悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

天ノ少女《PREMIUM EDITION》 その4

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・余談

今回はまとめ「その2」と同様に、2週目以降で解禁となる章立てについて差し障りない程度に述べていきたいと思う。

 

『capitolo1 月天』

昭和33年1月31日(金)~2月18日(火)までの出来事。

「天罰殺人事件」が表沙汰になるまでの経緯について。

無料公開された「前日譚」に犯人や第三者視点のエピソードが要所要所に加えられているため、「caplitio0 火焔天」の表示はない。

 

 

『capitolo6 木星天』

昭和39年2月14日(金)~2月21日(金)までの出来事。

「天罰」を模した新たな遺体が発見され捜査を始めるのは同じだが、1週目の昭和33年3月15日(金)に起きた衝撃の展開を防いだことによって未来が大きく変わる。そのため、「capitolo4 太陽天」の表示はない。

 

また、冒頭部に「とある少女」が誘拐事件を目撃する描写が追加されるほか、玲人たちが事件を捜査する傍らで何が起きていたのかが被害者視点で描かれるという違いがある。

(2週目時点ではイノグレ特有の第三者視点描写である縦書き文にて無音声で描写される。END2「Grand END」に到達したあとにこれらの場面を見返すと、通常の横書きかつ音声ありにシーンが差し変わるため、本作のすべてのボイスを聞き漏らさないためには最低3週以上のプレイが必要になるため要注意である。)

 

 

『capitolo7 土星天』

 昭和39年2月21日(金)~2月24日(月)までの出来事。

上記の通り1週目と大きく違う点がある為、玲人がとある人物に対して確信に迫る質問をするシーンが追加される。これがのちの展開の伏線となっている。

2週目以降で展開が異なっていることから、「capitolo5 火星天」の表示はない。

 

 

『capitolo8 恒星天』

昭和39年2月24日(月)~2月27日(木)までの出来事。

玲人は事件の真犯人を突き止める。その過程で玲人は思いもよらなかった事実を突きつけられ、とある決断を迫られる。

その直後に新たな事件が発生し、玲人は過去の因縁に終止符を打つことになる。

 

 

『capitolo9 原動天』

昭和39年春の出来事。(時期不明)

END2「Grand END」へ進むことが確定した場合の章立て。

 

「六識事件」から始まるすべての因縁に決着をつけたことを亡き婚約者・深山由記子の墓前で報告する玲人。

朽木家にも訪れ、仏壇に飾られた冬子の遺影を前にして、過去の全て受け止め生きていく決意を固める。

 

このあとエンディングロールが流れ出す。曲は2015年に本作のエンディング曲であると発表されていた「輪廻の糸」。歌唱は霜月はるか氏である。

 

ああ、これで物語は終わってしまったのか……と思いきや、エンディングロールのあとに「karano shojo Grand end」のテロップが表示されると、そのあとも何事もなかったかのように物語が続いてしまい、最初は呆気にとられた。

 

ここから小一時間近く「とあるイベント」についての描写がされるわけだが、この点も一定数の読者から非難を受けている個所であるらしい。

(ただまあ非難の内容を見ていると、長ったらしくアレコレと述べている割には「推しカプが結ばれないなんて納得できないからゴミ作品!」と言っているにすぎず、好みの範疇を出ていない。その一点を持って作品全体を否定するのは短絡的過ぎると思うのだが……)

 

個人的には、玲人と「彼女」の関係は「殻ノ少女」での距離感が適切であり、「虚ノ少女」でおかしくなってしまったと考えている。

玲人も「彼女」も大切な人を亡くした者同士でシンパシーがあったのかもしれないが、「彼女」は未来を見ていたのに対して玲人はずっと過去に囚われていた。一番大切な価値観で相違があった時点で二人の行く末はわかりきっていたので、ああなってしまったことはすんなりと納得できてしまった。

(もちろん、玲人が考えを改めて「彼女」のことを第一に考えられるようになっていれば未来は違ったのかもしれないが、心身ともに探偵に成り下がってしまった玲人にはその決断を下すことはできなかったのだろう)

 

では玲人はひとりきりになってしまったのかというと、そうでもない。その点は妹である紫と『彼女』の会話で明示されている。玲人の性格上、『彼女』と結婚することはできないのかもしれないが、それでも『彼女』が「まかせて」と紫に述べてくれたことは素直にうれしい。

(ただ、『彼女』が「True END」を迎える昭和46年の時点でも玲人を支え続けてくれているかどうかは、作中でも後日談の小説2作でも触れられていない。そこだけが一抹の不安として残ってしまったが、否定されていない以上は好意的に受け止めることにしたい)

(どうでもいいけど「彼女」だの『彼女』だの代名詞が多くてややこしいな……ネタバレ禁止は本当に厄介である)

 

 

『capitolo10 至高天』

昭和46年3月4日(木)の出来事。

END1「True END」へ進むことが確定した場合の章立て。

昭和39年2月27日に起きた出来事で、玲人がとある選択をすると迎えることのできる真の結末。

 

すべての因縁に決着をつけ、すべての未練を断ち切った玲人。

とある新聞記事を眺めても彼は一言「くだらねぇ」と言葉を漏らすだけだった。

由記子が殺されてから20年。冬子と出会ってからは15年が経った今でも、彼は探偵を生業としていた。

そしてある日、そんな玲人の前に……

 

……と、これ以上は述べることはできない。とにかく凄いものが見られるとだけ言っておこう。

 

例のシーンの真価が発揮されるのは、「殻ノ少女」「虚ノ少女」をプレイしているのはもちろんのこと、過去2作がどのような物語だったのか記憶が新しいうちに読んだときだと考える。本作に興味を持ったのであれば、悪い事は言わないから最低でも「殻ノ少女」「虚ノ少女」をプレイすることをお勧めする。

(より没入感や話の背後関係を知りたいのであれば、初代作品「カルタグラ」もプレイした方がよい。ただし、「カルタグラ」については現在イノグレよりHDリメイク版の開発が示唆されている。発売がいつになるかはわからないため、今すぐプレイするかリメイク版が発売されるのを待つかは個々人の好みにゆだねたい)

 

 

 先述の「凄いもの」を拝んだあとはエンディングロールが流れ出す。

このとき流れる曲は事前発表のなかった「True END」専用の特別なものになっているため、曲名すら述べることはできない。ただひとつ言えることは、ちゃんとよく歌詞を聞き取ってほしいということ。

その意味に気づいたとき、きっと涙する読者もいるはずである。

 

 

 

 

 

さて、ネタバレに配慮しつつふわっと章立てを記録するのは今回で終了である。

 

次回更新はいつになるかは未定ではあるが、各章の間に挿入された「神曲」からの引用文を解析したり本格的な感想を述べたりと書き散らしたいことが山積みであるため、ネタバレ配慮期間が終わってから徐々にしたためていきたい所存である。

 

遅くとも6月ごろには配慮期間は経過したとみなしてもいいのだろうか……?

(そのころには発売から半年経っているし、いろいろとぶちまけても良い……のか?)

 

 

 

あとは余談だが、最後に付け足しておきたいことがある。

本作は紛うことなき18禁ミステリゲームであるが、今回においてはこの18禁要素は殺人事件の残虐さに集約しているので注意が必要である。

 

なにが言いたいのかというと、過去のイノグレ作品には普通に存在していたHシーンが皆無なのである。そのため、本作ではシーン再生という概念すら存在しない。

 

イノグレ作品の原画担当である杉菜水姫氏のイラストは非常に耽美な出来であるため、それらを期待していた読者層には思いっきり肩透かしを食らわせる展開となってしまったようで、この点も一定数の読者から蛇蝎のごとく嫌われている要素である。

 

ただまあ個人的に阿久井はPS2版「カルタグラ」からの参入者であるため、Hシーンの有無は作品の評価という観点からはどーーーでもいいことであると考えている。

むしろ今までの物語は、必然性のないエロがそこかしこに見受けられていたため、ミステリ・サスペンスという作品性から考えると余計だと思われるものもあったから、逆に物語の展開に集中できて良かったとすら思えた。

(まあ、まったくないというのも極端ではあるけれど……)

(ちなみに、R-15にも満たないような「濡れ場」は何回か描かれているものの、これまでのHシーンと比べれば非常に質素な描写になっており、上述の通り物語上の必然として描かれているに過ぎない。過度な期待は厳禁である)

天ノ少女《PREMIUM EDITION》 その3

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・余談

 先日、とうとう全ルートの踏破を達成してしまった。

とはいえ、未回収のエンドに関してはどうしても条件が判らなかったため最終的には攻略サイトの世話になったわけだが。

 

 

 本作ではエンディングリストに掲載された14の結末の内、END6「Unsolved case」に到達することで2週目以降の新要素解禁とEND1~5までのルート開放が実装される仕組みになっている。

 

ただし、2週目は普通にバッドエンドを避けてゲームを進めて行けば、ほぼ確実にEND2「Grand END」を迎えることができる。

 

この「Grand END」は全ての事件が終わったあとのエピローグとしての意味合いが強く、このエンド分岐に入ったあとも小一時間ほどエピソードが続くため見ごたえは抜群である。物語の読後感をより良いものにするべく、『あの』イベントを丁寧に描いてくれたイノグレには感謝しかない。

 

また、この「Grand END」ではとある人物がゲスト的に出演するサプライズ演出が待っている。登場後はサウンドテストにもこの人物が追加されるので、速やかに音声テストボタンを押してメッセージを聞くことお勧めする。

 

一度「Grand END」に到達した後は、昭和39年2月27日のイベントにて非常に重要な選択肢を2回迫られる。この選び方によって、「Grand END」の他にEND3「それぞれの天国」、END1「True END」へと分岐することになる。

