首を切り、自殺を図る。

 

薄れゆく意識の中、真崎は年若い少女の悲痛な叫び声を聞く。

この声の主が、探偵・時坂玲人の妹・紫のものであるとは、この時の彼には知る由もないことであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は日中戦争の只中(昭和14年=1939年前後)まで遡る。

富山の山中にある雪深い村落・人形(ひとがた)集落。

道路すら整備されていない片田舎のこの村では、3つの家が土地の有力者として名を馳せていた。

 

製薬業で財を成し、村の経済を支える「雛神(ひながみ)家」。

土着信仰の神社をつかさどる「祠草(しぐさ)家」。

代々村の医療を一手に引き受ける「黒矢(くろや)家」。

 

ある年の12月、黒矢尚織(なおり)は学生の友人達と帰途についていた。

雛神家の跡取り息子である理人(あやと。あだ名はリヒト)と妹の花恋(かれん。あだ名はおヒナ)、二見旅館の一人娘・憂(ゆう、あだ名は若女将)、そしておしゃまな少女・嵩宮めぐり(あだ名はぐり子)の4人である。

 

一方そのころ、村落の入口で着物を纏った見目麗しい少女が一人、途方に暮れていた。

少女の名は「砂月(さつき)」。祠草神社の客人として村の外から招かれた娘だった。

 

神社への帰り道がわからなくて困っていた砂月は、尚織と理人に遭遇する。

尚織は理人に神社まで彼女を連れていくよう囃し立てるも、当の砂月本人は迷惑をかけられないと言って一人でその場から立ち去ろうとする。しかし、着物姿で雪道を歩き回るのは困難を極めたため、理人が砂月をおぶって神社まで運ぶことになった。

 

神社まで送り届けられた砂月は、禰宜夫妻には心配されるものの、彼女の世話役である祠草小夜(さや)からは邪険に扱われてしまう。客人であるはずの砂月が通されたのは、神社の離れにある蔵だった。

 

あくる日、砂月は雛神家当主へと挨拶をした帰り道、またもや尚織や理人ら5名と遭遇する。彼らは山奥深くで手入れの行き届いていない山小屋を発見し、そこを隠れ家として改造しに行く最中だという。成り行きで同行した砂月は、初めてできた同年代の友人たちと束の間の安息を得るのだった。

 

年を明けて幾日か経った後、今度は東京から黒矢家に2人の客人が訪れた。朽木文弥・千鶴兄妹である。彼らと尚織は「いとこ」にあたるという。来訪の目的は、千鶴の病気療養のためであった。戦争の足音が忍び寄る東京にいるよりも、いまだその影響の少ない村落にて安静にさせたいという朽木家の意向だったらしい。

 

村内で趣味の写真撮影をしていた千鶴は、憂とめぐりと出会う。村の事情に明るくなかった千鶴は、二人から三月三日に神社で祭りがあることを聞かされる。

この村では雛祭の時期に、「ヒンナサマ」と呼ばれる雛神家の守り神を祀る祭事が執り行われる。ただし村の老人たち曰く、「ヒンナサマ」は守り神であると同時に、祟り神でもあるのだという。これまで何人もの人が取り殺されているという話だが、村の若者世代にとっては迷信程度でしかないらしい。

 

とある日の夕刻、砂月は祠草神社の禰宜・賢静に連れられて黒矢医院を訪れた。名目は健康診断であったが、賢静は砂月に関して気になることがあるという。曰く、砂月は一人しかいないはずの部屋で、誰かと会話しているようなことがあるらしい。

診察に同席していた看護婦・沢城菜々子は、尚織の父で精神科医である弓弦(ゆづる)が、砂月に精神分裂症の兆候が見られると考えていることを察する。

 

祭りが近づいてきた一月の末頃、尚織と理人は砂月に対して「神楽を奉納する天子(みこ)」なのかと問いかける。これまでの祭りでは毎年、小夜が代理で神楽を舞っていたが、村の老人たちが言うには今年は本物の天子が現れるらしい。しかし、村の外からやって来たという砂月には何のことかわからない様子だった。

祭りというものを見たことがない砂月には実感がわかず、そもそもその日に祭りに行くことが許されるのかもわからなかった。神社に帰った砂月は小夜の指導の下、舞の稽古に励むのだった。

 

二月のあくる日、砂月は祠草神社の使いで雛神家を訪れる。そこでちょうど家にいた理人に遭遇し、そのまま祭りの準備をしようと誘われる。その場には花恋もおり、三人で祭りに使うという土くれをこね回し固める作業にいそしんだ。だが、兄と二人きりで準備をできると思っていた花恋は機嫌を損ね、ほどなく席を外してしまう。

そこで砂月は理人から祭りを一緒に見て回ろうと誘われる。彼女が答えに窮していると、祭りの後に隠れ家で会えないかと重ねて誘われる。誘い自体は嬉しいものの、当日会えるかどうかはわからない。しかし彼女は、たとえ「許されない方法」を使ってでも理人に会いたいと願うのだった。

