悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その8

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

余談

 いよいよ「天ノ少女」発売まであと2週間となり、公式ホームページでは例によって「無料体験版という名の前日譚」が公開されました。

 

今作では条件さえ満たせば製品版「天ノ少女」でもこの前日譚を読むことはできるそうですが、イノグレ側から「本編プレイ前に読むことを推奨」と発表されているので、「天ノ少女」を読み切る覚悟があるプレイヤーであれば必ず事前に前日譚を読むべきでしょうね。

 

……ただまあ阿久井としてはあまりに先んじてにプレイしてしまうと発売前に待ち遠しすぎて発狂しかねないため、ボイスドラマも含めて前々日ぐらいにまとめて体験しようと思い貯めこむ所存ではありますが。

 

 

・雑感

 

1月9日
雪子が登校してこないため、紫は彼女の身を案じていた。
しかし小羽より、今朝になって雪子の退学届が出されたため教師陣も混乱していると知らされる。
思い当たるのは昨日の出来事しかない。小羽によれば、昨日雪子を連れて行ったのは黒矢という名の医者だったはずという。

紫は玲人の事務所を掃除した際、書類の中にその特徴的な名が記されていたことを覚えていた。
雪子が何か良からぬことに巻き込まれたのかもしれないと考えた紫は、学校をサボタージュして事務所へ急行する。

 

事務所には真崎がいたが、突如現れた紫から事情を聴いて驚く。
真崎は「白百合の園」で起きたという集団自殺の件に黒矢尚織が関わっているとあたりをつけ、ちょうど彼に会いに行く予定だったのである。
紫の頼みを断り切れず、真崎は彼女の同行を許す。

 

天恵会本部にて真崎と紫は尚織と対面する。
尚織は集団自殺が起きた当時その施設の職員だったことを認めた。
また、雪子がかつて孤児として施設にいたこと、さらに教団にとって重要な血筋の者であるため、新たな「御子」として迎えに上がるよう命じられていたことを説明する。
それゆえ雪子と会って話すことは許可できないとして、真崎たちは引き下がることに。

 

 

1月10日
玲人と冬史は天恵会本部へと向かっていた。
「白百合の園」の背後に天恵会の幹部である空木が絡んでおり、そこに雛神製薬とも関連した怪しい資金の動きがあったためである。
しかし天恵会につくや辺りが騒然としており、玲人たちは門前払いをされてしまう。

 

あたりを聞き込みしたところ、天恵会代表である織部が何者かに殺害されたらしいことが発覚。

 

事態を報告しに警視庁に向かった玲人たちは、八木沼と真崎が対峙している場に行き会う。
真崎は「白百合の園」に関する過去の捜査資料を見せてほしいと願い出ていたが、現在起きている連続殺人事件と関連性がないため見せられないと八木沼に断られていた。

 

玲人は織部が殺害されたことと、その前日に雪子が教団に連れていかれたことは何らかの因果関係があるかもしれないとして、かつて雪子が所属していた「白百合の園」に関する資料を見せるよう交渉する。

 

渋々といった様子の八木沼から資料を借り受けた玲人は、孤児名簿の中から見知った名前を3つも見つけてしまう。
「雪子」、「未散」、そして「小羽」。

 

警視庁を出たあと、玲人は朽木病院にて未散と会話する。
未散は幼いころ、見てはいけないものを見てしまったショックで、自ら左目をえぐり取ったのだという。
彼女が言うには「ひとりがひとりを取り込んだ。ふたりがひとりになって、残ったひとりはふたりになった」――らしい。
ちなみにこの出来事は集団自殺事件が起きる前のことであり、事件があったとき未散は治療のために入院していて既に施設にはいなかったとのこと。

 

玲人は未散の話の裏取りをするため、朽木文弥に院長権限で未散のカルテを見せてもらうよう頼みこむ。

 

当時の担当医である六識の記録によると、未散は昭和27年7月に入院する以前から、向精神薬を大量投与されたことによる中毒症状が見られたのだという。
未散の話と擦り合わせると、彼女は白崎家へ養子に出されたすぐあとに長期入院していることになってしまう。
つまり未散の精神疾患は白崎家ではなく、「白百合の園」に居たときの出来事に起因する可能性が高い。

八木沼から聞いた雛神製薬による違法治験の疑惑と、天恵会幹部である空木が雛神製薬の株式を持っている件。
以上の情報から、玲人は「白百合の園」で薬品改良のための違法な人体実験が繰り返されていたのではないかとの推論に達する。

