悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その9

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

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玲人は警視庁にて事件の事後処理に追われていた。

玲人と八木沼は被害者たちや事件関係者の血液型から、彼女たちの共通点を推測する。

おそらく最後の被害者を除く3名については、全員が雛神秋弦の子供だったのではないか。

現代の科学力では、メンデルの法則を駆使して「親子関係にない者」を確定させることしかできないため、推測の域を出ない考察ではある。

だがもしこの予測が事実ならば、真崎の婚約者たる条件とは――天子となるための条件とは、雛神の血を継いだ娘であることになる。


つまり、砂月と真崎は姉弟だったということなる。

雛神家とは、意図的に近親婚を繰り返すことにより血統を維持してきた一族だったのである。


玲人たちが考察を続けていると、突如として警視庁に激震が走る。

天恵会の幹部だった空木が遺体で発見されたという報告が上がってきたのだ。

玲人は八木沼と共に天恵会本部へ急行するも、信者たちは空木の死を認めず、警官隊は捜査できていない模様。

 

そんな中、本部の建物から冬見が出てきたので話を聞くことに。

挙動不審な冬見を訝しんだ八木沼は、彼女が持つカバンの中身を検める。中には大金が入っていた。

冬見は雪子を育てた謝礼として無理やり渡された大金を返すため、雪子を探すために来たのだと答える。

雪子は昨晩から時坂家で保護していることを説明すると、冬見は泣き崩れた。

詳しく事情を聴取するために冬見は警視庁へ送り届けられる。

 


一方そのころ、真崎は朽木病院の応接室にて待機していた。紫と雪子を時坂家に送り届けたあと、冬史と交代で小羽の様子をうかがうためである。

そのとき真崎は未散に遭遇する。病室に掲げられた小羽の名前を見た未散は、白百合の園で彼女と友達だったと話し、真崎は驚愕する。

そこで真崎は雪緒という名前に聞き覚えがないか尋ねると、未散は取り乱して左目を掻き出そうとしてしまう。

未散は言う。雪緒は見えなくなったが、小羽は雪緒を見てしまっている。見えなくなったものを見続けてはいけないのに――と。

 


場所は変わって、警視庁。玲人と八木沼は取調室にて冬見から事情を伺っていた。

先の大金は、雪子を育てたことに対する謝礼として天恵会から渡されたとのこと。

雪子を孤児院から引き取った当時、彼女を育てるように天恵会から指示があったのだという。

しかし雪子が教団の重要人物の血筋なのだとしたら、なぜ孤児になっていたのかはわからないらしい。

 


冬見を帰したあと、警視庁に連絡が入る。

富山県警の刑事が雛神製薬に押し入り居座っているため対処して欲しいとのことだった。


八木沼の指示で嫌々雛神製薬に赴いてみると、応接室で戌亥刑事が待ち受けていた。

曰く、雛神秋弦を殺人教唆の疑いで逮捕するために来たとのことだが、逮捕状は出ていない。ただの独断専行ということになる。


しかしここで玲人は戌亥から重要な情報を聞かされる。

まずは人形集落の山小屋付近に埋められていた四肢について。これは状況から見て鳥居に吊るされていた少女――砂月のもので間違いない。

古い捜査資料を見返したところ、被害者は正面から扼殺されていたが、遺体には暴行の痕跡はなかったという。つまり、被害者は処女だった。

だが玲人は真崎が砂月と枕を交わした事実を知っている。

であるならば、殺された少女は砂月ではなかったということになる。

 

同時刻帯、冬史は上野駅前のたこ焼き屋にて高城探偵事務所のチラシを眺める女学生を見かけ、声をかける。

いつぞやと同じ状況だと思いきや、少女の探し人はまたしても真崎であった。

冬史はその少女――祠草賢静の娘・夜宵を連れて警視庁に向かい、玲人に引き渡した。

曰く、雛神秀臣が危篤状態となったため、東京にいる真崎を連れ戻すよう指示されたらしい。

玲人は夜宵を引き連れて朽木病院へ向かい、真崎と合流。その足で急遽、人形集落へ向かうことになった。

 

 


1/14
丸一日かけて人形集落へやってきた玲人一行。

玲人は再び二見旅館に宿泊することに。

 

応対に現れた憂に千鶴が撮った写真を見せてみると、彼女は一枚の写真を見て疑問の声を上げた。

人相はわからないが、黒い装束をまとった天子と思しき女性の写真。憂は彼女を指して砂月ではないかと述べる。

しかしこの写真が撮影されたのは祭りの夜、彼女たち学生世代の面々はその砂月と一緒に天子が舞を踊るところを見ていた。

これでは、同時刻の別の場所に同じ人間が存在していたことになってしまう。

 

 

 

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人形集落に泊まった翌朝、玲人は黒矢医院に話を聞きに行った。

弓弦の義父である創に対し、砂月の健康診断の記録などがあれば見せてほしいと頼み込む。

記録によると、黒矢医院で健康診断を受けた少女の血液型はAB型である。

しかし、砂月だと思われていた遺体の少女の血液型はA型で、保管されていた記録と合致しない。

 