 

※千鶴イベント

 

 そのしばらくあと砂月はひとり、黒矢医院へ健康診断へと訪れる。そこには尚織に会いに来ていた理人が居た。予想外の出会いの戸惑ってしまったものの、砂月は理人に改めて先日の返事をする。祭りの当日会うのは難しいから、二月最後の日に隠れ家で会いたいと告げる。

一方そのころ、祠草神社では憂・めぐり・花恋の三人が祭りの準備にいそしんでいた。憂とめぐりは折り鶴を作り、花恋は以前こねていた土くれを指定された形に加工するよう、禰宜の妻・未夜に任される。その形はまるで人間の胎児のようで、気味が悪くなった花恋は一旦部屋を出ていった。

そのとき、花恋は蔵の前で父である秋弦(しづる)と小夜が密会している現場を目撃してしまう。詳しい会話の中身は聞き取れなかったものの、なにやら不穏な話をしていたようで、彼女は思わず物音を建ててしまう。花恋は話を切り上げた父から、ここで見聞きしたことは他言無用であると口止めをされてしまう。

 

二月の末日、砂月は約束通り理人と山中の隠れ家で密会する。そしてこの日この場所で、二人は結ばれることになる。砂月は、いつか理人が描いていた雷鳥の絵が完成したら見せてもらいたいと、改めて約束をするのだった。

 

そして三月三日、祭りの当日。尚織や理人たちは砂月と合流し、6人で売店で買い食いをして遊ぶ。そのあと理人は隙を見て砂月を連れ出し、二人だけで出店を見て回る。そこで理人は、砂月に髪留めを贈る。

日没後、いよいよ天子が神楽を奉納する祭事の時がやって来た。舞台にあがったのは、鬼の面をかぶった年若い女性と思しき人物だった。砂月こそが天子だと思っていた尚織一行は不思議がりながらも、砂月と共に一連の神楽を眺める。その神楽は、ひとしきり舞を踊ったあと、いつぞや花恋が作った土人形を砕くという奇妙なものだった。

 

祭りを終えた日の深夜、雪道の中を黒ずくめの一団が静かに進行していた。

目的地である民家に侵入した一団は、家主の女が寝静まっていることを確認したあと、女に向けて何度も匕首を振り下ろす。

そして女が息絶えたあと、一団は女の腹を切り開き、無理やり土人形を埋め込むのだった……

 

 

 

 

 

 

 

……開始早々、超長大な過去編の幕開けである。

発売当初、この長さのシナリオを満足にスキップできなかったことがどれだけフラグ回収の足かせになったのか、改めて身震いしてしまった。修正パッチで「過去編読み飛ばしボタン」が出たころにはほとんど攻略が終わっていたこともあり、凄まじい虚しさを味わったことも思い出してしまう。

 

この過去編はシナリオの膨大さもさることながら、多人数間による視点移動を繰り返しながら進んでいくため内容を理解するのにやや手間取ることもある。

上記のまとめも、物語の本筋に関わりのある部分だけを極力短めに抜粋したものであり、これ以外の描写も大量にあったことは述べておきたい。

(たとえば、前作のヒロインである冬子の身内・朽木兄妹のエピソードはかなり省いている。文弥が指を大怪我する話や千鶴が文弥を誘惑する話など、省略したところは数知れない)

 

また、過去編へ導入するきっかけは準主人公である真崎の自殺未遂によるものの、彼が何者なのかについては公式ホームページでも案内されていない。よって、この時点ではどうして真崎の過去が人形集落と結びつくかについてはコメントを差し控えさせてもらう。

(とはいえ、ここまででもだいたいの読者は真崎が過去編における誰と関わりがあるのかはわかってしまうと思うが)

 

 

イノグレの過去作である「カルタグラ」をプレイした読者であればあの「祠草」が登場しているのは注目せざるを得ないポイントだろう。

 

カルタグラ」では千里教というカルト教団創立者および幹部としてその名前が登場していたが、こちらでは土着信仰の担い手である神社の主の苗字である。しかも、物語のキーパーソンである「砂月」はこの祠草家の客人として登場している。どう考えても物語の本筋に深くかかわってくることは初見の読者であっても想像に難くないだろう。

 

祠草家で特に注目すべきなのは、砂月の世話係である小夜である。非常にダウナー系でアクの強い女性であるものの、実はここまでの描写でも非常に重要な伏線をいくつも張りまくっている人物なのだ。

もしこの時点で、彼女の言動の違和感に気づけた読者がいたら拍手を送りたい。

(ちなみに阿久井は真相がわかったあと、周回時のみに見られる「とある演出」で初めてソレに気が付いた凡愚である。注意して見聞きすればこの時点でも十分真相は推理可能だったというのに……)