 

(ただし、「True END」への分岐については昭和39年2月24日にとある決断をしていることが条件になっている。この条件を満たさず「True END」へ進める選択肢を選んでしまうと、エンディングリストに掲載されていない特殊なエンディング「Normal END」を迎えることになるので注意が必要)

 

 

「それぞれの天国」は全ての事件が終わったあと、真崎にまつわるエピローグが繰り広げられる。これはどちらかというと前作「虚ノ少女」の総決算という意味合いが強い。またこのエピソードを見てもいくつかの謎は残ったままとなっており、そこは読者が推察・想像するしかない。

これらの点から某amazonのレビューでは親の仇のように低評価が下されているが、個人的にはそこまで悪いものではなかったように思う。詳しくはネタバレ配慮期間が終わったあと、改めて語りたいと思う。

 

 

「True END」は全ての事件が解決したあと、昭和46年3月4日へ時間が移動する。「True」と銘打っている以上、イノグレが真に描きたかった最終的な結末はこのエピソードなのだろう。昭和46年に至るまでの過程が全く描かれていないためなんとも言えないのだが、おそらくは「Grand END」の展開を経たあとの続きがこの結末なのだと思われる。

 

この「True END」もかなり賛否がわかれているようで、納得がいかないだの蛇足だのと低評価を下す読者も一定数いることが確認できている。まあ確かに、ものすごく狙ってやったという印象をうける結末ではあったが、「殻ノ少女」「虚ノ少女」と続いた3部作の最後の結末としては非常に鮮やかに締めくくられていたと個人的には思う。

世間ずれし過ぎて感動の涙を喪ったせいか泣きこそしなかったものの、この物語を追い続けて本当に良かったと思える程度には感慨深いエンディングだったことは確かである。

 

あの結末によって玲人は新たな偏執(パラノイア)を得ただけなのではないか、そんな穿った見方をしてしまう自分もいる。

しかし、エンディングにて表示された玲人の表情はこれ以上ないほど晴れやかなものだった。愛する人を何回も喪って、自らを「ひとでなし」と蔑むまでに探偵になりきらなければならなかった玲人。あの結末は、そんな彼に与えられたひとつの救いだったのだと思えてならない。

 

 

なお、実は本作はこれだけでは終わらない。

「天ノ少女 《PREMIUM EDITION》」には別冊小説「彼女と手紙」が付属しており、「True END」の後の展開をとある人物に視点変更して描かれている。

 

しかもさらにその続きは「天ノ少女 オリジナルサウンドトラック Caelum」に付属した短編小説「彼女からの手紙」にて描かれている。ここまですべて読み切って、ようやく本作は完結する。

 

詳しくはネタバレの嵐になってしまうため現時点では多く語ることはできないが、ほんの少しだけ感想を残しておく。

 

まず、これは「天ノ少女」自体にも言えることなのだが、作中の雰囲気がイノグレ初の全年齢百合ミステリ「FLOWERS」シリーズの影響を思い切り受けまくっている。これまでのイノグレ作品群における心臓を抉り取らんばかりのサイコな雰囲気が好きだった読者層からすると生温くなったとの印象を与えかねないため、これは評価が分かれるところではあると思う。

 

次に、この二つの短編小説はイノグレ初代作品「カルタグラ」からのファンに対する一種の返礼であると受け取れた。イノグレ作品はこれまで主に昭和20~30年台を舞台としたサスペンスを製作しており、その世界観はすべてつながっている。ある作品の登場人物が、別の作品の親族だったりするということはそこかしこで見受けられるため、世界観や雰囲気の作りこみが半端ではない。

そんな作品を生み出し続けてきたイノグレが送り出したのが、上記の小説である。感慨深さが凄すぎて言葉にできない。本当にここまで物語を追ってきてよかったと思える。

 

……ただ、そんな過去作からの遺伝子を受け継いだとある登場人物の残念さがあまりに残念なため、微笑ましいやら嘆かわしいやらで感情が迷子になっている自分もいる。まあ親の残念さを煮詰めて「FLOWERS」成分を掛け合わせたらあんな感じになってしまうのも無理はないのだが、どうしてこうなった。

 

 

 

 

――とこのように、今回はゲーム完結の記録のみでいったん終えたいと思う。

 

続きは前回のまとめと同様、ネタバレに配慮しながらふわっと章立ての解説を記録し、ネタバレ配慮期間が終えたと思える時期になってからちょっとずつ作中の感想やら考察やらをしたためていきたい。

 

興味がある酔狂な読者諸氏がいるようであれば、思い出した時にでも暇つぶしに斜め読みしてくだされば幸いである。

天ノ少女《PREMIUM EDITION》 その2

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・余談

ゲーム発売からおよそ一か月ほどが経過し、ようやっと1週目が終了した。現在はぽつぽつと2週目をプレイしている真っただ中である。

 

正確には終了したと思われるほど選択肢を選びつくし、新たなエンディングが見られない状況に達したため、ようやく記録に残せる段になっただけだが。

 

もう言いたいこと書きたいことがあふれかえっているが、まだネタバレ全開で書き散らすには発売してから日が浅いため、事件の核心に触れない範囲でふわっと概要を残しておくことにする。

 

1週目で確認できた章は次の通り。

 

『capitolo2 水星天』

昭和33年2月19日(水)~3月2日(日)までの出来事。

「天罰殺人事件」が一応の解決を迎えるまで。

 

『capitolo3 金星天』

昭和33年3月3日(月)~3月15日(土)までの出来事。

警視庁に長らく勾留されていた六識を巡る驚愕の展開。

 

『capitolo4 太陽天』

 昭和39年2月14日(金)~2月21日(金)までの出来事。

衝撃的な事件から6年が経過。未だ偏執に囚われる玲人の前に再び「天罰」を模した被害者が現れる。

 

『capitolo5 火星天』

 昭和39年2月21日(金)~2月24日(月)までの出来事。

過去の事件と現在の事件が交錯する。

 

 

まとめ「その1」でも記載したが、本作の章立てはダンテの「神曲 天国篇」で登場する天国界の層の名前がそのまま使われている。

ちなみに「無料体験版という名の前日譚」では『capitolo0 火焔天』と表示された。

 

聡い読者はこの時点で気づいただろうが、なぜか1周目のプレイ時には天国界の第1層である「月天」という章立てが現れない。

 

この疑問は2月24日にとあるエンディングを迎えたあとに開始される2週目をプレイすればすぐに解決する。

 

ちなみに2週目への入り方は、タイトル画面に「画廊」ボタンが選択できるようになったのを確認してから改めて「開始」ボタンを押すだけでいい。

 

すると、2週目の開始を知らせるように『capitolo1 月天』の章立てが表示され、作中における重要人物の独白が始まる。

 

この独白が終わると、先に述べた「無料体験版という名の前日譚」に第三者視点を追加した内容が再演される。(イノグレが事前発表していた「前日譚」を本編でも見れる条件というのが、2週目を開始する事だったのだろう)

 

 

 

いやまあ、それにしてもなんというか……本作もなかなかのボリューム感があってまったく真相にたどり着く気配がない。

虚ノ少女」並みの長編大作かどうかはまだ話半ばでわからないが、少なくとも1週目終了の時点ではスチルの3分の1ほどしか埋めることはできなかった。

 

エンディングリストに掲示された14の結末の内、1週目で開けることができたのはEND6からEND14までの9つのみ。それも2月24日に迎えられるEND6を除いた8つは選択肢や推理のミスによるバッドエンドである。

唯一エンディングテロップの流れるEND6についても「事件の犯人っぽいヤツは捕まったが、結局何もわからないまま」という何ともすっきりしない幕切れを迎えてしまう。

 

 

2月24日の時点で怪しい人物の目星はついているのに、その人物を追い詰めようにも1週目では必要な手掛かりを入手するフラグや選択肢が表示されない設定になっているのだろう。なんとももどかしい限りである。

 

 

 

 話は変わって、1週目で垣間見た物語についても少しだけ述べておきたい。

 

まず、本作の発売にあたって大々的に宣伝された「天罰殺人事件」について。

遺体の禍々しさや狂気的な美しさは過去作を彷彿とさせるものがあるが、イノグレ作品すべての中で最も驚かさせられる展開があったため、非常に興奮してしまった。

これまでミステリとしてはややパワー不足な展開が多かったイノグレ作品がついに本気で牙を剥いてきたと慄かされた。まさか人物相関図まで使った伏線だったとは……

 

 

次に六識を巡る衝撃の展開について。

「天ノ少女」の予告ムービーを見た者であれば察している通り、彼は恋人だった女性の妹であるステラの前に姿を現す。何故そうなったのかについては察して欲しいが、このあたりの展開は「羊たちの沈黙」を思わせるサイコな話運びだった。

(バッドエンドの一つに朽木兄妹が犠牲になるものがあるが、あの場面の六識はまさしくハンニバル博士に思えた。自分が狂人であることを自覚しているのに、さもまともそうに振る舞う偽善ぶりに反吐が出たが)

 

そして何より、本作では八木沼の存在が大きい。

イノグレの処女作である「カルタグラ」から続投し続けた彼にもついに焦点が当たり、それはもう驚くべき展開が待っている。あまりの展開にしばらく言葉を喪うほどだったが、これはおそらく2週目以降で何かしらの変化がある展開だと見た。(END11のタイトルからして、「殻ノ少女」における和菜のような立ち位置だと考えられる)

 

 

最後に、作中でいきなり6年が経過するという超展開について。

昭和33年3月15日に起きた衝撃的な出来事のあとも、玲人は冬子の忘れ形見である子供を探し出せないままでいた。6年も経ってしまうと人間関係にも当然変化が見られ、いろいろと驚かされてしまった。

 

紫は家を出て大学で虫の研究室に所属してしまうし、真崎は画廊に再就職して探偵助手はパートタイマーになってしまうし。

 

何より一番驚いたのは、時坂家で一人きりになってしまった玲人のもとにステラがちょくちょく訪れるようになったことである。

それもうほとんど「通い妻」なんだが、これまではただの知人だったはずが、一体どうしてそうなった!? なぜその経緯を省いた!? これも2週目以降限定の描写なのか!?

