悪意ある善人による回顧録

レビューサイトの皮を被り損ねた雑記ブログ

虚ノ少女 《 NEW CAST REMASTER EDITION 》 その2

***注意はじめ***
以下の文面は言葉遣いに乱れが生じたり、ネタバレにあふれる虞があります。

また、本文は筆者である阿久井善人の独断と偏見に基づいて記されております。

当方が如何な感想を抱いたとしても、議題となっている作品の価値が貶められるはずもなく、読者の皆様のお考えを否定するものではないということを、ここに明記いたします。

***注意おわり***

 

・雑感

昭和32年(1957年)の12月、生きる意欲を失った男がひとり、夜の井の頭公園をふらついていた。

 

男の名前は真崎智之。つい先日都内で起きた殺人事件の被疑者として、いっとき警察に捕らえられていた。

 

彼は釈放された数日後、雪の降りしきる公園で手首を切り、自殺を図る。

 

薄れゆく意識の中、真崎は年若い少女の悲痛な叫び声を聞く。

この声の主が、探偵・時坂玲人の妹・紫のものであるとは、この時の彼には知る由もないことであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は日中戦争の只中(昭和14年=1939年前後)まで遡る。

富山の山中にある雪深い村落・人形(ひとがた)集落。

道路すら整備されていない片田舎のこの村では、3つの家が土地の有力者として名を馳せていた。

 

製薬業で財を成し、村の経済を支える「雛神(ひながみ)家」。

土着信仰の神社をつかさどる「祠草(しぐさ)家」。

代々村の医療を一手に引き受ける「黒矢(くろや)家」。

 

ある年の12月、黒矢尚織(なおり)は学生の友人達と帰途についていた。

雛神家の跡取り息子である理人(あやと。あだ名はリヒト)と妹の花恋(かれん。あだ名はおヒナ)、二見旅館の一人娘・憂(ゆう、あだ名は若女将)、そしておしゃまな少女・嵩宮めぐり(あだ名はぐり子)の4人である。

 

一方そのころ、村落の入口で着物を纏った見目麗しい少女が一人、途方に暮れていた。

少女の名は「砂月(さつき)」。祠草神社の客人として村の外から招かれた娘だった。

 

神社への帰り道がわからなくて困っていた砂月は、尚織と理人に遭遇する。

尚織は理人に神社まで彼女を連れていくよう囃し立てるも、当の砂月本人は迷惑をかけられないと言って一人でその場から立ち去ろうとする。しかし、着物姿で雪道を歩き回るのは困難を極めたため、理人が砂月をおぶって神社まで運ぶことになった。

 

神社まで送り届けられた砂月は、禰宜夫妻には心配されるものの、彼女の世話役である祠草小夜(さや)からは邪険に扱われてしまう。客人であるはずの砂月が通されたのは、神社の離れにある蔵だった。

 

あくる日、砂月は雛神家当主へと挨拶をした帰り道、またもや尚織や理人ら5名と遭遇する。彼らは山奥深くで手入れの行き届いていない山小屋を発見し、そこを隠れ家として改造しに行く最中だという。成り行きで同行した砂月は、初めてできた同年代の友人たちと束の間の安息を得るのだった。

 

年を明けて幾日か経った後、今度は東京から黒矢家に2人の客人が訪れた。朽木文弥・千鶴兄妹である。彼らと尚織は「いとこ」にあたるという。来訪の目的は、千鶴の病気療養のためであった。戦争の足音が忍び寄る東京にいるよりも、いまだその影響の少ない村落にて安静にさせたいという朽木家の意向だったらしい。

 

村内で趣味の写真撮影をしていた千鶴は、憂とめぐりと出会う。村の事情に明るくなかった千鶴は、二人から三月三日に神社で祭りがあることを聞かされる。

この村では雛祭の時期に、「ヒンナサマ」と呼ばれる雛神家の守り神を祀る祭事が執り行われる。ただし村の老人たち曰く、「ヒンナサマ」は守り神であると同時に、祟り神でもあるのだという。これまで何人もの人が取り殺されているという話だが、村の若者世代にとっては迷信程度でしかないらしい。

 

とある日の夕刻、砂月は祠草神社の禰宜・賢静に連れられて黒矢医院を訪れた。名目は健康診断であったが、賢静は砂月に関して気になることがあるという。曰く、砂月は一人しかいないはずの部屋で、誰かと会話しているようなことがあるらしい。