 

 

 

さてさて、今作では長編ミステリーにありがちな「やたら登場人物が多い」という特徴をこれでもかというほど発揮しているため、上記のまとめだけ読んでも人物関係が分かりにくい読者もいるのではないだろうか。しかも過去編では探偵・時坂玲人の推理ノート機能が使えないため、人物相関図も表示できない。余計に頭がこんがらがることだろう。

 

そこで、これまでに登場した主だった人物たちを簡単にまとめて、今回の雑感は終了したいと思う。

 

 

=====人形(ひとがた)集落のひとびと=====

・雛神(ひながみ)

├秋弦(しづる)……製薬会社の社長で次期当主。弓弦の実兄。理人・花恋の父。

├理人(あやと)……雛神家の跡取り息子。学生世代の朴念仁。絵を描くのが趣味。砂月に惹かれる。

└花恋(かれん)……理人の妹。学生世代の恋に恋する乙女。理人のことが大好き。

 

・祠草(しぐさ)

├賢静(けんせい)……祠草神社の禰宜。入り婿。温和で聡明。

├未夜(みや)……賢静の妻。小夜の姉。物腰穏やか。

├小夜(さや)……砂月の世話係。独身。陰鬱で刺々しい妙齢の女性。

└砂月(さつき)……村の外から招かれた「客人」の少女。便宜上「祠草」姓を名乗っているが、本名は不明。かなりの世間知らず。理人に惹かれる。

 

・黒矢(くろや)

├弓弦(ゆづる)……黒矢医院の精神科医。雛神家からの入り婿。尚織の父。仕事熱心。

└尚織(なおり)……学生世代の年長者。読書と執筆が趣味。ズレたセンスの持ち主。菜々子が気になっている?

 

※沢城菜々子……黒矢医院の年若い看護婦。学生世代に年齢が近い。家族とうまくいっていないようで……?

 

※朽木千鶴……東京から療養に来た少女。尚織の母方のいとこで同年代。悋気に溢れており、兄である文弥を愛している。

※朽木文弥……妹である千鶴の療養に付き添ってきた少年。外科医を志していた。集落へ滞在中、指に深手を負って自棄となり、千鶴と関係を持つ。

 

※二見憂……村唯一の旅館の娘。学生世代のクールビューティー。尚織のことが気になっている?

 

※嵩宮めぐり……おしゃれが大好きな少女。学生世代の元気の源。理人のことが気になっている?

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その1

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

ついにこの日がやってきましたね……

 

本日、2020年8月28日は、Innocent Greyが送る一大巨編サイコミステリ「殻ノ少女」シリーズの2作目、そのリメイク作の発売日となります!!!

 

虚ノ少女RE

 ※18歳未満立ち入り禁止!!

 

旧版は2013年2月8日に発売されているため、およそ7年半ぶりの再販ということになります。

 

旧版との大きな違いは前作「殻ノ少女《 FULL VOICE HD SIZE EDITION 》」と同様、次のような変更がなされています。

 

・無料体験版(という名の前日譚)との統合

・スチルやCGの高彩化を始めとした各種演出の強化

・一部担当声優の変更

・旧版販売当初は別売りだったオリジナルサウンドトラック3枚組が同梱

・初回生産版には別冊小説「流し雛の邂逅」が付属 

 

主人公・時坂玲人役は殻ノ少女HDと同様「高橋がならない」氏から「髭内悪太」氏に変更となり、さらに本作のもう一人の主人公ともいえる真崎智之役は「道出翔」氏から「河村眞人」氏に変わっています。

 

ちなみに「虚ノ少女」については旧版が発売された約3年後である2016年にアフターストーリーを描いたドラマCD「虚ノ少女 天に結ぶ夢」が発売されており、真崎役はこのころから「河村眞人」氏が担当しています。

(このドラマCDについては本編のネタバレ満載であることから、詳細は後日語ることになります。なおこのCDには本編TRUEエンド後のとある深刻な事情があって玲人は登場しません。それについてもまた後日……)

 

 

本作の時間軸は昭和32年(1957年)の11月となり、「殻ノ少女」の事件解決後からおよそ1年半後から物語は始まります。

 

しかしそうは言うものの、本作では複数の時間や場所にて様々な事件が起こります。

 

上記の時間軸は、あくまで探偵・時坂玲人が本作で起きる事件に関わり始めた時点を起点とした表現であるという点は注意が必要です。

 

たとえば、物語の根幹となる「ヒンナサマの祟り」のもとになった人形集落での物語を紐解くために十数年前まで遡ったり、物語の主体が玲人以外の登場人物に変わる視点移動も多く取り入れられており、非常に長大な物語になっています。

 

特に過去編についてはほぼ選択肢がないにも関わらず、下手なゲーム一本分はあると思えるほど長い長い回想が繰り広げられます。

 

