録画しておいたものを見終えましたので、蛇足とは思いつつ記録に残したいと思います。
***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり**
2015年12月23日にテレビ東京で放送されたドラマスペシャル。
主演は松重豊 氏。
マンガ原作のドラマ「孤独のグルメ」で初主演を飾るなど、近年人気急上昇中の演技派男優である。古くからちょいちょい印象的な脇役を演じることの多かった氏が主人公として登場すると知り、急遽このドラマを録画することにした。
警視庁捜査一課の刑事として働いていた水戸部(松重豊)は、数年前に起きた立てこもり事件で上司の突入命令を無視した責任を取らされ、所轄署に左遷された。
刑事部のデスクワークで燻っていた水戸部だったが、彼はある日、警視庁捜査一課長の山岸に呼び出される。山岸は水戸部に、20年前に警視庁の管轄で発生した強姦殺人事件の再捜査を命じる。山岸が言うには、20年前の事件が、数日前に神奈川県警の管轄で発生した強姦殺人事件と手口が同じであり、現場から同一人物のDNAが採取されたのだという。水戸部は性犯罪捜査の専門家である朝香(山本未來)と共に、2つの事件の真相を追う……という筋。
上記のように書くと、さも警視庁が未解決事件(コールドケース)の解決に尽力するために優秀な人員を取り揃えたかのようにも見えるが、実際はまったく異なる。
警視庁は20年前ろくな捜査もしないまま、事件の被害者となった女性の恋人を犯人だと決めつけ、その恋人を死に追いやった過去があった。
被疑者死亡のまま書類送検した過去の事件が、神奈川で起きた事件の犯人による犯行だと明るみにされれば、警視庁の「面子」に傷がつく。そうなる前に何らかの手を打つために、神奈川県警には秘密のまま最少人数で捜査しろ、というのが警視庁の意向だった。
どうも、20年前(1995年)はオウム真理教の引き起こした事件が佳境を迎えていたころで、優秀な人材のほとんどがオウム関連の捜査に出ずっぱりだったらしい。
そのため、一個人が痴情の縺れで殺されたかのように見える事件を真面目に取り組むような余裕がなかった、というのが警視庁側の言い分のようだ。
この手の刑事ドラマを見ると必ずお約束のように飛び出る「組織の面子に傷がつく」という発言だが、本当にもう、身体の奥底からどす黒い吐息が吹き出てきそうになるほどうんざりしている。
面子めんつメンツmentsuって……
『面子』はお前にとってのなんだ、空気か!? それがなけりゃ死ぬンかい!?
ーーと言ってやりたくなる衝動に駆られる。
それがあっても何の得にも誰のためにもならず、無くても困らなければ誰かが不幸になるわけでもない。「面子」などという訳の分からない無定形の信仰のために他人の意志や人生を踏みにじる『気持ち悪い』人々のなんと多いことか。
警視庁側は過去の事件の真相が暴かれることにより自らの面子に傷がつくことを恐れている。
神奈川県警は警視庁の弱みを利用して立場を良くしようとしている。
誰も被害者のために捜査しようなどと考えもしない。
ただただ出世のため、手柄のために他人の人生を蹂躙する。
警察って何だ? 公営ヤクザの別称か!?
ーーと言ってやりたくなる衝動に駆られる。
しかし、主人公の水戸部と相棒の朝香はそんな上層部の思惑など歯牙にもかけない。
ただただ事件の真相を突き止めるために奔走するのである。
水戸部は過去の立てこもり事件で部下を死なせてしまった自責の念から、朝香は性犯罪に巻き込まれて自殺した妹への贖罪の気持ちから、真摯に事件に向き合っていく。
そのあたり、松重氏も山本氏もいい演技をしてくれた。こういった渋みのある人物描写は好みである。
ただ、事件の真相というか犯行手口にはぞっとさせられるものがあった。
被害者は借家に住んでいたのだが、犯人は不動産会社が管理している合鍵を使ってどうどうと被害者宅に乗り込み、犯行に及んでいたのである。
これがドラマ限りのことだと信じたいが、日本のどこかでこのような犯罪に手を染める業者がいないとは限らない。
まさしく、誰も信用できない無縁社会といったところか。
最後にひとつ。
どうでもいいが、ドラマのタイトルは「代官山コールドケース」だけのほうが引き締まった印象があったと思う。
「刑事☆二人」などと銘打つと浮ついた印象を受けてしまい、本作のハードなストーリーとのギャップが酷かった。