悪意ある善人による回顧録

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虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その6

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

 

・雑感

 

12月24日、玲人は紫の希望を聞き入れ、時坂家にてクリスマスパーティを開催することになった。


調査続きでプレゼントを用意しておらず、急遽買い物に出た玲人だったが、街中で歩に尾行されていたことに気づく。
昨年の事件解決以来、探偵助手にして欲しいと熱心に請われていたが、玲人にその意思はない。
しかし歩は何かにつけて有能なため、プレゼント選びを手伝ってもらうことになった。

 

帰り際、杏子へプレゼントを渡しがてら喫茶・月世界に立ち寄った玲人は、いつぞや店で会った常連客の女性と再会する。
そこで玲人は彼女――茅原冬見が紫の友人である雪子の母親だと知る。

 

その晩、時坂家には紫、小羽、雪子、歩、玲人、真崎が集まり、小規模ながら和やかにパーティーが開催されるのだった。

 

一方そのころ、八木沼は冬史を呼び出し、天恵会とは別件で追加調査を依頼していた。
調査内容は、雛神製薬に違法治験の疑いがあることについてである。
八木沼は事件関係者の中に雛神製薬に関わりのある者が多いことを知り、内々で捜査を続けていた。
この十数年、雛神製薬の社員が様々な理由で亡くなっていることに気づいた八木沼は、違法治験を隠ぺいしているのではないかと考えたのである。

 

玲人たちが人形集落へ出立した翌日、小羽は一人になった紫を心配していた。そこで彼女は雪子を誘い、時坂家に泊まることを願い出る。
その晩、紫は雪子から彼女が以前いた学校についての話を聞かされる。
雪子は前に居た学校でとても親しくしていた友人がいたが、転校前に亡くなってしまったらしい。
その話を聞いた紫は、雪子が転校してきた当初、学校で噂話が囁かれていたことを思い出す。
曰く、雪子がその友人を殺したのでは、という噂。
雪子の消極性が以前の学校での出来事に由来すると察した紫は、彼女にずっと側にいると約束するのだった。

 

丸一日をかけて人形集落へと到着した玲人と真崎は、村唯一の旅館である二見旅館に宿泊することを決める。


翌日、玲人は上層部の意向を無視して「ヒンナサマの祟り」を捜査し続けている閑職の刑事・戌亥と顔合わせする。
そこで玲人は「祟り」は十数年おきに起きていることを聞かされる。
真崎が集落にいた当時や、昭和4年に起きた事件。
さらに過去にさかのぼれば、大正11年3月に1件、明治末期に3件、同様の事件が起きているという。


一方そのころ、旅館で留守番をしていた真崎は雛神真理子に見つかってしまい、雛神家へと連行される。
そこで現当主・秋弦の父にあたる秀臣より、雛神家を継ぐことを命令されてしまう。


真崎は使用人である由果より、自分が出奔した後の出来事について聞いてみる。
曰く、小夜は出奔した真崎の捜索の最中に心不全で倒れ、黒矢医院の人間が看取ったということになっているらしい。
それはおそらく雛神家が家名を守るために方々に圧力をかけて殺人の事実を隠蔽したのだと真崎は察した。


そのあと真崎は、旅館から荷物を持ってきた憂も交えて会話する。
真崎はそこで改めて雛神家を継ぐ意思はないこと、後継ぎなら花恋がなればいいと考えていることを伝える。
しかし、真崎の無責任とも取れる発言に由果は激昂。
実は真崎が出征している間に、花恋は生まれつき子供が産めない身体だとわかったのだと告白される。

 

翌日、真崎は小夜のことを聞き出すために雛神家を抜け出し、祠草神社へ向かう。
宮司となった賢静より、小夜の死を病死と偽ったのは村の総意だったと聞かされる。
小夜が砂月と雛神理花の四肢を隠蔽していた土蔵の地下室も埋められていて、すべてはなかったことにされていた。


神社へ至る参道の鳥居にて、玲人は真崎と鉢合わせる。


二人はこれまでの経緯から、雛神家と祠草家が共謀し、祟りと称して人を殺し続けているという推論を共有する。
しかし、現時点では何ら証拠のない戯言に過ぎないこともわかっていた。


玲人は重ねて推理し続ける。
過去の祟りは天子が舞を踊った翌日に起きている。
であるならば、事件は天子本人か、天子を擁立する一団が起こしていると考えるのが自然である。
しかし、おそらくは最後の天子であっただろう砂月はすでに死んでいるにもかかわらず、現代でも祟りが起きている。祟りを起こしている人間がいる。
十数年おきに祟りが起きるのであれば、世代交代により新たな天子が顕現しているとも考えられるが……


改めて祠草神社にて話を聞こうと境内に向かうと、玲人と真崎は東京から戻ってきていた花恋と遭遇する。
復員以来、十数年ぶりに再会した真崎を前に花恋は感極まってしまい、話ができる状態ではなくなってしまう。


玲人は先に一人神社から立ち去るも、今度は花恋の帰郷に同行していたという菜々子と再会する。
曰く、仕事の都合で秋弦が帰れなくなったため、その代理とのことだった。


その日の晩、集落は大雪に見舞われる。
しかしそんな中、今度は由果が祟りの様相で殺されてしまう。


報せを受けた玲人は現場となった鳥居へ急行する。
戌亥刑事が言うには、玲人たちが現場に到着するまでにはあったはずの土人形がなくなっているという。
急いで境内に向かうと、雛神真理子が土人形を持ち出して壊してしまったところに行きつく。
彼女は言う。天子はいないのだから、祟りなど起こるはずがない――と。