 

 

……もう他にもいろいろと言いたいことは山積みだが、とりあえず先の展開も気になるので今回はこの辺で収めることにしたい。

 

久々に攻略サイトを見ずにプレイしているだけあって時間がかかるが、初見のゲームにおける醍醐味でもあるためまだまだ楽しむつもりである。

 

。。。

天ノ少女《PREMIUM EDITION》 その1

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・余談

ついに……ついにこの日がやってきました。

全イノグレファンが10年近く熱望していた物語の完結編が、満を持して本日2020年12月25日に発売いたしました!!!!!!!!!

 

天ノ少女

※18歳未満立ち入り禁止!!!

 

とはいえ、本作は例によって本編の物語が始まるにあたって大元になる逸話が「無料体験版という名の前日譚」という形で公式ホームページにて無料配布されている。

 

本作を余すところなく楽しみたいのであれば、まずはそちらを読んでから製品版をプレイすることが推奨される。

 

(もっというと、本作は過去二作「殻ノ少女」「虚ノ少女」をプレイしていることが前提の物語でもあるため、開始直後から過去作のネタバレの嵐となっている。本作に興味を持ってもらえたなら最低限上記の2作品の概要は把握しておかないと、感動度合いも薄らいでしまうと思われる)

 

(欲を言えばイノセントグレイのデビュー作である「カルタグラ」から始めると、当時の事件関係者が数名ほど「天ノ少女」でも登場しているため、より没入感が深くなると思われる)

 

なお、本作はおよそ7年ぶりのシリーズ続編にして最終作であるため、心待ちにしていたファンは相当数に及んでいる。

 

そのため、一定期間が経過するまでは過去作のようなネタバレ満載な「まとめ」は行わない方針で雑感を書き記していく所存である。

(何月何日のイベントがどーのこーの、といった書き方はするが、話の全体像がわかるような書き回しはしばらく控えて、感想や考察を中心に書き散らしていく予定)

 

まずは無料体験版にもかかわらず4時間近いプレイ時間を要した前日譚から触れていく。

 

・雑感

「前日譚」は「虚ノ少女」の話が終わった直後、昭和33年(1957年)1月31日からスタートする。

 

葬儀のあと、後悔と喪失感に苛まれた玲人は何をする気も起きず家に閉じこもっていた。

自室にて過去に起きた事件のまとめと、捕らわれた者たちのその後について思い返す。

 

『capitolo0 火焔天』

昭和33年2月1日(土)~2月18日(火)までの出来事。

 

騙し騙し活動を再開させた玲人は消息を絶った子供の行方を探し始める。

一方で真崎は、玲人とも警察とも独立して旧友・黒矢尚織のあとを探し回っていた。

 

紫はもうそろそろ進路について考えなければならない時期に差し掛かっていた。そんなとき、美術部の活動で描いた絵が東京都美術館の特別展示「学生絵画展」にて入選する。とはいえ絵を描くことで生計を立てるのは難しいと考えているため、この先どうするかを悩んでしまう。

 

ちょうどそのころ、紫は櫻羽女学園に入学するまで同じ学校だった幼馴染・窪井千絵と再会する。彼女は絵の専門学校に通っており、「学生絵画展」では見事に特賞を受賞した。曰く、それが絵の家庭教師をしてくれている人のと約束だったのだという。彼女はこれからも絵の道を進み続けるつもりらしい。

 

そのころ玲人は東京都美術館学芸員、マリス・ステラの用事に付き合わされていた。彼女とは「殻ノ少女」事件以来会っていなかったためおよそ2年ぶりの再会である。

 

ステラ曰く、先日獄中の間宮心像が亡くなったことにより彼の絵画を整理する必要がでてきたのだという。間宮家のアトリエに向かった二人はそこで、心像の未発表作と思われる一枚の絵画を発見する。

 

両腕を持たず、背中から片翼だけが生えた黒髪の女性の絵。

禍々しくもどこか美しいその絵を指して、ステラは「天使」と言い表した。

後日その絵画は東京都美術館にて一日限定で公開されることになる。

 

しかしその数日後、とある集合住宅の一室にて異常な装飾を施された女性の遺体が発見される。

その姿見は、先日発見された心像の未発表作品――「天罰」に描かれた女性そのものであるかのようだった。

 

 

 

 

 

 

無料体験版と言う割にあいかわらずな超ボリュームでお送りされた「前日譚」。

これ、明らかに本編を読み進めるにあたって必読な内容だと思われるのだが、まちがっていきなり本編から読み始めてしまったらわからないことだらけで混乱してしまうのではないだろうか?

 

何はともあれ、いよいよ物語が動き出したことは非常に喜ばしい。7年の歳月の間に原画担当である杉菜水姫氏の画調がより水彩画チックに変わっていることもあり少々慣れるまで時間がかかりそうだが、会話やら音楽やら時代の雰囲気やらはいつも通りの最高水準である。これなら安心して先を読み進められる。

 

この前日譚では、真崎が最初の事件の被害者と再会したり、再び精神科医の診察を受けたりといった描写も含まれている。

(まあ、事前のアナウンスのせいで登場人物紹介を見れば誰が最初に殺されるのかは明らかなのでここで伏せる必要もないかもしれないが、念のため……)

 

ここでは本作から新登場した女医「綿貫かえで」について軽く触れておきたい。

 

虚ノ少女」の際には六識の後任として真崎や未散の診察をしている外部の医師がいると示唆されていた。しかし前作の時点では未登場だったため、名前はおろか性別すら明かされていなかった人物である。

 

どんな人なのかと思っていたら、これは想像以上に曲者である。

いかにも研究者然とした堅い話口調でありながら、紡がれる言葉は常に皮肉と嘲りに満ちている。精神科医だけあって人を見る目は確かなようだが、彼女の診察を受けるほど状況が悪化しそうという真崎の感想には思わずうなずいてしまいそうになる。

まあ、どっかのサイコパス野郎のように診察と称して人を洗脳するような医師ではないことを祈るばかりだが、いまのところ犯罪傾向は見受けられないため、ただの独特な感性の女医ということでいいのではないだろうか。

 

 

この前日譚は基本的に一本道であるため、選択肢は登場しない。ただし、2月11日の真崎の単独行動時にのみマップ選択が現れる。とはいえ、どの行先を選んでも結末は変わらないため、その時間帯にどこで誰が何をしていたのかわかる程度の意味合いしかない。

 

この中で綿貫医師に会いに行くこともできるのだが、どうも彼女は今回起きた事件で犯人捜索のために警察に協力を要請されそうな雰囲気があった。自分は精神科医であって心理学者ではないのだから対象者の分析をさせたいのなら本人を連れてこい、と彼女はぼやいていたものの、おそらく今後は玲人たちも厄介になることになるのだろう。

 

 

前日譚の終わりは、謎の女性のモノローグで幕を閉じる。

暗闇に放置され、怖い、誰か助けて、と女性はつぶやく。果たしてここはどこで、彼女は何者なのだろうか。(おそらくこれは現実の描写ではないと考えられるが、ネタバレ回避のため詳しい言及を避ける)

 

 

 

 

なお余談だが、イノグレ作品では物語の場面転換をする際にタイトルロゴの一枚絵が表示されるという演出がよく行われる。このとき表示されるスチルの色彩が赤系統の禍々しいものになると、犯人視点に変わったり誰かが殺される場面だったりすることが多いので、これまでも心構えをする一種の目安になっていた。

 

今作でも場面転換の際にスチルが表示される使用は同一なのだが、今回はタイトルロゴではなく、イタリア語で記された長文と紋章が表示されるという演出になっている。

 

この文章について調べてみたところ、次のようなことが分かった。

 

・日常編が継続する場合のスチルに表示される文章:

Per correr miglior acque alza le vele

omai la navicella del mio ingegno,

che lascia dietro a se mar si crudele;

 

e cantero di quel secondo regno

dove l'umano spirito si purga

e di salire al ciel diventa degno.

 

Ma qui la morta poesi resurga,

o sante Muse, poi che vostro sono;

e qui Calliope alquanto surga,

 

seguitando il mio canto con quel suono

di cui le Piche misere sentiro

lo colpo tal, che disperar perdono.

