悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

Innocent Grey Art Exhibition『白夜』

***注意はじめ***

以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

殻ノ少女」シリーズ完結&「カルタグラFHD」発売記念として、

本日2023年10月26日(金)から10月29日(日)まで期間限定でイラスト展が四ツ谷の「The Artcomplex Center of Tokyo」にて開催されています。

 

Innocent Grey Art Exhibition『白夜』

※なお展示物の元となったアドベンチャーゲーム殻ノ少女」シリーズや「カルタグラFHD」は18禁作品ですが、このイラスト展自体は入場無料・年齢制限なしとなっています。

 

 

The Artcomplex Center of Tokyoでのイノグレイラスト展はかれこれ4回目

 ・イノセントグレイ十周年記念画展「花葬」  (2015/11/27~12/6)

 ・FLOWERS アートギャラリー「クルール」 (2018/6/15~6/17)

 ・「殻ノ少女画展」 (2020/1/22~1/26)

 もはや「イノグレの展示会といえばココ!」と定番になりつつあります。

 

 今回初日は平日だったにもかかわらず開場間際から50人以上が入場整理券を求めて立ち並ぶ盛況ぶりでした。イノグレ作品がここまで多種多様な客層に人気を博しているのはいちファンとしては嬉しいような驚くべきような……

 

 なんせ杉菜水姫氏の美麗なイラストの数々は確かに息をのむほどの出来ではあるものの、ゲームのストーリー自体は情け容赦ないほどシリアスなため、万人に手放しにオススメできるものではないので……

 

 飾られたジークレ版画の中には、今回の画展のために描き下ろされたイラストも数多く取り揃えられていました。

 

 キービジュアルである朽木冬子の神々しいイラスト、時坂玲人や蒼木冬史の渋いイラストもなかなかに見ものでした。

 個人的には「カルタグラFHD」でようやく個別エンディングを獲得した凛が、エンディング時点での姿で描かれたイラストが特に印象深かったですね。(なんでトレンチコートの下が裸っぽいのか……なんて野暮なことは言ってはいけない

 

 あとはなんといっても、イラスト展に合わせて期間限定で発売される図録に鈴鹿美弥氏の描き下ろし小説がついてくるのが非常にうれしかった。以下ではその小説について少々コメントしたいと思います。

 

 

 

・「白の誠と青の嘘」

 「カルタグラ」の主人公である探偵・高城秋五がなぜ警察を辞めることになったのか、その経緯が詳細に明かされた短編小説。

 時は昭和25年(1950年)、カルタグラ本編が始まる1年ほど前の出来事である。

 物語は上野葵町の路上で50歳ほどの男が不審死しているのが見つかり、上野署の刑事だった秋五が捜査することになったことから端を発する。

 どういうわけか本庁の刑事が捜査に横やりを入れてきて、秋五を捜査の本筋から外し、被害者が死の前夜まで詰めていたという遊郭・雪白での聞き取りといった雑務に追いやる。

 しかし雪白の楼主である雨雀や小間使いの初音たちから話を聞くうち、被害者の死には米国の進駐軍が関わっているのではないかという疑いが強まっていき……という筋。

 

 秋五は本庁からの命令を無視して独自に捜査を続けるなか、このとき既に警察をやめて探偵業の準備を始めていた時坂玲人にも話を聞きに行ったりする。

 

 ※なお玲人が警察を辞めるきっかけとなった「六識事件」の詳細な経緯については、「殻ノ少女」の発売記念企画として発表された12編のショートストーリー (リンク)や「殻ノ少女 ドラマCD1巻」で語られている。

 

 ※ちなみに、全年齢PS2カルタグラにて公開されていた「秋五が警察を辞めるきっかけになった事件」と、今回の描き下ろし小説で明かされた事件とは完全に別物である。

 ただし、どちらの事件もアメリカの軍人が真犯人にもかかわらず、進駐軍側から圧力をかけられた警察は捜査の中止を秋五に命じたものの、それに逆らったため秋五は警察を辞めた――という大きな流れは同じである。

 おそらく、カルタグラ原作のシナリオライターである飯田和彦氏が物語を構想していた当初から、「警察の腐敗に義憤を感じた秋五が失職に追いやられる」という流れは意識されていたのだろう。とはいえ、発表される版ごとに描かれるエピソードが変わると何をもって正史ととらえるべきかは悩みどころではあるのだが。

 

 

 

 A4判の図録の後半16ページにわたって描かれた短編小説ではあるが、読みごたえは十分な内容だった。

 

 後日、この小説が掲載された図録はイノグレ通販サイトでも部数限定で販売される予定とのことなので、イラスト展の開催期間中に四ツ谷へ行けない方々は是非とも通販を利用することを検討してもらいたい。

 

 また最後に余談ではあるが、イノグレ作品が発表され始めて18年が経ってはじめて、秋五の前髪で隠されていた瞳が描かれたイラストが小説の扉絵になっているので、そういう意味でも必見である。