***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。
また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。
当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。
***注意おわり***
・余談
さて、先日ついに「殻ノ少女」シリーズの第2作目のリメイク、
「虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》」の発売日(8/28)が発表されました。
この作品の原作は殻ノ少女が発売されたおよそ5年後、2013年2月8日に発売されており、7年ぶりの再登場ということになります。
(そもそも当時、『あの』殻ノ少女に続編が出るというだけでもだいぶ衝撃的な事件ではありましたが、ほどなくそれが三部作構成であると発表されたときの驚きも一入でした。続編が出るまでにいちいち5~10年待たせられるところとかも含めてですが)
ちなみにこの2作目、「虚ノ少女」と書いて「からのしょうじょ」と読ませるため、音だけだと1作目と全く区別がつかないという困った仕様になっています。
そのため便宜上「殻ノ少女2」だの「うろのしょうじょ」だのと呼ぶことも多いのだとか。
何はともあれ、来る2020年8月28日に備え、1作目の残りのストーリーの雑感も手早くまとめて行きたいところであります。
・雑感
透子は失踪した翌日、四肢だけの遺体として発見された。
玲人は警察よりも早く彼女の生家を訪ね、母である未央にその事実を告げる。
これ以上新たな犠牲者を出させないためにも、少しでも手がかりが欲しい。玲人は未央の許可のもと、透子の部屋を調べ始める。
そこで玲人は一冊の文芸雑誌と、とある人物の顔写真を見つけ出す。
紫によるとその雑誌は、綴子が生前に連載していたものだという。しかしその雑誌の号はまだ発売前のものであり、市中に出回っていないものだと判明する。
どうしてそんなものを透子が持っていたのか。
それはおそらく、彼女が持っていた写真の人物に手渡されたからに違いないと玲人は推理する。
この人物は、先日の猟奇殺人事件の犯人であった学校教師が犯行のモチーフとして使った小説「ネアニスの卵」の作者で、一時は捜査線上に浮かんでいたこともあった。
もしこの小説家が透子たちを殺した犯人であるならば、若手作家でもあった綴子を言葉巧みに誘い出すことも可能だったのではないか。
透子と小説家に関しても、かなり近しい関係だったことは想像に難くない。
ともあれ、一度この人物に話を聞く必要がある。
玲人は魚住に協力を仰ぎ、小説家の素性を聞き出した。
驚くべきことに、その小説家は画家・間宮心像の子供だということが判明する。
2人は事情を確かめるため間宮氏のアトリエに急行するが、そこに人の気配はない。
その代わりに、家のあたりから微かに異臭が――血の匂いが漂っていることに気が付いた。
緊急事態だと言って魚住はアトリエの扉をぶち破り、強行突入する。
現段階では令状も何もない違法な捜査である。何も出なかったら懲戒免職は免れない。
しかし、彼らの直感は正しかった。
アトリエの奥には、4人の少女たちが変わり果てた姿で陳列されていたのである。
両腕のない女が、卵の殻の中から裸の上半身をさらけ出す姿――それはまるで、間宮心像の絵画「殻ノ少女」そのものであるかのようだった。
現場に駆け付けた八木沼の指揮のもと、付近には非常線がはられ、全力で小説家の行方を追うことになる。
しかしそんなとき、冬子が入院していた病院から火急の知らせが届く。
冬子が何者かの手によって連れ去られてしまったのだ。
病院へ駆けつけた玲人は関係者からの話をもとに、病院内部の者が手引きをした営利誘拐であることを突き止める。
犯人曰く、冬子は倉敷の資産家・中原家の孫娘であり、死に瀕している資産家から莫大な遺産を受け取れるはずなのだという。
ようやく冬子の身元がわかったにもかかわらず、その冬子自身はその場にいない。しかも事故で重傷を負っており、一刻も早く保護しなければ命が危ぶまれる。
玲人は誘拐犯の共犯者の潜伏先を聞き出したが、そこに冬子の姿はなかった。
代わりに、誘拐の共犯者の惨たらしい遺体だけが放置されていた。
事件捜査に引っ張りまわされて文句たらたらの夏目女史が言うには、現場に残った指紋から犯人は例の小説家で間違いないという。
どうしてヤツが誘拐の妨害をし、冬子を連れ去ったのか。
事態は急転直下の様相を呈し、何がどうつながっているのか見当もつかない。
小説家の捜索は広域捜査ができる警察に任せ、玲人は基本に立ち返ることにする。
すなわち、朽木冬子とは何者だったのか。
玲人はすべてを明らかにするために、単身倉敷の地へと訪れるのだった……
イノグレ作品の凄いところはその時代特有の雰囲気づくりが抜群にうまいところにある、と以前どこかで記述した記憶がある。
ただそれとは別にストーリー面で特筆すべきことがあるとするならば、一切読者に忖度しない情け容赦のない展開が挙げられる。
とりあえず、主人公と親しくなったヒロインのうち何人かは惨殺される運命にあるといっても過言ではないほど、歴代作品のいずれでも理不尽な目に合う人物が登場する。
殻ノ少女HD版ではスチル画像のHD化に伴い、一部の残虐描写がパワーアップしていることもあり、その登場人物が好きだった読者ほど手痛い精神的ショックを受けることになるだろう。
まさしく神曲からの引用の通り、「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」と言わんばかりである。
(綴子や透子の運命については既に述べた通りであるが、ただただ胸が痛くなるシーンのためグロ耐性がない読者ならスキップしても良いような気もする。推理に関していえば殊更重要なシーンというわけではないので)
さて、ここにきてついに冬子との小旅行をきっかけとした伏線回収が始まったわけだが、ここからの展開は少々急ピッチで慌ただしい感も否めない。
確かにいち私立探偵でしかない玲人一人の力では、誘拐された冬子を探し出すのは困難を極めるだろう。
とはいえ、すでに情を交わしたこともある少女の身の安全より、彼女の願いを優先して倉敷に向かうというのは個人的には首をかしげたくなる行動ではある。まるで、生きた冬子との再会は果たせないのだと最初から諦めているようにすら映る。
玲人のこういった探偵としてのストイックすぎる側面は、続編である「虚ノ少女」の中でもとある登場人物から痛烈に批判されることになるのだが……それはまた別の機会に改めて触れることになるだろう。
さて、物語もいよいよ残り僅かである。
10年以上前に通読した身とはいえ、改めてどのような結末を迎えるのかドキドキしてしまうのは、やはりこの作品の魅力が全く色褪せていないからだと実感させられる。