 

⇒これはダンテの著作「神曲」の煉獄篇(purgatorio=プルガトリオ)の冒頭部の記述である。

 ただこれを直訳したところで宗教や歴史の前提知識がなければ理解不能な文章になっているため、ここでは大まかな意味合いだけ記録しておく。

 この部分は、ダンテが長い長い地獄巡りの旅を終えて、ウェルギリウスと共に煉獄の入口にあたる海のような世界にたどり着いた場面を表している。ダンテが詩的な表現で何やら感動を言い表しているのだが、詳しい内容を知りたければググってくだされ。(なげやり)

 

 

 

・犯人視点に変わる直前など、不穏な事態が発生する場合のスチルに表示される文章:

Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate'

 

⇒これもダンテの「神曲」からの引用だが、こちらは地獄篇(Inferno)の序盤に示される地獄の門の看板に記されている文章である。

「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」という訳語は聞いたことがある者も多いだろう。(「殻ノ少女HD」の帯に記されている文章でもある)

「そんなことわかっとるわっ!!!」と吐き捨てたくもなるが、いよいよこんなことを言いだすあたりイノグレの本気具合が垣間見れる。どれだけ希望のない展開を描くつもりなのだろうか……

 

 

ついでに言うと、前日譚の章立てに表示された火焔天は「神曲」天国篇(Paradiso)に登場する「地球と月の間にある火の本源」とのこと。これは「天ノ少女」の帯に記された「その愛は紡ぐ、太陽と、すべての星々を」を意識してのことなのだろう。

 

殻ノ少女」の章立てが江戸川乱歩の小説のタイトル、「虚ノ少女」の章立てが七つの大罪と続いてきただけあり、今回はダンテの「神曲」縛りで表現するのだろう。いったいどのような含意があるのだろうか……

 

 

 

はてさて、ネタバレを避けながらの記述は思いのほか気を使うため、今後の内容はこれ以上に薄味になる可能性があるが、何となく生ぬるい視線で眺めていただければ幸いである。

 

 

さて、このまま年末年始は「天ノ少女」漬けな毎日を送って過ごそう!!!

「お空の物語」をフルオート操作しつつレプリカルド・サンドボックスの敵をしばく傍らで)

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その10

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

1/16
翌朝、玲人たちは派出所にて戌亥と対面し、事件について振り返る。

結局のところ東京・富山で起きた連続猟奇殺人事件は、人形集落で起きた「ヒンナサマの祟り」の模倣だったことになる。

 

東京へ戻る前に、玲人たちは再び祠草神社の賢静を尋ねる。

彼は最後に、理子を村から逃がす際、彼女がすでに身ごもっていたことを話してくれた。

まだ理子と連絡が取れていたころ、彼女は東京で子供を産んだものの、一人で育てることもできず孤児院に子供を預けたと聞いたという。

その孤児院の名は、白百合の園である。


場所は変わり、朽木病院。

小羽の意識が戻ったため、紫と雪子は見舞いに訪れていた。

紫が先導して雪子を待合室まで連れて行くも、雪子は小羽と顔を合わせづらいと躊躇する。

しかも小羽からは誰にも会いたくないと面会を拒否されてしまった。

 

紫たちはもう一つの目的であった杏子の見舞いをする。

雪子の姿を認めて杏子は言葉を詰まらせる。

涙を流して杏子を心配する雪子に、何も気にしなくていいと杏子は言う。

花瓶の水をつぎ足しに行った紫は廊下で未散と遭遇する。

共に杏子の病室に戻ると、未散は雪子の顔を見るや錯乱してしまう。

そのとき未散が雪子に対し「どうして殺したの?」と呟いたのを、紫は確かに耳にした。

 

病院からの帰り際、雪子は紫に一緒に来てほしい場所があると告げる。

そこは、私が始まった場所だから。雪子はそう言った。

 

 

 

1/17

東京に戻ってきた玲人と真崎は八木沼に会いに警視庁へ向かう。

夏目女史が同席したため話を聞くと、空木の死因は毒物を摂取したあと吐瀉物で気管が詰まったことによる窒息死だとわかったらしい。

事故の線もないではないが、誰かが毒物を飲ませた後に口を塞いで息の根を止めた可能性もある。


八木沼から預かった札束を返すため、玲人たちは茅原家を訪ねる。

真崎は雪子を引き取る以前について知っていることはないかと冬見に質問する。

雪子が身に着けていた髪留めは、かつて真崎がとある女性に送ったものである。

であれば、雪子は真崎とその女性との子供である可能性があると真崎は考えていた。

 

真崎の問いかけに動揺した冬見を前に、玲人はひとつの可能性を見出す。

玲人は真崎に用事を申し付けて家から追い出すと、冬見に自身の推理を聞かせる。

身寄りのない孤児であった雪子が、もとから髪飾りを持っていたとは考えにくい。

ならば髪飾りは冬見から譲り受けたものだと考えるのが自然である。

つまり、冬見こそかつて真崎と愛を交わした女性――理子だったのである。

 

冬見は十数年前、身を守るためだったとはいえ皐月を殺めてしまった。

そのトラウマがあったせいなのか、逃げた先の東京で子供を産んだものの、冬見は自分の娘を殺そうとしてしまう。

心身ともに限界だった冬見は、子供を取り上げた産科医の勧めで娘を孤児院に預けることにしたという。

しかもその産科医は、無戸籍だった冬見に茅原の戸籍を用意したばかりか、当時最先端の精神医学に基づく人格矯正術によって彼女の精神を回復させたらしい。

 

話を聞いていた玲人は、そんな離れ業をやってのける医師など一人しか思い浮かばなかった。

玲人の仇敵――六識命である。

 

冬見は生活が安定してきたころ娘を引き取ろうとしたが、そのとき既に施設――白百合の園はなくなっていたという。

同じころ、天恵会からの指示で雪子を引き取ったものの、いまだに娘の行方はわからないままらしい。


真崎は玲人に命じられた通り、土産物を配りに朽木病院まで足を運んでいた。

そこで真崎は未散と会話する。未散は雪子のことを知っていた。

未散は雪子を指してつぶやく。視えなくなったものを最初から視えなかった事にしちゃった人――と。

 

未散の言葉の意味を確かめるため、真崎は警視庁に向かう。

八木沼の許可を得て六識と面会できたものの、六識は患者のプライバシーに関わることは答えられないと一笑に付すのみ。

真崎は激昂しかかるも、後から現れた玲人に静止される。

落ち着きを取り戻した真崎は、これまで見聞きした情報をまとめ、六識にぶつける。

幼少期の未散はなぜ自ら左目をえぐり取ったのか。それは、彼女が雪子の兄・雪緒が殺される場面を目撃してしまったからではないか。

真崎の推理を聞いても、六識はその正否を答えなかった。


玲人は帰宅後、自宅の様子から紫と雪子が一日以上家に戻っていないことに気が付く。

すぐさま車に乗り込み、当て所なく二人を探し始める。

 

夜、白百合の園跡地にたどり着いた紫と雪子。

紫の問いかけに対して雪子は生返事を繰り返すばかり。

雪子が始まった場所の意味とは何か。彼女が何かを思い出そうとしていることを察した紫は、雪子の言葉を待ち続けるのだった。

 

 

1/18

翌朝、玲人は朽木病院にて目を覚ます。

紫たちを探し方々を巡ったあと、過労のため病院前で倒れていたらしい。

玲人の様子を見に来た未散と話したところ、雪緒を殺したのは雪子だったのだと確認が取れた。

 

真崎は冬見に雪子と紫が居なくなったことを伝えるため茅原家を訪れる。

天恵会の追っ手から保護してもらっていたはずの雪子が居なくなったことで冬見は動揺する。

ただ、現時点では誘拐されたのか自発的にいなくなったのかわからない。

二人の行方がわかる手がかりがあるかもしれないとして、雪子の部屋を見せてもらうことに。

 

そこで真崎と冬見は雪子の手帳を見つけ、中身を検める。

それは雪子が見た夢を記録に取ったもののようで、荒唐無稽な内容だった。

しかし次の一節を読んだとき、冬見は愕然としてしまう。

 

――大切な人をたくさん傷付けてしまった。
――私はあの人たちとひとつになりたかった。
――傷つけた処でどうにもならないのは解っている。
――でも私にはどうすることもできない。
――私はあの人に成り代わりたかった。
――だから私はあの人とひとつになって、本当の私になる。

 

雪子の思想は、かつて皐月と理子が抱いていた妄執とまったく同じものだったのである。

雪子は、紫のことを取り込もうとしていたのだ。

 

冬見は切羽詰まった様子で真崎を古いあだ名で呼びかける。

雪子に自分と同じ轍を踏ませられない、一緒に連れて行って欲しい。

冬見の言葉を聞き、ようやく彼女の正体に気づいた真崎。

しかし感傷に浸る暇はない。時は一刻を争うとして、二人は朽木病院にいる玲人と合流することにした。


朽木病院にて玲人は真崎たちから事情を聞く。

また、雪子の部屋に残されていたものから、杏子を刺した犯人も雪子だったとわかった。

このままでは紫の身にも危険が及ぶ。

雪子の行方に心当たりがないか入院中の小羽に尋ねる玲人たち。

小羽は以前、自分が元居た孤児院の話をしたところ、紫が関心を示していたことを思い出す。

雪子たちの居場所に当たりをつけた玲人たちは急ぎ出発しようとするも、なぜか未散も付いていきたいと口にする。

お母さんのために雪子ちゃんを助けたい――未散はそう告げた。

その言葉を聞いて未散が何者なのかに気づいた玲人は、彼女の同行を許すのだった。

 


玲人たち4人は自動車を急行させ、白百合の園跡地にたどり着く。

日暮れ時の礼拝堂には、今まさに紫を殺そうとナイフを手にした雪子がいた。

 

狂乱した雪子は、話す端から口調が変わっていく。それは、かつて彼女が取り込んだ者たちの人格だった。

自分には紫が必要だから、彼女とひとつになりたい。雪子は叫ぶように宣う。

 

しかし玲人は、そんな彼女に対して言葉をぶつける。

君はその人が好きで惹かれている訳ではない。

君がその人に成り代わりたいと願っているだけじゃないか――と。

 

玲人の言葉を雪子は激しく否定する。

しかしそのとき、玲人たちの前に割って入った未散が雪子に話しかける。

――本当の雪子ちゃんは、雪緒ちゃんが殺された時に死んでしまったのね。

 