玲人は雛神家に向かい、秀臣の妻である真理子に対して自身の推理を聞かせる。

天子の正体とは、雛神家に生まれた娘を別の場所に移して育て、輿入れの時にお客様として戻していた女性のことである。

玲人は言う。雛神家を存続させるために年端も行かぬ子を監禁して育てる、そんなことはもう許されない時代となっている。

悪しき伝統に巻き込まれた少女――砂月は救われなければならないのだと。


しかし、真理子は砂月と呼ばれる少女が2人いたことを知らなかった。

そこで真崎は声を上げる。もうひとりの砂月とは、土蔵の長持ちに刻まれていた名前の主「アヤコ」なのではないか。

 

 

玲人と真崎は事実を確認しに祠草神社へ向かうことに。

2人は賢静に対し、「アヤコ」とは誰なのかと尋ねる。

玲人はこれまでの情報をもとに、彼女が天子の影武者として土蔵で生活させられていたのではないかとの推理を聞かせる。

 

賢静はその推理が事実であったことを認めた。

「アヤコ」とは、祠草小夜が天子の影武者とするためだけに産んだ子供だったのだという。

雛神理花が生んだ天子の本名は皐月(さつき)、そして影武者として生み出された少女の名前は理子(あやこ)といった。

この2人が演じ分けてできた虚像が、砂月という少女だったのである。

 

賢静の話を聞いて真崎は疑問を口にする。なぜ天子である皐月が死んだあと、影武者である理子を天子に据えなかったのか。

 

その理由は、理子が皐月を殺害して逃亡したからではないかと玲人は推理する。

 

真崎の記憶では、当時祠草家の人間は全員雛神家にいたことが確認されているため、少女を殺害できる人間はいなかったという結論だったはず。

だがそこでもう一人、理子が存在すれば犯行は可能である。

 

玲人の推理を聞き、賢静はついに告白する。

彼は家族の将来を守るために、集落で起きた事件をなかったことにすることを決意したのだという。

皐月の遺体が発見されたあと、理子は土蔵にあった長持の中に隠れていたという。

そこで死んだ皐月が小夜に解体される一部始終を見ていたショックのせいか、理子は自分が皐月を殺したということをよくわかっていなかったらしい。

理子の存在が警察に知られる前に、信頼できる知人に彼女を託し、東京へ逃がしたとのこと。

そのあと東京は空襲で焼き尽くされ、理子の行方はわからなくなってしまったらしい。


話が佳境になったとき、夜宵が座敷に乱入。秀臣の意識が戻ったとのこと。

  

 

再び雛神家に訪れる玲人と真崎。

玲人は病床の秀臣にヒンナサマの祟りの真実について尋ねる。

 

人形集落で囁かれていた迷信では、偽物のヒンナサマを祀った者は祟りにあうという話だった。

しかし本物のヒンナサマは雛神家の神棚にしまわれており、真崎を始めとしたほとんどの村人たちはそれがどんな形状のものかすら知らなかった。

であれば、これまでの被害者たちがみな独自に「胎児を模した土人形」を作ったとは考えられない。

 

ならば遺体発見現場にヒンナサマを残すことができたのは何者かというと、ヒンナサマの形状を知っていた祠草か雛神の人間だけということになる。

 

それに雛神製薬には戦前から違法な人体実験に関わっていたという容疑がある。

玲人は、その延長で未認可の薬品を村人たちに使わせていたのではないかと推察する。

 

証拠はあるのかと秀臣は問う。そこに戌亥警部が部屋に乱入し、被害者の解剖記録を読み上げる。

戦前、祟りと称して殺害された女性の子宮には腫瘍ができていた。

解剖記録によれば、それが投与されていた薬品の副作用であることは明らかであると。

 

つまりヒンナサマの祟りの正体とは、違法な人体実験の露見を防ぐため、重篤な副作用を発症させうる村人を天子に暗殺させていたという組織的犯罪である。

そして祟りによって天子と雛神家、祠草神社の権威を印象付けるため、この犯行は何十年にもわたって続けられてきたのだ。


玲人は断罪する。過去の祟りのすべてが公訴時効を迎え罪に問えなくなっているとしても、これらは殺人事件である。

秀臣がどこまで祟りに関わっていたのかはわからないが、雛神家の当主であった以上、これは彼の罪であると。

 

秀臣は玲人の推理を認めたあと、「煉獄にて罪を償う」と言って息を引き取った。

 

部屋を立ち去ろうとする玲人を真崎は殴りつける。

秀臣の肩を持つわけではない。しかし、今際の際の人間をあそこまで追い詰める必要はあったのか。

事件を解決するためなら何もかも踏みにじってもいいと思っているのか、と。

 

玲人は答える。

人でなしじゃなければ他人の秘密に足を踏み入れたりするような真似はできない――と。

 

その晩、真崎は気まずそうにしながらも二見旅館の玲人のもとを訪れる。

2人は話し合い、東京に戻ったら今なお行方不明になっている理子を探すことを決めた。

 