 

 


1月11日
玲人は役所で取り寄せた小羽の戸籍を確認する。
彼女の旧姓は「吉野」。母親の戸籍は戦災により滅失していたが、秋弦が選定した真崎の婚約者候補の一人と苗字が合致する。

事情を探るために玲人は小羽の家を訪ねることにした。

 

小羽は物心ついたときから「白百合の園」で過ごしており、およそ5年ほど前に鳥居家に引き取られたという。
当時は雪子や雪子の兄・雪緒とよく遊んだらしい。
玲人は「雪緒」という名を聞いたとき、先日確認した孤児名簿の死亡欄にその名が記されていたことを思い出す。

 

鳥居家から帰る道すがら、玲人は小羽こそが真崎の最後の婚約者候補であると断定する。
このままではそう遠からず彼女が被害にあう可能性があると考えた玲人は、連続殺人犯をとらえるために一策を講じることを決意する。

 

その夜、冬見は自宅にて雪子を手放してしまったことを深く後悔し続けていた。
そこに突如として小羽が訪ねてくる。彼女は深刻そうな様子で「雪緒に会わせて欲しい」と冬見に頼み込む。
しかし、冬見は雪子に兄がいるということすら聞かされていなかったため、満足な返答もできない。
すると小羽はその場で手紙を書いたあと、明日中に雪子に渡して欲しいと懇願するのだった。

 

 


1/12
翌日、冬見は若葉園にて菜々子から子供を預かる際、小羽から預かった手紙を菜々子に託す。
自分が教団本部に出向いても門前払いされるため、教団の手伝いをしている菜々子に頼み込むという苦肉の策であった。

 

一方そのころ、時坂家に冬史が訪ねてくる。用件は「プルガトリオの羊」に関する調査の続報だった。
曰く、かつて件の小説家が取引していた出版社に「プルガトリオの羊」の初期案とおぼしき梗概が保存されていたとわかったという。
その内容は市場に出回っているものと酷似していることから、逃亡中の小説家を見つけた何者かがあらすじを教えられ、本人の代わりに小説を書いた可能性があるという。

 

報告を終えた冬史に対し、玲人は連続殺人犯を捕らえるため協力して欲しいと依頼する。

 

その日の夕刻、時坂家から出てきた女学生の後を追う人影が一つ。
女学生が人気のない通りに差し掛かるや、人影は鬼の面を装着して女学生に襲い掛かる。

 

しかし女学生は襲撃を察知すると、振り返り際にトンファーを横薙ぎして反撃。
女学生――歩が自身のターゲットでないことに気づき、襲撃者は罠にかかったことを悟る。

 

そこに玲人が現れ、この人物こそが4人もの女性を惨殺した連続殺人犯であることを指摘。
玲人はこれまでの状況証拠からこの人物こそが犯人であると見当をつけていたものの、逮捕に結びつく決定的な物証はなかった。
そのため歩を小羽と偽って囮にし、犯行の瞬間を捕らえるという奇策に打って出たのである。

 

すべては雛神家の血統を守るために成したこと――。犯人は玲人に対し誇らしげに嘯く。

 

しかしそんな犯人に対し玲人は、そんなものは建前で、真崎に対するただの嫉妬心でしかないと切り捨てた。

 

犯人は遅れて現れた八木沼ら警察に引き渡され、連行される。
東京・富山とまたがって繰り広げられた連続猟奇殺人事件は、これにてひとまずの解決を見たのである。

 

 

一方そのころ、真崎と冬史は保護対象である小羽の行方がわからなくなったため方々を探し回っていた。


若葉園にて紫や冬見に尋ねたところ、彼女は先日からどこか様子がおかしくなり、雪子の兄・雪緒に会いたいとしきりに口にするようになっていたという。

冬見の証言により、真崎達は小羽が手紙を使って雪子を櫻羽女学院に呼び出していることを突き止めた。


夜の学校に侵入すると、「雪緒に会わせろ」と言って取り乱した小羽が雪子ともみ合っている場面に出くわす。
冬史は二人を引き離すも、雪子は頑として雪緒などという者は知らないと言い切る。

小羽は興奮のあまり過呼吸となってしまい、冬史は彼女を病院へ連れていくことになる。
残された紫と雪子は、真崎が時坂家へと連れ帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は中盤戦から後半戦へと移行し、ようやく昭和32年時点で起きた連続殺人事件は解決を迎える。