未散の存在を認識した雪子は一瞬正気に戻り、かつて自分が犯した過ちのすべてを思い出す。

茫然自失となった雪子は、いつから自分は本当の自分を忘れていたのかとつぶやく。

罪を償う方法なんて、一つしか知らない。

雪子が手にしたナイフは、雪子自身に向けて突き出された。

しかし、刃が雪子の胸を貫く寸前、紫が素手でナイフを抑え込んでいた。

紫は涙ながら語る。

これ以上、大切な人を喪うのは厭だと。

一緒に生きてほしい。そう強く訴えかける紫に心打たれ、雪子はついに膝をつくのだった。

 

 

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その後、雪子は警察に逮捕された。

のちに玲人の調査でわかったことだが、彼女は天恵ノ会の教主と織部の妹との間に生まれた娘だったらしい。

血縁をたどるなら、冬見とは従姉妹に当たることになる。

しかし、そのような事実を伝えてわざわざ混乱を招く必要もないとして、玲人は調査資料を処分する。

ちょうどそのとき、冬史が事務所を訪れる。

件の小説家が、一年以上前に多摩の山中で目撃されていたというのである。

攫われた冬子の行方が分かるかもしれない。

二人は身支度をし、奥多摩へと調査へ向かった。

 

玲人たちが山中を捜索しているころ、真崎のもとに冬見から電話が入る。

保育施設・若葉園の手伝いに来ていた菜々子と連絡が取れなくなっているという。

彼女の子供も心配であるとして、二人は菜々子の住所を訪れる。

そこで真崎達は、服毒自殺を図った菜々子を発見する。

 

服薬量が足りず、菜々子は一命をとりとめた。

ただし彼女の自宅には子供の姿はなく、そればかりか致死量と思しき大量の血糊がこべりついた布団が見つかった。

病院で八木沼と顔合わせした真崎は、菜々子に空木殺害の容疑がかけられていたことを聞かされる。

 

復調した菜々子は、取り調べの場で空木を殺害したこと、さらに父親を殺害したことを自供した。

しかし、自宅で父親を殺したとしても、遺体を運び出すのに女性一人の手では困難である。取り調べに同席していた夏目女史は、彼女の同居人である黒矢尚織が共犯なのではないかと指摘する。

 

尚織が指名手配されて数日が経ったが、彼の行方はつかめなかった。

菜々子は取り調べの場で、自分が死ぬ前に育てていた子供を尚織に託したのだと話す。

尚織の居場所を話そうとしない菜々子に対して、真崎は懸命に説得を続ける。

このままではその子は無戸籍のまま、ろくな教育も受けられなくなってしまう。それがその子にとって本当に幸せなことなのか、と。

真崎の言葉を受け、ついに菜々子は尚織が住処として使っていた奥多摩の山荘の場所を供述する。

 

山間を捜索して数日が経過したころ、玲人たちはすぐそばに警察車両が大挙して訪れていることに気づく。

捜査指揮を執っている八木沼を見かけるや、玲人は驚きの声を上げる。

 

八木沼と真崎から事情を聞いた玲人は全てを悟る。

冬子を攫った小説家をかくまっていた者。

小説家から「プルガトリオの羊」の構想を聞き出し、代筆した原稿を出版社に送り付けた者。

すべて、尚織の仕業だったのである。

 

暗く沈む玲人を責め立てるかのように八木沼は続ける。

どうして「殻ノ少女」事件の際、あのような手術を施してまで朽木冬子は生き永らえさせられたのか――

八木沼がその真意を口にする前に、玲人は思わず彼を殴りつけてしまう。

 

菜々子の供述では、尚織が保護した少女は妊娠していたが、とても出産に耐えられるような状態ではなかったらしい。

だが尚織の手厚い処置によって、昭和31年11月に何とか出産までこぎつけたという。

しかし少女は子供を産んだ後ほどなく力尽きてしまった。

産まれた子供は未成熟児だった。そのため、菜々子が自分の子供としてこれまで世話をしてきたという。

つまり、正月の井の頭公園で菜々子が連れていた赤ん坊とは――

 

尚織が潜伏していたと思しき山荘の周辺には、三つの塚が作られていた。

真崎達は塚を掘り返す。

一つ目の塚には片足のない白骨遺体。菜々子の父親である。

二つ目の塚には後頭部を斧で割られたと思しき白骨遺体。件の小説家であろう。

そして最後の塚は、玲人自らが掘り起こした。

黒いぼろ布で覆われた、抱え込めるほどに小さな――四肢のない白骨遺体が現れる。

 

雪が降りしきる中、玲人は虚空を仰いで慟哭する。

哀しんでいる場合ではない。自分にはまだ、彼女が遺した子供を見つけ出す使命が残っている。

――帰ろう冬子、ここはとても寒いから……

 あたかも絞り出すかのように玲人は慙愧の言葉を口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これにて、虚ノ少女TRUEエンドルートの概要は終了である。

(なおこれまでも散々述べていることだが、本編はこの十倍以上は濃厚な描写と対話が繰り広げられており、本作の雰囲気を余すところなく体感するためにはプレイすることが必須である。当ブログの記述はあくまでも大まかな流れの『まとめ』でしかないことに注意されたし)

 

連続猟奇殺人事件を解決し、人形集落に根付いた悪しき因習を暴き立て、天子だった少女のその後さえも明らかにして見せた。玲人たち追跡者側の面目躍如であろう。

 

情報が一所に集まりすぎていたり時の運が味方した感もあるが、それでも複雑に絡み合った謎が紐解かれていく過程は最高に興奮させられた。

 

そして、本筋の事件と同時並行で動いていた雪子の問題も、ここでようやく解決を迎える。

 

雪子は幼いころから『他者を取り込んで己の一部とする』という妄執に取りつかれていた。

 

そうして好きになった相手、憧れた相手を何人も喰らい、そのたび相手の人格になりきることで過去の記憶をなくし続けていた。

 

雪子が生まれつきこのような精神疾患を抱えていたのかは定かではないが、幼少期の描写から読み解くことはできるかもしれない。

 

小羽との会話の中で、彼女たちは施設にいる間お祈りやら修行やらをさせられていたことがわかっている。これは教団に従順な人間を作るための洗脳の一種ともとれる。

 

また施設は雛神製薬ともつながりがあったことから、子供たちは新薬の実験台に使われていたと示唆する描写もある。雪子がもらったお菓子だけ他の子と違うものだった理由は、彼女のお菓子にだけは危険な薬品が含まれていなかったからなのだろう。

であれば、彼女が薬品の副作用により後天的に異常な妄執に囚われたとは考えにくい。

 

祠草の血筋も元をたどれば雛神に行きつくということだが、やはり遺伝的な異常だったのだろうか。

 

そもそも彼女が孤児院に預けられていた理由は何なのか。

彼女は天恵ノ会の教主の娘だったことが明らかにされている。ただし、その教主はとある理由により殺害されてしまったうえ、母親もすでに死亡している。血縁上は伯父にあたる織部が雪子を直接保護せず孤児院に紛れ込ませていたのは、彼女が権力闘争に巻き込まれてしまうとでも考えたのかもしれない。

 

 

 

なお、雪子が関わった4件の殺傷事件のひとつである「跨線橋転落事件」については、ドラマCD「虚ノ少女 ~天に結ぶ夢~」にて詳細を知ることができるので必聴である。

 

時系列的には雪子が逮捕された直後から始まる。このとき玲人は冬子の遺体が見つかった喪失感でいっぱいなはずなので、八木沼からの調査協力は真崎が受けることになる。

 

助っ人として逗子から高城秋五が呼び出されたり、紫が同行することになったりと、最終的には三人で過去の事件の再調査をするという流れになる。

 

ここでは敢えて結末には触れないが、ストーリーを聞き終えた素直な感想は次の通り。

「どつもこいつも危ねぇ思想の持ち主が多すぎじゃね?????」

 

 

 

ひとまず枝葉末節を気にしなければ、「虚ノ少女」単体としての事件はこれにてすべて解決を迎えている。

しかし、三部作の主人公である玲人にしてみれば物語はまだ終わっていない。彼が偏執(パラノイア)から解き放たれるためには、ケリをつけなければならない因縁が残っている。

 

その完結編である「天ノ少女」はまもなく発売されるわけだが、ここまで7年間も待たされた身からすると今の時点で両の手が微かに震えてしまう。

 

いったいどのような結末を迎えるのか。果たして玲人が救われる未来は訪れるのか。

 

繰り返すようだが、旧版「虚ノ少女」から数えて7年も、旧版「殻ノ少女」から数えて12年も待ちぼうけを食らっている。

 

もういい加減ビターエンドじゃなくってもいいんではないだろうかイノグレさん……?