どれくらい長いかというと、全編文章スキップしても1時間くらいかかるほどです。旧版発売当初、周回プレイ時にこの過去編のパートをスキップする方法が文章早送りしか存在しなかったため、のちに発表された修正パッチで急遽「過去編読み飛ばし」の選択肢が実装されたほどの長さでした。

(念のために言っておくと、このパートの存在が本作の超重要な部分を占めていることは間違いなく、決してつまらないわけではありません。ただ、周回プレイするためにはあまりに不都合な仕様だったため、不本意にも「長すぎる」というイメージが定着してしまいました)

 

ひとまず本作のゲームとしての概要はこの辺にして、いよいよ物語についてのあらすじを語り始めたいと思います。

 

 

・雑感

殻ノ少女」事件が一応の解決を見せてからおよそ1年後、時坂紫は私立櫻羽女学院の高等部へと進学していた。

 

亡くした友たちへの思いを抱えつつも、高等部からの外部入学組である鳥居小羽と新たに友誼を結ぶ毎日を送っていた。

 

そんな昭和32年の11月のある日、彼女たちのクラスに一人の編入生が入学する。

 

少女の名前は茅原雪子。非常に物静かでとっかかりずらく、彼女はなかなかクラスに溶け込めないでいた。

 

一方そのころ、東京では再び奇怪な猟奇殺人事件が起きる。

 

被害者が朽木病院(旧朽木病理学研究所)の看護婦であったため、八木沼了一警視は探偵・時坂玲人へと捜査協力を依頼することにした。

 

いつぞやの事件のように、看護婦の遺体は意味深な加工がいくつも施されていた。

両腕それぞれが針金ハンガーにて貫かれ、あたかも磔刑のようにハンガーレールにつるし上げられており、さらに無惨に膨れ上がった腹部には、手のひら大の土くれが無理やり埋め込まれて縫合されていたのである。

 

何らかの宗教的儀式なのか、犯人の目的はいまだ分からない。それにもかかわらず、八木沼が言うにはすでに犯人と思しき被疑者を逮捕しているのだという。

 

八木沼は玲人に対して被疑者の身元を明かさぬまま、彼が犯人である証明または無実である証明をするように吹っ掛ける。

 

玲人は状況証拠だけの強引な逮捕を理論立てて突き崩し、被疑者はその日のうちに釈放されることになった。

 

被疑者の名前は真崎智之。小さな画廊で働く、どこか感情に乏しい無気力な男であった。

 

彼はもともと、朽木病院の精神科にかかっていた患者であり、被害者である看護婦とは顔見知りだった。しかし、あくまで患者と看護婦というそれだけの関係である。

 

いちおう容疑は晴れたとはいえ、彼は職場を解雇されてしまう。そのままの勢いで借家も引き払い、死に場所を求めて井の頭公園へと向かうのだが……

 

 

 

 

 

 

――物語の冒頭はここまで、通読で約2時間ほどである。

 

しかし、ここまでの要所要所ですら時折過去編の描写や犯人視点の殺害シーンなどが入り乱れており、全てを一つの解説に織り込むのは困難であるため、現代編のみをかいつまんだ形式にさせてもらった。

 

ちなみに解説を端折った描写は主に次のようなものである。

 

・看護婦・紙園繭が真崎に見せようとしていた母の遺品である写真について。写真に写る男を見て真崎は激昂して突き返したが、その態度は明らかに彼と写真の男との関係性を疑わせるもので――

 

上野駅前にて、銀髪赤眼の麗人・蒼木冬史がとある集団の追跡調査を行っている様子。

 

・とある座敷にて、行李を背負った男と謎の女の対談。女の言葉に男は激昂し、あたりには「四肢」が散乱して――

 

・どっかの寒村で女が女を惨殺する場面。犯行現場を目撃した少女は、犯人の女が逃げ去ったあと、「犯人の行いは正しい」として被害者の遺体に細工をしたうえで木に吊り上げる。それはあたかも東京で起きている事件とそっくりで――

 

・「砂月」という謎の女が、どっかの蔵の中で日本人形相手に一人で会話をするという奇妙な描写。端から聞いているとただのホラーなのだが――

 

・あばら家の中、四肢のない少女を見つめる何者かの独白。

 

・赤ん坊の産声を聞きながら、産後に命が尽きる瞬間と思しき母の独白。しかし、この思考はどう考えても「彼女」のもので――

 

 

 

……この直後にオープニングムービーが挿入されるのだが、まあ気になりすぎる伏線がちりばめられすぎていて、一文たりとも見逃せない怒涛の展開である。

 

 

(余談だが、本作のOPテーマ「月の虚」は例によって霜月はるか氏が絶唱する名曲中の名曲だが、この曲が本作のメインテーマに使われる予定だとして発表されたのは2010年12月25日に渋谷O-EASTにて開催されたイベント「InnocentGreyクリスマススペシャルLive2010」が初出である。