そのとき、真崎はふと玲人が持っていた写真に目を止める。

それは朽木千鶴から預かった祭り当日の写真に混ざっていたもので、写っていたのは井の頭公園で写生する雪子・小羽・紫の3人だった。

 

そこに写る雪子を見て真崎は息を飲む。慌てて祭り当日の理子の写真と見比べる。

二人がしているのは同じ髪飾り――祭りの夜、真崎が理子に買ってプレゼントしたものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


本作は一度1月18日のノーマルエンドを迎えたあと、初めからプレイしなおすことでTRUEエンドへのルート解禁や二週目限定の演出・描写が見られるようになる。

 

この二週目以降の追加要素の一つとして、視点となっている人物が「砂月」であった場合、それが皐月だったのか理子なのかがわかるように文章が書き変わっているというものがある。

 

たとえば、村の入口で神社への帰り道がわからなくて困っていた砂月は「理子」、雛神家にて土人形用の土をこねる手伝いをしたあと理人から祭りに誘われたのは「皐月」というように、彼女たちは入れ代わりつつ理人の前へ姿を現している。

(とはいえ過去編を見返してみると、理人と砂月の好感度が上がる出来事が起きた際は、理子が相手だったことがほとんどである。理人は二人の区別ができていなかったが、おそらく好意を向けていた相手は最初から一貫して理子の方だったのだろう)


一週目のプレイ時に砂月に対する小夜の態度に違和感があった理由もここで明かされる。とかくこの小夜という人物は、先代天子である雛神理花に関連のあるものにしか興味がなく、それ以外はたとえ自分の実の子供であってもどうでもよかったのである。

 

まったく、この物語に登場する人間の歪みの深さには恐れ戦かされる。

憧れの女性の子供に人殺しをさせないためだけに、自分の子供を殺人の道具として育てたなんて、人でなしにもほどがある。

 

作中では明言されていないが、本作冒頭に語られた「どっかの寒村で女が女を惨殺する場面」に出てくる少女というのも小夜である。


おそらくこの時にはすでに小夜も「ヒンナサマの祟り」のシステムに組み込まれていたのだろう。そうでなければ、当時未成年だったと思しき少女があんなにも手際よく祟りの様相で遺体を加工できはしまい。

 

こんな集落滅びてしまえ、と本文を読んでいて何度思ったことか。あまりにも邪悪で、理解しようにも拒否反応が強すぎてこれ以上考察する気にもなれないが……

 

 

 

話は変わり、昭和32年の殺人事件について。

犯人を逮捕したあと、玲人と真崎は諸所の事情によってふたたび人形集落に舞い戻ることになる。

 

このときすでに八木沼から依頼された捜査協力は完了している。本来なら玲人はこの時点で事件から手を引くこともできた。

そもそも既に時効が成立している「ヒンナサマの祟り」事件を追い続ける理由などないのだから。

 

しかし玲人は事件当事者である真崎と関わり、事件の背後にあった悍ましい悪意の数々を知ってしまった。

しかも戌亥刑事からの言葉で、真崎の愛した女性が生きている可能性を見出してしまった。

だからこそ玲人は事実を明らかにするために、真崎の帰郷に同行するという体で人形集落までついて行ったのだろう。

 

それは玲人の探偵としての義侠心から成せる行いだったのだろうが、先に述べたように連続殺人を解決した時点で玲人はお役御免でもおかしくない。

それでも事件を追う姿勢は探偵としてというより、人としても偏執的すぎると言えなくもない。

すでに終わった過去の事件を執拗にほじくり返す者の存在は、当事者からすればさぞ煩わしいものだっただろう。

 

ただ個人的には、真崎が玲人を殴りつけたのは直情的な暴走だったと感じている。

被害者とも加害者とも密接に関わっていた彼にとってみれば、身内の死に際に知りたくもなかった残酷な真実を突きつけられた混乱が大きかったのもわかるが、雛神家が成してきた悪行の数々を思えば間違っても反論できる立場にはないはずである。

 

一方、そんな直情的で思慮の足りない真崎にもまだ希望が残されている。彼が砂月と認識していた女性が――理子が生きている可能性である。

 

そう思った矢先に髪飾りの伏線を回収してくるのだから、イノグレもやりやがるものである。
人によってはご都合主義と感じてしまう読者もいるかもしれないが、個人的にはこのどんでん返しは胸熱な展開だった。
死んだと思っていた想い人が実は落ち延びて生きていた――ロマンチックじゃありませんか。

 

ただし、このゲームメーカーがそんなお涙頂戴なだけの物語を提供するはずがない。

さんざん伏線が張られながらいまだ解決していない、雪子の問題が残っている。

 

「ヒンナサマの祟り」から始まったこの物語のメインヒロインがどうして雪子だったのか。

本作のタイトルになぜ「虚」と冠されているのか。

その意味は、イノグレの真骨頂である伏線回収手腕を伴ってまもなく明かされる。