 

 

 

 

 

最後に、「虚ノ少女RE」初回生産版に付属していた別冊小説について少しだけ触れておきたい。

収録されている作品は次の通り。


・「流し雛の邂逅」

⇒人形集落から東京へ逃がされた理子がいかにして昭和33年現在まで生きてきたか、その経緯が理子の視点で語られた物語。

戦中・戦後の困窮した状況の中、娘を殺してしまいそうになった苦悩が切実に描かれている。

 

六識とは子供を取り上げてもらった頃から世話になっており、ヤツが事件を起こして失踪するまで5年ほど関わりがあったらしい。

あのサイコパス野郎が純粋な善意で無戸籍の女性を助けてやったなど、旧版を読んだときには信じられなかったものだが、この小説を読んで納得した。

やはり六識は他人のことを実験台としか思っていなかったのだろう。その結果が理子の場合たまたま好転しただけで、下手すれば彼女が連続殺人の被害者になっていた可能性だってあったのだ。

 

また、文中では明言されていないものの、逃亡中の理子が日常の中で、中原美紗や上月由良・祠草時子といった面々と絶妙に関わっていたというのはとても興味深かった。

 

 

・「プルガトリオの羊」

⇒本編中でも冒頭部分に一節が表示されるが、こちらは全文が掲載されている。

メアリという名の木偶の体を持つ少女が、羊男に導かれて七つの大罪を犯した木偶たちが受ける罰を眺めながら煉獄の山頂を目指す話……でいいのだろうか。

ただ、道中に出てきた大罪は六つしかなく、最後のひとつである「愛欲」はおそらくメアリ自身に問われた罪なのだと思われるが、もしかしたら「天ノ少女」へ向けた何らかの伏線ではないかと考えてしまいました。(中並感)

 

 

 

 

 

あとほんの数日で待ちに待った完結編のストーリーを拝めると思うと緊張してしまう。

とりあえず、この後は貯めに貯めこんだショートストーリーと「無料体験版という名の前日譚」をプレイして発売日当日に備えなければ……

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その9

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

1/13
玲人は警視庁にて事件の事後処理に追われていた。

玲人と八木沼は被害者たちや事件関係者の血液型から、彼女たちの共通点を推測する。

おそらく最後の被害者を除く3名については、全員が雛神秋弦の子供だったのではないか。

現代の科学力では、メンデルの法則を駆使して「親子関係にない者」を確定させることしかできないため、推測の域を出ない考察ではある。

だがもしこの予測が事実ならば、真崎の婚約者たる条件とは――天子となるための条件とは、雛神の血を継いだ娘であることになる。


つまり、砂月と真崎は姉弟だったということなる。

雛神家とは、意図的に近親婚を繰り返すことにより血統を維持してきた一族だったのである。


玲人たちが考察を続けていると、突如として警視庁に激震が走る。

天恵会の幹部だった空木が遺体で発見されたという報告が上がってきたのだ。

玲人は八木沼と共に天恵会本部へ急行するも、信者たちは空木の死を認めず、警官隊は捜査できていない模様。

 

そんな中、本部の建物から冬見が出てきたので話を聞くことに。

挙動不審な冬見を訝しんだ八木沼は、彼女が持つカバンの中身を検める。中には大金が入っていた。

冬見は雪子を育てた謝礼として無理やり渡された大金を返すため、雪子を探すために来たのだと答える。

雪子は昨晩から時坂家で保護していることを説明すると、冬見は泣き崩れた。

詳しく事情を聴取するために冬見は警視庁へ送り届けられる。

 


一方そのころ、真崎は朽木病院の応接室にて待機していた。紫と雪子を時坂家に送り届けたあと、冬史と交代で小羽の様子をうかがうためである。

そのとき真崎は未散に遭遇する。病室に掲げられた小羽の名前を見た未散は、白百合の園で彼女と友達だったと話し、真崎は驚愕する。

そこで真崎は雪緒という名前に聞き覚えがないか尋ねると、未散は取り乱して左目を掻き出そうとしてしまう。

未散は言う。雪緒は見えなくなったが、小羽は雪緒を見てしまっている。見えなくなったものを見続けてはいけないのに――と。

 


場所は変わって、警視庁。玲人と八木沼は取調室にて冬見から事情を伺っていた。

先の大金は、雪子を育てたことに対する謝礼として天恵会から渡されたとのこと。

雪子を孤児院から引き取った当時、彼女を育てるように天恵会から指示があったのだという。

しかし雪子が教団の重要人物の血筋なのだとしたら、なぜ孤児になっていたのかはわからないらしい。

 


冬見を帰したあと、警視庁に連絡が入る。

富山県警の刑事が雛神製薬に押し入り居座っているため対処して欲しいとのことだった。


八木沼の指示で嫌々雛神製薬に赴いてみると、応接室で戌亥刑事が待ち受けていた。

曰く、雛神秋弦を殺人教唆の疑いで逮捕するために来たとのことだが、逮捕状は出ていない。ただの独断専行ということになる。


しかしここで玲人は戌亥から重要な情報を聞かされる。

まずは人形集落の山小屋付近に埋められていた四肢について。これは状況から見て鳥居に吊るされていた少女――砂月のもので間違いない。

古い捜査資料を見返したところ、被害者は正面から扼殺されていたが、遺体には暴行の痕跡はなかったという。つまり、被害者は処女だった。

だが玲人は真崎が砂月と枕を交わした事実を知っている。

であるならば、殺された少女は砂月ではなかったということになる。

 

同時刻帯、冬史は上野駅前のたこ焼き屋にて高城探偵事務所のチラシを眺める女学生を見かけ、声をかける。

いつぞやと同じ状況だと思いきや、少女の探し人はまたしても真崎であった。

冬史はその少女――祠草賢静の娘・夜宵を連れて警視庁に向かい、玲人に引き渡した。

曰く、雛神秀臣が危篤状態となったため、東京にいる真崎を連れ戻すよう指示されたらしい。

玲人は夜宵を引き連れて朽木病院へ向かい、真崎と合流。その足で急遽、人形集落へ向かうことになった。

 

 


1/14
丸一日かけて人形集落へやってきた玲人一行。

玲人は再び二見旅館に宿泊することに。

 

応対に現れた憂に千鶴が撮った写真を見せてみると、彼女は一枚の写真を見て疑問の声を上げた。

人相はわからないが、黒い装束をまとった天子と思しき女性の写真。憂は彼女を指して砂月ではないかと述べる。

しかしこの写真が撮影されたのは祭りの夜、彼女たち学生世代の面々はその砂月と一緒に天子が舞を踊るところを見ていた。

これでは、同時刻の別の場所に同じ人間が存在していたことになってしまう。

 

 

 

1/15
人形集落に泊まった翌朝、玲人は黒矢医院に話を聞きに行った。

弓弦の義父である創に対し、砂月の健康診断の記録などがあれば見せてほしいと頼み込む。

記録によると、黒矢医院で健康診断を受けた少女の血液型はAB型である。

しかし、砂月だと思われていた遺体の少女の血液型はA型で、保管されていた記録と合致しない。

 

玲人は雛神家に向かい、秀臣の妻である真理子に対して自身の推理を聞かせる。

天子の正体とは、雛神家に生まれた娘を別の場所に移して育て、輿入れの時にお客様として戻していた女性のことである。

玲人は言う。雛神家を存続させるために年端も行かぬ子を監禁して育てる、そんなことはもう許されない時代となっている。

悪しき伝統に巻き込まれた少女――砂月は救われなければならないのだと。


しかし、真理子は砂月と呼ばれる少女が2人いたことを知らなかった。

そこで真崎は声を上げる。もうひとりの砂月とは、土蔵の長持ちに刻まれていた名前の主「アヤコ」なのではないか。

 

 

玲人と真崎は事実を確認しに祠草神社へ向かうことに。

2人は賢静に対し、「アヤコ」とは誰なのかと尋ねる。

玲人はこれまでの情報をもとに、彼女が天子の影武者として土蔵で生活させられていたのではないかとの推理を聞かせる。

 

賢静はその推理が事実であったことを認めた。

「アヤコ」とは、祠草小夜が天子の影武者とするためだけに産んだ子供だったのだという。

雛神理花が生んだ天子の本名は皐月(さつき)、そして影武者として生み出された少女の名前は理子(あやこ)といった。

この2人が演じ分けてできた虚像が、砂月という少女だったのである。

 

賢静の話を聞いて真崎は疑問を口にする。なぜ天子である皐月が死んだあと、影武者である理子を天子に据えなかったのか。

 

その理由は、理子が皐月を殺害して逃亡したからではないかと玲人は推理する。

 

真崎の記憶では、当時祠草家の人間は全員雛神家にいたことが確認されているため、少女を殺害できる人間はいなかったという結論だったはず。

だがそこでもう一人、理子が存在すれば犯行は可能である。

 

玲人の推理を聞き、賢静はついに告白する。

彼は家族の将来を守るために、集落で起きた事件をなかったことにすることを決意したのだという。

皐月の遺体が発見されたあと、理子は土蔵にあった長持の中に隠れていたという。

そこで死んだ皐月が小夜に解体される一部始終を見ていたショックのせいか、理子は自分が皐月を殺したということをよくわかっていなかったらしい。

理子の存在が警察に知られる前に、信頼できる知人に彼女を託し、東京へ逃がしたとのこと。

そのあと東京は空襲で焼き尽くされ、理子の行方はわからなくなってしまったらしい。


話が佳境になったとき、夜宵が座敷に乱入。秀臣の意識が戻ったとのこと。

  

 

再び雛神家に訪れる玲人と真崎。

玲人は病床の秀臣にヒンナサマの祟りの真実について尋ねる。

 

人形集落で囁かれていた迷信では、偽物のヒンナサマを祀った者は祟りにあうという話だった。

しかし本物のヒンナサマは雛神家の神棚にしまわれており、真崎を始めとしたほとんどの村人たちはそれがどんな形状のものかすら知らなかった。

であれば、これまでの被害者たちがみな独自に「胎児を模した土人形」を作ったとは考えられない。

 

ならば遺体発見現場にヒンナサマを残すことができたのは何者かというと、ヒンナサマの形状を知っていた祠草か雛神の人間だけということになる。

 

それに雛神製薬には戦前から違法な人体実験に関わっていたという容疑がある。

玲人は、その延長で未認可の薬品を村人たちに使わせていたのではないかと推察する。

 

証拠はあるのかと秀臣は問う。そこに戌亥警部が部屋に乱入し、被害者の解剖記録を読み上げる。

戦前、祟りと称して殺害された女性の子宮には腫瘍ができていた。

解剖記録によれば、それが投与されていた薬品の副作用であることは明らかであると。

 