 

 このとき、翌年1月にイノセントグレイ5周年記念主題歌曲集「トロイメライ」を発売することも発表され、「月の虚」は初めてCD収録されることになった。今ではカラオケでも歌える曲とはいえ、曲の発表からゲームで実際に使用されるまでに2年もかかるとはえらく待たされたものである。

 

 もっともそういう意味では、本シリーズの最終作「天ノ少女」のOPテーマとしてInnocent Grey 10周年記念コンサート「神曲」にて「擬翼の偶像(レプリカ)」が発表されたのは2015年12月28日であるから、もうすぐ5年が経過しそうな勢いである。
ほんっっっっっとうにもう、えらく待たされているものである)

 

 

旧版発売当時、前作「殻ノ少女」をプレイしていたユーザーからすれば5年ぶりの新作でこの話運びである。もう先が気になって気になって仕方がなかったことは理解してもらえるだろうか。

 

 

 

だって、もう、先述の「母の独白」って、それもうどう考えたって……

 

 

 

……まあ、万が一この時点でも「彼女」の存在に気づけない方もいるかもしれないため明言は避けるが、どうか賢明なる読者諸氏におかれましてはここまでの描写を【絶対に】忘れないでいただきたい。

 

物語が進行するたびに、冒頭部分の各描写は輪郭をもって読者諸氏の心をえぐってくることは間違いないが、忘れてしまっていては事なので、ご忠告申し上げた次第である。

 

 

 

さて、次の雑感はいつ書き記すことができるやら。

何分超長大な物語なため、どこで区切るかも加減が難しいので……

殻ノ少女《 FULL VOICE HD SIZE EDITION 》 その8

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

 