隙を見て玲人は雛神家の神棚からヒンナサマの実物を確認し、土塊を採取する。
玲人は真崎に対し、真理子が破壊した土人形の残骸と合わせて東京へ持ち帰るように命じる。
先んじて東京へ戻ることになった真崎に、花恋も同行することになる。

 

その後、玲人は雛神家当主・秀臣への聞き取り調査を敢行する。
彼はこれまでに殺害された4人のうち、由果以外の3人は真崎の婚約者候補だったと認めた。
曰く、3人にはその資格はあるが、由果には資格がないらしい。
候補は他にもいるが、そのことは本人にも伝えておらず、誰が候補なのかは秀臣と秋弦しか知らないとのこと。

 

真崎たちを帰らせたあと、玲人は憂にも秘密裏に見合い話が来ていたことを知る。
相手は伏せられていたが、憂自身も真崎との縁談であることは察していたらしい。
つまり、憂には真崎の婚約者候補たる資格があるということになる。

 

玲人は戌亥刑事より、すでに時効を迎えている人形集落での事件資料を預かり、
菜々子と共に東京へと帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殻ノ少女の時と違って、虚ノ少女では連続殺人とは言いつつも、一件ごとの事件はそこそこ日が空いて実行されているため、必然玲人たちが事件を追う日数も長期にわたっている。

 

まあ犯人も人間なので、どこぞの「名探偵の孫」や「体は子供、頭脳は大人」な主人公らが登場する事件の犯人のように連日連夜人を殺したりするバイタリティなどありはしない。
(それこそオペラ座の怪人の言う通り「やることが多い……!」になってしまうし)

 

そのあたりも含めて本作は日常と事件とのバランスをかなり意識して丁寧に描いているので、そこも高評価なポイントであると感じる。


ただ物語の構造上、玲人たち追跡者側のメンツは常に後手に回ってしまうため、事件がなかなか解決しないもどかしさも併せてモヤモヤしてしまう読者もいるかもしれない。
(とはいえ、個人的にはそこも含めて現実的な描かれ方をしていると感じたが)

 


前作まではあまり目立っていなかったものの、八木沼が管理官として目端の利いた良い捜査指揮を執っているのもなかなかいい。

 

物語の冒頭で容疑者段階だった真崎を勢いで逮捕していたときには正直どうしたんだコイツと心配になったものの、玲人や冬史にそれぞれ別々の調査を依頼しつつ、自身もその裏取りをして証拠を固めるという抜け目のなさを発揮していた。

 

 

 


ただし本作をミステリーとして考えるなら、こと昭和32年に起きている連続殺人事件に関しては心ばかしのマイナス要素もある。

 

東京で起きていた事件が富山(人形集落)でも起きた、というのは確かに衝撃的な展開ではあった。


しかし人形集落でも事件が起きてしまったせいで、ここまでの描写でもすでに容易に犯人が特定可能な状況になってしまっているのである。

 

玲人が真崎に持ち帰らせた土塊の鑑定結果はすぐ後に語られることになるが、この情報を待たずしても「東京と富山の両方に存在できた人物」しか犯人たりえないことから、少なくとも実行犯が誰かという点については推理すら必要がなくなっている。

 

被害者の中には生きていれば容疑者たりうる者も含まれていたというのに、犯人自らが容疑者を減らしてしまっている。

 

過去作「カルタグラ」をプレイしている読者であれば猶更、犯行動機の推察も充分可能な状態になっているため、ミステリーとして見ると少々盛り上がりに欠ける展開と言えなくもない。

 

 

もっとも、この時点では犯人が単独なのかグループなのかまでは判定不可能なため、そこだけは厳然として謎が残っている。


玲人は戌亥刑事から「ヒンナサマの祟り」が何十年もの長期にわたって繰り返されている事件だと聞かされていることもあり、組織的犯行の線を捨てていない。

 

それにたとえ昭和32年時点で起きた事件については経緯の説明ができても、過去に人形集落で起きた事件とのつながりを考えるとまだまだ謎も闇も深い。


シナリオ構成をメタ的点に捉えるなら、昭和32年現在の事件は「ヒンナサマの祟り」という巨大な事件を紐解く切っ掛けにすぎないから謎の要素も少なくした、と言えるのかもしれないが。

 

 

 

事件の凄惨さに心を削られる読者にとって、日常パートは清涼剤のようにも思えたかもしれない。


ただしこれらをただ茫然と流し読みしていると、とんでもなく重要な伏線を見逃してしまう可能性があることは忠言しておきたい。

 

たとえば、クリスマスパーティーから年末に至るまでの間、とある人物の外見に些細な変化が見られるのだが、そこに気づけたなら拍手喝采

 

この時点で目敏く違いを見抜き、その意味を正しく推理できたなら、名探偵を名乗っても良いと個人的には思う。

 

あとから振り返った時、「なんでクリスマスの時点であの朴念仁は気づきやがらなかったんだ!?」と思ったとしても、そこは演出の妙である。


なぜなら、あの朴念仁が居る前ではその「些細な変化」が現れていなかったのだから。
(だとしても何やかんやあったのだから気づきそうなものだが、そこはヤツ自身が言う通り「思索は苦手」というのが大きかったのだろうが……)

 

 

 

さてさて、「天ノ少女」発売までに油断せずにどんどん復習していきたいものである。