診察に同席していた看護婦・沢城菜々子は、尚織の父で精神科医である弓弦(ゆづる)が、砂月に精神分裂症の兆候が見られると考えていることを察する。

 

祭りが近づいてきた一月の末頃、尚織と理人は砂月に対して「神楽を奉納する天子(みこ)」なのかと問いかける。これまでの祭りでは毎年、小夜が代理で神楽を舞っていたが、村の老人たちが言うには今年は本物の天子が現れるらしい。しかし、村の外からやって来たという砂月には何のことかわからない様子だった。

祭りというものを見たことがない砂月には実感がわかず、そもそもその日に祭りに行くことが許されるのかもわからなかった。神社に帰った砂月は小夜の指導の下、舞の稽古に励むのだった。

 

二月のあくる日、砂月は祠草神社の使いで雛神家を訪れる。そこでちょうど家にいた理人に遭遇し、そのまま祭りの準備をしようと誘われる。その場には花恋もおり、三人で祭りに使うという土くれをこね回し固める作業にいそしんだ。だが、兄と二人きりで準備をできると思っていた花恋は機嫌を損ね、ほどなく席を外してしまう。

そこで砂月は理人から祭りを一緒に見て回ろうと誘われる。彼女が答えに窮していると、祭りの後に隠れ家で会えないかと重ねて誘われる。誘い自体は嬉しいものの、当日会えるかどうかはわからない。しかし彼女は、たとえ「許されない方法」を使ってでも理人に会いたいと願うのだった。

 

※千鶴イベント

 

 そのしばらくあと砂月はひとり、黒矢医院へ健康診断へと訪れる。そこには尚織に会いに来ていた理人が居た。予想外の出会いの戸惑ってしまったものの、砂月は理人に改めて先日の返事をする。祭りの当日会うのは難しいから、二月最後の日に隠れ家で会いたいと告げる。

一方そのころ、祠草神社では憂・めぐり・花恋の三人が祭りの準備にいそしんでいた。憂とめぐりは折り鶴を作り、花恋は以前こねていた土くれを指定された形に加工するよう、禰宜の妻・未夜に任される。その形はまるで人間の胎児のようで、気味が悪くなった花恋は一旦部屋を出ていった。

そのとき、花恋は蔵の前で父である秋弦(しづる)と小夜が密会している現場を目撃してしまう。詳しい会話の中身は聞き取れなかったものの、なにやら不穏な話をしていたようで、彼女は思わず物音を建ててしまう。花恋は話を切り上げた父から、ここで見聞きしたことは他言無用であると口止めをされてしまう。

 

二月の末日、砂月は約束通り理人と山中の隠れ家で密会する。そしてこの日この場所で、二人は結ばれることになる。砂月は、いつか理人が描いていた雷鳥の絵が完成したら見せてもらいたいと、改めて約束をするのだった。

 

そして三月三日、祭りの当日。尚織や理人たちは砂月と合流し、6人で売店で買い食いをして遊ぶ。そのあと理人は隙を見て砂月を連れ出し、二人だけで出店を見て回る。そこで理人は、砂月に髪留めを贈る。

日没後、いよいよ天子が神楽を奉納する祭事の時がやって来た。舞台にあがったのは、鬼の面をかぶった年若い女性と思しき人物だった。砂月こそが天子だと思っていた尚織一行は不思議がりながらも、砂月と共に一連の神楽を眺める。その神楽は、ひとしきり舞を踊ったあと、いつぞや花恋が作った土人形を砕くという奇妙なものだった。

 

祭りを終えた日の深夜、雪道の中を黒ずくめの一団が静かに進行していた。

目的地である民家に侵入した一団は、家主の女が寝静まっていることを確認したあと、女に向けて何度も匕首を振り下ろす。

そして女が息絶えたあと、一団は女の腹を切り開き、無理やり土人形を埋め込むのだった……

 

 

 

 

 

 

 

……開始早々、超長大な過去編の幕開けである。

発売当初、この長さのシナリオを満足にスキップできなかったことがどれだけフラグ回収の足かせになったのか、改めて身震いしてしまった。修正パッチで「過去編読み飛ばしボタン」が出たころにはほとんど攻略が終わっていたこともあり、凄まじい虚しさを味わったことも思い出してしまう。

 