誘拐された冬子の行方を追うことより、冬子の願いを優先させることにした玲人は、ひとり倉敷へと訪れる。
 
半月ほど前に見学した中原美術館にて、玲人は中原家の顧問弁護士と面会する。
 
玲人はそこで、改めて冬子の来歴を知ることになる。
 
冬子の母である美砂は美術品の修復師として働いていた時、中原家の御曹司と恋に落ちた。
 
美砂はこの時すでに幼少の冬子を連れたシングルマザーだったため、中原家当主は二人の結婚を認めなかった。
 
しかし第二次大戦が佳境を迎えたころ御曹司が徴兵されることになったため、籍だけは中原家に加えられたのだという。
 
その後、御曹司の戦死の報せを受けた美砂は中原家に居場所がなくなったことで、冬子を連れてはるばる群馬の地まで引っ越していったのだという。
 
美砂は東京に出稼ぎに行くため、幼い冬子を群馬の修道院に預け、週末にのみ戻ってくるという生活を続けることになる。
 
玲人はその後の経緯を修道女である桂木シスターから聞かされる。
 
終戦を迎える数か月前から美砂は修道院に戻らなくなり、その後2年にわたって音信不通となってしまう。
 
そのころ、朽木家から養子縁組の申し出があったため、シスターは冬子を朽木千鶴の養子とすることに決めたのだという。
 
冬子の感じていた違和感や孤独、その正体を垣間見た玲人は、倉敷と群馬で知った事実をもとにこれまでの事件を読み解く。
 
なぜ小説家は4人もの少女を惨殺したのか。
 
なぜ冬子を攫って逃亡したのか。
 
玲人は間宮邸に事件関係者を呼び出し、自らの推理を間宮心像にぶつける。
 
間宮家にまつわる闇、そして消えた中原美砂の行方について。
 
すべての発端は「殻ノ少女」だったのである。
 
小説家は幼いころ、自分を虐待した母親を殺害し、「壊れ」てしまった。
 
そんなとき、東京に出稼ぎに来ていた中原美砂が間宮心像の助手として間宮家を訪れることになる。
 
彼女の姿に真の「母」を見た小説家は一時の救いを得るが、幸せな時は長くは続かなかった。
 
当時、狂気に侵されていた間宮心像の手により美砂は殺害され、その結果ひとつの芸術作品が誕生した。
 
それこそが、彼女の遺体を使って作られた「殻ノ少女」だったのである。
 
おぞましくも美しい作品を目撃した小説家は家を飛び出し、あてもなくさまよい続け、何の因果か群馬の修道院までたどり着く。
 
小説家はそこで幼き日の冬子と――母と慕った美砂の娘と出会っていたのである。
 
すべては、失った母の姿を取り戻すための凶行だったのだ。
 
玲人は間宮心像を糾弾する。もしもほんのわずかでも美砂を愛していたというのなら、今こそ彼女を解放すべきである、と。
 
間宮心像はすべてを自白し、玲人たちは「殻ノ少女」の実物――死蝋化した美砂の遺体を発見する。
 
こうして時効寸前だった過去の事件は暴かれた。
 
しかし依然として小説家と冬子の行方は杳として知れない。
 
数日後、玲人はステラとの何気ない会話の中で、予想だにしなかった事実に気づいてしまう。
 
6年前、玲人の恋人を含む6人の妊婦が惨殺されながら未解決となった連続殺人事件。
 
その犯人である六識命(ろくしきまこと)が、偽名を使って朽木家の病院に潜伏していたことに。
 
そしてヤツこそが、この1か月あまりに起きた2つの連続殺人事件を裏から操っていた黒幕だったということに。
 
抑えがたい怒りと復讐心を抱え、玲人は六識と対峙する。
 
冬子の母である美砂の実の兄でもあったその男に、玲人は銃を突きつけた。
 
しかし最後の瞬間、玲人は怒りに身をゆだねることができなかった。
 
ここで六識を殺してしまえば、未解決だった事件も含めてすべての真相は闇に葬られることになる。
 
彼は、どこまでも「探偵」だったのである。
 
こうして六識は捕らえられ、戦前から続く因縁に端を発した事件を解決した玲人だったが、その心が晴れることはなかった。
 
自分の居場所がどこにもないと苦しんでいた少女一人救うこともできなかったのだから。
 
冬子と逢瀬を重ねた井の頭公園で、ふと彼女が描いていた絵のことを思い出す。
 
玲人は私立櫻羽女学院まで駆け出し、完成したら見せると言っていた彼女の絵を目にする。
 
完成したその絵には、殻から飛び出した瑠璃の鳥が描かれていた。
 
数奇な運命をたどり、病に侵され、瀕死の傷を負い、果ては姿さえも消えてしまった冬子。
 
どこにも居場所がなかった孤独な少女は玲人と出会ったことで、最後の最後に自由を手にし、確かに救われていたのである。
 
玲人は彼女の遺した絵画を見つめながら、冬子の心に思いを馳せるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
本作はアドベンチャーゲーム特有のマルチエンディングを採用しているとはいえ、続編である「虚ノ少女」へとつながるTRUEのルートはこれまで追い続けていた物語となる。
 
結局、物語は冬子が行方不明のまま終わってしまう。ただ、攫われた当時の冬子の身体がどういった状態だったのかについては別のエンディングにて語られているため、どのみち長くは生きられないだろうという想像はできた。
 
消化不良気味とはいえ、事実上冬子は死んでしまったと考えるのべきなのが「殻ノ少女」発売当時の2008年時点での結論である。
 
決してハッピーエンドとは言えない、苦みを残した結末であるため、万人にオススメできるかというとそうではないのだが、やはりそれでもミステリ作品としては傑作であると感じる。
 
カルタグラから続く本作の世界観は、どこか悲哀に満ちた郷愁を掻き立てながらも、最後には一片の希望を残してくれる。
 
物語のエピローグは、事件から数か月後に秋五と和菜の娘が生まれ、玲人に名付け親になってほしいと頼まれるというシーンで終わりを迎える。凄惨な事件に翻弄された最後にこのエピソードを見たときは胸が詰まる思いがしたものである。
 
ここまででも物語としては完結していたのに、何を思ったのかイノグレは「殻ノ少女」が発売した5年後になって突如として続編である「虚ノ少女」を発売する。
 
攫われた冬子がどうなったのか、その真の結末についてはここで語られることになるのだが……その話はまた別の機会まで待っていただきたい。(来月にはリマスター版が発売されるので、いやというほど語ることになるはずである)
 
 
 
 
 
 
――さて、ここまで登場人物が多く、複雑に絡まった作品だと本来ならばもう少し詳細な解説を述べるべきなのだろうが……時間の都合により大幅に短縮してお送りしたい。
 
 
 
まず事件の黒幕と目される六識命という男について。
 
公式資料集ですら「異常者」と表記されるこの男は、上述の通り冬子の母である美砂の兄にあたる。
 
敬虔なクリスチャンでありながら、生まれながらの反社会性サイコパスという狂人であり、自身の苛烈な道徳心を知らしめるためなら殺人も厭わないという強烈なキャラクターである。
 
物語を全て読み終えても、彼が事件の裏でどのように暗躍していたのかは謎に包まれたままである。どうして教師や小説家を誘導し、殺人事件を引き起こさせたのか、それは続編である「虚ノ少女」でも明かされていない。
 
そのためここからは完全な想像になってしまうのだが、個人的な解釈を残しておきたいと思う。
 
 
 
<<推論>>
 
六識は異常な精神性の持ち主ゆえに、堕胎という行為を決して許すことができなかった。生まれ来る生命を冒涜する言動をした女性たちを、身勝手な理屈をこねて惨殺していった。それが、6年前に起きた「六識事件」の経緯である。
 
警察の捜査の手を逃れた六識は偽名を使い、精神科医として朽木病理学研究所に潜伏する。その間に医者として数々の患者を癒しながらも、件の教師や小説家といった患者たちも診ることになる。
 