 

個人的にはこの犯人についてあまり同情的にはなれない。

 

やらかしたことも心情的にも「カルタグラ」と通じるところがあったというのに、この違いはいったい何なのだろう。

 

片や親族含めた村ぐるみで排斥され続け、人体実験の果てに妄執と狂気に至った者。

片や恵まれた境遇にありながら村の因習に飲み込まれ、爛れた嫉妬心から狂気に至った者。

比較してみると、今回の犯人の方が狂気に至る理由が身勝手に見えるからではないか、と感じた。

 

もちろんどんな理由があっても罪もない人間を大量に殺しまくっていい理由にはならない。


ただやはり人が人を殺すということは、どうしようもなく大きな一線を越える行為だと思う。


であるならば殺人者には「こういう理由で正気を失った結果、殺さざるを得なかった」というやるせない事情があるのが自然だと感じるのである。

 

このような背景や事情がない犯罪者は、常人には理解できない狂人として描かれることが多い。近年ではサイコパスやソシオパスという名称も広く知れ渡っている。

 

殺人を犯している以上ある意味で犯人は狂人と言えなくもないのかもしれないが、理解できる範疇の理屈や避けがたい事情がある犯人であるならば一定の情状酌量の余地はあるとも思うのだ。

 

別に罪を憎んで人を憎まずなんて高尚なことを語るつもりはないが、罪と罰のバランス感覚として「犯罪者=悪即斬」と切り捨ててしまうのはあまりに極端ではないかという提言である。

 

ただそういった価値基準をもってしても、やはり今回の犯人にはあまり同情的になれない。

 

この犯人も「もしかしたら叶うかもしれない」という希望を一瞬でも見せつけられたものだから、不可能だとわかった瞬間に深く絶望したのであろうことは理解できる。

 

ただし、そんな偽物の希望を見せられるまではそこそこ普通の倫理観を持って生活してきたはずである。家族にも友人にも恵まれて、金銭的に困窮したことも迫害されたこともなかったはず。

 

にもかかわらずこの犯人は、叶うはずもない望みに固執して見ず知らずの他人を殺し、同郷の朋友を殺し、ずっと世話になった者まで殺した。


これではあまりにも極端に振り切れた、身勝手極まりない暴走としか映らない。もはや嫉妬の域を超えた、理解の及ばないモンスターである。

 

TRUEルートでは犯人は5人目のターゲットを殺害する前に逮捕されるが、バットエンドのルートの中には5人全員を殺害しきるものも存在する。
しかし、そうして自身の願望を叶えたとしても本当に欲しいものが手に入るわけではないため、結局犯人は自ら命を絶つことになる。
IF展開の末路まで含めて、度し難いほどに身勝手であると感じるのは阿久井だけであろうか。
(まあ、この犯人を狂気に至らせるきっかけを作った村の首脳陣にも償いきれないほど大きな責任はあるのだが……)

 

 

 

 

 

事件が解決した一方で、今度は雪子と天恵会にまつわる問題が進行していく。

 

玲人や真崎にとって、天恵会に関する調査はあくまで殺人事件の参考案件として追っていたにすぎない。
被害者の一人が天恵会の信者だったことを除けば、この団体が殺人に関わっていた証拠は出てこなかったからである。

 

しかし、どういうわけだが今回の事件の関係者は、同時に天恵会にも関係していることが多い。

未散と雪子・小羽に関してはこれまで何の接点もなさそうに見えたのに、同じ養護施設で育った孤児であるという共通点が突如として明らかになった。

 

雪子自身についても問題は起きている。
昔のことを思い出せない一方で、たびたび悪夢を――人を殺す夢を見るようになってしまった。

 

彼女は義母である冬見に恩返しがしたいという思いから、織部達の発案にのって天恵会へ所属することを決めてしまったわけだが、今度はその天恵会でも殺人事件が起こる始末。

読者もさぞかし混乱する展開の連続だったことだろう。

 

ただ、ここまでに提示された数々の情報と伏線を見たことで、だいたいの読者にはこの時点である疑念が生じているのではないかとも思う。

 

雪子の出自と、失われた記憶。彼女の言動に関する違和感の正体。おそらく、読者諸氏が閃いた答えは正しい。

 

それらが玲人たちの運命と絡み合うまでにはあと少しだけ時間を要することになるが、ここからは一気に解決編へと雪崩れ込むことになるのでどうか最後まで刮目していただきたい。