この過去編はシナリオの膨大さもさることながら、多人数間による視点移動を繰り返しながら進んでいくため内容を理解するのにやや手間取ることもある。

上記のまとめも、物語の本筋に関わりのある部分だけを極力短めに抜粋したものであり、これ以外の描写も大量にあったことは述べておきたい。

(たとえば、前作のヒロインである冬子の身内・朽木兄妹のエピソードはかなり省いている。文弥が指を大怪我する話や千鶴が文弥を誘惑する話など、省略したところは数知れない)

 

また、過去編へ導入するきっかけは準主人公である真崎の自殺未遂によるものの、彼が何者なのかについては公式ホームページでも案内されていない。よって、この時点ではどうして真崎の過去が人形集落と結びつくかについてはコメントを差し控えさせてもらう。

(とはいえ、ここまででもだいたいの読者は真崎が過去編における誰と関わりがあるのかはわかってしまうと思うが)

 

 

イノグレの過去作である「カルタグラ」をプレイした読者であればあの「祠草」が登場しているのは注目せざるを得ないポイントだろう。

 

カルタグラ」では千里教というカルト教団創立者および幹部としてその名前が登場していたが、こちらでは土着信仰の担い手である神社の主の苗字である。しかも、物語のキーパーソンである「砂月」はこの祠草家の客人として登場している。どう考えても物語の本筋に深くかかわってくることは初見の読者であっても想像に難くないだろう。

 

祠草家で特に注目すべきなのは、砂月の世話係である小夜である。非常にダウナー系でアクの強い女性であるものの、実はここまでの描写でも非常に重要な伏線をいくつも張りまくっている人物なのだ。

もしこの時点で、彼女の言動の違和感に気づけた読者がいたら拍手を送りたい。

(ちなみに阿久井は真相がわかったあと、周回時のみに見られる「とある演出」で初めてソレに気が付いた凡愚である。注意して見聞きすればこの時点でも十分真相は推理可能だったというのに……)

 

 

 

さてさて、今作では長編ミステリーにありがちな「やたら登場人物が多い」という特徴をこれでもかというほど発揮しているため、上記のまとめだけ読んでも人物関係が分かりにくい読者もいるのではないだろうか。しかも過去編では探偵・時坂玲人の推理ノート機能が使えないため、人物相関図も表示できない。余計に頭がこんがらがることだろう。

 

そこで、これまでに登場した主だった人物たちを簡単にまとめて、今回の雑感は終了したいと思う。

 

 

=====人形(ひとがた)集落のひとびと=====

・雛神(ひながみ)

├秋弦(しづる)……製薬会社の社長で次期当主。弓弦の実兄。理人・花恋の父。

├理人(あやと)……雛神家の跡取り息子。学生世代の朴念仁。絵を描くのが趣味。砂月に惹かれる。

└花恋(かれん)……理人の妹。学生世代の恋に恋する乙女。理人のことが大好き。

 

・祠草(しぐさ)

├賢静(けんせい)……祠草神社の禰宜。入り婿。温和で聡明。

├未夜(みや)……賢静の妻。小夜の姉。物腰穏やか。

├小夜(さや)……砂月の世話係。独身。陰鬱で刺々しい妙齢の女性。

└砂月(さつき)……村の外から招かれた「客人」の少女。便宜上「祠草」姓を名乗っているが、本名は不明。かなりの世間知らず。理人に惹かれる。

 

・黒矢(くろや)

├弓弦(ゆづる)……黒矢医院の精神科医。雛神家からの入り婿。尚織の父。仕事熱心。

└尚織(なおり)……学生世代の年長者。読書と執筆が趣味。ズレたセンスの持ち主。菜々子が気になっている?

 

※沢城菜々子……黒矢医院の年若い看護婦。学生世代に年齢が近い。家族とうまくいっていないようで……?

 

※朽木千鶴……東京から療養に来た少女。尚織の母方のいとこで同年代。悋気に溢れており、兄である文弥を愛している。

※朽木文弥……妹である千鶴の療養に付き添ってきた少年。外科医を志していた。集落へ滞在中、指に深手を負って自棄となり、千鶴と関係を持つ。

 

※二見憂……村唯一の旅館の娘。学生世代のクールビューティー。尚織のことが気になっている?

 

※嵩宮めぐり……おしゃれが大好きな少女。学生世代の元気の源。理人のことが気になっている?