彼は病院勤務ゆえの特権で、女学生の堕胎が頻発していることを知る。その中に、教師の実妹が含まれていたことも。
 
ここで六識の偏執的な道徳心が再び沸き起こり、彼女たちに罰を与えなければならないという一種の使命感のようなものが出てきたのではないだろうか。
 
ではなぜ、6年前のように六識自身が女学生たちに手を下さず、教師を操ることで殺人を犯させたのか。
 
推論を重ねるならば、理由の一つは実験したかったからではないかと考えられる。
 
六識は医者でありながら研究者である、という自負を持っている。そのため、他人が自分の思った通りに殺人行動を起こすのかを試してみたくなったのではないだろうか。
 
(実際、バッドエンドの一つにこんなものがある。和菜の殺害を止めることができず、教師を逃がしてしまったあと、妹の紫が誘拐されてしまう。脅迫文を読み解いて紫を見つけたはいいものの、彼女は氷漬けにされたうえ牢獄に閉じ込められており、その扉の鍵は気絶させられている秋五の腹の中に収められている。紫を助けたいがために玲人は秋五を殺害し、廃人となってしまう。このエンディングの派生ルートに秋五を殺さない場合があるのだが、そこで六識は「あの極限状況で殺人に至らなかったのは信じられない」といった、あたかも玲人が精神支配されなかったことを悔しがっているかにも思えるコメントを魚住に聞かせているのである)
 
 
そしてもう一つの理由は、最終的なターゲットが別にいたのでその予行演習がしたかったから、である。
 
先述の通り、六識命と中原美砂は実の兄妹である。しかもあろうことか、彼らは男女の関係にあったという。
 
(これは余談だが、美砂は冬子のことを兄である六識との間に生まれた娘だと考えていたらしい。しかし、六識は先天的に精子を作れない身体であったため、冬子が彼の娘であることは遺伝学的にありえない。そのうえ、冬子を攫おうとした者たちの調べによれば冬子の遺伝子には父親の遺伝情報が欠落しているという。つまり、冬子は母親である美砂の遺伝子をそのまま受け継いだ単為生殖のクローン体であったということになる。理屈のうえではそうなのだろうが、この辺りは現実にはあり得ない事例のため完全にファンタジー設定だと言えるが)
 
六識は歪んではいたものの、確かに美砂のことを愛していた。それは美砂が六識の元から去り、中原家に嫁いだあとも同じだったのだろう。しかし美砂はそのあと行方不明になってしまう。
 
朽木院長と間宮心像は絵画の取引をするほどの仲だったため、六識の個室にも心像作の絵画が飾られているという描写があった。このことから推察するに、おそらく六識はいずれかの時期に絵画「殻ノ少女」を見たことで全てを悟ったのではないだろうか。
 
そんなとき、美砂の行方を眩ませた間宮心像の子供が自分の患者として通院していたのだとしたら……間宮心像を破滅させるためのコマに利用したくなるのではないだろうか。
 
<<推論おわり>>
 
 
まあなんにせよ、六識が異常者であることには違いない。時系列で考えるなら、美砂と肉体関係があったころにはステラの姉であるセレスティアルとも交際していたはずなので、この時点でサイコパス二股野郎である。
 
快楽のための性行為は禁じられるべきとか言っちゃうその口で堂々と浮気しておきながら、妹との性交渉は家族愛に基づくものだから許されるとかダブルスタンダードにもほどがあろう。それとも二人の女性を同時に愛しても真実の愛だから不貞ではないとか宣うクチなのだろうか。一方で妹を愛していたといいながら研究対象だったとも言い放ったり、なんかこう、女子供を道具としか思っていない悪辣な宗教者みたいで心の底から気持ち悪い。
 
 
 
 
続いて玲人の妹・紫について。
 
立ち位置としては(当然ながら)攻略対象外のサブキャラなのだが、カルタグラでいうところの和菜のような、いわゆる「残念美人」に該当する。
 
セリフ回しも立ち振る舞いも完ぺきな大和撫子で「こんな妹欲しいぃぃぃぃぃっ!!」となりそうなのに、やや常識にうとく「蟲好き」というトンデモ設定が付与されているせいで笑いも取ってくれる。次から次に友人が亡くなってしまい可哀想な限りだが、彼女の受難は次回作である「虚ノ少女」でも続くことになる。
 
 
 
 
次に、この物語における日常を演出してくれた喫茶「月世界」の女店主・葉月杏子とアルバイト・雨宮初音について。
 
玲人や紫、魚住といった面々は、何かあるたびに昔馴染みである杏子の店に顔を出し、時には捜査の打ち合わせなどを行ったりすることもあった。戦後の復興が進んできた世界観を描写するにあたって、この店での会話は大いに雰囲気づくりに貢献している。ちなみに中の人はカルタグラで凛を演じた方なので、もはや「イノグレと言えばこの人」といったところ。優しく気立てのいい「働く女性」を見事に演じ切っている。
 