つまりヒンナサマの祟りの正体とは、違法な人体実験の露見を防ぐため、重篤な副作用を発症させうる村人を天子に暗殺させていたという組織的犯罪である。

そして祟りによって天子と雛神家、祠草神社の権威を印象付けるため、この犯行は何十年にもわたって続けられてきたのだ。


玲人は断罪する。過去の祟りのすべてが公訴時効を迎え罪に問えなくなっているとしても、これらは殺人事件である。

秀臣がどこまで祟りに関わっていたのかはわからないが、雛神家の当主であった以上、これは彼の罪であると。

 

秀臣は玲人の推理を認めたあと、「煉獄にて罪を償う」と言って息を引き取った。

 

部屋を立ち去ろうとする玲人を真崎は殴りつける。

秀臣の肩を持つわけではない。しかし、今際の際の人間をあそこまで追い詰める必要はあったのか。

事件を解決するためなら何もかも踏みにじってもいいと思っているのか、と。

 

玲人は答える。

人でなしじゃなければ他人の秘密に足を踏み入れたりするような真似はできない――と。

 

その晩、真崎は気まずそうにしながらも二見旅館の玲人のもとを訪れる。

2人は話し合い、東京に戻ったら今なお行方不明になっている理子を探すことを決めた。

 

そのとき、真崎はふと玲人が持っていた写真に目を止める。

それは朽木千鶴から預かった祭り当日の写真に混ざっていたもので、写っていたのは井の頭公園で写生する雪子・小羽・紫の3人だった。

 

そこに写る雪子を見て真崎は息を飲む。慌てて祭り当日の理子の写真と見比べる。

二人がしているのは同じ髪飾り――祭りの夜、真崎が理子に買ってプレゼントしたものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


本作は一度1月18日のノーマルエンドを迎えたあと、初めからプレイしなおすことでTRUEエンドへのルート解禁や二週目限定の演出・描写が見られるようになる。

 

この二週目以降の追加要素の一つとして、視点となっている人物が「砂月」であった場合、それが皐月だったのか理子なのかがわかるように文章が書き変わっているというものがある。

 

たとえば、村の入口で神社への帰り道がわからなくて困っていた砂月は「理子」、雛神家にて土人形用の土をこねる手伝いをしたあと理人から祭りに誘われたのは「皐月」というように、彼女たちは入れ代わりつつ理人の前へ姿を現している。

(とはいえ過去編を見返してみると、理人と砂月の好感度が上がる出来事が起きた際は、理子が相手だったことがほとんどである。理人は二人の区別ができていなかったが、おそらく好意を向けていた相手は最初から一貫して理子の方だったのだろう)


一週目のプレイ時に砂月に対する小夜の態度に違和感があった理由もここで明かされる。とかくこの小夜という人物は、先代天子である雛神理花に関連のあるものにしか興味がなく、それ以外はたとえ自分の実の子供であってもどうでもよかったのである。

 

まったく、この物語に登場する人間の歪みの深さには恐れ戦かされる。

憧れの女性の子供に人殺しをさせないためだけに、自分の子供を殺人の道具として育てたなんて、人でなしにもほどがある。

 

作中では明言されていないが、本作冒頭に語られた「どっかの寒村で女が女を惨殺する場面」に出てくる少女というのも小夜である。


おそらくこの時にはすでに小夜も「ヒンナサマの祟り」のシステムに組み込まれていたのだろう。そうでなければ、当時未成年だったと思しき少女があんなにも手際よく祟りの様相で遺体を加工できはしまい。

 

こんな集落滅びてしまえ、と本文を読んでいて何度思ったことか。あまりにも邪悪で、理解しようにも拒否反応が強すぎてこれ以上考察する気にもなれないが……

 

 

 

話は変わり、昭和32年の殺人事件について。

犯人を逮捕したあと、玲人と真崎は諸所の事情によってふたたび人形集落に舞い戻ることになる。

 

このときすでに八木沼から依頼された捜査協力は完了している。本来なら玲人はこの時点で事件から手を引くこともできた。

そもそも既に時効が成立している「ヒンナサマの祟り」事件を追い続ける理由などないのだから。

 

しかし玲人は事件当事者である真崎と関わり、事件の背後にあった悍ましい悪意の数々を知ってしまった。

しかも戌亥刑事からの言葉で、真崎の愛した女性が生きている可能性を見出してしまった。

だからこそ玲人は事実を明らかにするために、真崎の帰郷に同行するという体で人形集落までついて行ったのだろう。

 

それは玲人の探偵としての義侠心から成せる行いだったのだろうが、先に述べたように連続殺人を解決した時点で玲人はお役御免でもおかしくない。

それでも事件を追う姿勢は探偵としてというより、人としても偏執的すぎると言えなくもない。

すでに終わった過去の事件を執拗にほじくり返す者の存在は、当事者からすればさぞ煩わしいものだっただろう。

 

ただ個人的には、真崎が玲人を殴りつけたのは直情的な暴走だったと感じている。

被害者とも加害者とも密接に関わっていた彼にとってみれば、身内の死に際に知りたくもなかった残酷な真実を突きつけられた混乱が大きかったのもわかるが、雛神家が成してきた悪行の数々を思えば間違っても反論できる立場にはないはずである。

 

一方、そんな直情的で思慮の足りない真崎にもまだ希望が残されている。彼が砂月と認識していた女性が――理子が生きている可能性である。

 

そう思った矢先に髪飾りの伏線を回収してくるのだから、イノグレもやりやがるものである。
人によってはご都合主義と感じてしまう読者もいるかもしれないが、個人的にはこのどんでん返しは胸熱な展開だった。
死んだと思っていた想い人が実は落ち延びて生きていた――ロマンチックじゃありませんか。

 

ただし、このゲームメーカーがそんなお涙頂戴なだけの物語を提供するはずがない。

さんざん伏線が張られながらいまだ解決していない、雪子の問題が残っている。

 

「ヒンナサマの祟り」から始まったこの物語のメインヒロインがどうして雪子だったのか。

本作のタイトルになぜ「虚」と冠されているのか。

その意味は、イノグレの真骨頂である伏線回収手腕を伴ってまもなく明かされる。

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その8

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

余談

 いよいよ「天ノ少女」発売まであと2週間となり、公式ホームページでは例によって「無料体験版という名の前日譚」が公開されました。

 

今作では条件さえ満たせば製品版「天ノ少女」でもこの前日譚を読むことはできるそうですが、イノグレ側から「本編プレイ前に読むことを推奨」と発表されているので、「天ノ少女」を読み切る覚悟があるプレイヤーであれば必ず事前に前日譚を読むべきでしょうね。

 

……ただまあ阿久井としてはあまりに先んじてにプレイしてしまうと発売前に待ち遠しすぎて発狂しかねないため、ボイスドラマも含めて前々日ぐらいにまとめて体験しようと思い貯めこむ所存ではありますが。

 

 

・雑感

 

1月9日
雪子が登校してこないため、紫は彼女の身を案じていた。
しかし小羽より、今朝になって雪子の退学届が出されたため教師陣も混乱していると知らされる。
思い当たるのは昨日の出来事しかない。小羽によれば、昨日雪子を連れて行ったのは黒矢という名の医者だったはずという。

紫は玲人の事務所を掃除した際、書類の中にその特徴的な名が記されていたことを覚えていた。
雪子が何か良からぬことに巻き込まれたのかもしれないと考えた紫は、学校をサボタージュして事務所へ急行する。

 

事務所には真崎がいたが、突如現れた紫から事情を聴いて驚く。
真崎は「白百合の園」で起きたという集団自殺の件に黒矢尚織が関わっているとあたりをつけ、ちょうど彼に会いに行く予定だったのである。
紫の頼みを断り切れず、真崎は彼女の同行を許す。

 

天恵会本部にて真崎と紫は尚織と対面する。
尚織は集団自殺が起きた当時その施設の職員だったことを認めた。
また、雪子がかつて孤児として施設にいたこと、さらに教団にとって重要な血筋の者であるため、新たな「御子」として迎えに上がるよう命じられていたことを説明する。
それゆえ雪子と会って話すことは許可できないとして、真崎たちは引き下がることに。

 

 

1月10日
玲人と冬史は天恵会本部へと向かっていた。
「白百合の園」の背後に天恵会の幹部である空木が絡んでおり、そこに雛神製薬とも関連した怪しい資金の動きがあったためである。
しかし天恵会につくや辺りが騒然としており、玲人たちは門前払いをされてしまう。

 

あたりを聞き込みしたところ、天恵会代表である織部が何者かに殺害されたらしいことが発覚。

 

事態を報告しに警視庁に向かった玲人たちは、八木沼と真崎が対峙している場に行き会う。
真崎は「白百合の園」に関する過去の捜査資料を見せてほしいと願い出ていたが、現在起きている連続殺人事件と関連性がないため見せられないと八木沼に断られていた。

 

玲人は織部が殺害されたことと、その前日に雪子が教団に連れていかれたことは何らかの因果関係があるかもしれないとして、かつて雪子が所属していた「白百合の園」に関する資料を見せるよう交渉する。

 

渋々といった様子の八木沼から資料を借り受けた玲人は、孤児名簿の中から見知った名前を3つも見つけてしまう。
「雪子」、「未散」、そして「小羽」。

 

警視庁を出たあと、玲人は朽木病院にて未散と会話する。
未散は幼いころ、見てはいけないものを見てしまったショックで、自ら左目をえぐり取ったのだという。
彼女が言うには「ひとりがひとりを取り込んだ。ふたりがひとりになって、残ったひとりはふたりになった」――らしい。
ちなみにこの出来事は集団自殺事件が起きる前のことであり、事件があったとき未散は治療のために入院していて既に施設にはいなかったとのこと。

 

玲人は未散の話の裏取りをするため、朽木文弥に院長権限で未散のカルテを見せてもらうよう頼みこむ。

 

当時の担当医である六識の記録によると、未散は昭和27年7月に入院する以前から、向精神薬を大量投与されたことによる中毒症状が見られたのだという。
未散の話と擦り合わせると、彼女は白崎家へ養子に出されたすぐあとに長期入院していることになってしまう。
つまり未散の精神疾患は白崎家ではなく、「白百合の園」に居たときの出来事に起因する可能性が高い。

八木沼から聞いた雛神製薬による違法治験の疑惑と、天恵会幹部である空木が雛神製薬の株式を持っている件。
以上の情報から、玲人は「白百合の園」で薬品改良のための違法な人体実験が繰り返されていたのではないかとの推論に達する。

 

 


1月11日
玲人は役所で取り寄せた小羽の戸籍を確認する。
彼女の旧姓は「吉野」。母親の戸籍は戦災により滅失していたが、秋弦が選定した真崎の婚約者候補の一人と苗字が合致する。

事情を探るために玲人は小羽の家を訪ねることにした。

 

小羽は物心ついたときから「白百合の園」で過ごしており、およそ5年ほど前に鳥居家に引き取られたという。
当時は雪子や雪子の兄・雪緒とよく遊んだらしい。
玲人は「雪緒」という名を聞いたとき、先日確認した孤児名簿の死亡欄にその名が記されていたことを思い出す。

 

鳥居家から帰る道すがら、玲人は小羽こそが真崎の最後の婚約者候補であると断定する。
このままではそう遠からず彼女が被害にあう可能性があると考えた玲人は、連続殺人犯をとらえるために一策を講じることを決意する。

 

その夜、冬見は自宅にて雪子を手放してしまったことを深く後悔し続けていた。
そこに突如として小羽が訪ねてくる。彼女は深刻そうな様子で「雪緒に会わせて欲しい」と冬見に頼み込む。
しかし、冬見は雪子に兄がいるということすら聞かされていなかったため、満足な返答もできない。
すると小羽はその場で手紙を書いたあと、明日中に雪子に渡して欲しいと懇願するのだった。

 

 


1/12
翌日、冬見は若葉園にて菜々子から子供を預かる際、小羽から預かった手紙を菜々子に託す。
自分が教団本部に出向いても門前払いされるため、教団の手伝いをしている菜々子に頼み込むという苦肉の策であった。

 

一方そのころ、時坂家に冬史が訪ねてくる。用件は「プルガトリオの羊」に関する調査の続報だった。
曰く、かつて件の小説家が取引していた出版社に「プルガトリオの羊」の初期案とおぼしき梗概が保存されていたとわかったという。
その内容は市場に出回っているものと酷似していることから、逃亡中の小説家を見つけた何者かがあらすじを教えられ、本人の代わりに小説を書いた可能性があるという。

 

報告を終えた冬史に対し、玲人は連続殺人犯を捕らえるため協力して欲しいと依頼する。

 

その日の夕刻、時坂家から出てきた女学生の後を追う人影が一つ。
女学生が人気のない通りに差し掛かるや、人影は鬼の面を装着して女学生に襲い掛かる。

 

しかし女学生は襲撃を察知すると、振り返り際にトンファーを横薙ぎして反撃。
女学生――歩が自身のターゲットでないことに気づき、襲撃者は罠にかかったことを悟る。

 

そこに玲人が現れ、この人物こそが4人もの女性を惨殺した連続殺人犯であることを指摘。
玲人はこれまでの状況証拠からこの人物こそが犯人であると見当をつけていたものの、逮捕に結びつく決定的な物証はなかった。
そのため歩を小羽と偽って囮にし、犯行の瞬間を捕らえるという奇策に打って出たのである。

 

すべては雛神家の血統を守るために成したこと――。犯人は玲人に対し誇らしげに嘯く。

 

しかしそんな犯人に対し玲人は、そんなものは建前で、真崎に対するただの嫉妬心でしかないと切り捨てた。

 

犯人は遅れて現れた八木沼ら警察に引き渡され、連行される。
東京・富山とまたがって繰り広げられた連続猟奇殺人事件は、これにてひとまずの解決を見たのである。

 

 

一方そのころ、真崎と冬史は保護対象である小羽の行方がわからなくなったため方々を探し回っていた。


若葉園にて紫や冬見に尋ねたところ、彼女は先日からどこか様子がおかしくなり、雪子の兄・雪緒に会いたいとしきりに口にするようになっていたという。

冬見の証言により、真崎達は小羽が手紙を使って雪子を櫻羽女学院に呼び出していることを突き止めた。


夜の学校に侵入すると、「雪緒に会わせろ」と言って取り乱した小羽が雪子ともみ合っている場面に出くわす。
冬史は二人を引き離すも、雪子は頑として雪緒などという者は知らないと言い切る。

小羽は興奮のあまり過呼吸となってしまい、冬史は彼女を病院へ連れていくことになる。
残された紫と雪子は、真崎が時坂家へと連れ帰ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は中盤戦から後半戦へと移行し、ようやく昭和32年時点で起きた連続殺人事件は解決を迎える。

 

個人的にはこの犯人についてあまり同情的にはなれない。

 

やらかしたことも心情的にも「カルタグラ」と通じるところがあったというのに、この違いはいったい何なのだろう。

 

片や親族含めた村ぐるみで排斥され続け、人体実験の果てに妄執と狂気に至った者。

片や恵まれた境遇にありながら村の因習に飲み込まれ、爛れた嫉妬心から狂気に至った者。

比較してみると、今回の犯人の方が狂気に至る理由が身勝手に見えるからではないか、と感じた。

 

もちろんどんな理由があっても罪もない人間を大量に殺しまくっていい理由にはならない。


ただやはり人が人を殺すということは、どうしようもなく大きな一線を越える行為だと思う。


であるならば殺人者には「こういう理由で正気を失った結果、殺さざるを得なかった」というやるせない事情があるのが自然だと感じるのである。

 

このような背景や事情がない犯罪者は、常人には理解できない狂人として描かれることが多い。近年ではサイコパスやソシオパスという名称も広く知れ渡っている。

 

殺人を犯している以上ある意味で犯人は狂人と言えなくもないのかもしれないが、理解できる範疇の理屈や避けがたい事情がある犯人であるならば一定の情状酌量の余地はあるとも思うのだ。

 

別に罪を憎んで人を憎まずなんて高尚なことを語るつもりはないが、罪と罰のバランス感覚として「犯罪者=悪即斬」と切り捨ててしまうのはあまりに極端ではないかという提言である。

 

ただそういった価値基準をもってしても、やはり今回の犯人にはあまり同情的になれない。

 

この犯人も「もしかしたら叶うかもしれない」という希望を一瞬でも見せつけられたものだから、不可能だとわかった瞬間に深く絶望したのであろうことは理解できる。

 

ただし、そんな偽物の希望を見せられるまではそこそこ普通の倫理観を持って生活してきたはずである。家族にも友人にも恵まれて、金銭的に困窮したことも迫害されたこともなかったはず。

 

にもかかわらずこの犯人は、叶うはずもない望みに固執して見ず知らずの他人を殺し、同郷の朋友を殺し、ずっと世話になった者まで殺した。


これではあまりにも極端に振り切れた、身勝手極まりない暴走としか映らない。もはや嫉妬の域を超えた、理解の及ばないモンスターである。

 

TRUEルートでは犯人は5人目のターゲットを殺害する前に逮捕されるが、バットエンドのルートの中には5人全員を殺害しきるものも存在する。
しかし、そうして自身の願望を叶えたとしても本当に欲しいものが手に入るわけではないため、結局犯人は自ら命を絶つことになる。
IF展開の末路まで含めて、度し難いほどに身勝手であると感じるのは阿久井だけであろうか。
(まあ、この犯人を狂気に至らせるきっかけを作った村の首脳陣にも償いきれないほど大きな責任はあるのだが……)

 

 

 

 

 

事件が解決した一方で、今度は雪子と天恵会にまつわる問題が進行していく。

 

玲人や真崎にとって、天恵会に関する調査はあくまで殺人事件の参考案件として追っていたにすぎない。
被害者の一人が天恵会の信者だったことを除けば、この団体が殺人に関わっていた証拠は出てこなかったからである。

 

しかし、どういうわけだが今回の事件の関係者は、同時に天恵会にも関係していることが多い。

未散と雪子・小羽に関してはこれまで何の接点もなさそうに見えたのに、同じ養護施設で育った孤児であるという共通点が突如として明らかになった。

 

雪子自身についても問題は起きている。
昔のことを思い出せない一方で、たびたび悪夢を――人を殺す夢を見るようになってしまった。

 

彼女は義母である冬見に恩返しがしたいという思いから、織部達の発案にのって天恵会へ所属することを決めてしまったわけだが、今度はその天恵会でも殺人事件が起こる始末。

読者もさぞかし混乱する展開の連続だったことだろう。

 

ただ、ここまでに提示された数々の情報と伏線を見たことで、だいたいの読者にはこの時点である疑念が生じているのではないかとも思う。

 

雪子の出自と、失われた記憶。彼女の言動に関する違和感の正体。おそらく、読者諸氏が閃いた答えは正しい。

 

それらが玲人たちの運命と絡み合うまでにはあと少しだけ時間を要することになるが、ここからは一気に解決編へと雪崩れ込むことになるのでどうか最後まで刮目していただきたい。