玲人と同様に連れ合いを亡くしていることから、二人が男女の仲になるルートも存在するのだが……なんというか、ここまで節操がないと玲人の貞操観念の緩さが心配になってきたりもする。
(その点については秋五も似たり寄ったりなのだが、ドラマCD「虚ノ少女 天に結ぶ夢」にてこの点が触れられており、硬派ぶっている割に玲人がかなりのプレイボーイだったことが垣間見える)
 
 
かたや初音については、過去作「カルタグラ」をプレイしているユーザーなら言わずもがなな癒し系キャラである。義母となった雨雀の許可を得て、接客業の修行のために「月世界」で働いているという。会話にて紫よりも年上と判明しているため、ようやく成人になるかどうかというところなのだろうが、出自が特殊なだけあってやや精神的には幼いままである模様。
 
なおこの二人、かなりの頻度で顔を出す割には物語の本筋には一切関わりがないため、物語終盤には若干空気になっていたのが寂しいところではあった。初音にいたっては続編の「虚ノ少女」ではバイトを卒業しており登場すらしない。
 
 
 
 
最後に、言わずと知れた本作のメインヒロイン朽木冬子について。
 
少年のような語り口でありながら、ふとした拍子に年相応の少女らしさをにじませたりと、一種独特な雰囲気を纏っていた。独白の中では、自身の境遇に思い悩みながらも、玲人に救いを求めていたことが明かされていて、なんとも物悲しい人物である。
 
冬子が一体なにを思って「瑠璃の鳥」を描いたのかはついぞ明かされることはなかった。しかしTRUEルート以外の冬子の言動を見るに、存在のあやふやだった「冬子」そのものを見つめてくれた玲人に救われていたのは確かだろう。
 
彼女自身は誰かに救いを求めることを指して「愛におぼれてはならない」と自戒していたが、そう自覚するくらいには玲人のことを心から愛していたのではないだろうか。
 
(あと、物語中は登場人物たちの年齢は極力明言されないようになっているのだが、私立櫻羽女学院が現在でいうところの中等部に該当することは明らかであるため、そうなると冬子はJCということになってしまうのだが……達観した精神性は時代背景ゆえということなのか。どのみち玲人は淫行で捕まるはずだが)
 
 
 
 
 
さて、本編についての感想はここでいったんお開きとして。
最後の最後に、今回「殻ノ少女《 FULL VOICE HD SIZE EDITION 》」の初回限定版に付属していた別冊小説「先生と私」についての概要を残しておきたい。
 
全87ページという小冊子と呼ぶには分厚いA5サイズほどの冊子には次の3篇の話が掲載されている。
 
 
 
・「先生と私」
昭和19年(1944年)の夏から冬にかけて、中原美砂が間宮心像の助手として働き始めて、殺害されるに至った経緯についての物語。
 
「母」が居なくなったと被害者ぶっていた小説家も心像による殺人に加担していたことは驚きである。お前どの口で心像を責め立てたんだ、と言いたくなる。もちろん、心像が一番の極悪人であることに疑いの余地はないが。
 
話の大部分は美砂が視点となっているが、物語の終盤になると時代が昭和31年(1956年)へと変わり、別の女性へと視点が移る。この女性が何者かについては続編である「虚ノ少女」をプレイしていないと絶対に分からないため、初見の読者にはやや不親切ではある。しかし、例の小説家が冬子を攫ったあと何をしていたかがわかる重大なエピソードになっているため、やはり必見である。
 
また、本編を読んでいて不思議に思っていたことだが、小説家が幼少期に群馬の修道院にたどり着いたのが偶然ではなかったということもこの逸話から判明する。
 
美砂が兄である六識の異常性に気づいたことで逃げ出していた、という点もここで初めて明かされた情報である。
(当の六識は「妹は自分を愛していたはず」と玲人に言ってのけていたが、やはりサイコパス故に本当の意味では人の感情が理解できていなかったのだろう。美砂にさえ自身を研究対象としか見ていなかったと見透かされていたというのに……)
 
 
 
・「ネアニスの卵」
・「シェオルの殻」
⇒劇中で件の小説家が発表した小説で、ゲーム中も何度かその一説が語られている。「ネアニスの卵」はダンテの神曲をモチーフにした話で、「シェオルの殻」は小説家自身の生い立ちを参考にした物語となっている。
 正直、難解なうえに不気味でしかなく、これを好き好んで読む女学生とはちょっと友達にはなれそうにないなと思ってしまいました(小並感)
 
 
 
長い長い過去作の追憶もこれにてようやく一区切りである。まさか読み終えるまでに半年以上もかかってしまうとは。
 
次回作の「虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》」についてはもっと手際よく読み進めていかなければ年末の「天ノ少女」の発売に間に合わなくなる。
 
気を引き締めていきたい所存である。